第4話 道の始まり
任務の報告が終わり、1夜明けた。
湊と星羅は”心当たり”に合う為、ボレアスの街を車で移動している。
ビル群に朝日が眩しく反射し、オープンカーに乗る二人を明るく照らす。
宇宙樹によって、世界は一度窮地に立たされた。
宇宙樹の魔力に依る大気汚染は勿論、宇宙樹から魔力を持った魔獣が現れたのだ。
人類は宇宙樹に対抗し完全な絶滅の危機から逃れる為、あらゆる国家間の争いを辞め、今迄存在した国家を廃止、全ての国家を統合し新たな1つの国を創った。
それが、統合国家グリティアである。
グリティアはあらゆる国の化学力、武力、政治的技術力の全てを結集している。
グリティアの建国が起点となり、人類は宇宙樹への反撃を開始した。
宇宙樹付近に都市を建設し、騎士団の駐屯地、つまり、宇宙樹攻略の最前線にしたのだ。
ここ、風雷都市ボレアスはその都市の一つ、攻略が完了し封印された、第三宇宙樹アルカイドの付近に建設されている。
アルカイドはニューヨークの自由の女神像付近に存在する為、それに伴いボレアスも旧アメリカ領内、ワシントンD.Cに創られている。
現在3つある都市の中では一番の大都市であり、グリティアの本島に一番近い事から技術力も高い。
「それで?心当たりって言うのは?」
助手席に座る星羅は魔警本部近くのカフェで購入したフローズンドリンクを飲みながら、湊に疑問を投げかける。
「俺の昔からの知り合いの中に、ジョナサン・フォードって男がいる。
表の世界は勿論、裏の世界の情報の流れに詳しい。」
片腕を窓から出し、左手のみで運転しながら湊が答える。
ふーん、と気の抜けた返事をする星羅を横目に更に続ける。
「あいつは俺達がこの都市に来る前からの知り合いでな。
星羅にはまだ会わせた事無かったよな?」
「うん、どんな人なの?」
「…まぁ、説明しずらいんだが、一言で表すなら「変人」だな。
あいつは情報収集能力に関しては大したもんなんだが、人嫌いでな。
身の周りの世話は全てアンドロイドに任せてる。
星羅が気に入らなかったら門前払いも在り得る」
一通り説明した後、星羅の不安を感じ取ったのか湊が弁明する。
「一流の情報屋なのには変わりないから安心していいい。
昨日の事件についての情報もそいつから仕入れたものだからな。」
「なるほど、だからあの日盗難現場の近くにいれたのか」
だが、ここで一つ疑問が浮かぶ
「ん?じゃあ何で副局長には「偶然」なんて言ったの?
私にも今迄ジョナサンなんて人の事教えてくんなかったし」
「あいつの人嫌いに関係してるんだが、あいつは情報のやり取りを基本インターネット経由でしか行わない主義でな、依頼人に顔を見せる事は一切ない。
俺とルナを除いてな」
「じゃあ、副局長は”心当たり”について知ってたの⁉」
「まぁな、星羅に教えてなかったのはジョナサンが自分の情報を外に漏らしたくないからだ。
それに、そんな謎の情報源に副局長ともあろうモンが頼ったともなれば黒い噂が立ちかねない。
だからあくまでも昨日の件は「偶然」だし、ルナは情報源に関して一切「知らない」って事にしてるんだ。」
これから会う事になる、ジョナサンなる人物に対する解像度が上がると共に、その人間性は謎が増してゆく。
星羅は一抹の不安を抱えていた。
「ま、実際に会ってみれば分かるさ。」
そう言うと湊が車を止め、目の前を指差す。
話していて気が付かなかったが、いつの間にか周囲の風景は近代的な街並みから一転、自然豊かな山並みが広がっている。
湊が指差す先には、一軒の館
どうやらここに、例のジョナサン・フォードなる人物がいるらしい。
「情報屋の家にしては、随分都心から離れたトコに住んでんだね」
不思議そうな表情をする星羅に対し湊が軽やかに笑う
「あいつは変わりモンだからな、都会の生活は肌に合わないんだと」
門の前に車を止めると、柱に取り付けられていた機器から、低い男の声がする。
「誰かと思えば、虎条湊か。
珍しく顔を出したと思えば、女連れで何の用だ?」
「直接会うのは久しぶりだな、ジョナサン
この子は俺の妹の星羅、会うのは初めてだったよな」
湊がフレンドリーに話しかけると、通話の向こうでは一人の男が目を見開き少し驚いた様に「そうか…この子が…」と呟いた。
「実はこの前の盗難事件の件なんだが、新しい手がかりを掴んだんだ。
それについて教えて欲しい」
湊はさっきまでの明るい雰囲気から一転、真面目な顔付きでジョナサンに語り掛ける。
「………分かった。魔樹液の事だろう。入るといい」
「もう知ってたのか」
星羅は聞いていた通りの情報屋としての腕に驚いていた。
数秒もしないうちに、門が静かに開き始める。
二人は、ゆっくりと車を敷地の中へと進めた。
車を屋敷の玄関前に止めると、老齢の男性が扉を開けて出てきた。
白く染まった髪に、黒く輝く目、腰が悪いのか杖を突いている彼は、どこか品位を感じる雰囲気を纏っている。
「二人共よく来たな」
厳格そうな目つきとは裏腹に優しい口調で老人は言う。
「あなたが、ジョナサン・フォードさん?」
「いかにも、私がジョナサン・フォードだ」
星羅の問いかけに老人は優しく答える。
兄から聞いていた彼の情報とは随分と違うんだな、と心の中で考えながら二人は軽い挨拶を交わした。
そんな中、湊は驚いた顔で、
「人間嫌いのあんたが直接出迎えなんてどういう風の吹き回しだ?」
とジョージに投げかける。
「フン、出迎えたのはお嬢さんの為だ、お前はついでに過ぎん」
ジョージはぶっきらぼうにそう答えながら、扉を大きく開ける。
「さぁ、中に入りなさい。知りたい情報は何かね?」
与えられた情報によっては、一気に黒幕に近づく事が出来る。
星羅は真実への道の始まりと、静かな心の昂りを感じ取っていた。