表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/38

1.〔挿話〕レンジで白玉(1)

※こちらは、完結済み「ダンジョンズA(1.ガルニエ宮)」の挿話(ちょっと食テロ話)になります。

ぜひ、1から読んでみて下さいませ。

明日より、本編スタート!

引き続き、毎日朝7:10とお昼12:10に投稿致します。


あおいが、ボウルの中の白い塊を捏ねている。

なかなか、まとまらない。

出来損ないの粘土みたいだ。


「少しづつ水を加えながら、力を込めて練っていく……だったよな」

レシピを信じて、忠実に調理を進める。

うん。だんだん、お餅らしくなってきた。

 

「ねー、碧。この缶詰、どうやって開けるの?リングが付いてないよ」

あかつきは、キッチンに並べた材料を、興味津々で弄りまわしていた。

碧と同様、調理実習用のエプロンを着けている。

でも、全く戦力になっていない。


「そこに缶切りがある。それで開けるんだよ」

頂き物の、つぶあんの缶詰だった。

美味しさは、三ツみつや家お墨付きだが、今どきプルトップ缶ではない。由緒正しき形状だ。


ちなみに、偉そうに言っている碧も、暁のことを笑えなかった。

これを頂いた時、全く同じことを、母親に尋ねたのだ。


「できそう?」

自分の手は、べたべただ。

やってくれれば、ありがたい。


暁は、首を捻りながら、缶切りを手にした。

「う~ん?」

缶詰をくるくる回して、考え込む。


「どこから攻めればいいの?」

「わかった。俺がやる」

碧は、早々に諦めて、いったん手を洗った。

一回、やっただけだが、暁よりはマシだ。


缶切りの刃が、銀色の縁に斬り込んでいく。

きこ きこ

ゆっくりと上下に動かして進むと、切れ込みが入っていった。

「こうやって、ぐるっと切っていくんだって」


少し実演してみせただけで、暁は顔を輝かせて、ぴょんと跳ねた。

「わかった! やってみる」

やる気はあるのだ。


だが、いきなり碧は後悔した。

勢いが良すぎる。恐ろしいほど危なっかしい手つきだ。

代わらないで、自分がやった方がマシだった。

はらはらと、隣から口を出す。


「蓋のギザギザに気を付けろよ。手、切らないようにな。あ、最後は俺がやるから、もうちょっと切ったら代わって」


暁は、素直に交代した。碧に缶切りを手渡す。

ここまできたら、楽勝だ。

短い首を残して、蓋を持ち上げる。

慎重に折り曲げると、缶詰は、ようやく開いた。


「なんか……既に疲れた」

思わず溜息をつく碧とは対照的に、暁は満足気だ。

にこにこと、みっちり詰まった中身を見ている。

「おもしろかった。うん、美味しそう」


碧の気力が、一気に盛り返した。

「そう! ようの家から貰ったやつなんだけど、本当に美味しいんだよ、これ」

中の粒餡をスプーンで掬ってタッパーに移しながら、力説する。

「あんこ万歳って言いたくなるから!」


この台詞は、伯母の受け売りである。

だが、母も自分も、最初に食べたときには、思わず復唱したものだ。


「ほら、暁」

最後に掬ったスプーンを、碧は手渡した。

大仰に言い渡す。

「つまみ食いを許してつかわす」

「わあ」

暁は、嬉しそうに声をあげると、餡子を口に運んだ。


「ん!」

目が真ん丸になる。本当だ。おいしい。

何が他と違うんだろう。

豆の風味が、そして砂糖の輪郭が、しっかりと感じられる。


暁は、両手を上げて、高らかにうたった。

「あんこ、ばんざーい!」

「よし。そうだろ」


頂いた日に開けた缶は、半分をバニラアイスに乗っけて味わい、残りを焼きたてホットケーキに添えて賞味した。


そこで、碧に欲が出た。

せっかくだから、この粒餡で、ちゃんとしたスイーツを作ってみたい。


だが、母親が渋った。

忙しくて、まず、そんな時間は取れそうにない。

自分だけで挑戦すると主張してみたが、小学生の身には問題があった。

火を使うのは、NGだ。


そこで、実奈子みなこ伯母さんに相談したところ、このレシピを教えてもらったのだ。

「これなら、レンジで作れるわよ。この料理家さんのは、もう絶対にお勧め!」


載っているレシピ本も、貸してもらった。

母親に説明し、許可も取った。

準備は万端だ。


かくして、子どもだけの料理教室と相成ったのだ。


まあ、はなから、暁に戦力としての期待はしていない。


碧は、練り上げた白玉粉をボウルから取り出すと、まな板の上に乗せた。

ころころ転がして、ひも状に伸ばす。


「これで、5等分する、と」

目分量で、5つに切り分けた。


「で、丸める」

「あ、私もやるよ」

暁も手伝う。

だが、二人の目の前に並んだ5個の団子は、明らかに大きさが違った。


「なんか……バラバラだな」

「大丈夫じゃない? このくらい」

鷹揚に言う暁に、碧が首を振る。


「火の通りが均一にならないと、仕上がりに差が出ちゃうだろ」

これも、実奈子伯母さんの受け売りだ。

野菜を切りながら、そう言ってるのを聞いたことがある。


「でも、どうやったら同じにできるかな?」

むー

二人で考え込む。


すると、傍らに置いてあるキッチンスケールが、碧の視界に入った。


「分かった! 量ればいいんだよ」

碧は、白玉の生地をひとまとめに戻した。

スケールの皿に乗っける。


デジタルの数字が表示された。

111

ゾロ目だ。単位はグラム。


「111÷5?」

暁が、ぱっと碧を見る。


「22.2」

碧の眼鏡が、光った。即答だ。


「まあ、小数点以下は無視だな。1個22グラムにしていこう」

碧が、ひとつひとつ量って、暁が丸めていく。

今度は上手くいった。ほぼ同じ大きさだ。


そこに、丸めた粒餡を包んで、まんじゅうを作り上げる。

いいぞ。この時点で、既に美味しそうだ。

本作は、「1.ガルニエ宮」の次作となります。

そちらもぜひご覧くださいね。

これから、じわじわとその伏線回収して参りますので。


読んで頂いて、有難うございます。

感想を頂けたら嬉しいです。

ブックマーク・評価なども、とっても励みになりますので、ぜひよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ