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星の贈りもの  作者: ちゃもちょあちゃ
第一章 旧雨今雨
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第17話 終わりを迎える色

 「ん〜、どれがいいかな」


 実家に帰る日の早朝。お客も店員も見当たらない花屋で、どの花を買おうかと悩んでいる。毎回、どんな花を買えばいいのか分からなくて悩んでいる。そして、毎回適当なブーケを選んで買うことになる。今回もそうなりそうだ。この赤色と青色の花が入っているブーケに決まりだ。


 それにしても、木曜日と金曜日の授業は気まずかった。火曜日と水曜日にいなかったため、クラスの子から色々聞かれて心配された。優しいクラスメイトだ。あの学校と違って。


 選んだブーケを手に取るが、店員さんは依然として見当たらない。レジの奥に階段が見える。その階段に向かって呼びかける。


 「すみませ〜ん!!花を買いたいんですけどー!」


 返事はなく、静かさだけが身に染みる。


 「もしかして、まだ営業時間じゃない?いやでも、店開いてるし」


 もう一度、店の中をぐるっと一周見渡す。やっぱり、誰もいないし音もいない。


 「これ不法侵入になったりしてないよな?」


 つい最近、爆破予告をしたから犯罪に敏感になって、ひとりで怯えて焦っていると、誰かが階段を降りてくる音が聞こえた。眠たそうな音を立てながら、降りてくる。恐らく店員さんだ。


 階段を注目していると、下りて来たのは子どもだった。パジャマを着ていて、眠そうに目をこすりながらこちらを見ている。小学5年生か、6年生くらいだろうか。


 「おじゃましてます〜」


 なるべく驚かせないように、柔らかい表情を用意する。腰を曲げて、少年の視点に合わせて軽い挨拶をする。


 「あっ!」


 少年は僕に気付くと笑顔を浮かべて、こちらに駆けてくる。その途中で、何かを思い出したように立ち止まる。くるりと方向を変えて、階段を駆け上がって行く。


 「お姉ちゃんー!!多分お客さん!こんな朝っぱらから〜」


 先程の笑顔は何だったのだろうか。階段を駆け上がる少年の発言から、やはり早く来すぎてしまったと反省した。

 少年が階段を上ってから、1分も経たない間に、階段を降りる音が聞こえた。少年の時と違って、音の間隔は短い。


 「いっらしゃいませー!」

 

 明るい声と共に階段から下りてきたのは、同い年くらいに見える女の子だった。僕の顔を見て、階段を下りる足を一瞬止める。


 「お待たせしましたぁ」


 そう言って彼女は、止めた足を動かして階段を下りてきた。エプロン姿が似合っていて、朗らかな笑顔を見せる彼女は、まさに花屋の店員さんだ。


 「いや、全然待ってないです!大丈夫です!こちらこそ、朝早くに来ちゃってすみません!」


 可愛さに動揺したせいか、無駄に声が大きくなってしまう。


 「いやいや!こちらこそ、お待たせしちゃって申し訳ないです!こんなに朝早くに来てくれたのは、お客さんが初めてですよ!ありがとうございます!」


 レジを打ちながら、笑顔で彼女は話す。彼女が動く度に、肩まで伸びた綺麗な白髪が揺れる。そんな残雪のような髪に視界を奪われる。


 「どうかしましたか?」


 あんまりに視線を集中させ過ぎたのか、彼女が少し困ったような、不思議そうな表情を浮かべる。


 「あっ、いや、綺麗な髪の色だなーって。じろじろ見ちゃってすみません」


 彼女は何も返さず、僕を見たままボーと立ち尽くしている。そんな彼女の目からは、涙が溢れていた。頬を伝った涙は、綺麗な線を描いて落ちる。水に満たされた、彼女の目からは涙が止まらない。


 「すみません」


 彼女の声は涙で震えていた。両手で目を擦する彼女に、洗濯したばかりの清潔なハンカチを渡す。


 「僕の方こそ、気持ち悪いこと言ってすみません」


 「違うんです。嬉しくって、この髪を綺麗なんて言われること、滅多になかったから」


 「ええ!?そんな綺麗なのに?それは、周りの見る目がないか、そう思ってても恥ずかしくて言えないだけですよ!」


 彼女は涙をハンカチで拭い終わると、落ち着いたのか笑顔に戻っていた。


 「ごめんなさい。ハンカチ汚しちゃって。洗ってから月曜日とかに返すから...」


 「別に大丈夫ですよ!ハンカチくらい!気にしないでください!」


 「そうですか...?」


 ハンカチを受け取り、ポケットに仕舞い込む。会計が終わり花を受け取る。


 「ありがとうございます!」


 軽く会釈をして店を出ようとすると、彼女はレジから出てくる。


 「あっ!お見送りしますよ〜」


 彼女はわざわざ外まで見送ってくれた。綺麗な白い髪が揺れる。純白という言葉は彼女の髪のために、あるんじゃないかと思えるほどの純白。やっぱり綺麗だ。


 「すみません。待たせたり、急に泣いたりしちゃって」


 「いやいや!全然大丈夫です!」


 彼女は深々とお辞儀をした。


 「ありがとうございました〜!またお越しくださ〜い!」


 僕が店から離れても、まだ手を振っている。お店で1番キレイな花だった。


 歩きながら時計を見ると、乗る予定の電車が来るまで5分を切っていた。先ほど買った花を両手で抱えながら、全速力で走る。腕が振れないから、いつもより遅い。


 「はぁ...はぁ」


 なんとか間に合った。痰が絡んだ咳が出て、水みたいにサラサラした鼻水と額から汗が流れる。膝に手をついて休む暇もなく、すぐに電車が到着した。汗と花の匂いが混じった、絶妙な香りが鼻に到着した。


 電車に乗り込み、空いている席に座る。


 「花買うの、あっちに着いてからでよかったなぁ」


 一向に止まらない額から流れる汗を拭こうと、ハンカチをポケットから取り出す。少し湿っている。さっきの女の子の涙だ。服の袖で汗を拭きとり、ハンカチをそっとポケットの奥深くに仕舞い込む。

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