表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の贈りもの  作者: ちゃもちょあちゃ
第一章 旧雨今雨
16/80

第4話

 走り出して、違和感を覚えて止まる。廊下のガラスを軽く叩いてみると、音が聞こえない。走っている時の足音もしなかった。


 「        」


 声も出ない。出ないと言うより、聞こえないと言った方がしっくり来る。声を出そうとする時の喉は、いつも通りだ。


 学校に侵入したダストは、視覚だけでなく聴覚まで奪うことが出来るのだろうか。とにかく、相当やばいダストが侵入して来たことに変わりない。人間の五感を奪うダストなんて、聞いたことがない。


 僕が知っているダストの情報は、地球にやって来て、一番最初に見た生物の姿を形成することだけだ。そして図々しくも、コピー元のサイズよりも少し大きくなる。


 耳は聞こえないが、目は見える。とにかく今は、目の前のアレを確認しに行く。光って見えていた物は、予想通り星科の生徒の武器だった。そして、その近くには星科の生徒の死体が横たわっていた。この死体も、胸に穴が空いている。恐らく、この武器の持ち主だろう。付近の床と天井には、軽くヒビが入っている。


 死体のすぐそばには、数体のダストの死骸があった。ダストの駆除完了の放送がないということは、まだ他にも校内にダストがいるのか、それとも放送をする人間すら死んでしまったのか。


 不思議なことに、ダストの死体に花が咲いている。ただ刺さっているのではなく、しっかり根を張っているように見える。しゃがんで花に顔を近付ける。いい匂いがした。花の香りを嗅いで、落ち着いた。安らぎを感じるような香りだった。


 落ち着きを取り戻して、3年5組から後の教室も確認するため立ち上がる。角を左に曲がって右に曲がると、そこには目を疑うような光景が広がっていた。


 この先の廊下に花が咲いていた。床、天井、壁、ガラスにさえも花が咲いている。様々な色の、様々な種類の花が確かに生えている。知らない香り、懐かしいような香り、安心する香りが鼻に飛び込んで来た。


 廊下を埋め尽くす無数の花が、ここから先には進むな、そう伝えているように感じた。無理やり進む気分にもならないほどの美しさに、思わず見惚れる。奥が一切見えないほど、びっしりと花が生えているため、先に進むことは諦める。


 結局、誰にも会うことが出来なかった。こうなったら、星科がある別棟に行くしかない。普通科と星科は校舎が別れている。一回外に出る必要があるが、こっちの校舎にいても未来は無さそうだ。

 護身用に刀を拝借していくことにする。上手く扱えるかは置いといて、無いよりは有った方が遥かにマシだろう。落ちている刀の柄を握りしめて、利き手で持ち上げる。


 「おもっ!」


 想像よりも重くて刀を落としてしまい、カチャンという音が廊下に響く。


 「ん?てか声と音!?聞こえるようになってる!もしかして死んだ!?やばそうなダスト」


 そんな前向きな考えが頭をよぎった時、自分が上ってきた階段から何かの足音がした。人間の足音ではないことはすぐに分かった。それも、1匹が出せる量の音じゃない。複数いる。固まった体の首だけを動かして、階段の方に視線を向ける。


 足音が同じ高さまで達した瞬間、犬の形をしたダストが数匹姿を見せた。こちらに向かって、真っ直ぐダストが全速力で走ってくる。


 「何かから逃げてる?」


  直感でそう思った。しかし、こちらに向かって来るダストを、突っ立って眺めている訳には行かない。


 選択肢は2つ。すぐ横にある階段から逃げる。それか、刀を手に取って戦うか。考える時間も、悩む必要もない。


 先程落とした刀を、両手で持ち上げて構える。手と足が、プルプルと小刻みに震える。この震えは、恐怖がもたらしたものではない。刀がただ重い。

 でも今日、この刀と比べ物にならないほど重い、人の命を大量に奪った奴がいる。


 「そうだ。僕はクズハキになる為に、星科に入る為に、この学校に転校してきたんだった。天国でちゃんと見ててよ。僕の勇姿を」


 ダストとの距離は、見る見る縮まっていく。腕を震えさせながら、刀を頭の後ろまで運び、振り下ろす準備をする。しかし、重過ぎる刀は、手汗と緊張のせいで両手をすり抜ける。


 「やべ!重過ぎるだろ!こんなに軽そうなビジュアルなのに!」


  細身の美少女が、大食いだった時くらいの衝撃が走る。細身の美少女が大食いなのはプラスだが、刀が見た目より重いのはマイナスでしかない。


 ダストがすぐそこまで来ている。刀を拾い上げる余裕はない。


 「あああ!もう!素手でやってやるよ!!来いよ!所詮犬のコピーだろ!?手懐けてやる!愛情表現パンチでな!」


 親指を中に包んで、握りこぶしを作る。爪と肉の間に牙を立てられると、裂けそうだからその対策だ。


 「まあ、嚙まれたら裂けるどころか、千切れるだろうけど」

 

 覚悟を決めて拳を構えると、再び瞳に闇が入り込んでくる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ