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星の贈りもの  作者: ちゃもちょあちゃ
第一章 旧雨今雨
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第3話 見飽きた景色

 血と死体だらけの教室。暗闇から抜け出した瞳に映った景色は、極悪人から見たら絶景と呼べるものだろう。目の前には首から上が失われた死体と、心臓あたりを突き刺されて、胸にぽっかりと穴が空いた死体が散乱していた。

 おもちゃが散らけっぱなしの、子ども部屋のようだった。ダストにとって、人間はおもちゃ同然だろう。


 「そうだ、田中は...」


 力なく呟いて、椅子をゆっくり引いて立ち上がる。机を見下ろすと、自分が先程まで机に突っ伏していた証拠が、はっきりと残されていた。

 赤く染まった机のふちによって、机に突っ伏していた姿が綺麗にかたどられていた。誰のものか分からない血で、制服の袖は染まっている。みんなの机や椅子も血だらけ。赤色の絵の具しかなかった世界の、画家のアトリエのようだ。


 ペンキのように濃い赤色の血が床と壁、天井にこべりついている。床は隙間がないほどびっしりと赤く染まり、履いているスリッパを汚さずに歩くことは不可能だ。立っているのがやっとの足を鼓舞して、田中の席まで向かう。

 みんなを踏まないように、みんなに血が飛び散らないように、ゆっくり慎重に歩いた。田中に近づくにつれて、スリッパはどんどん重く赤くなる。

 頭のない死体がほとんどで、心臓をくり抜かれた死体は2、3人。田中もその1人だった。親友の死体を見ても意外と冷静だった。むしろ、ほっとした。

 他の死体は頭と体がバラバラだから、誰がどの死体か分からなかった。この死体が田中のものであることに、間違いはない。


 「あんなに焦ってたのに、ずいぶん穏やかな表情で死ぬことが出来たんだな」


 声に出す言葉は落ち着いているように聞こえたが、頭の中では5人くらいの自分が、各々言いたいことをずっと喋り続けていた。焦ってる自分もいれば、やけに冷静な自分もいるし、今すぐ家に帰りたい自分もいた。


 「というか練り消しデカ!!どう考えても原材料になった消しゴムから、作り出せるサイズじゃないだろ!」


 田中の練り消しがデカすぎたおかげで、焦りと緊張が薄まる。やばい時ほど冷静に。いつか、誰かに聞いた覚えのある言葉に従い、呼吸を整える。


 「残念だったな田中。僕も、お前も、秘められたものが何にも目覚めることがない、普通の人間だったよ。夢見たロマンスなんて実在しなかったね」


 瞼をゆっくりと下ろして、口を大きく開けて深く息を吸い込む。


 「ふーー!誰もいないから空気が美味しいや!」


 この地獄みたいな光景を遮断して吸う空気は、先程までとは比べ物にならないほど美味しかった。いや、先程までの空気が不味かっただけだろう。


 「そうだ。...誰か、話せる人」


 教室から顔だけを出して、廊下の様子を伺う。廊下には誰もおらず、放課後の学校くらい音がない。


 「ダストはいない...な」


 左右の確認をして廊下に出ると、窓の外の景色に意識を持っていかれる。


 「あんなに真っ暗だったのに」


 黒一色だった世界は、普段通りの色を取り戻していた。空にも雲一つない。快晴だ。どうやら空は、僕の心情を察することは出来ないらしい。


 いつもなら、ダストの駆除が完了すると放送が流れるが、今日はまだ流れない。やはり何か、異常な事が起きているに違いない。

 いつまでも、ここでじっとしているわけにはいない。とりあえず職員室に行って、先生がいないか確認することにする。


 職員室は、1階の下駄箱とは逆方向にある。葵の教室からは結構近い。階段を降りたらすぐだ。できれば移動はしたくないが、ずっとここにとどまってても意味がない。階段までに通過するクラスを軽くのぞいてみると、自分のクラスと同じように死体が散乱している。


 「やっぱ、僕しかいないのかな...」


 階段を1段1段丁寧に、音を出さないよう静かに下りる。1階に着いて、1年生の教室をのぞく。やはり、みんな殺されている。これを見て、ひとつの疑問が浮かんだ。一体いつ殺されたのだろうか。下からは悲鳴も何も、聞こえなかったはずだ。


 職員室には、先生の死体が転がっていた。落胆を露わにして溜息をつく。どうすればいいのか、考えがまとまらない。頭を悩ませて決断する。三階の様子も、見に行くことに決める。


 駆除完了の放送がない以上、まだ校内にダストがいる可能性が高い。もし、ダストと鉢合わせでもしたら確実に死ぬ。嫌でも死を意識し始めてしまう。


 「...行くしかないか」


 決心して階段を上る。


 この学校は特別だ。クズハキを養成するための、星科がある。クズハキはダストを殺す職業。普通の学校には、常駐しているクズハキが存在する。だが、この高校にはいない。

 なぜなら、星科のクズハキ見習いの生徒と、それを指導する、学校に雇われたクズハキがいるからだ。普通の学校と比べて、安全性は格段に高い。そして、星科がある高校の偏差値は高くなる。

 みんなが安全を求めて勉強をするからだ。そのおかげで、この高校に転校するために苦労した。


 「転入試験難しかったよな〜。僕にしては、そこそこ頑張った。記憶力が良いのが売りだから、暗記科目には助けられたよな。あんなに頑張ったのに、安全だったはずなのに。苦労して手に入れた学校生活も、今日で終わりかよ。人生だって...もう終わりかけてる気がするんだー。あははは」


 愚痴をこぼしながら、3階まで階段を上る。極限までに足音を押さえても、溢れた愚痴がそれを台無しにしていた。


 「足音抑えてるのに、喋っちゃったら意味ないだろ。この学校の生徒なんだ。賢いはずだろ...?そもそも何であんなに苦労してまで、この学校に来たんだっけ?」


 最後の1段を越えて、3階の床に両足を付ける。3年生の教室をのぞき込む。他の学年と同じように、死体が散乱しているだけだった。


 「結局ここも一緒かよ。まあ、そりゃそっか。はああ」


 僕は足を止める。今までの人生で、1番ため息と呼ぶに相応しい息を吐く。後ろを振り返ると、血がこべりついた靴底が残した道標ができていた。それは、僕が歩くにつれてどんどん掠れていた。


 「怖いし疲れた」


 廊下の壁に背中を押し当てて、ゆっくりと廊下に座り込む。落ち込んで俯いていると、強い光が見に差し込んだ。廊下の奥に視線を向けると、何かが光って見えた。


 すぐに立ち上がり、目を細めてよく見る。向こうには、3年5組から8組までの教室がある。そこに行くまでの曲がり角から、光は見えた。


 おそらく、星科の生徒が使っている武器だ。それが太陽光に照らされて光っている。そう断定する。


 「あっちに星科の生徒が!会えたら生き残れるかも!」


 足音を気にすることを忘れて、全速力で走り出す。

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