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八月二十日。
長いようで短い夏休みが終わった。
毎年の恒例行事のごとく昨晩は溜まりに溜まっていた夏休みの宿題を徹夜で片付けた為、朝の日差しが眼に痛い。
オレ、高橋優也は、クリーニングに出したばかりの制服に身を包み夏の太陽を日陰で避けながら、ポツポツとリク電の駅に向かう。
「眠いっ」
そう呟いた時「優くんおはよう」と背中を叩かれた。
オレをそう呼ぶ奴は一人しかいない。
幼馴染の藤村唯だ。
背中まで伸ばした黒髪を揺らしながら幼さの残る顔立で目一杯の笑顔で笑う。
「唯どうした?」
オレは挨拶がてら振り返るとオレの顔を見るなり心配そうな顔で覗く。
「すんっごい変な顔だよ?大丈夫?」
「おま、変とは失礼な」
「いつも変な優くんの顔がより一層変な顔になるなんてっ、唯は悲しいよぉ」
二人でそんなやりとりをしていると最寄りの青葉台駅に到着。
駅の改札を通りリク電に乗り六駅上った藤ノ井駅で降りて学校へと向かう。
「それは優くんがちゃんと計画を立てて宿題しないからだよっ」
「オレの辞書に宿題という二文字はないのだよ唯くん」
オレは博士風に鼻の下に指を当てエアー髭をなぞる。
「な〜に朝から夫婦漫才してんだよ」
背後から声をかけて来たコイツは悪友の安倍久志。
コイツはザ・二枚目な顔に短髪。
顔ではモテるが中身の問題だと思う。
母よ。オレをもっとイケメンに産んで欲しかったです。
なんかもう何処にでもいるザ・少年な顔には飽きました。
「おはよう唯ちゃん」
「おはよう久志くん」
「久志、何が夫婦漫才だよ。オレはただ唯をいじってただけだ」
「ヒドイよ優くん。私こんなに優くんのこと愛しているのにっ」
唯は俯き泣き始めた。
が、オレは泣き真似だと解っている。
「サクサク置いてく、久志あと任せた」
「おい、任せたってオレも置いてく」
久志は唯をほっぽりオレの隣に並んだ。
「唯のこと好きならそばに居てやらないとダメだろ」
「好きっつっても友人としてだからなっ。ああいうのは恋人じゃないとなしだ。めんどくさい」
久志は本音ダダ漏れの言葉を言うとオレは話を変えるように話題を変えた。
「で、文化祭なんか良いアイディア思いついたか?」
「今のところイマイチだな。なんかこう、文化祭としてちゃんと思い出に残るようなことしたいんだよなぁ」
「それは解る。なんかいつも文化祭は文化祭でこれといって特別な思い出がないよな」
「そうそう、文化祭っ。は思い出せるけど、こう、なんか忘れられない思い出を作りたい」
オレは久志と談話をしていると後ろから「はぁはぁ」と息を切らしながら唯がようやく追いついて来た。
「優くんも久志くんもヒドイよ〜可愛い恋人を置いて行くなんて」
「自分で可愛いなんて言ってるとバカになるって訊いたぞ」
オレは追いついた唯を再びイジる。
「えっ?本当に?」
「都市伝説かもしれないけどな」
そんなこんなしていると学校にたどり着き、下駄箱を抜けて、階段を登り「おはよう皆の衆」と、ふざけながら久志が教室に入る。
クラスメイト達は夏休みの思い出をお互い話し共有していた。