常識知らずの悪魔神、転生したので学園で二週目人生を謳歌する〜一切の容赦をせずに無双していたら、何故か周りの剣聖の娘や大魔導師、その娘に溺愛される。やれやれ、これって普通じゃないのか?〜【短編版】
「悪魔神ヘラントゥス・タミネントぉぉ!! これで終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!! 」
「チィッ!! 勇者めぇ!! 俺を倒せるとでも思っているのかぁぁ」
「倒せるさ、俺様は勇者だからな」
その言葉とともに聖剣が振り下ろされる。
「《ダークウォール》ッッッ!! 」
対象の攻撃を吸収する障壁を展開する。
しかしーーー
ざしゅっっっっ!!!
「グハッ! ……」
障壁すらをも、身体と共に斬り裂かれる。
「はぁ、悪魔神といえどこんなもんか、弱いな……」
「くそが……」
なんだよそのチートアイテム……。
「ああ、これか?女神に貰った。自分に敵対する者のステータスを究極ダウンする力があるんだってさ」
どうだ、羨ましいだろう、と言わんばかりにひらひらと聖剣を見せつけてくる。
「ふざけやがって……」
女神の力を借りて、強大な敵を倒す……。
それは魔王とか邪神に対してする最終奥義ってもんだろ。最初っから借り物チート使ってイキんなよ……。
「こんな一瞬で終わるものなのだなーー」
勇者はステータスをダウンする力と言っていたが、それだけではないだろう。もっと沢山のチートがモリモリなはずだ。
なぜって?
この俺が自己再生ができないほどの傷を追わされたからだ。普段であれば剣なんぞで斬られた腕の一本や二本、数秒後には再生できている。もっとも、俺にそこまでのダメージを追わせれる者など二人しかいなかった訳だが。
一人は俺の親友、そしてもう一人はこいつだ。
力を振り絞って、立とうとするが立てない。
「ぎゃはは! 無様だなぁ? 」
こいつ絶対殺す。
インチキ借り物チートを使わないと俺にかすり傷すら追わせれない癖に。
ただひたむきに最強を目指し、鍛錬をしてきた。
来る日も来る日も鍛錬をし続けてきた。
俺の師匠の口癖は「努力は必ず報われる。そして強いヤツはモテるのじゃ」。
はぁ……。
結局報われなかったし、モテたりなんて一切しなかった。
しかし、師匠の言葉は嘘ではないと信じている。
あの人が嘘をつく訳がないのだから。
走馬灯が流れてくる。
だがろくな思い出がない俺には、修行と鍛錬の様子しか流れてこない。
どんどん記憶が薄れていく。
最後に師匠と【念写魔法】で念写した写真が見えた。
その写真には俺と師匠が笑いながら笑顔でピースしてる写真だった。
師匠……今どこで何をしてんのか分かんねぇけど、師匠は、師匠だけはあんなヤツに負けないでくれ。
本音を言うなら、俺の死を知ることなく、今もあの時の笑顔のまま過ごしてくれ。
もし俺に来世があるのならばーーまた最強を目指そう。
こんなインチキ勇者なんかに負けないためにも。
そう願い、悪魔神ヘラントゥス・タミネントこと俺は命を落とした。
これが今朝思い出した記憶。
「そうだーーー僕、いや俺は転生したのだな」
今の俺は田舎の領地に生まれた15歳の少年ヘルク。
そして明日この領地を出て、魔法学園に通うことになる。
魔法学園とは15歳になると通うことが出来る、文字通り魔法を学ぶ学園だ。
まさか本当に来世があるとはな……。
悪魔神を転生させるなど、俺を担当した女神は余程頭が悪いのか、お気楽なのだろう。
今までのヘルクとしては魔法は至って平凡だったが。
「ふんっ」
ごおおおおおおおう!!!!!
風が吹き荒れ、目の前にあった一本の木が根元から真っ二つに崩れ落ちる。
そう、記憶を思い出した瞬間、悪魔神の力をも全て取り戻せたのだ。
一気に今までの記憶が頭に押し寄せてきたからか、頭痛がする。
【僕】であれば耐えきれずに気絶していただろう。
対して強くもない領地の人々の中でも最弱クラスだったのだから。
両親、いや領民全員が、魔法学園に行くのを心配していた。
だがそれはもう過去の話となるだろう。
悪魔神の俺であれば魔法学園なんぞ余裕だ。
それに、だ。
「魔法学園とやらで学び、あの忌々しきインチキ勇者よりも強くなり名を轟かせ、今度こそは俺が世界最強の名を欲しいままにしようではないか」
前世の俺は修行、鍛錬ばかりで学園なんぞ通っていなかった。もちろん魔界にも魔法学園なるものはあったのだが、両親が居なく、スラム街でぽつんと座っていたところを師匠に拾われたような奴なわけで。
同年代の者と学びを深め、青春を謳歌する。
そんな人生に憧れがなかったといえば嘘でない。
決してインチキクソ勇者に言われたあの言葉にムカついた訳じゃあない。
「あぁ! 孤独な雑魚悪魔は学校で女といちゃついたり、はたまたハーレムなんて作れるわけないかぁ。この俺だからこそ、最強の勇者と崇められる俺だから、世界中の美女も、一緒に転移してきた学校の女も思うがままなんだもんなぁ。こんな夢見心地を味わえないなんて、可哀想だなぁ」
決して……イラ、イラついてなんてない。
ただ、数少なかった俺の夢が叶うのだ。行かない手はない。
そろそろ家に帰って、明日の準備をしないとな。
しばらくは見納めになるであろう、丘から見えるこの綺麗な夕日を目に焼き付けた後、家へと帰った。
「お兄ちゃん! いってらっしゃい! 」
「お姉ちゃんに手紙を毎週だすこと! 分かったね? それに、辛くなったらいつでもお姉ちゃんを呼ぶのよ! 」
「ハッキリ言ってお前がやって行けるのか不安だ。昨晩も母さんと生かせるべきでは無いのではないかと話をしていた。でも、お前が行きたいと宣言したんだ。送り出す他あるまい。楽しんでくるんだ」
「お友達もちゃんと作るのよ〜」
「ああ、行ってくるよ。イウルナ、ネム姉ちゃん、父さん、母さん。……姉ちゃん、流石に毎週は無理だがなるべく心配はかけないよう気をつけるよ」
そうして俺は魔法学園へと旅立った。
「ここが魔法学園か」
そう呟いたと同時におかしな景色を見た。
ぶくぶくと太った少年が少女にぶつかり、わざとらしく地面に転がった。
「おい! 平民が貴族の僕ちゃんにぶつかるとはなんてことだ! 」
「え!? あ、いやその……わたしは……ぶつかってなんか……」
「僕ちゃんは優しいからな、ちょっと付き合ってくれたら許してあげるよ」
ああ、なるほど。太った少年は最初からそれ目的でわざとぶつかったんだな。
しかしこのままではあの少女が可哀想だ。ここは一つ俺が仲介に入ろう。
周りの者達はこの光景を見て見ぬ振りをしている。
誰一人あの少女を助けようとなんてしない。
多方報復でも恐れているのだろう。
昔からそうだ。人間界も魔界も、貴族は自分が偉いと勘違いをして、人様に平気で迷惑をかける。それでいて、それを指摘した者をあの手この手で地に落とそうと錯誤する。
ハッキリ言って反吐が出る。
もう一度周りを見渡すが、視線を落としている者、この場から離れていく者と様々。
一つ分かることがあるとすれば、誰も助ける気がないということ。俺は弱いものイジメは大嫌いだ。
つかつかと歩み寄り、声をかける。
「おい、そこのデブ。俺の目には貴様がその少女にぶつかったように見えたが? 平伏し謝るべきだろう」
そう言うと周りがざわめく。
はて?何かおかしいことを言っただろうか。
当然の事を言っただけだと思うのだが。
「き、ききききき貴様!! 僕ちゃんに向かってそんな口の利き方をしていいと思ってるのか! 」
こいつの取り巻き二人も同じようなことを言ってくる。
このお方はあの大貴族のうんたらかんたら……。
それを言って何になるのか?
名前を出したらビビるとでも思ってたのだろうか。
おあいにくさま俺は、ここからかなり離れたド田舎の領地に住んでいた人間だ。
バカカスかゴミカスか知らんが、そんな名前聞いたことがない。
「バススカだよぉ!!! バカにしてるのかぁ!!?? それに様をつけろよおおお!!!! 様をおおおおお」
「どっちでもいいだろう。えぇと、バカカス様? これでいいか? 」
俺がそう言うと、この場を離れた場所から見守っている群衆共の一人が笑う。それにつられてか、笑いがどんどん広まっていく。
それが広がるに連れて、バカカスはみるみる顔を赤くしていく。
「ふん? 何かおかしかっただろうか? まあなんでもいい、早くこの少女に謝るんだな」
俺としては何故、周りの人間共にこれほどウケたのか分からないが、笑ってくれたのなら良い。
「何故貴族の僕ちゃんが平民などに頭を下げないといけないんだあぁぁぁぁぁぁ!! 」
そう言いながら、バカカスが殴りかかってきた。
おいおい、これほどまでに目撃者が居るというのに、暴力に出て良いのだろうか。
人間は大体の事は話し合いで穏便に済ませると聞いていたのだが。
対して早くもなく、威力もカスみたいな攻撃にあくびが出る。
「どうしてこの状況であくびが出来るんだよおおお!!!!!!! 」
あろうことかこいつは欠伸を邪魔しようとしてきた。
ああもう、うざったいな。魔界で俺の欠伸を妨害しようとする者など一人もいなかったぞ。
へなちょこな拳を片手で受け止めると、俺は奴の頭を持ち、思い切り地面に叩きつける。
がこおおおおおおおおあおおん!!!!!!
メリメリと地面に擦り付ける。
衝撃で地面は多少割れている。
「ちゃんと下げれたではないか。しかし謝罪の言葉が無ければ意味が無いぞ? ほら、この少女に謝るんだ」
しかし返事がない。これでもまだ貴族のプライドが勝つのだろうか?
「やっば……あいつあそこまでやんのかよ」
「けどスッキリしたよね。あんなにもボコボコにしてるのを見たらさ」
「お前じゃあ、あいつに話しかけてみろよ」
「そ、それは流石に怖いわ! 」
「この場に残っていたら、あの貴族に目つけられそうだし、早いとこ受付いこうよ」
「そうね……あんな様子だったし無理やりなイチャモンつけてきそう」
「あの人かっこよかったなぁ〜♡ あーし、唾つけとこっかな? 」
「ちょっとメリアちゃん……! あんなかっこいい人に唾なんて吐いちゃだめだよぉ! それに早く受付しないと」
「唾つけるってそういう意味じゃないのよ……そうだね、時間も危ないし受付いっちゃおっか。あ〜ん、あたしの未来のダーリン♡♡ 」
俺の足元に転がっているバカカスと俺を交互に見たあと、気まずそうにこの場を去って受付へと移動していく聴衆。
目が合っても皆すぐそらされたのだが、なんだか一人だけ熱い視線を送ってきたやつがいた。
そいつは隣にいた奴に身体ごと引っ張られながら受付へと消えていった。連れられていってる最中もずっと俺を見てきていたのだが、なんでだろう。
まさか俺が悪魔神であることがバレた?
いや、そんなわけないか。
あれほど居た聴衆も、今は周りには誰もいない。
俺と、バカカス。そしてこいつの標的に選ばれてしまった少女だけの空間となる。
そういえばこいつの取り巻き2人くらいいたよな。主君を見捨てて逃げたのか。
あれだけ凄い貴族だのなんだの言ってたのに、こいつ人望ねぇんだな……。
むくりとバカカスが身体を起こす。
顔は血だらけで、地面の破片が突き刺さっておりホラーである。
なんだこいつは、学園の入学試験だと言うのに身なりすら整えて来てないのか。
「お前が……やったんだろおおお!!!!! どうしてくれるんだよおおお!!! 痛いよおおおお!!!! 」
こんな軽い攻撃じゃ、改心できないのだろうか。
もう興味は無い。泣き喚くバカカスを置いて、俺は歩き出す。
さっさと試験の受け付けに行こう。こいつのせいで受付に間に合わず締め切られたらかなわん。
「待てよぉ! 平民のくせにぃ……僕ちゃんにこんな屈辱を味合わせたこと絶対に後悔させてやるんだからなぁ……! 」
何やら後方から聞こえたが無視する。
「まさかこの学園はあんなのばっかじゃないだろうな……」
一抹の不安を覚えながらも、受付を済ますのであった。
「あ、あの……! 助けてくれてありがとうございました……」
先程の少女が追いかけてきた。
「礼はいらん、ただ誰も助けようとしなかったのが気に入らなかっただけだ」
「そのお名前を聞いてもいいですか……? 」
「俺はヘルクだ」
「わたしはエニナっていいます! ヘルクさんも受験生だよね? よろしくね! 」
そう言うとエニナは俺の手を握って、身体をくっ付けてくる。
俺は困惑していた。
なんなんだこいつは……。
初対面なのにグイグイ来すぎだろ。
いや、俺の常識がおかしいだけで、普通はこうなのかもしれない。これが人間の普通の学生生活か。
そういえば、配下のうちの数人もこうやって擦り寄ってきてたな。こう、むにむにと腕を圧迫してくる動作に何の意味があるのかわからんが。
不快ではないし、好きにさせれば良い。
「も、ってことはエニナも受験生なんだろ? ヘルでいいよ。それに同年代なんだ、ラフな口調で話してくれ」
敬語で迫られると配下を思い出してならん。
あいつら……俺が死んだあと元気に過ごしたかな。
「は、はい! あ…いや、うん! ヘルク君! 」
また敬語になりかけていたが、それに気づき言い直してくれた。言われたことを素直にできる奴は嫌いじゃあない。
しかし心做しか、配下の一人と面影が似ているせいで、変に意識してしまう。
有り得ないことなのでそれはさておき。
姉ちゃんよ、早速友達が出来たぞ。
落ち着いたら手紙に今日の出来事を添えておこう。
胸デカ女を助けたら友達になったとな。
ふと思う。
前世で配下こそいたが、友達と呼べるような者はいなかった。どうしても圧倒的な力を持つ者というのは、畏怖され、関係も一歩置かれてしまう。
それが、こんなにも簡単に出来てしまったことに驚く。
こうして初めて出来た友達ーーーエニナ。
横を見ると笑顔でまだ俺の腕に抱きついている。
この屈託のない純粋な笑顔を曇らせないためにも、もっと強くなろうと思ったのだった。
「ひとまず案内された場所に来たが、まずは筆記試験からか」
受付を済ませた後、説明された場所に行った。
「うぅ、緊張する」
先程までの笑顔から一転、びくびくと震えながら、試験会場を見渡しているエニナ。
早速笑顔が曇ってしまっているではないか。
悪魔神であるこの俺が決めたのだ。笑顔でいてもらわないと困る。
「始まる前からそんなに緊張していたら最善を尽くせないぞ? 少し落ちついたらどうだ」
それに筆記試験に落ちたとしても実技試験で良い成績を出せば入学は確実だろう。
だが周りの人間どもを見渡しても全員緊張している様子だ。
ふむ、こういう場面では緊張するのが普通なのだろうか?
しかしさっきも言ったように、緊張していては、本来の実力も出せないだろう。
この魔法学園に入学するために今日まで鍛錬をしてきただろうに、それじゃあ意味がない。
そうだ。
俺は、エニナのおでこに人差し指を当てる。
そして【精神安定】を時間限定で付与する。
「ふぇ……? あ、ありがと。少し落ちつけたよ」
そう言ったエニナは何故か顔を赤らめていた。
「急に触れられたからちょっとびっくりしたよ! けど、さっきまであんなにも緊張してたはずなのに、ピタッと緊張が解けたんだけど、ヘルク君が何かしてくれたんだよね? 」
「さぁな。俺はただおでこを触っただけにすぎない」
「ふふっ、そういうとこ素直じゃないんだねヘルク君は」
「知らん知らん。そんなことよりも、周りのヤツらは何故カリカリしながら本と睨めっこしている? 」
「試験の直前まで勉強してるんだよ。私も今からするんだけど、ヘルク君はしないの? 」
「ふむ、では手伝ってやろう」
「え、けどそれじゃあヘルク君が勉強出来ない……」
「教えながらでも学べることは出来る。というか、俺に解けない問題なんぞ存在しない」
そして試験が始まるまでエニナの勉強に付き合ったのだった。
「それではこれより筆記試験を開始する! 全員、初めッ! 」
試験監督の一声により、教室にいた受験生が一斉にページをめくる。
俺もワンテンポ遅れてめくる。
そして書かれている問題文に驚愕する。
魔法に関しての問題が長々と続いているがどれも常識の範囲の問題だったからだ。
だがそれはヘラントゥスとしての俺の常識であり、ヘルクとしてはかなり難しい難易度だったかもしれない。
悪魔神としての前世を思い出すことのないまま、この学園に来ていたら、隣にいる少女エニナも守れなかったかもしれないし、このテストにも一問目から頭を抱え、青ざめていたかもしれない。
何故、魔法学園に行く直前の昨日に思い出したのか。偶然なのか分からないが、俺自身に感謝しながら問題を解き進めていく。
ここまで解いて分かったことがある。
それは、これくらいの難易度が合格者の選定に丁度良いのかもしれない。それに本当に重要な試験は次に控えている。
ふん……。悪魔神である俺が、こんな問題を正解できないのは沽券に関わる。
十分程度で全ての問題を解き終わる。
試験の終了までは、まだゆうに時間がある。
ちらりと横に座っているエニナを見ると、真剣な表情で、一つ一つ丁寧に解いている。
あれだけ熱心に俺の出した問題に答えて言ったのだから大丈夫だろう。
それを見て安心した俺は、することもないので寝ることにした。
カーン。コーン。カーン。
「時間だ、やめ! 」
鐘の音がなり、試験終了の時間を知らせる。
そして試験監督が用紙を回収する。
回収の際にこちらを驚愕した様子でチラっと見たのが気になるが、なにか俺の顔にゴミでも付いていただろうか?
ああ、さっきまで寝ていたからな。ヨダレでも垂らしていたかもしれない。
服の袖で口元を拭い、試験監督の言葉を待つ。
「それでは次の試験に移る。グラウンドへ移動するように」
こうして一次試験である筆記試験が終了した。
試験監督が部屋を出る。
それと同時に皆、様々な反応を見せていた。
笑顔な奴、俯いてる奴、安堵の息を吐く奴、ため息を吐く奴、もう諦めている奴……など。
おいおい……あんな問題郡のどこに不合格になるような要素があるんだ……。
「ヘルクはどうだった? わたしはびっくりするくらい集中して解けたからか自信ある! ヘルクが最初に落ち着かせてくれたからだよ! ありがと! 」
「俺は余裕だった。悪魔神たるものこのくらい余裕だからな。それに俺は何もしていないと言っただろう。全てはエニナの実力だ」
「あくましん? 」
キョトンとした様子で俺を見る。
「あ、いや気にしないでくれ」
「うん……? 」
不思議そうにはしていたがそれ以上は言及しないでくれた。
危ない……うっかり悪魔神と公言してしまうところだった。
ここは魔界ではなく、人間界だ。悪魔神などと公言しようものなら追い出されかねない。
俺はじっとエニナを見る。
こいつになら伝えておいても、他の奴に言いふらしたりはしないだろう。
友達であるこいつを欺き続けるのは、悪魔神である俺といえども心が痛む。
いつかその時がきたら、こいつには伝える日が来るかもしれないな。
それでもなお、エニナが友達でいてくれるのか不安だが……。
外。
「よし、全員集まったな。それでは実技試験を始める」
実技試験は言わば的当てだった。
試験監督が名前呼び、一人ずつ前に出て数メートル離れた的に魔法を当てるというもの。
的に当てれずに悔しがる者、当たって喜ぶ者様々。
「次、平民部門ヘルク。前へ」
やっと俺の番だ。
しかし、わざわざ平民部門などと区切る必要はあるのか?
これでは貴族部門は有利ですと言ってるようなものだろう。
実力主義と聞いていたはずだが、やはり貴族のしがらみがあるのだろうか。
平民にだって凄いやつは沢山いた。
逆に貴族や地位のある者の方が、ろくでもない奴が多い。
真っ先に浮かんでくるのは俺を殺したインチキ勇者の憎たらしいあの顔。
思い出すだけでも腹が立ってくる。
わざと瀕死にさせたまま、長々と煽ってくるし、ここまでの武勇伝を聞いてもないのに語ってきた。
この世界が、あれから何百年後かすら分からないが、あいつの子孫を見つけようものなら同じようにいたぶってくれるわ。
そんな事を考えながら、右手を構え魔法を放つ。
ヒュッン!
黒い矢が常人には見えないスピードで的のど真ん中に突き刺さる。そして真ん中からポロポロと的が崩れていき、最後は灰となって消える。
なんだあいつ!? と周りが驚く。
「き、きみっ!? 何をしたんだ」
「は? 何ってこれが試験なのだろう? 的に魔法を当て、綺麗に破壊することで得点が貰えるのでなかったのか? 」
「ただ的に魔法を当てるだけで良かったのだが……」
それだと誰でも合格出来るではないか。
まだ他に試験があり、これは前座なのか。一人でそう納得した俺は、後ろに戻ろうとした。
「な、なにあいつ……」
「あんな魔法見たことねぇよ……それに的が壊れるなんて」
「あの的ってどんな魔法にも耐えれるようにオリハルコンで出来てたんじゃなかったっけ」
「おかしいな、僕の目には跡形もなくなってるように見えるんだけど」
またしても外野がざわめいていた。
当てた時の感覚でもしやとは思ったが、なるほど。オリハルコン製なのか。それなら悪い事をしたな。
灰となった的の分、試験の効率も落ちてしまい、俺の責任になってしまう。それだけは避けるために、試験を再開させようとする試験監督を制止し、的の元に向かう。
【完全修復】を使い、的を元通りにする。
「新品同様に戻ったはずだ。これで通常通り試験を進めれるだろう」
「あ、ああ。ありがとう。で、では次ーー」
試験監督も目を見開き驚いていたが、どうにか落ち着きを取り戻し試験を続けた。
約一名「平民のくせに……」と指を噛んでいたが俺は無視した。
俺は平民だが悪魔神だからな。この世のほぼ全ての魔法は習得している。その気になればなんだってできる。
前世ではその力を使い魔界を統べようとしたが、今世は対外的には人間だ。魔界は統べないし、世界も破壊しない。
ただあのインチキ勇者だけは超えてやる。
因みにだがエニナも的に魔法を当てることが出来ていた。しかも他の連中よりも精度が高い。実技の第1試験の突破は堅いだろう。
その後、全員の試験が終わり、試験監督の発した言葉に俺は驚くこととなる。
「よし、皆お疲れ様。合格発表は明日の朝、学園前のボードに掲示されている。寝坊せずに見に来るように。では解散だ。明日またこの場にいる皆と会えることを、そして学べることを楽しみにしているぞ」
そう、試験はこれだけだったのだ。
あの簡単な筆記試験と、的当ての実技試験だけだと?
教師共はこれでどうやって合否を決めるというのだ。
それにここは仮にも王国随一の魔法学園だと聞いていたはずだ。随一を謳い、卒業できたものには華やかしい将来が待っていると言われていた。
これでは受験者の本質を何も見抜けない。
本当にここは大丈夫なのかと不安に駆られながら、学園を後にした。
「こまったな、金が足りない」
俺は学園近くの宿に宿泊しようとしたのだが、手持ちの金では足りない事に気づき、ため息をついた。
一応、両親から少しお金は渡されていたのだが。
今日は学園の入学試験で、近場に泊まる受験者が多く、稼ぎ時とみた周辺の宿が、今日だけに限り一泊の値段を釣り上げていた。
なんてあくどい事をするんだと思ったが、どこの宿もそうだったので、そういうものなのかもしれない。
嫌らしいことには変わりないが。
俺であれば、多少離れた宿に泊まったとしても、ここまで直ぐにやってこれる。
めんどくさいが遠めの他の場所をあたろう。
宿を出て、歩き出そうとしたところを呼び止められる。振り返るとエニナが居た。
「はぁ……はぁ……やっと追いついたよ」
肩で息をしながらそう言ってくる。
息切れしていたのは俺を追いかけてきたかららしい。
「ヘルク君、宿決まった? 」
「いや、恥ずかしいことに手持ちが足りなくてな……何処も値段を釣り上げているから、ここから離れた場所まで移動するつもりだ」
「えっ、それじゃあ明日間に合わないよ!? 」
「多少急げば大丈夫だ。それよりエニナはここにするのか? 」
俺は今出てきた宿を指さして聞く。
「うん私はここにするつもりだよ! ねぇ、それで相談なんだけどさ! ヘルク君さえ良ければ一緒に泊まらない? 」
「ふむ、金を出し合い二人で1部屋に泊まるわけか。俺としてはありがたいのだが、エニナは良いのか? 俺がいたら疲れも取れないだろう」
「そんなことないよ。それに助けてくれたお礼もしたかったから」
別にお礼などいいのだが……。
人……いや悪魔神として当然の事をしたまでだ。あの状況で助けに入らないカス共と学ぶのは癪だが仕方ない。
「せめてもだが俺が部屋代は多めに払おう」
「それじゃあお礼にならないよ。なんなら私が全額払うんだから」
「高いぞ? ここ」
「お母さんに沢山お金は貰ってきたから……ヘルク君は気にせず私に奢られて! 」
こうして半ば強引にではあるが、エニナと泊まることになった。
「中はかなり広いですね。あの値段なのも納得です? 」
「そうはいっても、いつもよりは値段が上がってるのだからエニナに無駄金を使わせたみたいで忍びない」
「もう〜! まだ気にしてるの!? 私が払いたかったから払ったの! 」
「ふっ、そうだったな。この恩は必ず返す」
「だから違うって! これは私の恩返しなの。また返されちゃったらずっとループしちゃうよ!? 」
そう言って、わたわたとしだすエニナを見て。
「俺があってきた人間の中で1番可愛いな」
こう、小動物みたいな感じで。
俺としては今までの人間と比べてそう言っただけだったのだが、エニナはえらく顔を赤くする。
そしてひとしきり口をパクパクさせた後、とても小さい声で呟いた。
「ちょっとヘルク君急になに!? 人間の中で1番可愛いって……ちょっと変な言い方だけど……そんな突然言われちゃったら、心の準備が出来てないというか……それに密閉空間だし〜!! えっ、これで1日過ごすの!? 」
「すまないが人間界のことはよく分からなくてな、非常識な発言だったらすまない」
「にんげんかい? あっ、ここのこと? 変な言い方するんだねヘルク君。それに助けてもらった私が言うのもなんだけど、確かに。非常識……ではないけど、常識外れのことはしてたね」
しまった、また癖でココを人間界などと呼んでしまった。なんて呼ぶのが正解なのかイマイチ分からないが。
「常識外れってどんな事だ? 」
「私を助けてくれたこと。普通、私みたいな平民が貴族にどんな難癖つけられても、反抗出来ないの。目をつけられてしまったら終わり。貴族の言うことは絶対なの」
「じゃあエニナはあのデブに奴隷になれと言われたらなるのか? 」
俺の言葉が想定外だったのか、黙ってしまう。そして少し悩んだ末に答えを出す。
「……うん。だって拒んでも、彼らは無理やりにでもしてくる。それに私の親にまで危害が与えかねられない。それに私を庇ったせいでヘルク君にも嫌がらせが……私のせいで……」
ああ、胸糞が悪い。
こんな少女にそこまで言わせてしまう、それが当然となっているこの世界が。
俺はどうやらクソみたいな世界に転生してしまったようだな。もしや女神がこの俺を転生させたのはそれが目的なのか?
でなければやすやすと悪魔神を転生などさせないだろう。させるにしても記憶と力が絶対に蘇ることのないようにするはずだ。
それすらもしなかったということは、女神からの挑戦と受け取っていいだろう。
目の前で不安そうにしている少女、エニナを見やる。
俺があの場でデブ貴族に自分のせいで反抗をしたから、仕返しをされてしまうのではないかと不安になり自分を責めていた。
安心させるように、俺は堂々と言う。
「俺の心配はしなくてもいい。それにこれは俺が巻いてしまった種だ。エニナを何があっても守ると誓おう。持っている力の全てを使ってでもな。この俺が守ってやるんだ、何の心配もしなくていい」
デブ貴族なんぞには力を使わずともエニナを守れるだろう。
しかし、学園には強者もいるだろう。
エニナに害する者、そして当然だがこの俺に楯突く者も蹴散らしてやる。
「だから安心しろ。……そうだな、俺はこのソファで寝るとしよう。エニナはベットで今日の疲れを癒してくれ」
「ありがとね、ヘルク君。あんな圧倒的な力を見せたヘルク君が私を守ってくれるだなんて嬉しいよ! 騎士様みたい♡ 」
悪魔神なのだが……騎士如きと同じにされたら困る。
護衛的な発言をしたから騎士を連想したのかもしれないが。
「じゃあ、白馬の王子様♡ 」
「まだ騎士の方がいい。それに俺はエニナとは対等な立場でいたいのだが」
「あちゃー。あ、あと! ソファは私が寝るよ。ヘルク君がベット使って」
「遠慮せずともベットを使ってくれ。俺は椅子なぞで寝ることには慣れている」
玉座でよく寝ていたからな。
だがエニナも中々引き下がらない。そして結局ーーー
「なーんだ! 最初からこうしてたら良かったですね。……やんて言いましたけど、本当は最初からこれを狙ってただなんて言えない……」
そう、一緒に寝ることになった。
俺としては1人分のサイズのベットに二人で寝たら窮屈で寝付けないだろうと引き下がったのだが、エニナがどうしてもと言うので、失礼することにした。
当然俺のすぐ真横にはエニナが居る。
異性と一緒に寝た経験など、前世でも数える程しかない。
今世では妹や姉と寝ていたが、それは家族だからな。
妙に心臓がドキドキした。
ああ、懐かしい。初めてこの感覚に陥ったのは、配下の1人と寝た時だった。
ちらりと横を見ると、エニナはすやすやと寝息をたてていた。
どうか幸せな夢を見ていくれ、そう願いながら俺も夢の中へと旅立っていった。
「おきてー! 」
そう声をかけられ、身体を起こす。
それを見計らってエニナがベットから身体を伸ばしてカーテンを開ける。
太陽が差し込み、眩しさのあまり目を瞑る。
起きて数秒しかたってないので、目を瞑るだけで、もう一眠りしてしまいそう。
「ああ、ちょっと寝ちゃだめだよー!? 」
朝から元気が良いのはいいことだが、少し元気すぎやしないだろうか?
ベットへと倒れ込みそうになる気持ちをなんとか抑えて、立ち上がる。
あくびをしながら、いつものルーティンで服を着替える。そう、いつもの気持ちで。
「無言で着替え始めないで!? ……半裸なヘルク君もかっこいい」
ついいつもの調子で着替えてしまった。今この場には友達のエニナがいたんだった。
友達とはいえ異性同士だからな。男の裸なんて見たくないだろう。
「びっくりしただけだがら、それに朝からいいものを見させてもらいました……」
はて、いいもの?
そう聞き返してみたが、何も答えてくれなかったので二人で食堂に行き朝ごはんを食べた後、荷物をまとめて宿を後にした。
俺は荷物はほとんどないので、ほぼエニナ待ちだった。
「ヘルク君の荷物が少なすぎるだけだよ」
「少なすぎる……と言ってもだな。必要なものはバックなんぞより自分で持っておく癖があるからな」
スラムの時の癖もあるだろうが、なにより【アイテムボックス】になんでも詰め込める。
わざわざ重い荷物を背負わなくとも、何時でも好きな時に取り出せるから便利だ。
だからそれを説明してみたのだが。
「えっ、それって賢者様や異世界から召喚された勇者様しか使えない魔法だよ!? 」
えらく驚愕された。それに勇者、の名前が出てきたからか、少し気が悪くなる。
「ごめん私なんか嫌なこといった? 」
分かりやすく顔に出ていたのか、それを感じ取ったエニナは物凄く悲しそうな顔で聞いてきた。
「そういう訳ではないんだが、生憎俺は勇者が嫌いでな」
前世の勇者とは何も関係ないのは分かっている。それでも勇者という存在には拒否反応が起きてしまう。
どうしてもあの憎たらしい顔と死ぬ間際の煽りが脳裏に浮かんでくる……。
「勇者様が嫌いだなんて珍しいね。けど、同年代みたいだからもしかしたら学園に編入してきたりするかもしれないよ」
「それだけは勘弁して欲しいものだな」
「会ったことあるの? 」
「今世では会ったことない。だが俺はどうしても勇者という存在は好きになれなくてな」
どうして、と思うだろう。
普通なら魔物や魔族から自分たちを守ってくれる存在である勇者を嫌う理由なんて見当たらないはずだ。
それでもエニナは理由を聞くことはなかった。
「ふっ、優しいのだなエニナは」
「えっ、どうして!? 」
「勇者が嫌いだなんておかしなことを言っている人間に、その理由を聞かないでおいてくれたからな」
「そりゃ気になるよ。けどね、ヘルク君の顔を見たら何かあったんだなってことは伝わったから。それだけで十分だよ」
「俺は優しい友人をもったものだ」
「急になに!? わ、私もヘルクみたいな友達が出来て嬉しいよー! 」
こうしていると校門前にたどり着いた。
その近くには人だかりが出来ていて、貼られている紙の中から、自分の名前を探していた。
これでは人が退くまで、見れもしないだろう。
エニナも困った表情だ。
俺はエニナの手を引いて、人混みの中へと歩き出す。
掻い潜っていき、なんとか最前列へと到達できた。
まぁこの俺が合格してないはずがない。
高速で流し見をしていく。そして、当然ではあるが合格していた。
しかし何か変だ。点数が100000点となっている。2位のクレハという奴は90点だ。3位は80点台とどんどん下がっていく。
何度見てもこのとち狂ったような点数が付けられているのは俺のみだ。満点である100点ではこの俺を評価し切れないとこの段階で見きっていたのか。
ふっ、この採点をつけた者はよく分かっているじゃないか。
「俺は合格していたぞ。エニナもーーー」
合格していた、そう伝えようとしたが思いとどまった。こういうのは本人が名前を最初に発見して喜びたいだろう。
それに水を差すようなことはしたくない。
俺の声も聞こえてないほど、集中し、真剣や眼差しで目を追っているのが分かる。そして名前を見つけたのか顔が綻んでいき、だんだんと笑顔になっていく。やがて嬉しさが爆発したのか俺に抱きついてきた。
「やったぁ!!! ヘルク君! 私合格してた!!! ほら、あそこに私の名前ある!! 」
俺の胸元で飛び跳ねて喜び、目が合う。
やがて状況を理解したのか、周りをキョロキョロと見渡して、みるみる顔が赤くなっていくのが分かる。
「あ、あぅ……ごめん……こんな場所で」
「可愛いから許す」
申し訳なさそうに離れようとするエニナを抱き寄せて、俺は周りを見る。
なるほど、これは確かに恥ずかしがるはずだ。
なにせこの場の全員が俺たちを見ていたのだ。
そんな野次馬共に言う。
「貴様らこれは見世物では無い。さっさと自分の名前を確認したら後ろの奴らに譲るんだな」
「お前が言うな!? 」
そんな反論が飛び出したかと思えば。
「ひゅーひゅー! 朝っぱらからいいもん見せてもらったぜ」
「もっとイチャつきやがれー!! 」
などと野次もとんだ。
なんだこいつらは、暇人なのか。
野次を飛ばしてきたうちの一人が俺の元へとやってきた。
「俺はウルマ! お二人さんは? 」
「ヘルクだ」
「エニナですっ……! 」
それを聞いて固まるウルマ。いや、周りの全員が固まっている。 どうしたのだろうか。
「へ、ヘルクって100000点とかヤバい点付けられていたあのヘルクであってるのか? 」
「ああ、そうだが。何か変だったか……ふむ、俺にしては少なすぎるって意味か? 」
俺のことを知っている訳がないだろうが、そういってみる。
魔族であれば俺の名を知らない奴はいなかったからな。
人間界でも少しは名が知れていたかもしれないが、良くは分からない。
「いや100000点が低すぎるって自己肯定感どうなってるだ!? 高すぎるって意味に決まってるだろう!? 」
「俺は100000点などに収まる器ではない」
そんなウルマとのやり取りを、未だに抱き寄せられたまま聞いていたエニナは絶叫した。
「じゅ、10万点ーーーーーーーーーー!?!?!?!? 」
「ち、ちょっと、10万点ってどういうこと!? 」
「ほら、あそこ」
俺の名前のところを指さす。
それを追うようにして、視線を動かすエニナ。そして目を見開く。
「ほ、ほんとだ……すっご」
昨日もそうだが、野次馬に囲まれることが二度もあるなんてな。
なんでそんな点数を出せるんだとか、満点を超えているのはおかしいだとか質問や疑いが飛び交う。
めんどくさいな。
「言っておくが俺はこんな点数に収まるつもりはないからな」
そう言って、エニナの手を引いて学園の中へと入ろうとしたのだが、不愉快な声がしたので足を止める。
「なんで、なんであの時のお前がああああああ!!!! 大貴族であるこの僕ちゃんが1位じゃないんだよおおおおおお」
俺はためいきをついて、振り返る。
やはり負け犬の遠吠えをしていたのは、あの時エニナをいじめようとしたデブ貴族であった。
何がご立腹なのか、ふがふがと息を荒くしながら、近づいてくる。
「あのなぁ? なんで僕ちゃんが1位じゃないんだとか、おかしいだとか吠えてるけどな? それ2位や3位が言えるセリフなんだよ。お前何位? 」
「……5位」
「は? 冗談だろ」
こんなんが5位なわけがない。俺は紙を確認する。
ええと、5位はっと。
バススカ・カセマヌ。
「おいデブ、嘘をつくな。お前のいう5位はバススカという名前になってるぞ」
「僕ちゃんの名前がバススカだよおおお!!!!! 昨日名乗ったじゃないかああああ!!! 」
むっ、言われてみれば確かに昨日そんな名前を言っていた気がする。どうでもいいし、こんなやつの名前を覚えようとも思わないから忘れていた。
「そうだバカカスだったな」
「なんでさっきは言えたのに今はまたバカカスなんだよおおおおおおおおお!!!!! 」
「どうでもいいだろう。それにお前が5位とはなんの冗談だ? 裏口入学をしたなら、こんなとこで油を売らずに、鍛錬でもしろ」
俺の言葉にギクッとするバカカス。
しかし反論してくる。
「お、お前だって裏口だろ! 10万点なんてありえないじゃないかああああああ!!!!!! 僕ちゃんでも……ゲフンゲフン! ともかくうううう!!!! 覚えてろよおおおおお」
そう捨て台詞とたんを吐くと、校舎へと入っていこうとする。
【スリップ】を発動させる。
バカカスが思い切り、足を滑らせる。
どんっっっつ!!!
大きな音をたて、尻もちをついたバカカス。
取り巻きに身体を起こされ、尻を擦りながら、今度こそ校舎へと消えていった。
その光景を見ていたウルマ達は、姿が消えたのを確認してから大爆笑していた。
俺はただ、エニナの胸をいやらしく見ていたバカカスに腹が立ったまでだ。
こいつらは俺が魔法を使ったことに気づいていないのか、勝手に転んだと思い込んでおり、
「あいつなにもないとこでこけてたな」
「従者に起こされてたとこから笑い堪えるの大変だった」
などと盛り上がっていた。
点数の横に何クラスかも書かれていたので、校舎に入ったあと、自分のクラスを探す。
因みにエニナも同じクラスだった。
上から30人くらいがSクラス。
Sクラスの教室をみつけて、教室へと入る。
先に入ってたバカカスと取り巻きが睨んできた。
そう、上位30人くらいが同じクラスに分類されているせいで、こいつと同じクラスになってしまった。
昨日、そして今日の状況を見るに、こいつは懲りることなく、俺たちに嫌がらせをしてくるだろう。
座席表なるものが見当たらない。
前の列に座っていた生徒に聞いてみると、席は自由に決めていいらしい。
俺たちは早めに来ていたお陰で、1番後ろの席に座れた。
「その……私隣に座っていいの? 」
エニナがそう聞いてきた。
「突然だ。この俺の右隣はエニナと相場が決まっている」
「そっか……! ありがとっ!! 」
そんなこんなで時間がたち、教室の大体が埋まった。
俺の左隣は誰も座ってこなかった。
教室のドアが開かれて、一人の女性が入ってきた。
それを見て、ざわめき出す生徒たち。
「静粛に。Sランク教室の担任を務めることになったルヴェール・ナトバリスだ。よろしく」
ルヴェールと名乗った女が、挨拶をすると割れんばかりの拍手が教室中に響き渡る。
俺はエニナに聞く。
「あの女は有名なのか? 」
それを聞いて驚くエニナ。
「えっ!? ルヴェールさん知らないの!? 天才魔術師って呼ばれてるお方なんだけど……」
へぇ……あんなのが。
【鑑定眼】を使い、覗いてみる。
確かに魔力も高く、使える魔法も多い。
……俺にはまったく及ばんが。
それに、なんだこの属性。
おもしろいのを見つけた俺は、深く探ろうとしたが、この女に名前を呼ばれ、遮られた。
「君はヘルク……だったな。私の顔をじっと見ていたが、何かついていたか? それとも見惚れていたのか? 」
「あ? 俺が見惚れるのは横にいるエニナだけだ。……いまのところは」
「へ、ヘルクぅぅ♡♡ 最後は余計だけど嬉しいよっ!! 」
抱きついてきて、すりすりしてくる。
もう好きにさせながら、俺は言う。
「やけに盛り上がっていたから有名な奴なのかと、見ていただけだ。この俺が女に見惚れたりする訳がない」
「えぇ♡♡ でも私には見惚れたんでしょっ? 」
「余計なことは言わなくていい。お前は特別なだけだ」
「でへへぇ〜♡ 特別♡♡ 」
エニナの相手をしていると、ルヴェールは気まづそうにしていたが、顔をぱちんっ!と叩いて気を引きしめる。
「知らない人がいてもおかしくはないか。私はそれなりの魔術師をやらせてもらっている」
「えぇー! 先生それなりじゃないですよねー! 」
「天才魔術師と名が高いじゃないですか」
「こほんっ、まぁ、そんなルヴェールだ。これから共に頑張っていこう」
こうして学園生活がスタートしたのだった。
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