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純喫茶ごーすてら  作者: のるんゆないる
第二章『陰りゆく平穏が』
13/42

#12 酒とは、人の本性を映し出す鏡


 なしろ達がハガルに向かっている間も、ごーすてらは営業している。

 店主が出掛け、看板娘が探しに行っている中も、バーも喫茶店も通常営業のままだ。

 店主代理を務めているトキヤは、今日も粛々とカクテルのシェイカーを振りながら、窓の外を眺める。

 今宵の月は赤みを帯びている満月──ストロベリームーンと言う奴らしい。

 それを教えてくれた店主は今、何処で何をしているのだろうか。

 彼女の帰りを待ちながら、トキヤは小さなため息を一つ吐いた。


 「なぁに、アンニュイな表情で外を眺めてるんですの?店主代理ぃ?」

 「別に。お前と二人きりで店番するとは思ってなかっただけだ」


 現在の時刻は午後九時頃。ある程度の客は捌け、看板娘のなしろが居ない中、店内には落ち着いたクラシックと、古臭い時計の秒針が刻む音だけが聞こえてくる。

 何故か、なしろと同じ服を着ている「生足疑惑のSarMaid」の主こと、フカ・ネコザメは暫くの間、なしろの代理をしてくれると言ってくれたのでこうして店の手伝いをしてもらっている。


 (どう見ても似合ってないが……、言わぬが花、といった所だろうか)

 

 トキヤはちらりとフカの方を一瞥した後に、ストロベリーのリキュールを取り出す。

 白のフリフリの服に身を包んでいる地雷系メイクをしている彼女はどう見ても似合っていないが、彼女にそんな事を言った日には、この店で出している酒の材料の値段を倍にされるので、下手なことは言えない。

 店主と看板娘が居ないことに目を瞑れば、今宵は本当に久方ぶりの平穏だ。

 つい数日前までは師匠や師範がこっちに来ていたせいで、トキヤの肝は極限まで冷えていた。

 ウィクスがこちらに来ているとは思いもしなかった。あの場でノルンが殺されても文句は言えなかった。


 「しっかし、本当に暇ですわね。こんなに閑古鳥が鳴いているのに、よく経営できますわね」

 「さてな、店主の手腕だろ。この時間は基本的に暇だし、帰ってもいいぞ」


 眠そうにあくびをしているフカはきっともう眠いのだろう。最近は朝早くに起きると言うし。

 彼女の目の下の涙袋が少し大きくなっているような気がしながら、トキヤは徐ろにシェイカーにホワイトチョコリキュールを注ぐ。

 いきなりカクテルを作り始めたトキヤを見て、フカは興味津々といった表情でカウンターからこちら側を覗き込む。


 「甘いカクテルでもお作りになられるんですの?ですけど、この時間の甘いものは罪ですわ……、十杯くらいで酔いが回るかしら」

 「別にお前に飲ませるために作る訳じゃないんだが……?ん?」

 

 カランコロン、扉に付けられている来客を知らせる鈴が優しい音を数回鳴らす。

 こんな時間に客が来るとは珍しい。一杯飲んで今日は店じまいする気だったが、トキヤは扉の方を見る。

 そこには白を基調とした今風の格好をしているピンクゴールドの髪の女性と、見覚えのある赤いボディの女性が立っていた。

 トキヤが反応するよりも早く、フカがぽてぽてと似合わない歩き方で客の方へと向かう。


 (なしろの真似だろうか……、シンプルにきついな。ぶりっ子が過ぎるだろ)


 「いらっしゃ……あら、「AmA」にお(かね)じゃありませんの。こんな場末のバーに何用ですの?」

 「こんばんは、「Bar:Ghostella」というのはここであっていますか?」

 「(・ω・)ノシ」

 

 随分と失礼なことを言う看板娘代理フカ・ネコザメに、拳骨をお見舞いし、二人に座るように促す。

 赤い機体の女性──「AmA」と、綺麗なピンクゴールドの長髪に、目尻近くにある泣きぼくろが妖艶な──お兼と呼ばれた女性は、トキヤの眼の前のカウンターに腰掛ける。

 お兼は差し出されたお冷に口をつけると、まっすぐにトキヤの方を見る。

 

 「貴方が、この店の店主、ノルンさんですか?」

 「いや、俺は店主代理のトキヤ・アルフェルドだ。店主は今、留守にしている」


 トキヤの言葉に、お兼はふむ、と考えるような仕草を見せる。

 なにかノルンに用事でもあったのだろうか。少なくとも面識はないみたいだが。


 「なにか、ノルンに用事でもあったのか?帰ってきたら伝えておくが」

 「いえ、実は、盞華さんからこの店を紹介されたので、ユキと一緒に来ようとしたのですが、バーの時間帯は出禁にされて、行けないんです。と言われてしまって。彼女が何をしたのか気になってたんです」


 あー、とトキヤはなんとも言えない表情で昔の出来事を遡る。

 ユキがバーを出禁になった理由は、酔っていたのもあったのだろうが、裏声でおっきな声を出せば、ワイングラスぐらいなら割れるんじゃないか、と言い出し、実際に実行したからなのだ。

 ユキが発した強烈な爆音裏声は、店の中に鳴り響き、グラスどころか、カウンターの奥に秘蔵していた希少な酒のボトルまで破壊してしまっていた。

 隣で「爆音波のオンパレードですね!」なんて言って、ケラケラ笑っていた盞華に、高額な請求書を持たせて、その日は白に連れて帰らせたが、次の日の朝には、「なんですかこの法外な請求書は!私が何したっていうんですか!」と押し掛けてきていたのをふと思い出した。

 半ばキレていたノルンが、事情を全部説明したら、盞華はマジックテープのおサイフを取り出し、耳を揃えてお支払いをした。

 その後、永久にというわけではないが、暫くの間、ユキは夜の間は出禁になった。ということだ。

 

 (まぁ、今思えば馬鹿な話だとは思うが、本当に危険なんだな、彼女の爆音は……)


 トキヤが話し終えると、お兼は申し訳無さそうに深々と頭を下げる。

 ……何故か、フカを隣に呼び出してだ。手を上げて呼び出されたフカは、なんですの〜?と隣に立つ。


 「この度は、本当にうちのユキが申し訳ありませんでした……。お詫びに……そぉい」

 「えっ?あ、きゃあああ!!な、なにしてるんですのっ!?」


 お兼は隣に立っていたフカのスカートを思い切り上に捲り上げる。

 そのため、フカは臍のあたりまでもろ出しの姿で「AmA」とトキヤに中身を見られたことになる。

 絶句していたトキヤと「AmA」の表情を見て、お兼もフカのスカートの中身を覗くと、そっとスカートを掴む手を離す。

 コホン、と咳込んだお兼は涼しい顔で微笑む。額には脂汗がダラダラと垂れているあたり、お察しだ。


 「黒のどぎついのを期待しておりましたが、意外も意外……といった所ですね。これもまた眼福でしょう」

 「いや、呪いだろ。もうこれからそいつの顔を見るたびに、フラッシュバックするぞ」

 「(。'-')(。,_,)ウンウン」

 

 スカートの中身を見られた挙げ句に、散々な言われようだったフカは、顔を真っ赤にして軽鈍器を顕現させる。

 ふーっ、ふーっと鼻息を荒げながらハート型の軽鈍器を握りしめているフカは、頭に血が上っているのだろう。

 三人の職業(クラス)を把握していなかったのか、フカは徐ろにトキヤ目掛けて軽鈍器を振り上げる。

 

 (こいつ、完全に俺の頭をかち割る気だろ……。店で荒事はするなって言われてるだろうに……)


 溜息を付いたトキヤは、カウンターに乗り上げて銃剣を具現化させて、軽鈍器の攻撃をいなす。

 剣部分に軽鈍器を滑らせ、剣が離れたタイミングで強めに力を込めて撥ね飛ばすと、打撃に全力を費やしていたフカは、よろめいて後ろにのけぞる。

 フカはなんとか体勢を整えて、店の奥の方に陣取り、ギザ歯をギラつかせて、トキヤを睨みつける。

 

 「長銃(アサルトライフル)大砲(ランチャー)以外にもそう言えばそんな武器がありましたわね……」

 「これも銃機能があるんだから、実質射撃支援職(レンジャー)の武器だろ?」


 こちらとしてもフカを怪我させたいわけではないので、あくまで峰打ちで留めたい。

 けれども、フカは未だに中身を覗かれた怒りと羞恥心で全身が真っ赤になったままだ。

 

 「えぇ、全ての武器は実質長銃ですから」

 「(。'-')(。,_,)ウンウン」


 未だにカウンターに座ってのほほんとしている女性二人は、酒の注文をしているが、今はそれどころではない。

 空気読んでくれよ、と頭痛がする頭を懸命に抑えながらトキヤは長銃を顕現させる。

 慣れた手つきで特殊弾を装填し、フカ目掛けて発射する。


 「我が身に流れる数多の加護よ……「弱点付与弾(ウィークバレット)」」

 「んなっ!?それは人に向けて撃っちゃだめですのよ!?」


 お前が攻撃仕掛けてきたからだろ、とは流石のトキヤも言わなかった。

 フカの身体に、脆弱のステータスを意味する赤い刻印が刻まれているのを確認すると長銃を手放す。


 「そもそも軽鈍器を人に振り翳している時点で同罪だ。ノルンが帰ってきたらお説教だな」

 「元はと言えば、お兼がスカート捲ったのがイケないですわ!不敬ですの!!」


 スカートを捲っても、殺人騒音野郎でも、客は客なのだ。ある程度は目を瞑って頂きたい。

 トキヤは深い溜め息をつくと、ゼロ距離までフカに肉薄し、眼の前でフカの唇に人差し指を添える。


 「言いたいことは分かるが、せめてなにか履いておけ。不衛生だろ」

 「〜〜〜〜!!よりにもよって言うことがそれですの!?死んで詫びろ!女の敵!!」


 距離を詰めたことをいいことに、ヘッドバッドしようとしたフカのおでこに指を添える。

 少しだけ力を込めてデコピンをすると、フカはティッシュのようにいとも簡単に吹き飛ばされた。

 何故か空いていたドアの外まで飛んでいったフカは、目を回して気絶している。


 「ありがとうございます、ドアを開けてくれていなければ、また店を修理することになってました」

 「✧ド(*,,ÒㅅÓ,,)ャ✧」

 「アスファルトさん、申し訳ないです。殿方の御子息を元気づけようとしたのですが……」


 初対面ではあるが、トキヤは確信した。この人はスケベであると。

 綺麗な言葉で物事を述べているが、言っていることはとんでもない事だ。

 後に聞いた話だが、彼女も「天下布舞」の一員らしい。まともな人は白しか居ないのだろうか。

 頭痛が収まるところを知らないが、ひとまず諸悪の根源(被害者)を片付けた後に、トキヤはカクテル作りを再開する。

 テーブルの上に置かれた材料を見て、お兼はふむふむと考え込む。

 

 「ホワイトチョコリキュールに、ストロベリーリキュール、それにグレナデンシロップということは、作ろうとしているのは「アポロン」でしょうか?」

 「よく知っているな。昨日がストロベリームーンだったから、という安直な理由だがな」


 内心、お兼の酒知識に感心しながら、トキヤは慣れた手つきでシェイカーに材料を入れる。

 ホワイトチョコの甘味にストロベリーとザクロの酸味が効いている「アポロン」は爽やかな口当たりが特徴だ。

 チョコの割合を減らすと、酸味が強すぎるのだが、「AmA」の分だけは少しだけチョコを減らして作る。

 出来上がったものをカクテルグラスに注ぎ、クラッシュドアイスと共に注ぐと、二人の前に置く。


 「ストロベリームーンにかこつけた「アポロン」だ。今日はうちの変態が迷惑掛けたな」

 「いいえ。私もそれなりですから、ほら、実は私も……」

 「却━━(゜Д゜x)━━下」


 「AmA」もすかさず、お兼が自分の履いているスカートに手を掛けるのを遮る。

 こんなところでストリップが始まられても困るのだ。トキヤはノルン以外に興味など無い。 


 「ホワイトチョコの甘みの中にイチゴの酸味が効いていて本当に美味しいですね……ここにラヴ…」

 「(乂'ω')ダメー」


 どぎつい下ネタが散見されているが、トキヤは乾いた笑いを発しながら、カクテルグラスを傾ける。

 今頃、なしろ達はハガルへと辿り着いているだろうか。無事に帰ってくれば良いのだが。

 あそこは普通の田舎とは一味も二味も違う、異郷の地だ。()()()()()()()()()()尚の事。

 トキヤもフカもリアも、各々理由は違えども、可能であれば帰りたくはないと、断言している。

 今回は盞華もついているから、荒事に関しては問題ないのだが、問題はリアだ。


 (余計なことをしてくれるなよ。次は許すつもりはないからな)

 

 アポロンの他にも様々なカクテルやワインをオーダーされ、しこたま飲んだ「AmA」達は、千鳥足になったお兼に肩を貸して、店を後にしていった。

 帰る直前に、二人は料金を払わずに請求書を盞華宛に切るように言われたのだが、どういう給与形態を取っているのか、一度確認を取ったほうが良いのだろうか?

 あまり他のチームに口を挟むつもりはないのだが、申し訳無さそうに白が代金の建て替えをしているのを見ると、なんだかやるせない気持ちになる。

 

 

 

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