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純喫茶ごーすてら  作者: のるんゆないる
第四章『届かぬ手が』
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#39 限りなく昏い


 

 リアを下したなしろは、ゆっくりを目を開く。

 身体のあちこちが痛み、リアとの戦いが想像以上に激しかったのだと再認識する。

 周りには随分と人が多い。「天下布舞」の面々に、「Rpas.」も数人。

 なしろがのっそりと起き上がると、真っ先に声を掛けてきたのは茶々丸だった。


 「大丈夫かい?子猫ちゃん(リトル・キャット)。まさか、キミまで夢に堕ちるなんてね」


 茶々丸は、なしろの顔を覗き込み、様子を見ている。

 心配そうな表情でそう言われると、自分は堕ちてないなどとは口が避けても言えない。

 苦笑を顔に貼り付けながら、大丈夫だよ、と茶々丸を安心させるべく声を掛ける。


 「なら良いんだ。キミが心配で……今日も食事が喉を通らなかったからね」

 「先程までシフォンケーキをむしゃむしゃ食べていたではありませんか」


 シルヴィアの告げ口に、茶々丸はきっと睨みつけるも、どこ吹く風と言った様子だった。

 これがモテるコツなんだなぁと、良くない先輩を見ながら、なしろは辺りを見回す。

 すると、シルヴィアが、気を利かせてなしろへと声を掛ける。


 「姫宮様。のるん様をお探しですか?」

 「え?うん。何処に居るのかなって」


 シルヴィアはなしろの言葉に、眉を下げて、申し訳なさそうにする。

 確か、彼女は茶々丸から「専属秘書(マイ・ウィスパ)」と呼ばれていた。

 その名に恥じぬ対応に、なしろは少し気圧されながらも、シルヴィアから視線を外さなかった。


 「のるん様でしたら、目を覚まされるとそのまま、何処かへ行かれました」

 「……何処に行ったかは聞いてるの?」


 なしろの言葉に、シルヴィアは首を横に振る。

 深々と自分に向かって、頭を下げる彼女に、頭を上げてくださいとなしろは言った。

 

 「いいえ。わたくしは聞いておりません。お力添えできず、申し訳ありません」

 「……そっか。他にこの場から出ていった人は、誰か居る?」


 シルヴィアは少し考え込むような仕草をすると、隣りにいたエルザがおずおずと手を挙げる。

 ……確か、彼女も「Rpas.」の一員だったはずだ。確か、「仕入れ担当(シーカ)」と呼ばれていたはずだ。

 物静かで、ビクビクしながら辺りの様子を窺うその様は、どうにも気弱そうなイメージが拭えない。


 「ぼ、僕が覚えている限りでは、アルフェルド様、ノルン様、フルール様の三名は目を覚まされると、すぐにここから出ていかれました。全員別々に、です。ももも、もしかしたら、僕の勘違いかもしれないですけど……すみません」

 「……そっか。分かった、ありがとう……シュミットさん、であってた、よね?」

 

 エルザは、なしろに名前を呼ばれると、顔を綻ばせ、首を何度も縦に振る。

 歳は少し上に見えるが、随分と可愛らしい子が入ったのだなぁと、なしろは笑顔で対応する。


 (ただ、問題はのるんが何処に行ったか……)


 エルザ、シルヴィア、茶々丸から情報収集をしていると、のるんは相当負傷していたらしい。

 相手が「天下布舞」の「心刀羅刹」と呼ばれているさらであれば、苦戦は必至だろう。

 あのもじもじガールがまさか、チーム内でも最強格だったとは知らなかったのだが。

 あちこちを負傷したのるんは、周りの制止を振り切ってそのまま外へ出ていったらしい。


 (こういった時に、フカさんは味方になってくれない。どうしようかな)


 なしろが考え込んでいると、うしろから「姫宮嬢」と声を掛けられる。

 振り返ると、盞華が立っていた。頬に大きなガーゼが貼られ、軽傷を負っているようだ。


 「盞華さん……。盞華さんも、堕夢に罹ってたみたい、だね?」

 「えぇ、まぁ。お恥ずかしい限りです。姫宮嬢はご無事ですか?」


 他の夢に堕ちた面々は少なからず怪我をしているにも関わらず、なしろだけはほぼ無傷だ。

 その部分を盞華は気がかりに思ったのだろう。無駄に勘が働く人間はこういう時に厄介である。


 「リアさんが強かっただけだと思う。それこそ、わたしじゃ手が出ないくらい」

 「ほぅ……、なら今度は手合わせをお願いしたい所ですね……」


 指を鳴らし、戦闘狂の血が騒いでいる盞華は、嬉しそうにしている。

 その間にも、なしろは周囲の様子を窺いながら、盞華や茶々丸の言葉に耳を傾ける。

 元々この場に居たのは……ノルン、なしろ、アルフェルド、三月、フカ、リア、盞華、あじゃ、さら、ユキ、おかね、茶々丸、シルヴィア、エルザ、大鳥の壱拾五人だ。

 

 ──そして、現在もこの場に残っているのが、八人。

 

 この場を去ったのが、ノルン、アルフェルド、リア、あじゃ、さら、ユキ、おかね。

 「天下布舞」組は報告や、拠点運営などで戻らざるを得なかったかららしい。

 ユキに至っては、盞華との戦いで重症を負ったらしく、その治療も兼ねておかねが着いていった形だ。

 アルフェルドはともかくとし、問題はリア、ノルンが何処へと行ったかだが、二人とも傷だらけで、かなり消耗していたという話は、「Rpas.」組から聞いている。


 (休むなら、ここで休んでいけばいいと思うけど……リアさんへの配慮なのかな)


 確かに同じ立場なら、自分も此処で休んでいきたいとは思えない。

 でも、それならばのるんを連れて行かずに、一人で何処かに休むはずだ。

 自分に見えていないパズルのピースが、上手く嵌らずにもやもやする。


 「なんとなくだけど、数日待ったら帰って来る……みたいな気がしない」

 「同感です。理由はありませんが、前と同じで嫌な予感がしますね」


 盞華と共に、なしろは再度、のるんを探すための準備を整える。

 店のことは、ひとまずフカに任せておこう。のるんの居ないごーすてらに立つつもりはない。






 ___________



 「……見つけた。やっぱり此処だったのね」

 「あら、見つかっちゃった。こういう時にボクを見つけるの、昔から本当に上手いね」


 のるんが人気のない所で休んでいると、いつの間にか隣にリアが座っていた。

 昔から、自分が居なくなった時は、いの一番に駆けつけ、こうして隣に座られている。

 リアをふと見ると、あちこち傷だらけで、なしろとの戦いが如何に苛烈だったかを物語っている。


 「随分、派手にやられたみたいだね。なしろ、強いでしょ?」

 「えぇ、本当に。とても護援者(テクター)とは思えない戦いぶりだったわ」

 

 悪態をつくような態度を見る限り、相当苦戦したのだろう。

 テクニックの扱いや、戦闘経験を加味すれば、リアが辛勝くらいはすると思っていたのだが、『Noise』を使われてしまえば、勝つ事が困難だったのは容易に想像がつく。

 一人で戦えるように稽古をつけたなしろと、支援メインで戦闘の補助をしていたリアでは、どうやらなしろに軍配が上がったようだ。

 肩を執拗に殴ってくるリアの攻撃を甘んじて受けながら、のるんは空を見上げる。


 「深夜弐時近くは、やっぱり星が綺麗。夜風も気持ちいいし、言うこと無いね」

 「……そうね。聞かないの?なしろさんとの戦いの状況とか」


 のるんは、リアの言葉に首を横に振る。


 「聞かないよ。キミが無事に帰ってきた。それが一番の報告じゃない?」

 「全く……、どこでそんなキザなセリフを覚えてきたのかしら」


 照れくさそうにしながら、リアはずいっとのるんとの距離を近づける。

 肩が触れ合う程、近づいてから、リアはのるんの顔をじぃっと見つめた。


 「何急に?ボクの顔になにかついてる?」

 「別に。ただ見つめたくなっただけよ」


 のるんは、何いってんだと言わんばかりに目を細める。

 もう自分とリアはそういう関係じゃないのに、今更何を。


 「ウル。貴方はこれからどうするの?」

 「どうって、聞くまでもないんじゃない?」


 あっけらかんとそういったノルンの腕をリアは強く握り締める。

 腕を握るその力からは、拒絶の意思を感じる。駄目だと、止めてと言わんばかりだ。

 本人の口からは決して語られずとも、そういう感情が痛いほど伝わってくる。

 ノルンも表情にも出さずに、そっとリアの腕を振りほどく。もう止められない。


 「計画を実行するよ。別にボク一人でもできる。、無理に付き従わなく」

 「駄目、私も最期まで付き合う。だって、私は悪い女だからね」


 言葉の途中で語気強めに遮られた。随分と自分の意見をはっきり言えるようになったらしい。

 リアの言葉にきょとんとし、目を丸くさせた後に気づく。


 「……もしかして、なしろと何かあった?」

 「さぁ、どうかしらね?……あと、私の前で他の女の名前を出さないで。噛むわよ?」


 リアはどこ吹く風と言った様子だったが、なしろの名前を出した途端、不機嫌になる。

 ころころ機嫌が変わるのは女性特有のものかぁ、と半ば諦めながら半目で見つめる。

 

 「えぇ……。そんな恋人みたいなこと言わなくても……」

 「別にいいじゃない。そういう人、今は居ないんでしょう?」


 居ないと言えばいないのだが、居ると言えば居るという。微妙な状況だ。

 自称伴侶に自称姉が居る時点で、個人的には困っている。

 娘のように大事にしている子と、自分を捨てて去っていた元姉。


 (この二人はカテゴリに分類することは出来ないだろうなぁ)


 未だに肩を優しく殴られているが、もう痛くはない。

 のるんは徐ろに立ち上がり、両頬を己で叩く。


 「さて、大分消耗しちゃったし、また一から集め直さないと」

 「……そうね。相手が悪かった、としか言いようがない物ね」


 即座に移動しようとしたノルンの腕を強めに掴み、リアは待ちなさいと声を低くして脅す。

 あとが怖いノルンは大人しく、リアの準備が整うまで、澄んだ空に輝く星を眺めていた。





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