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第二話 黄泉の国・死役所職員

ここは、死役所。


亡くなった人の魂を死神が連れてきて、そして放置していく場所。

『放置』といえば聞こえが悪いが、死神役は向こう岸には気軽に立入ることができない。つまり、放置するしかないのだ。


死役所の職員は事前に渡される故人の名前、年齢、生年月日、死亡日時など確認しながら本人かどうかを調べる役割を担っている。

桟橋にも渡し舟待ちのたくさんの人が溢れるが、死役所もまた一対一の対応をしなければならないため故人が職員数をはるかに上回っている。


そんな死役所のとある窓口に小さな女の子が座っていた。


「ねぇねぇ、ここってお空の上なの??」


「そうだよ、お嬢さん。お名前は?」


質問する女性職員はにこやかに接している。


「ネネだよ!!5歳になったの!」


少女は無邪気に答える。

まだ、死というものを理解出来ないのは無理もない。たまに、極たまに。彼女のような幼い子供がたった一人で死役所に来てしまうことがある。


「そう、ネネちゃん。かわいい名前ね。私はカナリア、よろしくね。」


「ここってどこなの?」


「ここはね、黄泉の国っていう川の向こうの国まで案内する所なの」


さらに詳しく言えば、故人の情報を照らし合せる場所である。


「案内!ネネも案内できるよ!お家のまわりとか!」


「そうね、そんな感じで案内していくのよ」


「ネネにもできる?」


きらきらした目で女性職員を見上げる。


「うーーん、今はまだネネちゃんちいさいでしょう?大きくなったらできるよ」


「わかった!」


素直な返事にカナリアは微笑みを浮かべる。


「じゃあネネちゃん、ちょっと多いんだけど、質問していくね」


「うん!!」



最初は元気に応えていた少女。

しかし、質問をしていく中で眠気に抗えなかったらしい。椅子の上ですやすやと眠ってしまった。





「うへえ、よく相手してられますねカナリアさん」


少女を彼女に割りあてられた部屋へ運び死役所に戻ってくると、生前の頃からの後輩に絡まれた。


「なぁに、その私の怒りを買いたいような態度は」


わざと軽く睨んでみると、彼はわたわたと慌てたように言葉を重ねる。


「い、いや、別に!改めて先輩の凄さを言葉にしてみただけですよ〜」


…本心ではあるのはわかるが、もともとこの後輩は子供が、特に幼い子供が苦手なのだ。


「ふぅーん、まぁいいけど。小さい子は分かるからねそういうの。気をつけなね。それに、こっちも分かるように説明したらいいだけよ、後輩くん」


「それが難しいんすよ先輩」





本当に難しい。

この先輩に睨まれずに会話をするのは、自分にとっては世界一難しい事だった。

だから、言い訳まがいなことも毎回口から出てしまう。それに、結局優しいから会話を切られないのも知っていて甘えている。

今もまた。


「そうねぇ、慣れないかもしれないけど、仕事だし、文句はここじゃない所で言いなさい」


「言ってもいいんです??」


「さすがにそれは止められないし。四六時中見張ってられないもの、あなたの事なんか」


「さすがにそれはないじゃないですか、なんですか、独り身の俺なんか愚痴言って当たり前って思ってるんですか」


彼女と軽口を言い合うのは楽しい。

言葉の節々に刺があるのを感じなくもないが…。


「何拗ねてんの?まったく関係ないけどそんなこと。ほんとそういうの、気にしてるよね生きてた時から」


「あたりまえじゃん……ずっと…」


(ずっと想ってたのに)


彼はカナリアの事をかなり前から好きだった。

しかし彼女は信じられないくらい鈍感で、彼の感情など欠片も気づいていない。


「なんて??」


何も知らない、気づいていない彼女は首をこてんと傾げながら聞き返す。


ずっと。ずっと想っていた。

…しかし、それを伝えるつもりもなかった。

なぜなら


「いや、別に。彼氏さんは元気ですかー」


「あなたのうしろにいるよ」


彼の親友。幼い頃からの幼なじみであり、カナリアの彼氏でもある。


「え」


まさか背後に立たれていたとは思いもせず、幽霊でも見たかのように恐る恐る振り返る。(…本人もいわゆる幽霊である)


「久しぶりだなぁ、リューク」


そう言って彼は爽やかに手を振っている。

体格の良い彼は、人を怖がらせないようにとにこにことしていることが多い。


「あ、ああ、久しぶりカイ」


カナリアに話しかけているのを見られた気まずさと、久しぶりに親友に会えた嬉しさとで言葉に動揺が顕著に現れる。


「じゃあ私、まだやる事あるから先戻るわ」


リュークの動揺は簡単に見捨てられた。


「え」


カナリアとまだ話していたいのにという気持ちと、今のこの雰囲気で置いていくの…という「え」である。


彼女はリュークの動揺に気がついてはいたが、親友ふたりが話しやすいようにとその場を離れることにした。


「うん、後でね」


カイは爽やかな笑顔で彼女を見送る。


「うん、またね」


カナリアもまた、優しい笑顔で手を振った。






「まぁた、愚痴言ってたのカナリアに」


「またってなんだよまたって」


どうせ長話になるのだからと休憩室まで歩きながら話す。親友との会話はどんな人との会話よりも心が楽である。


「お前もそろそろいい子見つけろよ」


…前言撤回である。

無遠慮に心の傷を刺してくるところが、とても無神経である。


「うっ、すぐそう言う…分かってるくせに」


「分かってるから言ってるんだよ。いつまで当て馬でいるつもりだ?」


「ううぅ、直球すぎる!そして、彼氏本人からゆうべきじゃないだろ当て馬って!!当て馬に失礼だ!」


「自覚はあるんだろ。じゃあ大丈夫だ」


「……だから」


リュークは囁くような音量で呟く。


「ん?まぁ、お前を思ってくれてる子も居るぞたぶん」


「たぶんってなに…」


「女心は簡単にはわからないからなぁ」


気心知れた親友との会話も、もちろん大好きである。絶対に言わないが。


(――だから、ふたりとも嫌いになれないし応援してるんだよ)






〜つづく〜




幼なじみ3人の三角関係です。

リュークとカイは親友で、カナリアは2人の先輩です。(生前から)

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