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星の贈りもの  作者: ちゃもちょあちゃ
第一章 旧雨今雨
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第28話 思い出の力

 「ふー、漏れるところだったぁ。スッキリ」


 ズボンを上げて立ち上がり、トイレを流す。手を洗って、鏡に映る自分を眺める。自分の浮かべる表情はいつもと変わらない。


 「トイレを真ん中の車両に設置してるの天才!」


 我慢していた尿意を解消して気分が上がる。ポケットからハンカチを取り出し、手を拭いているとガラスが割れる音が聞こえた。


 「おっ」


 そっとドアを開けて、顔だけ出して左右を見渡す。何もいないことを確認して、ドアを全開にしてトイレから出る。


 「よっこらしょ」


 座席に浅く座って、背もたれに後頭部を預ける。誰もいない車内で、堂々と足を伸ばしてくつろぐ。


 「はー、うるせ」


 雨の音と共に、ダストがガラスを割る音は絶えない。今いるここは4両目。

 電車が破壊される音は、ゆっくりだが確実に近づいている。雨も強くなり、僕の耳はウンザリしている。


 「そーえば、僕はさっきなんて言って、ここまで来たんだったっけ?」


 疑問でも何でもない、分かりきっていることを無駄に呟く。


 首に掛かったペンダントを掴む。置き去りにして来た書類を提出したら、僕はクズハキ見習いになる。


 「確か頭の中のイメージを、引っ張り出す感じだったよな」


 チェーンに吊り下げられた星の飾りから、この間造った刀をイメージする。


 「かたな、かたな、かたな、この前造った刀」


 イメージが定まった。頭の中のイメージを引っ張り出す。柄を握って刀身を引き抜く。ギラリと光る刀身は、今の僕の心境とは真逆だ。


 「...出来た」


 造った刀は重く指からこぼれ落ちて、床に転がる。


 どうして僕は元々通っていた地元の高校を飛び出して、今の高校に転校したんだろう。クズハキになりたかったから?朝陽のことを忘れたかったから?違う。 朝陽が死んだことを忘れたかったからだ。あの家に住んで、あの場所で暮らして、朝陽を思い出さない日は存在しなかった。暮らした家、走った道路、遊んだ公園、嫌いな学校、腐った人間。見るだけであの日の光景が再生される。


 朝陽が死んだことを思い出さずに、朝陽のことを考えるなんて不可能だ。楽しい思い出とセットで、悲しい思い出もやって来る。思い出は時に僕に力を与えて、時に僕の力を奪う。


 「今日はどっちだ?」


 でも、朝陽の死を忘れ去るのは不可能だ。僕は朝陽がいてくれたから生きている。僕が生きている理由は、朝陽の死だ。朝陽は僕の中にいる。

 こんな時に、朝陽のような勇敢な人間を思い出すと、勇気が湧いてくる気がする。朝陽なら、あのダストが他の人間に危害を加える前に、何とかしようと行動するだろう。


 「僕の命はひとつじゃない。だから、今回は朝陽の意見を尊重するよ。僕の中の勇気は朝陽だから」


 ガラスが割れる音が迫る。


 「頑張るか」


 袖をまくって立ち上がり、床の刀を拾い上げる。柄を強く握りしめ、決意を固める。


 「これで殺す。よし!」


 刀を右手に待ち、3両目に続く貫通扉のノブに手をかける。

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