13.
私の名前は田中愛理。
18歳、転生者だ。
学校帰りに交通事故にあった私は、目覚めるとこの世界、『聖なる君に花束を』の主人公ユリアーナに転生していた。
『聖なる君に花束を』は私の愛読書。そして、男主人公である王子ハロルドは私の推しなのだ。
事故に会った時は神様を恨んだけど、自分がヒロインだと気づいた時には神様に感謝した。
貧乏暮らしは最悪だし、貧乏なこっちの両親は好きじゃない。だけど、あと3ヶ月もすれば聖女の力に目覚め、推しに会えるのだ。そう思えば何だって我慢できた。
それなのに……。
「何で悪役令嬢がいないのよ!」
悪役令嬢アリーシャ・マクレーン。
少しウエーブががった燃えるような赤い髪に、それとは対照的な夏の森のような深緑の瞳。
ハロルドに愛される聖女を妬み、いじめ、聖女を害した罪で断罪される憐れな女。
それが、悪役令嬢アリーシャ・マクレーンの役割なのだ。
ところが……。
「側室を断ったってどういうことよ!?」
聖なる力に目覚めたユリアーナの元にいの一番にかけつけ、養女に迎えたロッセリーニ子爵が、額の汗を拭いながらオロオロと狼狽えている。
王妃となる聖女の後ろ盾になって、王家に取り入りおこぼれに預かりたい。そのためにユリアーナを養女にした子爵は、私の機嫌を損ねることを恐れて、私の言いなりになっているのだ。
「ユリアーナ。側室などいない方がいいではないか」
「それじゃあダメなのよ! 全然ダメ!」
また始まった。そんな顔をしながらも、何も言えない子爵に私は怒りをぶつけた。
困ったように眉を下げながら、子爵は必死に私を宥める。
「ハロルド殿下とアリーシャ・マクレーンは、誓約に従って円満に婚約破棄したのだ。覆ることは絶対にないのだぞ」
(何なのよ、何で小説と違うことが起きるのよ! 自分の役割を果たさないなんて……。あの女、一体何様のつもりよ!)
「それなら、せめて遠くにやってよ! 惨めで悲惨な暮らししかできないような場所に追いやってよ!」
「ユリアーナ。いくら力のない伯爵家の令嬢だとしても、アリーシャ・マクレーンは第一王子の元婚約者なのだぞ」
「だからよ!」
それから、私は猫撫で声を出してみる。
「ねぇ、お義父様。私とハロルド様の子供が一日でも早く生まれることを、みんなが待ち望んでるんでしょ? それなのに元婚約者が何不自由なく暮らしていたら、私とハロルド様の仲を引き裂きに来るかもって、私、気が気じゃないわ。そんなんじゃ子供なんてできないんじゃないかしら?」
「わっ、わかった。王に掛け合ってみよう」
「遠くにやるなら、圧力をかけて護衛を借りれなくするくらいのことはしてよね」
「なっ! そんなことをすれば……」
「私に逆らうなら、私が王妃になっても何のおこぼれにもありつけないわよ!」
「わっ、わかった。ユリアーナ、わかったから落ち着くのだ!」
そうしてアリーシャ・マクレーンは、地方にあるロッセリーニ子爵の領地に行くことになった。
カラッカラに乾いた大地が広がる、何もない荒野だそうだ。
「ざまぁみろ。自分の役割を果たさないからそんな目にあうのよ。それに、悪役令嬢なんかいなくたって、私とハロルドがラブラブになる未来は変わらないんだから!」
そう思っていた。それなのに……。
ハロルドは全然構ってくれないし、会いに行っても素っ気ない。しかも、結婚を延期したいとか言い出たしらしい。
「どうなってるのよ! 何なのよ、一体! ……そうよ。やっぱりあの女がいないのがいけないのよ」
本来なら、アリーシャにいじめられるユリアーナをハロルドが助け、二人はその過程で心を通わせるのだ。
「あいつが私をいじめないから、ハロルドが私に恋しないんじゃない! あいつが自分の役割を果さないせいで! ……許さない、許さないわよ、アリーシャ・マクレーン!」
その時私は、絶対にアリーシャ・マクレーンを断罪しようと心に決めた。
ここまで読んで頂きましてありがとうございます。領地改革編こちらで終了になります。2章は王都編になります。
評価、ブックマーク、感想誠にありがとうございます
感想でご指摘頂きまして、アリーシャを領主から領地管理人に変更する予定です。後程修正します。ストーリー自体に変更はありません。宜しくお願い致します。