2軒目②
「そんな酷い話ある…?」
俺の話を聞いたミサ姉は、なんとも言えない苦しそうな顔をしていた。まあ、うん、そうなる気がしてた。
まあ実際、こうなっちゃったんだよね
「わー、私ならそんなの放り投げちゃうよ、たぶん死なないし」
うん、そうなんだけど
100%じゃない以上、もしそうなったら俺もっと抱え込んでもっと苦しむことになっちゃうから……
「そっか。君優しいもんね」
……俺は、優しい、と、思う。思ってた。
これまでずっと、相手の気持ちを慮って、誰に対しても最大限の優しさをもって接して、いちばん喜んでくれるように行動していた。
でももう無理で。彼女にどんどん優しくできなくなる自分が嫌になった。
余裕がなくなればなくなるほど、他の人にもどんどん優しくできなくなっている。
だからこうやって、しんどい気持ちや話をミサ姉にぶつけてしまっている。
そういう顔させるの、わかってたのに。
「ははは」ミサ姉は笑った。「別にいいのに」
「そんな苦しい中、彼女を支えながら、なんとかしようと足掻きながら、仕事もすごく頑張ってるんでしょ」
……うん。
正直最近は激務に救われてるとおもう。忙しくしてれば、嫌なこと考えなくて済むから。
「その上でしっかり患者さんと向き合って救ってるなんて、本当に君はすごいよ」
そんなことない、とこたえたかったけど、涙が溢れてきてしまって言葉にならなかった。
誰かに褒めてほしかった。認めてもらいたかった。
いや、ちゃんと評価はされてるんだよ。病院では責任ある仕事を任されてる。
でも彼女は褒めてくれない。支えても感謝してくれない。奪っていくだけ。
家族にも合わせる顔がない。独身のまま借金してるわけだし。
「もう、ほんとにがんばり屋さんなんだから……」
もっと早く話を聞いてもらえばよかった。
欲を言えば、いま一緒に居るのがミサ姉だったら、どんなによかったことか。
「え、そんなこと言う?」
ミサ姉はバツが悪そうに俯いた。
言いたいことがあるけど迷ってる。そんな雰囲気を感じたので、言って、と促した。
「んー……、えっと、ね」
「私ずっと前から、君のこと好きだったのに」