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【閑話】聖なる夜に小さな幸せを


 時代錯誤と言わんばかりの出で立ちである「純喫茶ごーすてら」。

 日付は12月24日、クリスマスイブ。恋人が偉人の誕生日を理由に集まり、聖夜へと変貌させる特異的な一日だ。

 世間がクリスマス一色になっている中、このお店もなしろの提言で、クリスマス仕様にして開店する。

 

 「しっかし……こんな日にお客さんなんて来るのかねぇ……。流石にこの格好は恥ずかしいなぁ」

 「のるんの、クリスマス仕様の恰好……わたしは、好きだよ?」


 のるんは普段のエプロン姿では無く、ミニスカートサンタの恰好に身を包んでいる。

 なしろも、のるんとお揃いの物を、少しだけ丈を長く調整して着ている。

 内装を赤と緑で飾り付け、限定メニューと銘打ってケーキやチキンといった特別な物を少ないながら用意している。

 随分と楽しそうに準備に励んでいたなしろを無碍にすることなど出来ず、押し切られた形になった。

 店を開けると同時に、のるんは深いため息を吐きながら、窓の外を眺める。早朝から雪が降っているせいで、そこそこ積もっている。


 「おはようですわ~。キャ~~~なし姫~~!?なんですのそのキュートすぎる格好は!!」

 「おはざーっす。うわ、店長もオバサンもその格好してるんだマジウケる。てか、マジこの格好暖かいの助かる」


 もはや当たり前のように開店後に出勤してきた三月とフカも、全員同じサンタガールの恰好をしている。

 鼻血を吹き出しながら、なしろに抱き着いているフカを一旦、引き剝がし、三月に掃除をお願いしながら、のるんは黄昏る。

 

 「確かに暖かいんだよねぇ、これ。店内も暖房効いてるから、それもあるだろうけど」

 「むぅ、でものるん。アレンジ何もしてない。ダサダササンタ帽もそのまま……」

 

 「ダサダサ言うな~。素材の味をそのまま生かしてるって言え~~」

 「それ、ただの手抜きっしょ?娘さんに弄られてる店長、マジウケる」 


 むくれているなしろの頭を撫でながら、帽子なぁと、のるんは鏡を見る。

 フカがハンドメイドで作ったサンタコスは、肌を露出している割には、非常に暖かい。

 ベース部分はみんな同じだが、細かい部分は各自でカスタムしているので、結構個人差がある。


 (フカさんは……スカート丈えぐくない?ほぼパンツ見えるでしょ……あんなの。まぁ履いてないから良いのか)

 

 標準の物も、それなりに丈が短いが、脚とサメの尻尾を見せつけたいと豪語したフカは、だいぶセクシー寄りの見た目だ。

 喫茶店のキャストというよりかは、夜のお店に居そうなレベルなので、後でお説教をしなければならないかもしれない。

 今日の店番は、のるん、なしろ、フカ、みつきの四人体制。これだけいれば、多少繁盛しようと、問題はないだろう。 

 

 「そもそも喫茶店来てまでチキン頼む人なんて居ないと思うけどなぁ……。揚げるの大変なんだぞ~」

 「でも用意したんですのよね?なし姫が出したいって言ったから」

 

 フカの言葉に、のるんは小さなため息をつきながら、かくんと首を一回縦に振る。

 ここで下手になしろに歯向かうと、後々が面倒になるのは目に見えているのだ。

 

 ──カランコロン。


 開店早々、早速の来客らしい。こんなご時世に朝から喫茶店に来るのは酔狂だなぁと思いながら、ドアの方を見る。

 そこには、トナカイの着ぐるみを着せられた上から、ぎちぎちに亀甲縛りをされている何者かに跨っているあじゃが居た。

 縛られているトナカイは息を荒くしており、上に跨っているあじゃはサンタコスと女王コスを融合させた物を着ている。 

 片手には痛そうな鞭、もう片方の手には、何やら蠢いている物が入っている大きな白い袋を担いでいる。

 のるんは一旦、ドアを閉めて。深呼吸をする。そして、再度ドアを開くと、やはりどぎつい二人組が扉の前にいる。 


 (え、絵面が酷すぎる……。多分中身はユキさんなんだろうけど、朝からショッキングすぎる……)


 「あのですね、あじゃさん。此処は喫茶店であって、SMプレイのお店じゃないんですよ」

 「はぁ?ンなこと分かってるに決まってんだろ。アタシは休憩がてら寄っただけだが?」

 

 さらっと言ったあじゃの言葉に頭痛が止まらないのるんは、二人をテーブル席へと案内し、接客を三月に任せる。

 他にも客入りはそれなりで、何故かチキンもある程度は捌く事が出来た。

 どうやら、その場で揚げてから提供するというスタイルが、ウケたらしい。世の中分からないものだ。

 ある程度、客足も落ち着き、のるんがバックヤードで休憩していると、なしろが飲み物を持って、隣に座った。 

 

 「お客さん、割と多い。はんじょう、してる?」

 「そうだねぇ……。正直想定外の来客数だね。シレっとフカさんはチェキ代を搾り取ってるし、後でお仕置きしなきゃ」


 なしろはくすりと笑い、「ほどほどにね?」とだけ言うと、のるんの肩に自分の頭を預ける。

 少し驚いたのるんはなしろの方を一瞥したが、再度視点を貰った飲み物に移す。


 「今日、お店終わったら一緒にご飯でも行こうか?今日一日頑張った御礼に」

 「いいの?わたし、なにもしてないのに」

 

 困惑気味のなしろに、のるんは優しくデコピンをする。

 おでこを抑え、なんで?といった表情のなしろの頭をおもむろに撫でる。


 「なしろが企画したイベントが成功したから。夜の時間はなしろにプレゼント!……じゃダメかな?」

 「ううん、うれしい。ずっと一緒がいい」

 

 少し考える素振りを見せたのるんの表情は眉を下げた困り顔だった。


 「全部落ち着いた時、考えようかな~」

 「むぅ。またそんなこと言ってはぐらかす。オトメのテキ。さいて~」

 

 「全く……余計な言葉吹き込む人が増えすぎて、犯人特定できないじゃないか……」

 「ふふふっ、そーかそーか、四面楚歌、だね」

 

 目を点にしたのるんは、すぐさま白銀の刀を取り出し、店を出ようとする。

 急いで制止するも、のるんの笑顔は半ばキレている人のものだった。


 「おちついて、のるん。犯人は悪くないよ」

 「いーや、悪い。極刑要求、満場一致での死刑だね。この刀で死ぬまでボクはあいつを斬り続けるよ」

 

 のるんの持っている刀は、特別製でどれだけ斬っても傷が再生する優れモノだ。

 つまり、あの刀で一生痛めつけてやると言っていることになる。それは困る。

 妖怪ダジャレウーマンに、のるんを取られ続ける訳にはいかない、といった表情で懸命にのるんの服の裾を引っ張っている。

 あまりにも必死に止められたものだから、のるんは一旦冷静になり、店番を再開する事になった。


 「なしろがそこまで言うなら……まぁ。分かったよ。今度の弁償代を少し上乗せにするくらいにしておくね」

 「それくらいなら、ぜんぜんいいよ」

 

 先になしろを送り出した後に、盞華へコンタクトを取ってみることにした。

 非通知設定してから、コールし、端末から数刻の呼び出し音の後に、「はい、盞華ですが」と彼女の声が聞こえてくる。


 『今日はなしろに免じて許してやるが、夜道に気をつけろよ』

 『えっ!?はっっ!?誰ですか貴方!?』


 自分の言いたいことだけを言い残して、コールを閉ざし、のるんは再度店番を継続した。

 店にいる間には、沢山の来客があった、不届き者(茶々丸)含めたあるぱすの面々や、白さんなどの「天下布舞」組。

 他にも一般客も多く来ていたため、本当に忙しい一日だった。

 これもコスプレの効果だったとしたら、定期的にイベントをするのも悪くは無いのかもしれない。

 時はあっという間に流れ、店を閉店作業を済ませて、店じまいをする。


 「はいっ、今日はもう店じまい!三月、フカさん、お疲れ様でした!」

 「おつ~~。は~、マジ疲れたわw推しの配信見て今日は寝るしw」

 「ではわたくしは少し所用で別の所に行きますわ。また次のシフトでよろしくですわぁ!」


 仕事を終えた三月は家へ、何故か悶々としていたフカは、夜のお店へと帰って行った。

 二人きりになった後、お風呂などを済ませてから、のるんは二階ののるんの部屋になしろを呼び出す。 

 

 「なしろ、ちょっとおいで」

 「ん?うん、わかった。いまいく」

 

 なしろを招き入れると、のるんは小さなクラッカーをぱぁんと鳴らす。

 目を丸くして驚いているなしろをソファに座らせ、ケーキをテーブルの上に置く。

 店に置いていた物ではなく、チョコのホールケーキ。のるんが昨晩用意していた手作りの物だった。


 「遅くなっちゃったけど、二人でケーキ食べてゆっくりしようか」

 「……うん!!」


 二人きりで過ごす聖夜は、華やかなものではないけれど、それでいて大切な物だろう。

 夜も更け、なしろがソファで眠る頃に、のるんはふと思った。

 

 ──こういう日があってもいいものだなぁと。


 ゆったりとした時間が流れていく。本当に何でもない一日を彩るのならば。

 クリスマスだって悪くないものだと、なしろの頭を撫でながら、二人きりの時間を過ごしていた。

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