第14話 WSEO
「今日は星科でやること、卒業後の進路について話そうと思う。重要な話だから眠らずに聞き、しっかりと頭の中に叩き込んで、夜になってから布団に入って眠れ」
藍川先生は昨日より、真剣そうな顔をして言った。口調も昨日までとは違う。昨日はもっと、優しいおっさん感があった。僕の心を読み取ったかのように、藍川先生が口を開く。
「今日の君は、私の生徒90パーセント。恩人10パーセントだ。私が教壇に立っている間に、教室の机に座っているのなら誰もが皆、私の生徒だ。ちなみに昨日は、恩人100パーセントだ」
恩人成分が、今でも10パーセントあるのは喜ばしいことだ。昨日までは、どうやら甘い対応をされていたようだ。今日からは教師と生徒。僕は教えてもらう側だ。
「よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。まず普通教科の授業はある。お前も、うちの科の生徒がそっちの教室で授業受けてるの知ってるだろ？」
「はい」
「卒業後に一般企業に就職する者や、大学に進学する者もいる。星科だからと言って、全員がクズハキになる訳ではないからな」
クズハキにならない人もいるのか。死ぬ前に、自分の道を決定することが出来るのは幸福だな。
「全員がクズハキになるわけではない、と言っても大半の生徒はクズハキになる。ここで重要になるのは、どこの所属のクズハキになるかだ」
藍川先生は僕に背を向け、チョークを手に取り黒板に何かを書き始めた。書き終わると、再び僕の方に体を向ける。黒板に書かれた文字は警察庁とWSEOだ。
「この2つ。もちろん知っているな？」
「そりゃ当然。どっちも給料がいいって」
「警察庁のクズハキの役割はダストを発見、またはダスト出現の通報を受けた場合に駆除にあたることだ。昨日も話したが、ダストの強さは1等星から6等星までに区分されている。この中で警察庁が相手にするのは、4等星から6等星のダストだ」
「じゃあ警察庁に入ったら、雑魚ダスト相手にしてるだけでいいってことですか？めっちゃ楽で安全な仕事じゃないですか」
「その考えが通用するのは判別が終了しているダストの場合のみだ」
「判別？」
「基本的にダストが発見された際に、最初に駆除にあたるのは警察庁だ。駆除できた場合は、駆り出された人数、死傷者を基準にして、ダストを4等星から6等星のどこに当てはまるかを決定する」
この話を聞いて.疑問が2つ生じた。
「わざわざ倒せたダストを、4等星から6等星のどれかを決める必要ありますか？倒せたなら、もうそれで終わりで良いじゃないですか？」
「それはだな、今のところ当然だがダストを見ただけじゃ1等星から6等星、どこに当てはまる強さなのかを量ることはできない。実力不足の人間が格上のダストに挑んで死ぬのは、はっきり言ってもったいないだろ？」
「確かに」
「適材適所が目標だ。強いダストや弱いダストの、何かしらの特徴を掴むために、研究員たちは尽力している。それと戦い方の対策を練るためでもあるな。後は、ダストが出現した場所から、危険な地域を割り出したりするのにも役立つ」
見た目だけじゃ分からないか。僕の夢に出てきた、人型のダストは明らかにヤバそうに見えたし、実際ヤバかった。でも、ほとんどのダストは他の生物の姿を真似ているだけだから、区別のしようがないのは当然だろう。
「なるほど。さっき先生が、警察庁のクズハキが相手にするダストは4等星から6等星って、言ってたじゃないですか？」
「ああ、そうだな」
「何で警察庁の人たちが戦うダストが、4等星から6等星って分かるんですか？見た目じゃ分からないんですよね？倒した後も、4等星から6等星のどれかに判別するって話だし、何で1等星から3等星の可能性が省かれてるんですか？」
「警察庁が倒したダストは、例外なく4等星から6等星に区分される。これはルールだ。駆除されたダストの中には、3等星くらいなら混ざってるかもな」
「なら何で？」
「1等星から3等星に区分される程のダストは、人の前に無闇に姿を表さないとされている。頭良いからな」
ダストに、知力の差があることを初めて知る。猿とかチンパンジーを、コピーしたダストは賢そうだ。
「それに比べて、町に降りてくるダストはアホだ。あいつらはノリノリで人間を殺しに来るが、実際は自分が殺されることを何も理解していない」
「頭悪い奴しか人前に来ないから、町で発見されるダストは4等星から6等星の可能性が高いってことなんですね」
「そうだ。だが、たまに知能と強さが釣り合ってないダストが来ることもある。そうなると、死人が増えるから大変だな」
夢に出てきた人型のダストも、先生の言う知能と強さが釣り合ってないダストだったのだろうか。わざわざ町に降りて、それも星科がある最も危険な学校に来た。でも、人型なら頭も良さそうだ。
「じゃあ、警察庁のクズハキは何の情報もないダストと戦わされて、めっちゃ強かったら死んでも仕方ないなんて、とんだブラック企業じゃないですか！？」
「全員がそれを覚悟して、その仕事を選んでるんだ。問題はない」
覚悟...僕には少しだけ足りていないかもしれない。
「警察庁がダストの対応をして全滅・撤退・ダストが逃亡した場合の話だ。警視庁が駆除し損ねたダストは、1等星から3等星に区分され、以降はWSEOが捜索、駆除を引き受けることになる」
「ふむふむ。WSEOのクズハキは、ダスト殺しのプロフェッショナルってことですか」
「そうだな。警察庁の方は、ダストばかりを相手にしているわけにもいかんからな。どうだ？お前なら、どっちのクズハキになる？」
「どっちも死の予感しかしないんですけどー、やっぱり、みんなの憧れWSEOのクズハキですかね！」
「そうか。WSEOを目指すなら、高校生活中に頑張れよ。あそこは、優秀な奴しか所属できんからな。そして、優秀な奴でもすぐに命を落とす」
その話を聞いて少しゾッとする。死ぬことがあるのは知ってはいたが、いざそう言われると実感が湧いてきてしまう。
「特に、お前みたいな直接戦闘に生かすことができないギフトだと、死にやすいから鍛えとけよ。今日はいい話ができたから終わり」
「え？まだお腹も空いてないですよ？あと、星科で何やるか全然聞いてないですよ！？」
「明日もちゃんと来るように」
僕の声が聞こえてないのか、教室のドアを開けて廊下をツカツカと歩いて、藍川先生はどこかに消える。
「ま！早く帰れるのはいいか！」
リュックを背負って教室を後にする。
