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お食事しましょそうしましょ

「本当にすみませんねぇ、うちのもんが大騒ぎして・・・」





そう言って苦笑しながら謝罪してきたのは、キャナリィちゃんとメイズくんのお父さんであるジョンさんだ。その横で恐縮しているのが、二人のお母さんであるミモザさん。


因みにおじいさんの名前はネープルスさんで、おばあさんはジャスミンさん。ひいおばあちゃんがプリムローズさん。あと、キャナリィちゃんの妹で今年三歳のマリーちゃんの総勢八人家族。

(因みにキャナリィちゃんが十六歳で、メイズくんはもうすぐ誕生日の十四歳だった。もっと幼いと思っててびっくりした)


みんな凄い小柄で、丸顔。ちょっとずんぐりむっくりしててなんか可愛い。そういう遺伝だろうと思うけど、もしかして異世界ファンタジーにありがちな、ドワーフとかホビットとかのそういう種族の人達なのかも。


そんな小柄な人達とはいえ、全員がその手に凶器じみた農具を持ち(流石にひいおばあちゃんとマリーちゃんは出て来てなかったけど)、プラス従業員数十人に取り囲まれると可愛いなんて思う余裕はさらさら無い。

私は集団リンチを受けるのかと恐怖で固まってしまっていた。


大事な子供たちを私から引き離そうとしたミモザさんが、腰を抜かしながらも必死に伸ばした手をキャナリィちゃんが払い除けて、




「シャルルさんは不審者っぽいけど不審者じゃないから!」




と擁護(?)&事情説明をしてくれたおかげで、私は窮地を脱する事が出来た。

そして色々と驚かれつつも、キャナリィちゃん一家に丁寧にお礼を述べられた。



・・・しっかしこの格好、そんなに不審者かな。キャナリィちゃん達にも怖がられてたもんね。

いやでもそんな変な服装じゃないはずよ?フードにストールに全面(フルフェイス)の仮面・・・・・・・・・。


うん、物凄く怪しいな。


これは帰ったらゼニスくん達に要相談案件だわー。




「あー、気にしないでください。こんな格好してる私にも非があるというか」

「まぁこの辺じゃそんなけったいな格好のもん、中々見かけませんからねぇ」

「ですよね~~~」




あはは~と乾いた笑いを上げておく。


キャナリィちゃんとメイズくんが口を揃えて私の身の上話を切々と語ってくれたおかげで、ここの農場の皆さんはすっかり私を『大怪我で記憶喪失になり、全身醜い傷跡がある呪われた可哀想な旅人』と認識してくれた。


・・・まぁ確かに、そういう風に私が二人に言ったのは事実なんだけどさぁ。


それをまるっと信じて、即座に私を受け入れてくれるここの人達のお人好し具合は、最早詐欺師にカモられないか心配になるレベルだわ。いや、ホント大丈夫?



まぁその結果、私は今ここの農場の人達に囲まれて朝食を取っている訳なんだけど・・・。



いつも朝早くに起きて直ぐ、農場の仕事を幾つか熟してその後、皆揃ってご飯食べるんだって。

なので、朝ごはんよりは遅く昼ごはんよりは早い時間に、朝昼兼用の食事をするらしい。


しかし朝食の時間になっても、外に飛び出して行ったメイズくんと、それを探しに行ったキャナリィちゃんが中々帰って来ない。

何かあったのだろうかと皆心配し、二人の様子を見に出て来たミモザさんとタイミング良く(悪く?)出会(でくわ)しちゃった為に、さっきの騒動となってしまったのだ。


私はあの時、二人と別れてさっさとハシカープ村に行くつもりだったのに・・・あれよあれよという間にキャナリィちゃんのお家にお邪魔する事になった。


二人を助けたお礼に是非一緒に朝食でも!と皆に誘われて断りきれず、気が付けばこうして大勢に囲まれて広いテーブルに着いている。


わいわいガヤガヤと賑やかな部屋には、きっと暖かな空気と美味しい匂いが充満している事だろう。私には分かんないケド。


キャナリィちゃんとメイズくんの間に挟まれ、テーブルに着く。

めちゃくちゃでかいテーブルの上には所狭しと美味しそうな料理が並んでいた。


大きな(カゴ)に山のように盛られた、ドーゾご自由にお好きなだけお取りくださいスタイルの丸いパン。

数種類の果物のジャムやバター、しょっぱい系パテなんかも用意されて、パンだけでも色々楽しめる。

ほっこほこに茹でた野菜、ゴロッとチーズ、ぶ厚いベーコンやぷりぷりのソーセージなども大皿でドドドンっと用意され、各々が食べたいだけ取って食べるバイキング形式。


それらが適当に、これでもかと言わんばかりに木製のお(プレート)に乗せられて、私の目の前にもででんと置かれている。

その横に置かれた、コロンとしたデザインの木製のマグカップになみなみと注がれているのは、柔らかなミルク色をしたスープ。小さく切られた色々な野菜が見え隠れするスープは、ほわほわと湯気が立っていて熱々なのが見て取れた。



あー、美味しそう・・・てか、絶対美味しいんだろうな~。



そうは思っても食欲は湧かないし、匂いも熱も感じない。食べる事も出来ない身なので、さてはてどうしようかと頭を悩ませる。




「シャルルさん、遠慮なく食べてくださいね」

「かーさん達のご飯、すっごい美味しいんやから!」

「これとこれ、パンに乗っけて食べるのサイコー」

「ありがとうございまぁす」




甲斐甲斐しく両隣りから世話を焼かれ、減ってないお皿の上にどんどん料理が追加される。




「搾りたての牛乳、甘いから飲んでみ」

「バターも新鮮で美味しいから!」




大きなテーブルに身を乗り出してまで、向かいに座る従業員さんがグラスに牛乳を注いでくれた。他の人も不審者(ワタシ)に臆することなくあれもこれもとオススメしてくれる。


ああ~、アンタらええ人らや~~~。

でも私、食べたくても食べられないんですよぉぉぉぉぉぉぉ!


キャナリィちゃんとメイズくんの期待に満ちた視線を浴びながら、とりあえずフォークを手に取った。



どうするか、どうしようか。



擬似皮膜あるから、口に入れても下に落ちることは無いかな?

そうなると、皮膜の内側にどんどん食べ物が溜まっていくけど、漏れたりしない?

ワンチャン、固形物はいけるかもだけど液体は無理かも・・・染み出てきそう。漏らしたと勘違いされたら泣くしかない。


擬似皮膜の内側がベッタベタになりそうだけど、これ水に浸けても大丈夫なのかな。

汚れるのが嫌だったから、薬草摘みとか除草作業の時は擬似皮膜脱いでたんだよね・・・。

擬似皮膜って洗って大丈夫なのか、レネットちゃんに聞いとけばよかった。


ぐるぐると色んな事を考えながら、手にしたフォークを一度置き、一番被害の少なそうな丸パンを入れて様子を見ようと、それを手に取った。




「そのパン、ばーちゃんが焼いたの」

「ばーちゃんのパン、めっちゃ柔らかくて美味しいんだ」

「ソーナンダー、ウワーオイシソー。イタダキマース。・・・・・・・・・」




一口大にちぎったパンを仮面の下から口に押し込もうとして、



ヒュッ




「ん?」




なんか、口に入れた手応え?がおかしかった。


パンの欠片は確実に私の口の中に入ったと思ったんだけど、その後"落ちた"気配がしない。


小さすぎて、分からなかったのかな?


もぐもぐと咀嚼するフリをして、嚥下(えんげ)する真似もしておく。




「どう?美味しい?」

「え、あ、うん。凄い美味しいよ」

「でしょ?!いっぱい食べてね!」




自慢のおばあさんのパンを褒められ、二人は満足そうに自分達の食事に戻る。

私はこっそり首を傾げながら、もう一度パンを口に入れた。




ヒュンッ




「んぐっ、」

「大丈夫?シャルルさん、喉詰まった?」

「う、ううん、平気。ダイジョーブダイジョーブ」




さっきよりも大きめにちぎったパンが、またしても変な手応えで『消えた』ので、思わず変な声が出てしまった。


いやしかし、消えたっていうか今の感じは・・・・・・・・・。




「吸い込まれたような・・・」




一瞬にして吸い込まれて。


じゃあその吸い込まれたパンは、一体どこに行った?


さわり、と自分のお腹を撫でる。

擬似皮膜の内側に、パンが落ちた気配は無い。


でも、私の口の中に吸い込まれたパンは何処(いずこ)へと消えてしまっていた。


恐る恐る、フォークを取ってソーセージに突き刺す。

それをまた口元に持って行き前歯で挟むと、



ヒュンッ



ソーセージとフォークがまるっと消えた。




「えっ?!フォークも?!」




手の中から消えたフォークを探し、キョロキョロと辺りを見回が何処にもその姿は無い。




「あら?もしかしてシャルルさんフォーク落としちゃった?」

「ぅおっ?!いや、あ、ハイ・・・?」




挙動不審な動きをしている私に気が付いたミモザさんが同じようにテーブルの下を覗き込み、一緒に消えたフォークを探してくれる。

しかし見つからないソレに首を傾げながら、新しいフォークをわざわざ取ってきて渡してくれた。

私は混乱しつつもお礼を言い新しいフォークを受け取ったけど、また消えると困るのでもうフォークは使わないでおこうと心に決めた。


そして意を決し、もう一度パンを手に取ると今度は丸ごと齧り付く。すると丸々一個のパンがヒュンッと消える。


そこから、次々と手に取った物を口元に持って行く。

行儀が悪いのは重々承知で、手掴みできるチーズや野菜、ベーコンなんかをどんどん口に入れていった。


その全てが、一瞬で消える。


かと言ってそれは『食べた』訳ではないので味を感じる事はないし、満腹感を得る事もない。そもそも未だに食欲は無いしね。


皆が食事を終え、使った食器を片手にテーブルを離れる中、こっそりと目を盗んでグラスに入った牛乳に口を付けると、それもグラスごと消えてしまった。




「シャルルさん、いっぱい食べてたね。お腹そんなに減ってたやね」

「どやった?お腹いっぱいになった?」




デザートらしい、フルーツのジャムが添えられたヨーグルトを食べている二人が、かなりの量の料理を平らげていた(ように見える)私に声をかけてくる。




「・・・うん、いっぱいになったよ。ありがとう。ご馳走様でした」




空っぽになったお皿を呆然と見つめながら、私は上の空で二人に返事を返す。

お皿を片付けるためにイスから立ち上がりながら、自分の身に起こっているこの謎現象を解明すべく、思考を巡らせていた。







◇◆◇◆◇◆







「さっきの、どーゆー事?」




使ったお皿は、流しに置いといてね。


そうミモザさんに言われてしまい、このお皿もフォークやグラスのように消えてしまったらどうしよう・・・と悩んだ。

しかしいつまで突っ立っている訳にいかないので、覚悟を決めてお皿を掴めばそれは消える事はなかった。


もしかして口に入れないとダメなのか?とお皿の縁をそっと噛んでみたけど、フォークみたいに消える事はない。(それを見たキャナリィちゃん達が、まだ食べ足りないのかと心配してきた。違う、違うんや・・・)


ひいおばあちゃんが残っていたパンをナプキンで包み、ソレをそっと手渡してくれる。

食いしん坊みたいな扱いをされる事に若干不満を覚えながらもお礼を言って、その後お手洗いを借りた私は、一人トイレの中で考えていた。


ゼニスくんの住居スペースのトイレもそうだけど、こっちの世界でも上下水道がしっかりと完備されてるんだね。

キャナリィちゃんの家も清潔そうな水洗トイレで、変な所で感心してしまったわ。



いやそんな事は今はどうでも良くて!



ここに来るまでに渡されたパンを齧ってみたけど、あの『ヒュンッ』て消える感じは無かった。


噛みちぎった分のパンの欠片が今度こそ擬似皮膜の内側を転がり、お腹の辺りに落ちた感触を感じる。


トイレの個室に入ってフードとストールを外す。服を脱ぎ、顎の下の(ツマミ)を探す。


ドキドキしながらお腹の中が見えるぐらいまでファスナーを下ろすと、袋状になった擬似皮膜の内側にさっき齧ったパンの欠片が転がっていた。


しかしそれ以外の、さっきまで食べていた物は何処にも無かった。


それを摘み出しファスナーを上げ、インナーを着直す。服を整えストールも巻いて、仮面を着け直してトイレを出る。


手の中には、さっきのパンの欠片。


どうして?


パンを口に含んだ、という状況は同じなのに、さっきは消えて今度は消えないのはどういう事なの?




「てか、どこいったの・・・」




食べた物がどこに消えてしまったのかが一番の謎だ。


確認の意味も込めて再現したくても法則性が分からないので、消えたのかどうかも確認できない。


手を洗って用を足したフリをしてトイレから出ると、キャナリィちゃんとメイズくんに出待ちされていた。




「おっと、どしたの?二人共」

「シャルルさんにうちの牧場案内したくて」

「仔牛いんの、可愛ぇから見せてあげるやね」

「えっ」




お礼という名のご飯もいただいた事だし、私はもうここを出ようと思っていた。


ハシカープ村は元々向かう予定だったプーラ村より遠そうだし、さっきの消えた食べ物事件の検証もしておきたい。


そろそろお暇しようと、ジョンさんかミモザさん辺りにその旨を伝える為、探しに行くつもりだった。


しかし、こんな不審者でもたまの来訪者に喜んでいるのか、キャナリィちゃんとメイズくんは少しテンション高く私の腕をそれぞれ取って、グイグイと引っ張る。




「いや、あの私・・・」

「もしかしてもう行っちゃう?」

「そんな急ぐ?ハシカープ村行くの」

「うっ」



両横から悲しげに見上げられ『ハイそうです』とは言いづらい空気。


するとそこに二人のおばあさんが通りかかり、ニコニコ笑いながら『旅人さん、今日は泊まっていきなさいや』と口調は柔らかいのに有無を言わさない圧をかけられてしまい、私は頷くしなかった。


急遽お泊まりが決まり、喜ぶ二人に苦笑いを浮かべる。


助けた時はあんなに警戒されてたのに、泊まる事を喜ばれるなんて思ってなかったなぁ・・・。


じゃあ今日は一日、うちにいるよね!


と、私の予定が勝手に決められ、結局牧場見学ツアーが決行された。


二人に連れられ、キャナリィちゃん家の牧場内を練り歩く。


キャナリィちゃんのお父さんやお母さん、従業員の皆さんが働く中、二人に連れられあちこちの作業風景を見させてもらう。


乳絞りをしている所を見たり、仔牛が集められている牛舎では乳やり体験なんかもさせてもらった。


なるべく邪魔にならないよう大人しく見て回ってるんだけど、どこの作業場に行っても態々(わざわざ)手を止めて向こうさんから色々と説明してくれるので、仕事の支障になってないか心配になる。




「やっぱりこれだけ雪が積もると、冬場は放牧しないの?」

「そんな事ないよ。放牧場は変熱魔法で雪が溶けるようにしてあるから、吹雪いてない限り外に出すようにしてる」

「運動させないと、ストレス溜まるからね。気温の上がる昼から放牧してるやよ」

「なるほど」




大人の牛ばかりが集められた牛舎で、餌を食む牛達を眺めながらキャナリィちゃんに尋ねると、そんなに答えが返ってきた。


変熱魔法っていうのは、街道にも施されている術式で、文字通り熱を操って雪を溶かす魔法のこと。

といっても完全に雪を溶かして無くしてしまうような強力な魔法になるとその消費魔力はアホほど多くなるので、あくまで術式が敷かれていない場所より積雪量が少なくなるレベル。牛が怪我することなく歩けるぐらい。


街道も人や馬車が通れるぐらいの雪に調節されていたから、そのぐらいの魔力なら常時魔法が発動してても問題ないって事か。


そーいえばその魔力はどこから来てるんだろう?




「《魔石》があるから」

「魔石?」

「知らん?魔力を溜めておける石の事やよ。使ったら魔力は減るけぇ定期的に魔力充填せんと使えんのやけど、それがあれば魔法がずーっと動くから便利なんじゃ」

「うちには働きに来とる人の中に、魔力充填できる人がいるから、その人に頼んで充填てしもらってるんやよ」

「ふーん・・・モバイルバッテリーみたいなもんか」

「もば?」




そんな方法で魔法動かしてるんだ。


てか、魔力って充填できるんだね。

だったらゼニスくんにも他の人から魔力充填してもらったら迷宮の【核】も直るの早いんじゃないの?あ、人間相手には無理なのかな。


私、魔法とか魔力の事イマイチ分かってないんだよね。自分じゃ魔法が使えないからあんまり理解しよって気にならないし。


でも無知すぎるとイザって時に困る事もあるかもだし、基本的なことは勉強した方がいいのかも・・・。騙されても嫌だからね。


帰ったらゼニスくんにでも聞いてみよう。



牛舎の次は、馬小屋に連れられる。

黒や栗毛の長い(タテガミ)が生えた、体が大きくて脚の太い馬が何頭もいた。


(つい)でに猫も数匹いた。錆柄の猫が安定感のある馬の背中で丸くなって寝ている。可愛い。


ここの馬は主に運送作業用で、重い物を運ぶ事を得意とするタイプ。

競走馬のようにスピードは無いけど、その分体力と持久力があって、パワフルなお馬さん達らしい。


でもどの子も大人しくて、私みたいな不審者が近寄っても暴れたり威嚇したりしなかった。心が広い。


その後は、絞った牛乳を一時的に溜めておくタンクや、自家製乳製品を作るための工房なんかを案内してもらって、昼過ぎには放牧された牛達を眺めて過ごした。


メイズくんが牛の名前を教えてくれたけど、数が多すぎなのとどの牛も同じに見える私には到底覚えられないので適当に相槌を打っておいた。

だってここの牛達、皆よく似た灰褐色(ブルーグレー)の体毛で、真っ黒なお目目で区別なんてつかないんだもん。


でもキャナリィちゃんも全部の牛は覚えきれないって言ってたから、メイズくんの記憶力が凄いんだと思う。


そう言ったら、キャナリィちゃんが『メイズは単に動物が好き過ぎるオタクだから、好きな物に対しての記憶力がおかしいだけやよ』と冷めた目で自身弟を見つめていた。


日が暮れる前に従業員さんが牛達を牛舎に戻して残った作業を終わらせるまでに、おばあさんやミモザさん、当番になってる従業員さん数人で晩御飯の準備が始まる。


私も晩御飯をご一緒させて貰う事になったので、その手伝いをさせてもらう。

大人数の食事の用意は結構大変な重労働で、皮を剥く野菜だけでも山のようにあった。


向こうでも自炊していたから、多少料理はできるけど、学校給食並の野菜の下拵えはやった事ない。

果物ナイフのような小さな包丁を貸してもらったので、只管(ひたすら)ジャガイモやニンジンの皮を剥いていった。


そんな私の隣りでは、どんどん美味しそうな料理が出来上がっていく。


今日の晩御飯のメニューは、具沢山きのこのホワイトシチューに、ポテトと牛肉のパイ包みがメイン。

温野菜のサラダにはとろーりチーズソースがたっぷりかけられ、トマトソースのショートパスタにはまた違った種類のチーズ(見た目モッツァレラ)がゴロッと入っていた。

あとはまた、丸パンが沢山用意されていた。


従業員さんが何人かと、ジョンさんが最後に食堂にやってきて、大きなテーブルに皆が揃った所で、いただきますと食事が始まった。


仕事終わりでお腹を減らした人達が、テーブルの上に所狭しと並んだ料理を次々と平らげていく様は圧巻で、その食べっぷりは見ていて気持ちがいい。


デザートにはパンプディングが熱々で出て来て、皆はふはふと美味しそうに頬張っている。



そんな中。



私一人が、めちゃくちゃ戦々恐々としながら食事を取っている。


朝ごはんと同様、またしても料理を口にした途端、消え失せるという謎現象が起こった。


朝ごはんの前例があったので、なるべくフォークやスプーンを使わずに食べようと思ってたけど・・・流石にシチューは手掴みでは無理だわ。

それでもなるべく口に食器を付けないように工夫しながら食事を続け、またソレを怪しまれないように周りに気を配りながら、酷く疲れる晩御飯を取った。


精神的に疲労困憊する食事って一体・・・。


精も根も尽き果てたので、パンプディングは遠慮させて貰ってご馳走様と手を合わせる。


それなのにキャナリィちゃんがどうしても一口食べさそうと、パンプディングの乗ったスプーンを口元に押し付けてきたので、仕方なく仮面をほんの少しずらして口を開けた。




「あれ?」

「どうしたの?食べないの?」




グイグイと押し付けられるスプーンも、その上の熱々のパンプディングもヒュンッと吸い込まれる事はなかった。


ついさっきまでダ〇ソン並みの吸引力を持って食べ物やら食べられない物やらをまとめて吸い込んでいたというのに。



・・・・・・・・・あ。



もしかして、と一つの仮説を立てる。


それを確かめたくて、私はキャナリィちゃんからスプーンを奪って『猫舌だから後で食べるね!』と言って、急いで食堂を後にする。


スプーンを持ったまま急ぎ足で人気のない場所を探してあちこち移動し、結局家の外に出た。


すっかり暗くなった屋外の、さらに人が来なさそうな建物の影に隠れて辺りを窺う。


灯りがなくても問題なく見えるのは、こういう時本当に便利だ。

私からは周りがバッチリ見えるけど、この暗さだと他の人からは私の姿は見えない・・・と思う。


おかしな行動をしてても、闇に紛れて分からないだろう。


そう思って、私はずっと着けてた仮面を取払(とっぱら)った。

久々に素顔を晒して、ふー・・・と大きく息を()く。


そして手に持ったままだったスプーンを、口元に持って行った。


やはり、吸い込まれることはない。


じゃあ今度は、私が立てた仮説の実験。


もしこれが合ってたら。

きっと、このスプーンは吸い込まれる。




「『いただきます』」




そう呟いてから、改めてスプーンを口元に持って行った。


スプーンが歯に触れる寸前。

多分唇があれば、触れていただろう距離になって、



ヒュッ、



すっかり冷えてしまったパンプディングが乗ったスプーン(ごと)、吸い込まれた。




「やっぱり」




仮説が、立証された瞬間だった。


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