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独身を誓った大公閣下が恋に落ちるまで  作者: 疾 弥生


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第二十話




その日の深夜。

アーサー率いる大公領の騎士達が隊列を組んで出発していった。


その中には勿論、グレンやウィルがいる。

アレアは令嬢達が訪問してきた時の要員として、邸に待機となった。


「……っ」

キャロルはアーサー達が去って行くのを見て、唇を噛んだ。

この大公邸に来るまでは、アーサー含めその騎士達は雲の上のような憧れの存在であった。

だが、今は違う。


身近であり、友人であり、気の許せる仲間達だ。

そんな彼らが危険な所に行くのを見るのは、流石に辛かった。


「くそ…っ」

自分も行けたらいいのに、と思ったが、自分が行った所で無駄死にするだけなのは分かる。


彼女はもらった書類を持って、椅子に座った。

この書類、気になる所がいくつかある。


何も無ければそれでいい。だが。

キャロルはペンを持ち、今分かることは調べ上げる。大丈夫だと安心できる材料があればそれでいい。だが、なにかあった時、後悔するのは自分だ。

ならば、安心して待てるように調べても問題はないはずだ。


資料庫に行ったりしながら、これまでの記録をあさりまくり、部屋に持ち帰って読みまくる。


それが朝方まで続き、日が昇り、邸の者が動き始めた所で騎士服に身を包み、愛剣を差して立ち上がった。


行く所は決まっている。


部屋を出ると、アレアが壁にもたれて立っていたので、キャロルは目を瞬いて驚いた。


「お、おはようございます」

「おはよう、キャロル嬢」

アレアはにっこりと微笑む。


「どう、されましたか?」

キャロルは少し首を傾げる。

「一緒に朝食どうかな、と思いまして」

「是非」

キャロルは微笑んだ。







朝食をアレアとダリスと共に摂ったキャロルは、ダリスに言って鷹を借り、文を飛ばす。


「好きにしてみせなさい。但し、夕方には私、家に帰りますからね」

ダリスは言う。

「承知しました」

「それで、あなたは何が引っ掛かったんですか」

ダリスは尋ねる。


「ダリス様も閣下もご存知かとは思います。ですが、私はその不安を潰さないと待っていられません。この大公領の方達は、もう遠い存在の方ではないですから」

キャロルは答えた。


しかも、アーサーは少人数で向かって行った。精鋭部隊ではあるが、少数なことには変わりない。

心配は尽きない。


「閣下のことですから、心配はないかもしれませんが……。ダリス様も落ち着いてらっしゃいますし。ですが、私はまだ、そのように落ち着けません」

キャロルは唇を引き結ぶ。


「なので、不安要素を潰してきます」

「………閣下のことが好きなのですか」

ダリスはふと尋ねてみた。

「好きですよ。グレン様もウィル様も。この邸の方、全員。当たり前じゃないですか」

キャロルは言う。


「なので、行ってきます」

出した文の返事が届いたので、彼女は立ち上がる。


「お気を付けて。アレアを連れて行きなさい」

「ですが、アレア様は令嬢方の対応要員では?」

「大丈夫です。信頼の置ける護衛がいた方が良いでしょう?」

ダリスに言われ、アレアも立ち上がる。

「じゃあ、キャロル嬢。よろしく」


そうして、2人で王宮へと向かう。

彼女は、捕らえた侵入者に話を聞きに行こうとしているのだった。







「お手数をおかけしまして、大変申し訳ありません」

王宮で待っていた第一王子アレンを見て、キャロルとアレアは跪拝する。


「いや、これくらいなら大丈夫だ。王宮騎士を2人つけておく。気を付けるように」

「承知致しました」

キャロルはその騎士2人の案内の元、牢屋へと向かった。


「足元、お気を付け下さい」

騎士に言われ、キャロルは慎重に階段を降りる。

地下牢だけあってひんやりしているし、滑りやすい。


その侵入者の牢屋に辿り着くと、キャロルは少しだけ顔を歪めた。

拷問のあとがたくさんある。壁や床に血が飛び散っていたからだ。


「……これを見て、叫ばない女性はキャロル嬢が初めてでは?」

アレアが重い空気を壊すかのような発言をした。

まるで、慣れているかのような発言だ。


「少し、お話ししても宜しいですか」

キャロルは案内してくれた騎士に尋ねた。

「構いません。どうぞ」


キャロルは格子を掴み、中の人物に声をかけた。


「ひと月以上経って、何故、今なんですか」

彼女はそう問うた。

「はっ」

中の人物は、口の中の血を床に吐き出した。


「何の話だ」

「自分が帝国の者だと告げた理由です」

キャロルはそれが気になっていたのだ。

今更告げる意味は何だ。悪い予感しかしない。

そういう風に命令されていたのではないかと。


「あまりにも拷問が酷いから、口を割っただけだ」

「その答えは納得いきません」

キャロルは即答する。

今更口を割るのはおかしい。


「何で?」

「………帝国は、何をしようとしているのですか」

キャロルは話題を変える。


「何も?ウィランディアを欲しいだけだろう?」

「ウィランディアを……?」

キャロルは聞き返す。

そんなイメージではない。


ソリントプ帝国は本気で戦を仕掛けようとしているのだろうか。

時々、攻め入って来ているのは知っている。だが、どれも本気でないことが、資料をあさったことで判明した。


「なにか問題でも?」

牢の中の人物は、唇の端を上げながら問う。

「はい。今回は、本気ですか?」

キャロルはまっすぐ見つめて尋ねる。

「いつだって本気に決まってるだろう。本気じゃないのに攻め入るのか?」

そいつは馬鹿にしたように話す。


「………分かりました」

キャロルは一瞬目を伏せ、答える。自分の尋問の術じゃ、何も聞き出せない。

そして、牢に背を向けた。


「アレア様。閣下なら、今どの辺にいると思いますか」

「まだ隣国に入った所だろう」

「どう考えても閣下を誘き出す罠のように思います」

キャロルは言う。

「……閣下も分かってると思うけどね。まあ、キャロル嬢の話を聞こうか」

アレアは彼女に手を差し出し、地下から出た。


「殿下がお待ちですので、こちらへ」

王宮騎士の案内の元、キャロルとアレアは部屋へと向かう。

そこには第一王子アレンとノルン国王がいた。


キャロルとアレアはすぐさま跪拝し、挨拶する。


「良い。座れ。本題に入ろう」

国王が2人に椅子を進め、キャロル達も腰を下ろす。


「キャロル嬢は何を懸念している?」

国王は早速尋ねる。

「今回の情報、閣下を誘き出す罠だと思われます」

「ああ」

国王は答えた。


「!?」

キャロルは目を見開く。

「分かっていて、向かわせたのですか」

「いつもそうだ。殆どが罠だ。何回も何回もそれは繰り返され、その度に生還している。今回も問題ない」

国王はそう答える。

「陛下や大公邸の者はそれに慣れているから良いかもしれませんが、私は今回初めて当事者になりました」

キャロルは進言する。


「……キャロル嬢」

アレンが彼女の名を呼んだ。

「はい」

「叔父上を心配している、ということで合っていますか」

「勿論そうです。当事者になるのは初めてですから、心配するのに越したことはありません」

キャロルはそう答え、話を始めた。


キャロルは懐から今までソリントプ帝国と関わった戦の書類を並べる。


「私達国民には、侵入を防いだと知らされていました。私もそれを信じていました。ですが、詳細を確認すると違うではありませんか」

キャロルは告げる。


毎回戦に勝ったと、凱旋パーティーなどをしているが、どうやら違う。

諜報活動をしている者から帝国の情報が入り、未然に防ぐ為に出向き、密かに処理している。

本当はそのはずなのだが、あちらから仕掛けてきてそれを防ぐためにアーサーが駆り出され、戦に勝利し凱旋しているという国民への発表だ。


色付けされ、脚色された内容だということ。


「まあ、それは別に構いません。陛下の意向なのですから、とやかく言う必要もありませんし、理由も分かりますし」

キャロルは言う。

国王相手でも臆することなく意見を述べるところ、いち貴族では有り得ないが、それほど邸を離れたアーサー達を思っているからこその言葉なので、聞いていたアレアは内心で微笑む。


「……本当に大公領の一員って感じだな」

国王がぼそりと呟いた。

「ええ」

アレアがそれに同意する。


「まあ良い。それで?」

続きを促す国王。

「大公邸にあった今までの記録を拝見しました。どれも戦にならないよう、早めに手を打って鎮静化させています。ですが、相手の動きがどうも腑に落ちません。攻める気がないように思います」

「書類を読み、それが分かっただけで優秀だな」

国王はそう答える。


「それでも閣下は毎回出撃しています。しかも、回数を重ねることにこれが只のお遊びだと判明し、出撃人数も減少傾向にあります」

毎回毎回同じ手をされ呆気なく相手に下がられたら、今回もそうかと思い、舐めてかかる。それが人間だ。


「アーサーは用心しているから大丈夫だ」

国王は言う。

「閣下は用心してるでしょう。でも、全員が全員そうではありません」

キャロルはハッキリと言う。

「大公邸の者が信じられないと?」

国王は尋ねる。


「いえ。そういう訳ではありません。ただ、前回も大丈夫だったから今回も大丈夫だという慢心があるということです。隣国のナティクスは何も言ってきていないのですか」

「ナティクスにも被害がないよう、ウィランディアが守護せねばならん。そういう条約を結んでいるからな」

ナティクスは小国。彼の国をウィランディアが守護する代わりに、食料自給率の高いナティクスから食料やら色々頂いている。


「ナティクスが裏切っていないと言い切れますか」

キャロルは尋ねる。


「………」

アレアは思わず彼女の横顔を見る。

本気でそう尋ねる所が度胸がありすぎる。条約を結んでいる相手を信用出来るのか問うなど、なかなかに挑戦的である。質問の相手は国王なのに。


アレアは息をゆっくりと吐き、どうしたものかと彼女をチラと見た。





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