1軒目
テーブルの上には、大方食べ尽くされた料理と飲みかけのグラスが並んでいる。
その脇にひとつ、少しずつの料理が盛り合わされた皿が残っていた。
たぶん、ミサ姉がとっておいてくれたのだろう。
「で、何飲む?」
ビールを頼んで、ちみちみと飲みながら他愛のない話をした。みんな元気そうで何よりだった。
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ミサ姉はひとつ年上の、かがくクラブの先輩。浪人した俺より、2年早く医者になった人。
俗に言う”憧れの先輩”。
俺が医者を目指したのは、ミサ姉が医者になったからで
ミサ姉と違う大学に行ったのはミサ姉に人生を支配されちゃダメだと思ったからで
ミサ姉は内科になったけど、俺は救急科になって
でもやっぱり繋がりがほしくて、同じ腎臓を専門にすることにした。
人生の節目にはいつもミサ姉がいる。ミサ姉は知らないけど。
浪人で心が折れそうだったとき、遊んでもらって話を聞いてくれた時のことを覚えている。
みんなと会いたかったってのもあるけど、いちばんは大学生になったあとも地元だからって手伝いをしていたミサ姉に会いに、なんだかんだ毎年かがくクラブには顔を出していた。
5年前にも集まりがあったんだけど、そのとき
「最近彼氏ができたんだよね」
というミサ姉に胸が苦しくなった。そこで俺がミサ姉のことを女性として好きなんだってことを、ようやく自覚した。
その後ミサ姉の結婚式に誘われたけど、気持ちの整理がつかなくて参加できなかった。ミサ姉は残念そうだった。
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「子供産まれたんだ、写真みる?」
ミサ姉の子供はミサ姉に似てかわいくて、でも、確かにミサ姉とは違う人が混ざっていた。
そろそろお開きの頃になって、マキが話しかけてきた。
マキはかがくクラブの同期でもともと仲がよかったんだけど、何の因果かいま、東京で同じ病院で看護師として働いている。
「ミサ姉に話聞いてもらったら?」
それを聞いたミサ姉が
「なになに?相談ごとあるの?聞くよ?」
と野次馬らしく茶化して聞いてきた。
少し悩む。相談してもいいのかな、
でもあの家に帰りたくないし、1人になりたい気分でもない。
マキとミサ姉と連れ立って、俺たちは飲み直すことにした。