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星の贈りもの  作者: ちゃもちょあちゃ
第一章 旧雨今雨
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第2話 真逆の景色

 外の景色が何一つ見えない。全てが闇に隠される。窓の向こうは真っ暗闇。全てが闇に隠されている。光のない世界が来たみたいだった。


 「おい!何だこれ!?」


 「逆停電!?」


 「夜の上位互換かよ!?」


 「こわーい!」


 クラスのみんなが騒ぎ始める。田中は、先程の発言が嘘だったかのように青ざめて震えていた。そんな騒がしい教室に放送が入る。


 『ただいま校内にダストが侵入しました。星科の生徒が駆除にあたるので、生徒の皆さまは教室に待機してください。』


 教室のざわめきは、1本の放送に断ち切られる。全員が黙って、放送に耳を委ねた。いつも通りの放送内容。しかし、状況はいつもと違う。

 普段ならクラスの、なんてことない会話にかき消される放送。それが、今日はよく聞こえた。何か異常なことが起きている。ここにいる全員が、そう感じ取っていた。


 何回か繰り返された放送が終わった瞬間、再びクラスに騒がしさが舞い戻ってくる。

 教室に待機と指示があったにも関わらず、真っ先にリュックを背負って「早退する!」と言い放ち、教室を飛び出す者。窓の外の暗闇を、スマホのライトで照らしてみる者。何かしらの行動をしていないと、心が落ち着かない状態だった。


 それは僕も例外ではなく、先程から頭の中でひとりしりとりを無限に味わっていた。田中は気づいたら自分の席に戻って、消しゴムで自分の机を削り、巨大練り消し作りに勤しんでいた。


 つい先日、近くの高校でダストによる被害があったこと。外が真っ暗になり、何も見えなくなるという経験したことがない状況。パニックに陥る要因が揃い踏んでいた。パニックのパーティーは止まらない。


 そんな中、いきなりクラスが静まり返る。教室の中にまで、闇が忍び込んできた。誰も何も喋らず、人の動く音すら聞こえない。闇が作り出した静寂。目の前にあるはずの、自分の手すら見ることが出来ない暗さ。

 

 「キャーーー!!」


 突然、隣のクラスから悲鳴が聞こえた。それは普段から、女子があげている生優しいものではなかった。本物の恐怖に襲われた悲鳴だった。

 その声は段々と増えていき、遺言のような悲鳴と共に何かを引きちぎったり、突き刺したりする音も聞こえてくる。

 

 ダストに殺されている。この音を聞いたクラスの全員が、そう感じたと思う。僕は生まれてはじめて理解した。頭の中が、真っ白になるということを。

 そして、次は自分達のクラスの番、ということも理解できる。この場から一刻も早く離れたい。でも分かる。動いた奴から死ぬことになると。


 手が小刻みに震えて、心臓が有り得ないほど踊っている。滴り落ちる汗が止まらない。膝に力が入らなくなりガクガクと揺れ、今にも椅子から転げ落ちそうだ。

 何も映さない瞳は開いたまま。何も見えないが、見ないといけないからだ。本物の恐怖に襲われた状況で、目を閉じることなど出来ない。


 隣のクラスから、何も聞こえなくなる。再び静寂に包まれた教室で、誰かと何かがぶつかる音が聞こえた。


 「ギャッ!?」


 その声が合図となり、殺戮が始まる。伝染する悲鳴の発生源からは、次々に聞くに耐えない音が鈍く響いた。真っ暗で何も見えないため、上手く動くこともできずに机や椅子、壁にぶつかる音も聞こえる。その音ごと、全てぐちゃぐちゃにされる。


 僕は悲鳴を出すことすら出来なかった。机に突っ伏して目を閉じた。暗さが欲しいからじゃない。何も見たくなかったからだ。


 机に突っ伏して、閉じていた目をゆっくり開けた。隣のクラスから、悲鳴が聞こえたからだ。もうこの教室に、ダストはいないだろう。

 僕は窓側の席のため、幸いにも逃げ惑うクラスメイトと接触することもなく、巻き込まれずに生き残ることが出来た。


 この教室からダストがいなくなったのはいいものの、未だに何も見えずに真っ暗なままだ。


 クラスメイトは、全員死んでしまったのだろうか。暗い考えが頭をよぎる。もしかしたら、僕と同じように机でじっとしていた奴が生きてて、今も同じようにして、同じようなこと考えてるのかもしれない。そうやって明るく考えた方が、いいに決まってる。


 かなり時間が経過した気がする。机にずっと突っ伏しているのも、意外と疲れる。背もたれにもたれかかって、閉じていた目をゆっくり開く。久しぶりに開いた目が、映した景色は真っ白だ。


 「うわ、眩し」


 思わず声が出る。瞬きを繰り返してから、再びゆっくりと目を開ける。今度は大丈夫。自分の手も指もハッキリ見えた。やっと光が瞳に帰ってきた。地獄のような光景と共に。

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