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7.


 それから数日後、フランツに頼んでいた資材と食材が届きました。

 そして翌日、私とカリナはオスカルに乗り、ユピシカに向かいます。

 私とカリナ、食材と資材を乗せているので、さすがのオスカルもそんなに早くは走れません。

 それでも2時間でユピシカの市場に辿り着くことができました。


 受付でかまど付き屋台を借り、金貨一枚を支払います。

 無料で借りられる道具は網と大きな鍋にしました。

 指定の場所に移動して、開店準備を始めます。

 エローテは銅貨三枚、コーンスープは銅貨二枚。

 前世の金額なら300円と200円です。

 

 まずはコーンスープ作り。

 カリナは助手をしてくれます。なかなか良い手際ですね。


「カリナ、私たち同い年ですから、これからは敬語はなしにしましょうか?」

「そんなことできませんよ! アリーシャ様は代官様だし貴族なんたから! それに……。そういうアリーシャ様こそ敬語ですよ!」

「あらまぁ! そうでしたわね」

 

 それから私がふふふと笑うと、カリナもへへへと笑いました。

 そのうちに、市場にはどんどん人が増えていきます。

 網をセットし、竹串をさしたトウモロコシを焼いていると、屋台の周りに人が集まってきました。

 トウモロコシをそのまま焼くなんて、この世界の常識では考えられません。もの珍しさから、ギャラリーの数は増えていきます。

 大勢人が集まってきたタイミングで、私は次の工程に移りました。

 焼いたトウモロコシにマヨネーズを塗り、すりおろしたチーズをかけて、仕上げにチリパウダー。

 何ともいえない食指をそそる香りが漂えば、一人の見物客が声を張り上げました。


「な、何だかよくわからんが、美味そうだな!」


 それから、少し焦ったような別の声が上がります。


「銅貨三枚か……。一つ買うよ!」

「こっちにも一つおくれ!」

「私も買うわ!」

「こっちにも!」

 

 エローテは出来上がった側からどんどん売れていきます。

 

「美味い!」

「トウモロコシにこんな食べ方があるなんて!」

「酸味がきいていて、香辛料の刺激がちょうどいいな!」


 良きタイミングを見計らって、カリナに試食用のコーンスープを配ってもらいます。

 コーンスープを飲んだ人々は、感嘆の声を上げました。


「コクがあって美味しい!」

「それにこの食感!」

「体に染み渡るなぁ!」


 その後エローテとコーンスープは飛ぶように売れ、夕方には持ってきていた材料分が全て完売しました。

 受付で両替してもらい、売上金はしめて銀貨十五枚。

 その後屋台を返却し、明日の予約をして賃貸料を前払いし、足りなくなった食材を補充して、村のみんな分のパンを買って村に戻りました。

 イルジャとスーザンに任せた街道沿いの屋台も、売り上げが好調だったようです。

 温かい食べ物が食べられると喜ばれ、馬車を降りなくても注文できるシステムは好評だったそうですよ。

 それから村のみんなで夕食を食べて、今日起こったできごとを話たりしながら楽しい時間を過ごしました。


 そうして、1ヶ月が過ぎました。

 この1ヶ月の間、市場と街道沿いで毎日屋台を出し、材料やかまど付き屋台の賃貸料を引いた純利益は金貨三十枚になりました。

 市場で朝と夜の分のパンや食材を買ってかえり、それを調理して、村のみんなでぎゅうぎゅうになりながら食べるのが日課になっています。

 男性陣は畑の方を頑張ってくれていて、もうすぐジャガイモが収穫できそうです。

 それから、私の家も完成しました。

 前世でいうところの六畳一間の1Kですが、今の私には十分すぎるほど素敵な家です。


(それにしても……。エローテとコーンスープの販売は順調ですが、それでもドライブインを建てられるのはいつになるかわかりません。私は皆の前で宣言しました。この村を豊かにしてみせると。そのためには、イグナス村に人を呼び、村でお金が稼げる仕組みを作らなればなりませんが、そもそも、この荒野に人が住む村が存在することは全く知られていないのです。ここにイグナス村という村があることを知ってもらうために、そして村に人を呼ぶために、何か別の策を考えなければなりませんね)


 そんなある日のことです。

 朝、いつものように市場の受付にいくと、何やら揉め事が起きているようでした。


「どうされたのですか?」


 困ったような顔をした受付の女性が、説明をしてくれます。


「この市場では、かまどを借りない場合は場所代として銀貨5枚をお支払いいただく決まりになっているんです。だけど……。こちらの方が、お金は払えないけれど場所を貸してほしいと……」


 見ると、二人の小さな女の子が、大きな瞳を不安げに瞬かせながら私を見上げました。

 二人とも10歳前後でしょうか。顔がそっくりなので姉妹なのでしょう。

 何か必死な様子を感じます。


「何を売りたいのですか?」


 尋ねると、二人はおずおずしながら持っているズダ袋の中身を見せてくれます。

 入っていたのは、きちんと小分けの袋に入れられたくるみでした。三十袋ほどあるようです。


「お名前をお伺いしても?」


 背の低い方の女の子が答えてくれます。


「……ミーナ。こっちはお姉ちゃんのケイトだよ」

「お父様かお母様はご一緒ではないのでしょうか?」

「ほんとはお母さんと来ることになってたの。だけど具合が悪くなっちゃって……」

「まぁ! 具合がですか?」


 今度は、もう一人の女の子、姉のケイトが答えてくれました。


「お母さんのお腹には赤ちゃんがいるの。それで、つわりっていうのが始まったんだって」

「なるほど」

「お父さんとお母さんが言ってたんだ。赤ちゃんが生まれたらもっとお金がひつようになるって。だから、二人でくるみを売りにきたの」

「まぁ!」


 なんという健気な思いなのでしょう。

 私はすっかり感動いたしました。

 

「それでしたら、私たちの屋台の端でくるみを売るのはどうでしょうか?」

「いいの?」

 私の言葉に、姉妹は目を輝かせます。


「カリナはどうでしょう?」

「もちろん賛成です!」


 その後受付にも許可を貰い、私たちと姉妹は一緒に屋台を開くことになりました。 

 屋台に付属している、折り畳まれたサイドテーブルを広げます。


「こちらを使ってもかまいませんよ」

「ありがとう、お姉さん!」


 それから、二人はテーブルの上にくるみを並べていきました。

 私とカリナも開店準備を始めます。

 カリナはすっかり慣れた様子で、今ではエローテを一人で作ることができるのですよ。


 いつもより寒かったこともあり、エローテとコーンスープは飛ぶように売れ、昼過ぎには完売してしまいました。

 くるみの方はというと、どうやら一つも売れていないようです。

 忙しすぎて、姉妹のことを気に掛ける余裕がありませんでした。二人ともかなり落ち込んでいます。


(夕方にはユピシカを発ちたいのですが、まだまだ時間がありますね。それならば……)


「そのくるみ、全て買わせてくださいな」

「ぜんぶ? いいの? お姉さん」

「はい。その代わり、私が戻るまでに殻を割っておいてくださいね」


 それから、あるものを作るための材料を探しに市場を回りました。

 購入したのはハチミツ、グラニュー糖、生クリーム、砂糖です。本当は水飴が欲しいのですが、この世界には存在しないので砂糖と水で代用します。

 屋台に戻った私は、購入した材料とコーンスープに使用した残りのバターであるものを作ります。


 鍋に生クリーム、グラニュー糖、ハチミツ、水飴を入れて中火にかけ、時々混ぜながら沸騰させます。

 沸騰したら火を止めて、バターと刻んだくるみを加えて絡めます。


「できましたわ!」

「お姉さん、これは何?」

「これは、キャラメルくるみですよ」

「きゃら……める?」

「試食してみてくたさいな」


 キャラメルくるみを口に含んだ姉妹とカリナの目が、パッと輝きました。


「これ、すごくおいしいよ!」

「本当に! 甘さのなかにほろ苦さがあってクセになりそうです。それにこれ、初めて食べる味です」

「初めて、ですか?」


 キャラメルくるみを頬張りながら、首を縦に振る姉妹とカリナ。


(そういえば……。この世界で、キャラメル味を食べたことってありましたっけ?)


 この世界には、高級品で貴族や富裕層しか口に出来ませんが、チョコレートは存在しています。

 生クリームもカスタードもあります。

 けれども、キャラメルやキャラメル風味のものを食べた記憶がありません。

 つまりこの世界には、まだキャラメル味は存在していないのです。


(それでしたら、キャラメル味の商品をイグナス村の土産物として売れば、爆発的に売れるのではないでしょうか? そうすれば、あの荒野にイグナス村という村があることを、多くの人に知ってもらえるかもしれません)


 その後、一つ銅貨三枚で販売したキャラメルくるみは、あっという間に完売しました。


「ありがとう、お姉さん!」

「いいのです。くるみの代金と材料費を差し引いても儲けが出ましたからね。ところで、お二人はこの近くにお住まいですか?」

「ううん。アントワーヌ村から来たの。歩いて2時間くらいだよ」

「まぁ! お二人は2時間歩いてここまでいらしたのですか? 素晴らしい根性です。おみそれしましたわ。それで、アントワーヌ村はくるみが名産なのでしょうか?」 

「ううん、村のおとなは小麦を作ってるんだよ。だけど、今年はふさくってやつなんだって。それで、村にはいっぱいくるみの木が生えてるからくるみを売ることにしたんだけど、あんまり売れなくて困ってるの」

「なるほど。わかりましたわ。宜しければ、アントワーヌ村まで送っていきましょうか?」

「ううん。パパが市場の向こうの工場で働いてるからだいじょうぶ!」

「そうですか」


 姉妹と別れ、私たちはイグナス村へと戻りました。

 みんなで食事をし、夜一人になった私は、キャラメル味の商品について考えを巡らせました。


 最初に頭に浮かんだのは生キャラメルです。

 少ない材料で作ることができ、見栄えも可愛らしく、何より美味しい。

 けれど、生キャラメルは常温保存ができないし日持ちもしません。今の段階の商品化は難しいでしょう。

 この村から王都まで片道三日、ヴィリスやローエンまで片道二日かかります。

 土産物として売るなら、日持ちするものでなければなりません。


(キャラメルを使っていて尚且つ日持ちするもの……。くるみ……そう、キャラメルくるみを使ったあれですわ!)



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