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純喫茶ごーすてら  作者: のるんゆないる
第四章『届かぬ手が』
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#37 死に至らしめる愛



 リアは非常に不服そうな表情で、なしろの夢の中へと入り込む。

 長い黒髪を簡単に纏め上げ、動きやすい戦闘用の衣服に身を包み、背には軽鈍器を装備している。

 どうして、自分が彼女を助けに行かねばならないのだろうかと、ぶつくさと文句を言い続ける。

 確かに、あの場では自分しか居ないという事実と、その場の空気感で押し切られてしまった。

 だが、よくよく考えてみれば、このまま彼女を放置することが()()()()()なんじゃないかと考える。


 (このまま息絶えてくれるなら、どれだけ良かったかしらね)


 夢の中は、セントラルシティそのものだ。細部まで忠実に再現されており、本物と遜色ない出来だ。

 本人の記憶や深層心理を、反映されて出来るこの夢の中にしては、本当によく出来ている。


 (でもよく考えたら、なしろさんを連れ戻さなきゃあの子は口聞いてくれなさそうね)


 であるならば、彼女を連れ返さねば行けないということだ。結局は避けられぬ戦いになるらしい。

 本体のなしろを崩すことは造作もないことだが、問題は『Noise』だ。あの力込なら相当苦戦するだろう。


 (夢の中だからといって使えない、とは限らない。むしろ、使えること前提で挑まないと)


 最悪の場合、彼女を殺しさえしなければ良いのだ。四肢を千切ろうと、記憶を失っていようが。

 決死の覚悟を決め、目的地である「純喫茶ごーすてら」へ向かう。


 ──カランコロン。


 来客を示す鈴の音が、店内に鳴り響く。

 他の場所もよく出来ているが、此処の描写とは他の比較にならないぐらいよく出来ている。

 店に置かれてるカップの位置や、テーブルやソファに付けられた微細な傷まで忠実に再現されている。


 「…………」

 「やっぱり此処だったのね、なしろさん……。此処は思い出の場所だものね」


 カウンター席で一人座っているなしろから少し離れたテーブル席に、リアは腰を掛ける。

 珈琲の匂いこそしないが、座り心地は、いつものお店のそれそのものだった。

 リアの言葉に、何も応えないなしろに向け、リアはぼやくように小さな声で呟く。

 どうせ誰も聞いていないなら、少しくらい、思いを吐露したって良いだろう。


 「貴方が、あの子の支えになっていること、生き甲斐になっていること、心底羨ましかったわ」

 

 チクタクチクタク、古い時計の秒針は時を刻み続けている。

 それ以外の音は一切無く、ただゆったりとした時間が店の中に流れる。

 何かを懐かしむような表情を見せていたリアの顔は徐々に歪み始めた。

 

 「ただ、それと同時に妬ましかったわ。今でもそれは変わらないの。どうしてなの?」


 リアは言葉を続ける。まるで呪詛のように、周囲の空気を蝕み、凍えさせている。


 「どうしてその場に、私が居ないの?どうして私は捨てられたの?ねぇ、どうしてなの?」

 「そんなの、簡単な話だよ。リアさん」


 なしろが言葉を返したことに、リアは目を丸くし、ソファから勢いよく立ち上がる。

 想定外だ。本来、堕夢に罹患した人物は感情等といったものがすべて失われていると聞いている。

 だが、どうしてか、眼の前に居る彼女はこちらを見て、ニコリと笑っている。


 (どういう事?なしろさんは堕夢に堕ちたわけじゃないの?)


 内心、焦りで一杯一杯のリアに、くるりとカウンター席の椅子を回転させ、なしろはこちらを向く。


 「リアさんが自分のしたいことだけをして、その結果、自分でのるんを捨てたんでしょ?」

 「くっ……」


 リアは何も言い返せない。それを良いことに、なしろは言葉を続ける。


 「一度失った信用や信頼は簡単に取り戻せない。なのに、今でも自分のしたいことだけしてる」

 「…………」


 「そんな自分勝手な人間を誰が愛してくれるの?結局、今も振り向いてくれないから、見てくれだけ従って、自分の願いを叶えるためだけに動いてる。なんにも反省してないし、何も変わってない。違う?」

 「何を知ったようなことを……。私にだって事情があって……だから」


 なしろの言葉はじくじくとリアの心を傷つける。言い返せない。どれも正論ばかりだ。

 徐々に憎悪が入り混じり、表情も暗く悲しげな表情を見せている。


 「どうせ、自分のものになったら、また雑に扱って、適当にポイするだけ。最低なリアさんが、のるんの隣りにいる資格なんて無い。また、あの子は泣いて悲しんで、深い絶望に囚われるだけ。そんなの絶対に許さない」

 「それでも、私はあの子が欲しい。ずっと大切にしてたあの子が居なくなってようやく分かったの」


 リアの言葉に、なしろは悲しげな表情でこちらを見ている。

 まるで、可哀想なものを見るような目で。


 「言ったでしょ。リアさんには無理。だって、のるんの事、一切考えられてないもん」

 「……え?」


 「それって、リアさんがそうしたいだけだよね?のるんがそれを望んだの?」

 「…………」


 何も言い返せない。実際その通りだ。今も昔も、あの子は自分のわがままを聞き続けてきた。

 考えてみれば、あの子が望んでいるものも、何一つあげていなかった。

 欲しがっていた物も、時間も、関係性も。その全てを尽く、断り続けていた。

 時には嘘をつき、偽り、誤魔化し、自分の都合の良い甘言だけを与えて続けた。


 (きっと、自分以外愛せないんでしょうね、私は結局のところ)


 リアはなしろの言葉をすべて受け止め、目を瞑り、深呼吸する。

 彼女の言っていることは何一つ間違っていない。どれもこれも正しく、偽りのない言葉だ。

 だからこそ、自分もありのままの言葉を彼女にぶつけるだけだ。


 「いいえ、きっとのるんは私が近くにいることを良くは思わないでしょうね」

 「……だったら!」


 なしろの反論を、人差し指で制し、リアは言葉を続ける。


 「もうあの子が私に振り向いてくれないことなんて承知の上。元に戻れないことも分かってるわ。贖罪になんてならないと分かっているけれど、()()の願いくらい、聞き届けてあげたいって思ったの。……別にいいのよ。どうせ私は身勝手で、他者を慮れず、最低な人間よ。そんな事、自覚してるに決まってるじゃない」

 「分かってるなら、さっさとのるんの前から消えるべき。貴方が居ることで、どれだけのるんが辛い思いをしてると思ってるの?」


 リアは無言で首を横に振る。なしろが露骨に機嫌を悪くするが、お構い無しで言葉を続ける。


 「言ったでしょう?私は性格が悪いの。欲しいものは身勝手に欲しがるし、手に入ったらきっとすぐに捨ててしまう。そういう人間だったとしても、あの子が今、願っていることは私にしか叶えてあげられない。だったら、誰が言おうと譲るつもりはないの。例え、自称伴侶(笑)である貴方であったとしてもね」

 「……自称じゃない、わたしはのるんのお嫁さんなの」


 売り言葉に買い言葉と言った様子で、二人の舌戦は続く。


 「若い頃はお嫁さんに憧れるものよね。でも、女の子を好きになってもねぇ……」

 「別に性別なんて関係ない。もう若くないリアさんはオジサマとでも結婚したら?」


 「言ってくれるじゃない。貴方ものるん以外にいい人居るわよ?男の良さも知るべきだわ」

 「のるん以外に興味ない。経験豊富そうな元お姉様はいい人。見つかると良いね笑」


 空気はどんどん悪くなる。こうなるときっと二人の争いは終わることはないだろう。

 この後も、口汚く罵りあい、エスカレートしていく。

 

 ___________


 暫くすると、疲弊したのか、二人の罵りあいは一旦落ち着く。

 

 「はぁ……はぁ」

 「もう良い……。貴方が堕ちていないのはよく分かったわ。でも、一回ぶっ飛ばすわ」


 リアは肩で息をしながら、なしろを睨みつける。此処まで来たら完全に私怨だ。

 仮に救う必要がなくとも、一回若い娘を分からせる必要がある。

 もう、誰を生かし、誰を殺すかなんて関係ない。どちらにせよ、ボコボコにして連れ帰る。


 「わたしだって負けるつもりはないよ。のるんに近寄る蝿にはお灸を据えなきゃ」

 「表に出なさい。速攻で決着を付けてあげる」


 

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