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ドッキリ大成功!の看板はどこに?


何とも濃い内容をつらつらと聞かされ、既に気持ちは赤疲労だ。

組んでいた腕を解き、今度はテーブルに肘を着く。

ちょっとお行儀が悪い気もするけど、まぁゼニスくんの尊大な態度に比べたら可愛らしいモノだろう。


テーブルに肘を着いて、両手の指を絡めて口元を隠す。

所謂(いわゆる)ゲンドウポーズを決めて、ヒタと二人を見据えた。




「さて」

「あ?」

「ここまで一応、このトンデモ状況を現実って前提で黙って聞いてきた訳だけど」

「黙ってなかっただろ」

「ちょいちょい相槌打っておりましたな」

「黙って聞いてきた訳ですが!」




ダンッ、とテーブルをグーで叩いて揚げ足を取る二人(?)を黙らせる。


ご飯の用意が出来たのか、タイミングを図っていたのか・・・ロプスさんがゼニスくんの前にお皿を並べ出した。


因みに、私の前には無い。

置かれた所で多分食べることは出来ないだろうしね。お腹も減ってないから別にいいけど。


食事の内容を見れば、結構質素だ。

丸いパンに野菜たっぷりシチュー。丸ごとお皿に乗せられたリンゴに似た果物が一つ。


ロプスさんも食べないのか、食事は一人分しか用意されてない。


木製のスプーンが手渡され、それを受け取ったゼニスくんは無言でシチューを食べ始める。




「ロプスさんは食べないの?」

「本来ワシらは飲食の必要が無いからの」

「・・・・・・俺も別に食わなくても死なねぇんだがな。こんなんからでも摂らなきゃ足んねぇんだよ」




何が、とは明言しなかった。


美味しいとも不味いとも言わず、ただ黙々と事務的な動きでスプーンを口に運んでいた。


食事中だけど、まぁ話を続けてもいいだろう。


キョロキョロと周りを見渡して、部屋中を確認する。


すごくカントリーな雰囲気の部屋だけど、さて、どこに設置されてるのかな?あの棚の上かな?部屋の隅とかかな?

最近の隠しカメラは小さいのに高性能だからな~。

何処を見ても見当たらなけど、あるよね!どっかから撮ってるよね?!




「テレビカメラは何処に在るの?」

「あ?テレビカメラ?」

「これって『何とかリング』ってテレビのドッキリ企画なんでしょ?私を騙して驚かして笑おうって魂胆だよね?」

「テメー騙して何の得になるんだって言うんだよ。こちとらそんな暇人じゃねぇわ」

「キミ達のその格好はアニメかゲームのコスプレだよね?そこの埴輪は特殊メイクでしょ?」

「何の話か分からぬが、ワシは化粧(メイク)なぞしておらんぞ?」

「じゃあじゃあ今さっきまで私が延々聞かされた話は全部"事実(リアル)"って事?

どっかのラノベの設定を引用したキミの壮大な妄想だったりしないの?するでしょ!」

「テメー、人の話を妄想だと思ってやがったのか」

「貴様、魔王様が妄言を吐いておるとでもいいたいのか?!無礼者め!」

「だって誰が聞いてもスペクタクルファンタジーじゃん!異世界召喚?ハイハイそうですか分かりましたって信じろって方が無理でしょ?!」

「・・・・・・信じたくなきゃ別に信じなくても構いやしねぇよ。

そうやってテメーが現実見て見ぬ振りしようが、俺の話を信じまいが、この現状が覆る訳でもねぇしな」

「夢オチって希望も捨てきれないよね?!」

「往生際が悪ぃな」




呆れたような半眼で見られる。序でに言うと額の目まで半眼だった。ムカつく。




「じゃあ私のコレも、寝てる間に施された特殊メイクでも何でもなく本当に本物の骸骨になったってことなの・・・?!」

「どこをどう見たって骨だろ。認めろよ」

「見事なまでに立派な骨っ子じゃわい。何が気に入らんのじゃ。我儘言うでない」

「黙らっしゃい!うら若き乙女が骸骨になってしまったっていう事実をどうしても認めたくないっつー私のオンナゴコロが分からないの?!ハリウッドばりの特殊メイクだと信じたい!」

「自分で乙女とかよう言うのう」

「テメーがうら若き乙女かどうかなんて今となっちゃ確かめようがねぇけどな」

「アンタら本当に失礼だな?!」




鏡で全身を確かめるまで、私は希望を捨てないからな!


バンバンとテーブルを叩いて抗議すれども、二人は大して気にもしない。


行儀が悪いぞとロプスさんに窘められ、余計に腹が立つ。




「~~~っ、百歩譲って!キミの話が全部本当だったと仮定して!」

「だから事実じゃと言うとるに・・・」

「仮定して!!此処の復興に手を貸したら、私は解放されるの?!」

「解放?」

「だってもう、元いた場所には帰れないんでしょ?だったらせめて、自由になりたい・・・」




長すぎて大半もう忘れかけてる内容だったけど、その中で"元の世界に帰れない"という部分だけは覚えてる。


だったらせめて、このよく分からない役目を終えた後の残りの人生は好きにさせて欲しい。

探せばこの世界の何処かには、私がいた場所に戻れる魔法とか扉が存在するかもしれないのだから。


そう思って言った私の言葉に、ゼニスくんは食事の手を止めキョトンとした顔でこちらを見た。




「解放するもくそもねぇよ。元々俺はテメーを眷属にはしたが、隷属縛りしちゃいねぇ。行きたきゃ今でも好きに出ていける」

「けんぞく?れいぞく?」

「そっからか。眷属は配下とか従者の括りで、術者の庇護下で意志を持って動く事ができる。

隷属っつーのは全てを術者の支配下に置かれて、命令一つで意思も自由も何もかも奪われる立場だな」

「やろうと思えば貴様なぞ隷属として顕現する事も可能だったのだぞ?魔王様の慈悲に感謝せいよ!」

「そうなんだ・・・ゼニスくんありがとね~!ってなるかい!」




思わずノリツッコミが出てしまった。


でもまぁこれで、彼が私を無体な強制労働させて死ぬまでコキ使おうとしてない事は分かった。


・・・・・・・・・ん?

死ぬまでって、そういえば私コレ死んでんの?生きてんの?




「ねぇ、私って死んだの?」

「は?」

「いや、お決まりのパターンでいくと異世界"転生"は大体一回死んでんのよね」

「へー」

「でもこれって一応、異世界"召喚"でしょ?召喚って本来なら向こうに居た時の体ごとこっちに来てるハズなのよ」

「言っただろ?俺の魔力不足で全部こっちに持ってくんのが無理だったって」

「そう、それ!全部が無理って事は、この場合多分《魂》だけが呼ばれて来たんだと思うのよね」

「そーなんだろうな」

「だったら、向こうに残った体はどうなってんの?魂が抜けた体って事は、早い話"死体"じゃないの?!」

「そーなんじゃねぇの?」

「いや軽っ?!私結局死んだと同じって事よね?!殺人じゃん!」




異世界召喚殺人事件ってこと~?!


私は向こうでひとり暮らしをしていた。実家はそこそこ離れた所で頻繁に家族が訪ねてくる事はない。

彼氏もおらず、結婚予定も勿論ない。

親しい友人は軒並み家庭持ちで、最近あんまり連絡も取っておらず、誰とも会う予定も無し。


向こうに取り残された私の大事な大事な体は、誰に知られる事もなく静かに腐っていくのだろうか。


そんなの悲し過ぎる!


早く誰かに気付いて貰わないと、向こうでも白骨化してしまう。




「どうしよう?!」

「何がだよ」

「向こうに連絡とか出来ないかな?!」

「連絡?誰かに別れでも告げんのか?」

「違うわよ!いや、違わないか?とにかく私は死んだっぽいから早めの遺体処理よろしくって誰かに伝えないと腐るじゃん!」

「連絡取れて言うのがそんな内容かよ・・・」

「突然死だよ?!前の日まで元気だったんだから、死んでますよ~って言わなきゃ誰にも気付いて貰えないもん!ひとり暮らしだし、賃貸だし、大家さんにも迷惑かかるし!」

「寂しい奴じゃのう・・・」

「憐れんでくれなくていいから、連絡取らせて!」

「無理だわ」

「テレパシーでも虫の知らせでもいいから!」

「無理だっつーの」

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!白骨化するぅぅぅぅっ!」




うわーん!と頭を抱える。


シャレになんない、マジで。

不審死で方々に迷惑かけるやつじゃん。




「あ」

「あ?」

「ワンチャン、職場からの連絡で気が付いて貰えるかも・・・?無断欠勤したら会社から電話有るだろうし。そしたら誰かしらおかしいって思うよね?」

「気が付いて貰えるのが恋人(ツレ)とかそんなんじゃねぇっつーのが悲しいな」

「うっさい!おひとり様で悪かったわね!!」




無遅刻無欠勤で働いてて良かった!

きっと白骨化する前に気が付いて貰えるよね?

腐乱死体で発見されるのも辛いので、早目にお願いします・・・マジで・・・マジで同僚の方々お願い・・・嫌だろうけど・・・・・・。


明後日の方を向いて両手を合わせて祈っていると、ゼニスくんがデザートらしい果物を丸齧りしつつ話かけてくる。




「で、結局テメーは俺らに協力する気はあんのかよ?」

「・・・選択肢無いよね、私に。だってその為に呼んだんでしょ?」

「そうだがな。でもだからって馬鹿正直に復興に手ぇ貸す義理も無ぇだろ」

「確かにね」

「そもそも、俺の話が全部嘘で、テメーは騙されてて良いように使われるって思わないのか?」

「いやだからソレをさっき確認したよね?私。ドッキリだよね?そうだと言って!って・・・」

「本気で俺の話信じるのかよ」




三つの目が、私を見据える。


疑っている訳でも呆れている訳でもない、凪いだ色をした瞳は、どこか全てに諦めを感じているようだった。


もし私がゼニスくんに協力しなくても、困るけど構わないって感じ。

何を言っても言われても、仕方ないで片付けるって雰囲気だけど。




「信じないよ、こんなトンデモ話。自分の目で全部確認するまで信じる訳ないじゃん。何でもかんでも言われた言葉を鵜呑みにする程世間知らずな歳でもないし?」

「さっきうら若き乙女っつってなかったか?」

「心は何時までも十六だから」

「精神年齢が低いっつー事か」

「喧嘩売ってる?倍額出すわよ?」

「そういう所が幼稚じゃと言われるんじゃわい」

「今まで生きてきて誰にも言われた事ありませんけど~~~?」




最早、恐怖を感じる事も無くなったロプスさんにギリギリまで顔を近付けメンチを切る。

寧ろバサバサ睫毛とうるるんお目目で愛嬌さえ感じるわ。




「と・に・か・く!」




睨み合いを止め、ビシッと白い指先を突きつければ、ゼニスくんは物凄く嫌そうに顔を背けた。



「私は異世界召喚されて骸骨になった!これがドッキリでも夢オチでもないならこのままこの世界で生きていくしかない。

この世界に頼れる人は居ないし、こんな姿じゃまともな職にもつけないし、真っ当な生活だって送れやしない。そうよね?

それとも此処じゃ骸骨が昼夜問わずに街中彷徨いてても討伐されない優しい世界だったりする?!」

「んなわきゃねーだろ。動く骸骨なんて悪霊(アンデット)魔物(モンスター)の最たるモンだわ。見かけたら誰もが逃げ出すし退治する対象だろ」

「ですよね!知ってた!だったらもう私の選択肢なんて無いに等しいじゃない!」

「まぁな」

「だ・か・ら・さっき聞いた話が嘘だろうが本当だろうがこうなった以上は協力します!最終確認しただけ!一応ね。

それがゼニスくんの希望なんでしょ?!その為に私を呼んだんでしょ?!腹括ってやろうじゃないの!

さぁ、具体的に何をして欲しいのかオネーサンに言ってごらん!」

「うっざ」

「魔王様を指差すでない、このバカもんが!」

「うざくない!あと埴輪は人の指に触手絡めてくんな!キモイ!!」

「キモイじゃと?!失礼な奴めが!あとワシの事をハニワと呼ぶでない、この骨っ子めが!」

「私の事も骨っ子って呼ばないでよ!」

「骨を骨と呼んで何が悪い!魔王様を敬わんお主なぞ骨っ子で十分じゃわ!」

「骨じゃないわよ!」

「いや、どう見ても骨だわ。あとうるせぇよどっちも」

「あ゛ぁん?!大体!こんな体になったのはキミ達のせいなんだからねっ?!」




ワーワー騒ぐ私とロプスさんを、ゼニスくんが顰めっ面で眺めている。

でもその目は安堵した様にほんのりと熱を持ち、鮮やかさが滲んでいた。


それを見て、しょうがないなって思ってしまった。

何故かと問われると、自分でも分からないけど。


こんな意味不明な事態に引っ張り込まれ、選択肢の殆ど無い可笑しな状況を突き付けられて、私には関係ないってダッシュで逃げ出したって文句言われないはずなのに。


さっき聞いた話だって、自分達に都合よく改変された内容かもしれない、むしろ全てが真っ赤な嘘なのかもしれない。

それなのに、何故かこの二人の言葉を受け入れてる私がいた。


もしかしたらそういった感情すらも、何かしらの魔法で操作されてたりするのかもしれないけど、私には確認のしようがない。


ただ目の前にいる、目が三つある少年と、逆に目が一つしかない埴輪相手にこの短時間で畏怖感や嫌悪感を抱かなくなったのは、紛れもなく私の今の"感情(キモチ)"だ。


このトンデモ状況が夢オチでも何でもなくて、打開すべき問題を抱えているならそれをサクッと解決して、第二の人生わくわくハッピー異世界生活(ライフ)(予定)を謳歌するしかない。

その為にはやるべき事をやるだけだ。


絡みついてくるロプスさんの触手をペイッといなし、私は声高に叫んだのだった。




「さぁ!作戦会議を始めるわよ!」



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