第50話 同郷タッグ結成
「というか、さっきは急で頭追いつかなかったけど、晴さんが教えてくれた話めちゃくちゃやばいですよね?」
「世界の重大な事実のひとつだからな。やばい話だよ。にも関わらず、お前はあまり驚いてないように見えるが」
「いやいや、心が絶句中です」
重大な情報をポンポン流し込まれて、心臓と脳みそが冷え切っている。
「でも、6年前の隕石の落下に犯人と言うか、悪巧みした人がいるって知れてスッキリしました!とにかく、なんで岐阜に隕石が落とされたのか知りたいです」
「ああ。俺1人じゃ、真相に辿り着くのは不可能だった。お前の予知夢があれば、何とかなりそうだと思ったんだ。おまけに、お前が岐阜出身だと知った時は運命だと確信したよ」
昂る気持ちを抑えられない晴さんの声には、いつもより力が込められている。僕の力があてにされていることに喜びを覚える。それと同時に疑問も浮かぶ。
「予知夢なんて役に立ちますか?知りたいのは過去の出来事なのに」
「多少の無茶をしないと真相には辿り着けない。無茶をした結果を、お前の予知夢で知りたい。お前の話を聞けば、俺のギフトで状況も分かるからな」
「ん?それって僕が大分無茶やる前提ですよね?」
「そうなるな。岐阜に戻る時は、お前も一緒に連れて行きたいもんだ。手掛かりの多くは岐阜にあるはずだ」
「恒星基地サンとか、めっちゃ優秀なクズハキじゃないと所属できないですよね?」
「クズハキとしては優秀な奴は多かったな」
晴さんの含みのある発言が気になるが、どちらにせよ、クズハキとして優秀な人間しか所属出来ないことは間違いない。
「そもそも2人だけでやるんですか?そんな、国の闇を暴く見たいなこと。途中で謎の勢力に消されそうな予感がぷんぷんですね。他に手伝ってくれる人とかいないんですか?」
「確かに協力者は多いにこしたことはない。だが、真っ当な理由でクズハキになった人間に、この話はあまりしたくない」
「何でですか?」
「考えても見ろ。自分たちが命懸けで駆除してきたダストが、自分の国が望んで招いていたことを知ったらどうなるか。クズハキって仕事自体が茶番過ぎてやってられなくなる」
「確かに。鬱病とかなりそう」
「その点、お前は半ば仕方なくクズハキを志してる。適役だろ?」
「んー?まあ、確かに適役ですかね」
クズハキとしてダストを駆除する際に、仲間を失ってきた人には大変堪える情報。晴さんの言う通り、全てを投げ出してもおかしくはない。
ただ、その情報によって堪えるのは当然クズハキだけではない。ダストに大切な人を奪われてきた人は山程いる。僕もその1人だ。国が隕石を落とす方針を取っていなければ、今でも朝日が生きていたはずだ。岐阜に隕石が落とされなければ、今も家族と一緒に過ごせて居たはずなのに。そう考えてしまうだけで、健康的ではない怒りが湧き上がる。
「それにしても、12国のやってることはめちゃくちゃですね。自分達が落とした隕石のせいで、死人が出てることに何も思わないんですかね?」
「奴らが自分達に言い聞かせる建前としては、人間に与えられたギフトの発散所としてダストが不可欠。ギフトでの人間同士の争い軽減。実際12国以外の国では、ダストの駆除に手一杯で人間同士の争いは少ない。逆にダストに対して余裕が生まれた12国内では、ギフトを利用した犯罪が多発している」
「完全に逆効果ですね。ダストより賢い犯罪者の方が厄介そうなのに」
「日本も発展した。だが、ダストを駆除する体制が整ったと言っても、死人が0になった訳じゃない。より強い力を求め続けるのは、他国からの新略に怯える必要のない平和を作るためかもしれない」
晴さんの言う通り、死人は0とは程遠い。襲われて死ぬ民間人。戦って死ぬクズハキ。今日だって、どこかで誰かがダストに襲われて命を落とすことになる。
「そうやって、誰かが国の落とした隕石の犠牲になっているのが許せない。自分の生まれた場所を滅ぼした隕石が許せない。国の存続のために家族が犠牲になるなら、国が滅んだ方がマジだと俺は思う。何かを犠牲にして、何かを発展させるのが嫌いだ。犠牲の上の幸福と平和とか反吐が出る」
つらつらと語る晴さんからは、怒りとやるせない気持ちが痛いくらいに伝わる。
「そして、犠牲を受け入れられない人間が、聞き分けのないガキ呼ばわりされる世界に納得できない。だから、お前も手伝え。全部暴く」
いつもとなんら変わりない涼しい口調。だが、その裏には情熱がこもっていることは明白。誘いは世界の闇を晴らす任務。
「そりゃあ、僕も隕石落とした犯人がいるなら知りたいし、岐阜に生まれた1つの命として手伝いますよ!...足引っ張るかもしれないけど」
「決まりだな。お前が高校卒業するまでは、しっかり仕事してダスト殺しまくりだ」
「はい!出世してください!その方がいろいろ動きやすそうですし」
「まあ、俺がダストを殺すためには、この星石が不可欠になるわけだが」
腕につけたブレスレッドをかざす。
「晴さんの星石って、その左腕のブレスレットですよね?」
「ああ」
「じゃあ、指輪とピアスは何なんですか?ただのオシャレですか?」
晴さんは星石である左腕のブレスレットの他、左手の中指に指輪、左耳にピアスをつけている。2週間くらい行動を共にして理解した。晴さんはオシャレでアクセサリーを身に纏うような人間ではない。
「これはただのカモフラージュだ」
「カモフラージュ?」
「岐阜にいた時は、仕事の7割が犯罪者共の相手だった。そいつらは基本的に星石狙ってくるからな」
「なるほど」
「その時の癖が抜けてないだけだ。オシャレでも何でもない」
そう否定しながらも、晴さんは身につけるアクセサリーを、モデルのように見せつけながら話す。
「あっ!だから、富永さんもチャラチャラしてるんですね!」
「いや、あの人のは趣味だな」
「えっ、意外」
富永さんは何かを着飾ることに、意味も価値も感じない人だと思っていたから驚きだ。
「話を戻す。さっきは犠牲が嫌いだのほざいたが、この星石を作る過程で2人が犠牲になってる」
「え!?死人出てるんですか!?これ作るのに」
「死んではない。耐え難い苦痛はあっただろうが。星石はその2人のギフトをベースに作られている」
「へぇ...」
話を聞いていると、頭の中にある顔が浮かび上がってくる。僕は星石を作った人を知っている。
「あれ?星石作ったのって荒冷さんですよね?」
「...知ってるのか?」
「研修初日の時に教えてもらいました。これ作ったの私って言ってたし、人間のギフトを物に付与する的な実験をしてるって」
「口軽いなあの人。俺はそれを聞き出すのに苦労したんだけど。なら、星石のベースになってる2人の話も聞いたのか?」
「いや、それは知らないです」
「気になるか?」
「そこそこ」
「なら話そう」
目の前に現れた緩やかな坂道を登りながら、晴さんは話を始める。
「1人は岐阜の恒星基地サンのトップで、黄道12星座の牡牛座に属するアルデバラン。この人が荒冷さんに星石を作る提案をした」
「そのアルデバラン...さん?も研究者なんですか?」
「違う。当時から荒冷さんは、人間のギフトを物に付与する技術を得ていた。ただ、荒冷さんはその方法の不安定さと残酷さに、実際の人間に施すことを躊躇っていたそうだ。そんな中、アルデバランは自分を実験に使っても構わないと、リスク承知で提案したようだ」
「勇敢ですね」
「それからアルデバランと荒冷さんが一緒に星石の開発を進めた。過酷で辛い実験内容にも積極的に取り組んだらしい」
「うへぇ。すごぉ。もう1人も協力的だったんですか?」
僕の言葉を最後に会話が一旦止まる。僅かな沈黙の後、晴さんは口を開く。
「...もう1人は特別な事情を抱えた子どもが集まる、孤児院の出身者でな。こっちはアルデバランと違って、本人の意思を無視して強行された。今もどこかでwseoを恨みながら暮らしてるだろうな」
「うーん。なんか酷いことやってる奴らばっかりですね。この世界は」
「認めたくないが、誰かの不幸が誰かの幸福に繋がることも多い。実際に、星石が完成してからはダストの駆除にスムーズさが生まれた。犯罪者の制圧も楽になった。誰が見ても立派な発明だ」
「でも晴さんは犠牲が嫌いなんですよね?じゃあ、荒冷さんのことも苦手なんじゃないですか?」
「荒冷さんのことは嫌いじゃないが、あの人のやってる研究は苦手だな。それでも、結果をしっかり出してるから、俺よりも何倍も役に立ってる。俺は今の所口だけの男だな」
「じゃあ!これからは口だけじゃない男達になりましょう!」
「ふっ、そうだな」
晴さんは爽やかに笑って口元を緩ませる。
「ところで、アルデバランさんは、さっきの隕石の話知ってるんですかね?岐阜の基地で1番偉いなら」
「知っているだろう。なんなら、俺は国内の選定者の内の1人だと睨んでいる」
「えー!でも、星石作る話聞いた感じ良い人っぽいですけど。あんな酷いことに関わるような人ですかね?」
「たったひとつのエピソードで人物像を決めつけるな。自分で招いたダストの駆除の効率を上げるため、自分の身を削るような真似をするのは疑問だな」
「岐阜にいた時に聞けばよかったのに」
「馬鹿か。そんな大胆に聞いて大正解だったらどうする?綺麗さっぱり消されるぞ。接触は慎重に行う必要がある」
「消されるって、そんなに強いんですか?アルデバランさんは」
「そう言う話じゃないが、当然実力者でもある。そして、権力者でもある。何十年もクズハキとして生き、歳を重ねて来た人だ。今の黄道12星座の中でも1番歴が長い」
「じゃあ、結構年寄りですか?」
「60以上は確実に行ってる」
「おじいちゃんじゃん!すごー」
坂道が終わり平坦な道に戻る。少し先には看板が立っている。地図と写真と文字が乗った大きな看板。ここからは2つのコースに別れるようだ。
「草木のエールで突き進め!森林コースと、美しい川の流れと共に散策!の川コースですね」
看板の前で立ち止まって、晴さんは僕に選択を投げ掛ける。
「どっちに行く?」
「右利きなんで右で!川コース!」
「分かった。なら俺は左だな」
即答して体を左に向け、既に左のコースに足を踏み入れた晴さんを呼び止める。
「え!?ちょい!ちょい!別行動ですか!?」
「ああ。ダストと出会したら逃げるためじゃなくて、殺すために走れよ」
振り返った晴さんはそれだけ言い残して、先ほどの2倍くらいの速度で歩いてどんどん離れていく。そのまま振り返ることなく、晴さんの背中が見えなくなった。
「こっから1人?」
美しい自然が作り出した景色が地獄の入り口に変貌する。取り残された僕は、とぼとぼと右のコースに足を踏み入れる。気は進まないが、進むしかない。




