#28 Sex&Violence(大体は一方的な暴力)
この回には過分な下ネタ要素が含まれています。
閲覧には最新の注意を払って下さい。
短くはないトキヤの走馬灯を見ていたおかねは、燃え盛るハガルを闊歩する。
目的は、この夢に囚われたトキヤ・アルフェルドを引っ叩くためだ。
情報収集をする為に、入り込んでみたはいいものの、この場で得られる情報はそう多くはないらしい。
得られたものは、一人の男の悲しい物語をダイジェストでお送りされたことくらいだ。
(私は女だし、男の気持ちがまるっきり全部理解できる訳じゃあないけど)
それでも、彼の言いたいことを全て否定するつもりは更々無い。
食べたくて狙った男が、既に妻帯者でお触り厳禁だったことなど、今までに何度だってあった。
それが長年手を伸ばして欲しくて欲しくて仕方ないものだったのなら、その絶望は何倍にも膨れ上がる。
(けどね、そこで男が腐っちゃ、雌は靡かないものなのよ。どーんと構えて帰りを待たなきゃ)
彼のように、気に入った女に心配かけて別の女を寄越させては本末転倒だ。ダサい男でしかない。
トキヤを探しながら、周囲を常に警戒しながら、おかねは状況を確認している。
ユキ曰く、出会った途端に戦闘が開始したと聞いたので、いつでも戦えるように用意は整えておく。
相棒である大砲──ランチャーを背に鄙びた田舎を巡る。
普段であれば、のどかで静かな土地だろうが、今のハガルは焼け落ちていく辺境の地だ。
肺が焼けそうな感覚に陥りながら、おかねは記憶を頼りに村を進んでいく。
歩いていく内に、銃撃音がけたたましく鳴り響いている場所を見つける。恐らく彼が居るだろう。
(泣いたピエロの面を被った身体を黒く染めた男……居た。……アスファルトさん)
おかねは、彼の姿を見て只々、その胸を痛めた。仮面で顔を隠し、焼けている家屋を銃撃している。
顔も声も何も見えなくとも、彼が涙を流し、何かを捨て去ろうとしているのだけは見て取れる。
おかねは、深呼吸するリスクも厭わずに、大きく息を吸って、トキヤ目掛けて叫ぶ。
「そこの負け犬系残念主人公〜!めそめそとダサい後悔する暇があるなら、(自主規制)でもしてみろ!」
「…………」
トキヤは何も言わなかったが、銃口の照準はこちらへと向けてくれた。
これ以上、彼が築きあげてきた過去を壊すのは、ひとまず止めてくれたらしい。
対人戦、それも同じ野伏同士での戦いなど、経験数は少ないが、それでも負けるつもりは更々無い。
おかねは背に抱えていた白く輝く大砲をトキヤに向け、ふっと笑う。
「文句あるなら、私の顔面にその薄汚いイチモツの一本でもぶつけてみなさい!!」
「…………」
崩れ行くハガルの真ん中で、二人の野伏が銃口を向け合い、互いを牽制する。
先に動こうと、動かなかろうと、お互いの出方を見続ける間は、ただ炎が燃え広がる音だけが聞こえる。
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崩壊しつつある片田舎が夕暮れ時に染まりつつある中、おかねが時間制限があることを思い出す。
戦場が戦場だ。そう遠くない内に、この場所は崩れ去り、絶望の炎が全てを焼き尽くすだろう。
(相対するはトキヤ・アルフェルドの影。絶望に暮れ、夢に堕ちてしまった哀れな男)
黒靄を身に纏い、泣きピエロの仮面を被った男。その瞳には何も映らず、ただ全てを破壊するだけ。
人の輪郭すらも徐々に曖昧になり、彼が人なのか、影なのか。それすらも最早分からなくなっている。
長銃はおかねの脳天を捉えているが、未だに一発も撃たれていない。
(対するは私──「天下布舞」のおかね。この勝負、負ける訳にはいかないのよね)
少なからず、彼にも店主のノルンにも借りがある。盞華の件でもその他でも彼女には多大な恩がある。
破壊の権化でもあるユキをも受け入れてくれている彼女が困っているのならば、力を貸したい。
だからこうして、彼の夢に入り込み、命を賭けてでも止めるべく、こうして戦場に立っている。
戦闘用の赤い和装に身を包み、反動軽減用の手袋をキッと締める。
「いつもは姫宮さんへの愛を囁く貴方も、今日は何も言わないんですね」
「…………」
トキヤは何も答えない。そもそも、彼が自分の知る彼は口数は少ないが、それでも喋りはする。
何も話さずとも、声は聞こえているはず。そう信じて、おかねは言葉を続ける。
「喋るとがっかりイケメンとか、脱がすと粗チンで残念とかよくありますけど、貴方はどちらも当てはまらないと思うんですよね。どうしてこんな所で思い出を壊しているんです?」
「…………」
銃口は互いを捉えたまま、状況は何も変わらない。盞華仕込のダジャレを言ったが反応もない。
我ながら良い韻を踏めたとは思うが、それでも彼は何も言わない。
おかねの声色や言動には、彼に向けた挑発や侮蔑が練り込まれている。
(駄目ね、時間もない中で挑発している場合じゃ無さそう)
おかねは大砲で狙撃する準備を整え、いつでも発射できる準備を整え終える。
もう残された時間はあまり多くない。彼は死なずとも、おかねが死ぬ可能性は十二分にある。
「対象はトキヤ・アルフェルド。これより、亡失状態の探索者迎撃作戦を開始する」
「…………」
仮面がギラリと光った気がするが、おかねは気にせず、チャージした一撃をトキヤにお見舞いする。
『ディバイン・インパクト』
最大限までチャージした一撃は、己を反動で後退させながら、前方に凄まじい爆風を起こす。
強力なグレネード弾は周囲の空気を巻き込み、非常に大きな爆発を周囲を飲み込む。
土煙が巻き上がり、視界が悪くなる中、長銃の狙撃音がこちらへと近づいてくる。
(ステップ回避した後に、スプレッド・ショットで急接近しているのか……)
おかねの目前まで接近したトキヤは、互いの射程圏内に入る前にグレネード弾を設置する。
急いでその場から離れようとするも、起爆するまでの時間が最低限に調整されていた弾丸は、おかねの身体を吹き飛ばすべく、勢いよく弾け飛ぶ。
(火力自体は大したことはないけど……、着実にダメージを入れてくる……。しかも)
場所が場所だ。熱風が周囲の空気を取り込んでいるせいで、火力が底上げされている。
大砲程の威力はないものの、小回りの効く長銃のグレネード弾はトキヤが好んで使用していたものだ。
的確に攻撃を回避し、その反撃としてスプレッド・ショットやカウンター・グレネードを使用する。
スマートに臨機応変な行動が取れる彼の動きは、対人戦でも一定の効果を発揮する。
「前から機械みたいな戦い方すると思ってたけど、喋らなくなると、いよいよ人かどうか怪しいですよね。相手を気持ちよくさせるだけの玩具よりも、私はお互いの熱情をぶつけ合うような……、そうSexのような戦いを期待しているのですが!」
「…………」
生み出された爆風を利用して、宙を舞うように浮き上がったおかねは、近くの建物の壁面に誘発吸引弾を撃ち込む、退避する。
時間差で爆発した誘発吸引弾は、建物を崩落させ、トキヤの居る場所まで崩れるように角度を調整する。
崩れ行く建物を難なく躱すトキヤの前に、煙の中から彼女の影が滑り出る。
黒いフォトンを纏った脚が妖しく明滅する。
「野伏だからって、射精して終わりなだけだなんて、思わないでくださいねっ!!」
広がりつつある硝煙の中から、彼女の影がぬるりと滑り出た。
フォトンを纏った脚が輝く。魔装脚を装備したおかねはトキヤに急接近し、強力な蹴りをお見舞いする。
『サージング・インパルスっ!!』
「…………」
うめき声一つあげず、トキヤの身体が弾かれ、瓦礫の山へと叩きつけられる。
だが、すぐさま起き上がり、弾丸を再装填している。その動作に怯みやダメージは見られない。
照準をおかねに合わせ、追尾する弾丸を放つフォトンアーツ──ホーミング・ダートを使用する。
攻撃を躱すべく、魔装脚を装備し、その場を離脱しようとしたが、髪の数本が弾丸によって斬られる。
綺麗に手入れしていた髪を傷つけられたおかねは、怒りで顔を歪めて、糾弾する。
「乙女の髪を撃ち抜くなんて、本当に乙女心が分からないんですね。だから、振り向かないんですよ」
「…………」
何も答えずに、ただこちらを攻撃するべく、銃口を向けているトキヤに、おかねは息を吐く。
言葉の裏には焦りを悲しみが混じっている。どんどんと火が強くなり、足場すらどんどん減っていく。
撃つ度に、彼が彼でないことを理解らされて行くような錯覚に陥っているのだ。
「貴方の過去を覗き見ました。貴方がどんな思いでここに居るのかも分かりました。ただ……」
おかねは大砲を仕舞、白銀の長銃を取り出し、グリップの部分を地面につける。
「自分の行いで、他者を傷つけちゃ駄目なんですよ。お互いに絶頂してこそでしょう?」
「…………」
トキヤの動きがピタリと止まる。感情も何もない筈の彼が僅かに反応した。
仮面の奥は伺い知れないが、微かに彼の身体が動く。おかねはそれを見逃さなかった。
「貴方にまだ、一抹の思いがあるのならば、私が勃たせてあげます!!」
長銃を再度仕舞、大砲を地に突き、フォトンの出力を最大限まで引き上げる。
もう後はどうなったって良い。覚悟を決めたおかねはこの一撃で全てを終わらせようとする。
『フォールン・インパクト!!』
無造作に頭上に放たれた大量の弾丸は、トキヤもおかねも等しく撃ち貫く為に、牙を向ける。
白光が爆ぜ、辛うじて残っていた残りの建物も崩れ去り、全てが瓦礫の山へと化した。
──束の間の静寂が周囲を支配した後に数発、グレネード弾が放たれる音が木霊する。
仮面が砕け散り、黒い靄が身体から霧散していくトキヤは、おかねを抱いて彼女を庇った。
焦点がようやく取り戻せたのか、トキヤはゆっくりと胸に抱いていたおかねを見下ろす。
「……全く、とんでもない無茶をしてくれるな。お前は」
声は嗄れていたが、聞き覚えのある彼の声だった。
自分の身を犠牲にした一撃だったが、どうやら功を奏したらしい。
あちこちが痛い上に、煙を大量に吸ったせいで意識が朦朧としているが、なんとか勝てたらしい。
「良かったです……。無事に戻ってこれたみたいで……」
「ここは……あぁ、俺の夢の中だったか。随分と派手に暴れてくれたらしいな」
既に燃え上がる炎は消え去っており、あちこちで燻る炎も、もう間もなく消え去ることだろう。
なんとか役目を果たせたおかねの身体は一気に重くなる。アドレナリンが切れたのだ。
困り顔でこちらを見ているトキヤの視線に気づいたおかねはふっと微笑を称える。
「どうしたんですか?そんな情けない顔をして」
「いや。俺はどう顔向けをしたら良いんだろうってな。こんな醜態を晒して」
おかね自身はこの出来事をノルンに話すつもりなど無かったのだが、いい機会かもしれない。
自分なりの女の落とし方をトキヤに伝えても良いかも知れない。
重たくなってしまった腕を精一杯振り上げ、サムズ・アップをする。
「女なんてものはいきり立った(自主規制)で頬を叩きつけて、(自主規制)するぞって言えば良いんです」
「……そうなのか?」
真に受けたトキヤが、ノルンに実行して暫くの間口を利いてくれなかった話は、後に語られるだろう。




