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星の贈りもの  作者: ちゃもちょあちゃ
第二章 真涙偽血
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第48話 黄道十二星座

 何も見えない暗闇の中をライトで照らしながら車は走る。時刻は深夜3時。他の車ともすれ違うことのない時間帯に、僕と運転席に座る晴さんはある場所へと向かっている。寂しい色を浮かべている夜空とは違い、車の中では愉快で陽気な音楽が流れている。


 「晴さん洋楽とか聞くタイプの人なんですね」


 「別に意味も英語も理解してないけどな。頭を空っぽに出来るから流してるだけだ」


 「それなら、何も音楽流さないで無音にしてる方が手っ取り早くないですか?」


 「無音は寂しいだろ」


 「そんだけの理由ですか?僕もよく洋楽聴いてますよ。和訳動画を見てるくらいですけど。歌詞の意味が分かると面白いですよ!」


 「へー、そうなのか。和訳動画なんてあるんだな。で、お前もう寝なくてもいいのか?」


 これから行く場所はとある山岳景勝地だ。特にこの時期は、多くの観光客が美しい景色を見ながらハイキングをする目的で集まる。そんな場所でダストが目撃された。1週間ほど前から、立ち入り禁止となっているそうだ。通報を受けた警察庁のクズハキが駆除にあたったが失敗。死者は出なかったが、怪我人が出たようだ。そのダストの駆除要請がwseoに出された。


 「一応、早く寝て6時間くらい寝れたんで、大丈夫ですよ」


 「違う。お前の睡眠時間を気にしてるんじゃない。お前のギフト、予知夢の話をしているんだ」


 「あー、さっき寝た時は予知夢見なかったから、もう1回寝て確認しろってことですか?」


 「そうだ。今回の駆除対象のダストは、お前のギフトと成長具合を図るにはうってつけの相手だ」


 「理恵加さんが僕の予知夢は、命の危険が迫った時に見るって、そう言っていたから今回は大丈夫って事じゃないですか?」


 理恵加さんの言葉も自分のギフトも信用している。実際に初めて予知夢を見た学校、そして次に見た電車。どちらも間違いなく命の危険があった。どちらも死ぬはずだった運命を捻じ曲げることに成功している。


 「お前と双葉を疑う訳じゃないが、もう1度寝て予知夢が訪れるか確認した方がいい。駆除対象のダストは、お前くらいなら容易く殺す」


 「容易く!?」


 「ああ、それに睡眠時間いつもより少ないだろ。寝不足だと動きが鈍る。命取りになるぞ」


 「あと、どれくらいで着きますか?」


 「3時間は掛かるな」


 「でも僕が寝ちゃったら、晴さんの話し相手がいなくなって退屈ですよ?」


 「別に構わないさ。慣れてるから」


 晴さんの間のない素早い返答を聞いて、シートを倒して目を閉じる。静かに唸るエンジンとタイヤが小石を弾く音。体に伝わる静かな振動。眠れない。そもそも起きてから1時間くらい経過している。眠気は完全に消え去っている。シートを倒して横になった状態で晴さんに話しかける。


 「そういえば、晴さんって岐阜出身なんですよね?」


 富永さんに話を聞いてから、ずっと聞きたかったことだ。運転に集中しているのか、流れている音楽で聞こえなかったのか、無視をしているのか、晴さんから返答はない。

 それもそうだ。家族が自分以外亡くなっているんだ。こんな話を本人にしていいはずがない。富永さんからこの話を聞いた時、少し嬉しかった。同じ出身地の人間が近くにいたことが。でも、悲しみを共有することに喜びなんてあるはずない。諦めて大人しく目を閉じる。


 「...誰に聞いた?」


 時間を置いての返事に目を開ける。車は止まっていて、視界に入って来るのは赤く光る信号機。


 「この前、富永さん達とご飯食べに行った時に教えてもらいました。富永さんに」


 「あの人も口が緩いな。俺は富永さんなら、誰にも話さないと思ったから話したのに」


 信号が青に変わり車が再び走り出す。


 「どう思った?富永さんから話を聞かされて」


 「え?」


 「家族が全員死んだとか、墓参りにこまめに行ってるとか聞いてどう思った?」


 突然の質問に自分の体の中で流れている物が全て止まる。そこから音にするべき言葉を捻り出す。


 「えー。優しいなって思いましたよ。あと強いなーとも思いました。だって、墓参りに行くってことは家族の死を受け入れてるってことですよね?...僕には無理です。この目で死体を見るまでは、どこかで生きてくれてるって思っていたいです。僕はまだ怖くて墓参りに行けてないから尊敬しますよ」


 「...何を言っている?墓参り?お前が?」


 口を滑らせたとは思わない。自分が奇跡の1名と呼ばれている人間だと、誰かに伝えたいと思ったことはない。でも今日は違う。理由は定かではない。晴さんのことをすっかり信用し切ったからか、つい最近出身地が同じだと分かったからか。


 「あ、ああー。実は、僕も岐阜出身なんですよ!あと、本当は言っちゃダメって言われてるけど、奇跡の1名って僕のことです!晴さんは口が固そうだから特別ですよ!同郷仲間ってことで!」


 「は?お前が隕石の衝突から唯一生き残った、奇跡の1名だって?そう言っているのか!?」


 月見里さんは珍しく声を荒げる。声は大きくて、いつもより早く言葉が通過していく。


 「そうですよ。僕もびっくりしましたもん。病院で目が覚めた時にそう知らされて」


 「...嘘はついてないな。そもそも、お前は嘘をつくような奴じゃないもんな。...そうか。お前も苦労して来たんだな」


 いつもハキハキしてハッキリ喋る晴さんらしくない、消えいるような声。車内に外の暗さに飲み込まれそうな雰囲気が流れる。


 「でも、今は幸せですよ!100点満点の幸せではないですけど、今の家族も優しくて!星科に来て友達も増えたし!」


 「ふっ、はは!...そうか」


 晴さんは中くらいに開いた口から、カラカラに乾いた笑いを喉から取り出す。


 「ところでお前、姿を消した親の記憶は残っているか?」


 「いや、残ってないですね。隕石が衝突した時の衝撃で、記憶喪失したってお医者さんが言ってました」


 「...隕石の衝突の衝撃か。実は俺も覚えてないんだ。家族の事を」


 「え?晴さんも?だって晴さんは岐阜にいなかったんですよね?だったら、何が原因で忘れちゃったんですかね?」


 「分からない。父も母も、妹と弟もいたはずなんだ。それなのに顔も声も思い出せない」


 顔と声。思い出と記憶を探る上で、最も重要になる要素。この2つさえ思い出せれば、記憶を取り戻せる気がする。


 「黄道12星座の双子座にも岐阜の出身者がいる」


 「え!?本当ですか!?...で黄道12星座って何ですかそれ?」


 「ああ、お前はそこからか。黄道12星座ってのは、wseoに所属するクズハキの中でも、優秀な奴だけを集めた12の少数精鋭の班を指す」


 「へぇ、そんなものがあったんですね」


 「そうだ。だが、今は班というよりは個人を指すものに近いな。岐阜に隕石が落ちた時にやって来たダストの駆除にあたる時に、黄道12星座のクズハキが半分以上が死んだらしい。それ以降、黄道12星座に認定するラインは大幅に引き上げられた。そのせいで空席もあるくらいだ」


 「岐阜に隕石が落ちた時にやって来たダストってそんなにヤバかったんですか?」


 「数も質も相当なものだったらしいな。とにかく、ダストが他県へ侵入するのを防ぐのに必死だったんだろう」


 優秀なクズハキの集まりの黄道12星座ですら、命を落とす状況になった岐阜で、僕はどうやって助かったのだろうか。運が良かったでは済まされなさそうだ。


 「今の黄道12星座は岐阜で生き残ったクズハキと、それ以降の引き上げられたラインを超えた天才しかいない」


 「じゃあ、さっき言ってた黄道12星座の双子座の人は、めっちゃ天才ってことですか?」


 「当然だ。双子座には2人いる。カストルとポルックス」


 「カ、カストルとポルックス?」


 「双子座を構成する星の名前だ。因みに、ポルックスの方は黄道12星座でもあり、1等星でもある」


 「ええ!?すご!掛け持ちですか?」


 「なんだ。1等星のことは知っているのか」


 「小林さんとかに教えてもらいました。で、どっちが岐阜出身の人なんですか?」


 「ポルックスの方だ。しかもコイツはお前と同じ、隕石が落下した時に岐阜にいたらしい。そして、お前と同じように記憶を失っている」


 「僕以外にも生きてた人いたんですか?じゃあ、奇跡の1名って何なんですか?これじゃあ、奇跡の2名じゃないですか」


 「俺が知るわけないだろ」


 「えー?...本当ですか?僕以外にも?それはwseo内では知れ渡ってる有名な話なんですか?」


 「そんなことはない。俺も本人から聞くまで全く知らなかった」


 「仲良いんですか?そんな大事な話を教えてくれるなんて」


 「いや、何回か仕事が一緒になる中で、アイツが勝手に話しただけだ。一緒に仕事をして3、4回目くらいの時だった。暗い話なのに場違いな表情だったな。さっきのお前と同じだ」


 「え?さっきの僕、どんな顔してました?」


 「若干ニヤけてたな」


 「嘘だー。そんなふざけた表情で、あんな話はしませんよ。でも、笑顔でいた方がお得ですよ!」


 「ふっ!ははははっ!」


 晴さんは大口を開けて突然笑い出す。こんなに笑っているところは今まで見た事がない。


 「え!?どうかしました!?深夜テンションですか?」


 「なんでもいいだろ。お前もさっさと寝ろよ。睡眠時間がどんどん減っていくぞ」


 「寝た方が良いのは晴さんの方ですよ!」


 暗闇を疾走する車は速度を緩めない。

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