プロローグ
チャイムが夕暮れの校舎に響き渡る。
教師は手を叩きながら
「今日の授業はここまで。しっかりと予習。復習するように」
倦怠感に苛まれながら席を立ち、鞄を肩にかける。
放課後になって騒がしい下駄箱。やや蒸し暑い廊下。今日も日常は公転する衛星のように同じ日々を回している。
生きてる意味も見出せずに退屈を噛み潰しているばかりだ。
そんな俺にも憧れているモノ、夢があった。
「正義のヒーローになりたい」
幼い頃からの夢。画面に映るヒーローの姿は唯一輝いて見えた。弱きを助け、強きを挫く。悪を颯爽と倒し、何度も葛藤に苛まれながら成長していく。そんなドラマに何度泣かされたことか。俺はそんなヒーローになりたかった。
古びた自販機に小銭を押し込む。
「現実はそうは甘くない」
古びた自販機は炭酸ジュースを吐き出す。カシュっと音を立ててプルタブを開けて身体に流し込む。火照った身体を飲料水が冷やす。
ヒーローは創作物であり、メディアが生み出した虚像だった。大きくなるにつれてだんだん気づいていく。嫌だった。夢を失って、虚像に縋り付いて、進路という現実から逃げ続けている。もちろん笑い合えるような仲間はいない。
とぼとぼと通学路を歩いていると、遊びから帰ってきた少年がサッカーボールを持ってウキウキで歩いている。
「あの頃に戻りたい……」
ぽつりと独り言を漏らす。それとほぼ同時に少年の手からボールが転がり落ちる。
「あっ。ボール」
少年は転がるボールを必死に、楽しそうに追いかける。その先にあったのは赤く染まった信号機。轟音を轟かすトラックが迫っていた。
「少年!! 危ない!!」
考えるのよりも身体が動く方が早かった。少年の背中を強く押し、横断歩道の外へ。
視界はトラックの放つ閃光に包まれる。
2024年6月23日。俺は一つの命を救い、それと引き換えに永遠の眠りについた。
はずだった。
読んでくださりありがとうございました。