表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の贈りもの  作者: ちゃもちょあちゃ
第一章 旧雨今雨
23/80

第11話 社会orダスト

 「一番大事な所を説明してないなんて、一体何のためにその資料取りに行ったんですか?」

 

 理恵加さんはそう言って、ため息をつく。


 「ごめんごめん〜。車の運転に必死でさ〜、今から説明するから〜」


 資料を置いて駆け寄る清水先生を、理恵加さんは手で制止する。 


 「いや、私が説明しますよ。清水先生の説明分かりにくいから。資料の確認でもしていてください」


 「...は〜い」


 教師が生徒に1番言われたくないセリフを吐かれ、清水先生はトボトボと教卓に戻る。


 「今から1番大事なこと説明するから、よく聞いてね」


 「...うん」


 1番大事という言葉に身構える。


 「葵君は、学校に爆弾仕掛けたって電話したじゃん?これが犯罪になることは分かってたと思うし、みんなを助けるための電話だってことも、私たちは分かってる」


 僕は、理恵加さんの言葉に頷く。その通りだ。犯罪者になってもいい覚悟で、みんなを助けるために、爆弾を仕掛けたと電話をした。


 「さっき私がギフトを見て、葵君が予知夢のギフトを持っていることが分かったじゃん?まぁ、仮だけど。ギフトの申請書は知ってるよね?」


 「うん」


 申請書とは、ギフトが発現した者が国に提出する書類だ。ギフトを仕事などで使用する際には、この申請書の提出が必要不可欠になる。もちろんクズハキも、提出している。申請書の提出をなしにギフトを使用して、それが発覚した場合は問答無用で逮捕される。


 「あー、何となく分かったかも。僕は爆弾の脅迫電話で犯罪者になって、ギフトの無断使用でも犯罪者になっちゃったって話?」


 「そう。特にギフトの無断使用は罪が重い。そこに悪意が有っても無くても関係なくね」


 悪意なんて全くない。善意しかないのに、それでも逮捕されるなんて厳しいルールだが、平和を保つためには必要だ。


 「僕は今、ダブルパンチ犯罪者でかなりピンチってことだよね?」


 「うん。葵君もピンチだけど、この学校もピンチなの」


 「え?なんで」


 「この学校は一応名門校だから、学校から犯罪者が出たって報道されると困るらしいの。でも、それ以上に星科がある学校で、ダストによる被害が出るのは困るから、それを防いでくれた葵君には感謝しても仕切れない」


 「で、僕はどうなるの?」


 「それは清水先生が頑張ってくれたの!ねっ!先生!」


 教卓で資料を、暗い顔でとぼとぼと整理していた、清水先生の顔に光が灯る。


 「そ〜!私の優秀な後輩に何とかしてって〜、頼んだの〜。そしたらね〜」


 「そしたら〜?」


 「君がギフトを持っててかつ〜、星科に来てくれたら〜、全部見逃すことにしてくれるって〜、ことになった〜」


 点と点が繋がった。だから、清水先生はギフトも持ってるなんて最高〜、的なこと言っていたのか。


 「流石先生!先生はこんなでも、もとは警視庁のエリートクズハキだったからね」


 理恵加さんのマイナスを伴う賞賛に、清水先生は悲しそうな目で理恵加さんを見つめる。


 「予知系のギフトは、周りの人たちも助けることが出来る可能性があるから、それを駆使して被害を抑えるように努めろ。だってさ〜」


 「僕が星科に移れば学校の評判も保たれて、僕のやったことも、全部なかったことになるんですね?

 

 「なるなる〜。みんな幸せだよ〜」


 「でも星科って、危険が付き纏いますよね?」


 元々は星科に入るために、この学校に転校してきた。だが、こんな重大なこと自分1人で決めるわけにはいかない。親にも相談する必要がある。


 「ん〜、正直言って当然安全ではないよ〜。みんなの安全のために〜、危険を犯してるからね〜」


 そうだ。安全なわけがないんだ。僕は夢で見たはずだ。星科の生徒はダストに殺されていた。僕が夢を疑わずに、学校にいつも通り来ていたら、みんな死んでた。人間を殺せるダストと戦うことになるんだ。安全なんてあるはずない。


 「...考える時間が欲しいです。こんなこと、1人で勝手に決めれないし、親と会って相談もしたいです」


 僕がそう言うと、先生は弱々しい声で申し訳なさそうに話し出す。


 「それが〜、申し訳ないんだけど〜、今日までに決めろ〜、って言われてるらしくて〜」


 人生を左右する重要な判断だ。それを1日で決めろという無茶振りに、頭を悩ませる。

 ここで断れば、学校の評判が下がる。学校の評判が下がったら、ここに通っている生徒にも少なからず影響が出る。死ぬようなことはなくても、何かこれからの生活で、不利になるようなことが出てくるだろう。そんなことになったら、僕がやったことは台無しになる。


 逮捕されたら親にも、多大な迷惑と恥をかかせることになる。犯罪者になって迷惑を掛けるくらいなら、星科に入ってクズハキ見習いになって、心配を掛ける方がまだマシなはずだ。


 「分かりました。星科に移ります。そうすれば、みんな幸せになれるんですよね?」


 そう答えると、清水先生は嬉しさを隠し切れない表情で再度尋ねてくる。


 「本当に〜?本当にいいの〜?」


 「はい。もう決めました」


 「やった〜。ありがとう〜」


 清水先生は、両手で僕の右手を強く握って感謝する。


 「さっきは安全ではないって〜、言ったけど〜、大丈夫だよ〜。危険はそんなに多くはないから〜。運動場でワンパクに遊ぶ〜、小学生の擦り傷以上の怪我はしないからね〜?」


 清水先生がそう言うと、理恵加さんも続く。


 「私も、絆創膏で対処できない程の傷は負ったことないかな!」


 2人の必死さが、嘘を浮き彫りにしているような気がした。僕を安心させるための嘘だろう。


 「じゃ、これ学科変更届とギフトの申請書~、とその他諸々の資料~。いつ出せそう~?」


 清水先生が、資料を僕の机の上に置く。置かれた資料に軽く目を通す。


 「あ〜、これ親の印鑑いるんですか?僕1人暮らしなんですけど、流石に平日に帰るの厳しいから、土曜日に帰って書類揃えて、来週の月曜日とかに提出でも大丈夫ですか?」


 「全然大丈夫だよ〜。こちらこそ〜、わざわざごめんね〜。あ、あと軽い説明とかあるから〜、明日普段の登校時間にこの教室に来て〜」


 「この教室ですね。分かりました」


 「葵君~。本当にありがとね~」


 清水先生は、腰を曲げ手を合わせて感謝する。


 「じゃあ、私帰りますね」


 そう言って、椅子を引いて立ち上がる理恵加さん。


 「理恵加も今日ありがとね~。今度何かあげる~」


 「なら、美味しい食べ物でお願いします!」


 「了解〜。あれ~?理恵加わざわざ制服着て来たの~?」


 清水先生の言う通り、理恵加さんは学校指定の制服を着ていた。紺色のブレザーにチェックのスカート。普通科の女子たちと、全く同じの服装。別に学科で制服は変わらないから当然だ。


 「今更ですか?そりゃ学校に来るんだから、当然でしょ?」


 私服でこの場にいる、僕に刺さるセリフを吐く理恵加さん。


 「真面目だな~」


 確かに真面目だ。だが、スカートの長さは真面目だろうか?短いスカートからは、膝が目をのぞかせている。この学校で膝を見せている女子なんて、見たことがない。


 「お疲れ様です。葵君もばいば~い」


 先生に軽く会釈をして僕に手を振ってから、理恵加さんは教室を出て行った。


 「何か分からないことあったら〜、あの子に聞いてあげて~。真面目で優しい子だから~、多分すぐ仲良くなれるよ~」


 「分かりました!」


 こうして僕は、星科に移ることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ