厨二病かと思わなくもない
説明回が続いております・・・
こうして三族間での争いに終止符は打たれ、【人族】も無闇矢鱈と異世界人を召喚する事も無くなった。
(ていうか、異世界召喚の魔法使用に規制がかかったそうだ)
でも、それから数年が過ぎた頃にまた新たな問題が発生してしまった。
【魔族】減少に伴い【魔物】が異常発生する様になってしまったのだ。
徐々に数が増えだしたとはいえ、元々【魔族】の出生率は低い。
その上、生まれてすぐの赤ん坊に《魔道具》が造れるわけもなく、相変わらず《魔道具》は貴重品で【人族】誰もが気軽に扱える代物ではなかった。
《魔道具》が無いと多くの【人族】は魔法が使えない。
すると、消費されない《魔力》がどんどん溜まっていく。
《魔力》が濃度を増し、それが動植物の体内に異常蓄積されて変異を起こす。
時には【人族】すらも濃度の高い魔力を吸収し続けた結果、【魔人】へと変貌する事件も起こった。
【魔物】は見境なく人々を襲う。
【魔物】の被害が各地で多発し、早急に対策を練らないといけなくなった。
【魔物】を減らすには討伐するのが手っ取り早い。
それらを生業とする《狩人》という職種が作られて、彼等が討伐に使う専用の《魔道具》の作製も優先して行われた。
とは言え、全ての《狩人》が【魔物】を討伐できる実力を持っている訳でもないし、強力な《魔道具》であっても使い熟せなければ猫に小判、豚に真珠の無用の長物。
【魔物】の増殖スピードの方が早く、あちこちで集団暴走が起こる。
溢れ返った【魔物】によって人々は安寧秩序を乱され、餌となって数を激減させていく。
またしても悪循環の爆誕だ。
勿論、三族一丸となってそれに対処していたが如何せん魔物の増殖数が多過ぎた。
狩れども狩れども湧いてでる魔物に、疲弊と不安が溜まって行くだけ。
そこに、一縷の望みが齎される。
それは皮肉にも【人族】が『異世界召喚』の術式で呼び出した『異世界人』という存在だった。
というか元々【天族】が召喚魔法の術式を考えたのも、いつか起こるかもしれない魔物の集団暴走を止める為の物だった。
それを【人族】が勝手に持ち出し改造して利用した結果、魔族減少に繋がって、結局魔物が増えたという本末転倒なお話なのだが。
「それでも俺達は【人族】が勝手に改造して組み上げた『異世界召喚』の術式を認めざるを得なくなった」
だからといってそれを免罪符に、また異世界から『異世界人』をポンポン召喚されると困る。
『異世界人』は【人族】では無い。
つまり《亜素》を吐き出さない。《澱》が溜まらない。
組み替えた生体データに【天族】・【魔族】の特性を取り入れてるせいか《魔力》は扱えるが《魔素》を生み出す訳でもない。
確かに《魔力》消費に繋がりはする。
でも『異世界人』は、ただただこの星のエネルギーを消費する"だけ"の存在なのだ。
このままではこの星が、近い未来に枯れ果ててしまう。
でも、その事を【人族】に伝えた所で彼等が『異世界召喚』を自重する事はなかった。
寧ろ何時また襲ってくるかもしれない魔物から自国を守ると言う名目を掲げ、戦力保持の為に『異世界召喚』を何度も何度も行った。
当時行われた召喚魔法が全部、成功する訳ではなかったのが不幸中の幸いだったし、それで呼び出された『異世界人』の全てが【人族】の言いなりになった訳じゃない。
確かに《魔物》の討伐には異世界人の力は有用だ。
だからと言って【人族】に『異世界召喚』する理由を与えたままにしておく訳にはいかない。
だったらどうすべきか。
召喚が出来ないように【人族】から《魔法》全てを取り上げる、と言う意見もあったがそれは現実的では無い。
《魔力》と《魔力回路》が在る限り、この世界から【創世神】の恩恵である《魔法》を無くす事は無理な話だった。
では別の解決策を講じれば良い。
異世界人に頼らずに済む、別の手段を造り上げる。
【魔物】と《魔力》を人為的にコントロールするのはどうだろうか?
害獣と言っても過言では無い【魔物】の出現率を意図的に減らすと同時に《魔力》濃度を調整する―――【天族】が考え出したシステム、それが、
「この《迷宮》だ」
「ダンジョン・・・」
「《迷宮》のシステム構築は【天族】がやった。
で、それに必要な部品やらなんやらの製造と管理、修繕なんかは【魔族】がやってる。ま、適材適所ってやつだな」
「適材適所・・・」
《迷宮》を元々魔力が溜まり易い場所に建てる事で、その内部で人工的に【魔物】を生み出す。
その時、魔力を調節することで【魔物】の強さを均一化し、レベル分けする事で《迷宮》の難易度を設定できるようにする。
そしてその【魔物】を《迷宮》内で【人族】が討伐することで《亜素》を発生させ、それを直接《迷宮》に吸収させ《澱》へと変質させる。
この星の、元々の住民だけで回す、循環システムだ。
「でもそれって【人族】にメリット少なくない?
『何で俺らがそんな危ない事しなきゃならないんだー!』って文句出なかったの?」
「出るにきまってんだろ。だから餌を用意してやんだよ」
「エサ?」
「《迷宮》に潜って【魔物】を退治したくなるような"ご褒美"ってやつだ」
「例えば?」
「金銀財宝、レアな薬草、貴重な巻物、最強の武器に防具・・・それら《魔道具》。
強欲な【人族】が好みそうなモンならなんでも有りだな」
「《魔道具》は兎も角、それ全部どっから調達するの?」
「言ったろ?適材適所って。
俺ら【魔族】は《魔道具》だけじゃなく、そういったアイテム作りに長けてんだよ。素材生み出す事もできるからな。
得意不得意はあるから、必要なモンは協力し合って手に入れて作るか別注する。
そこそこに【魔族】が増えてきたからこそ、実現出来る手段だがな」
《魔道具》の入手先を完全に《迷宮》内でのみとする。
【人族】が欲しがる品々(アイテム)を【魔物】に埋め込み、それを退治する事で"ドロップアイテム"として入手する事が出来る仕組み。
貴重な《魔道具》になるほど、強い【魔物】に付与している。それが欲しいなら《迷宮》に深く潜り、強い【魔物】を退治するしかない。
美味しい餌をぶら下げることで【人族】に《迷宮》を探索させて《澱》を得ると共に【魔物】と《魔力》をコントロールしよう。
【天族】・【魔族】達は効率よく《澱》を溜める事ができ、【人族】は手に入れたアイテムで生活が潤う。
互いに利益が生まれる、画期的なアイデアだと思った。が、
「ダメだったの?」
「駄目じゃねぇよ。実際上手く回ってた、最初はな」
「最初は?」
「狙い通り、欲の皮突っ張った【人族】の奴らはホイホイ《迷宮》にやってきて、こっちの思惑通りに動いてた。
てか、そうしなきゃ《魔道具》が手に入らねぇからな。
【人族】も全部が全部、非常識な魔法使い至上主義者じゃねぇ。俺らと手を組むことで平和に暮らせるようになんなら、それが最善策だっつって動く奴らも居る。
《狩人》って名乗ってた奴らが《探索者》に名前変えて『組合』を立ち上げて《迷宮》探索に"組織"ぐるみとして取り組むようになった」
そこで言葉を止めたゼニスくんが、元より不機嫌そうに刻んでいた眉間のシワを更に深くした。
「なのに、何か問題でも起きた?」
「起きまくった」
「え、何で?何があったの?」
「【人族】の息のかかった『異世界人』が《迷宮》探索に来やがった」
「それってダメなの?」
「テメー、人の話聞いてたのか?」
「聞いてたけど・・・」
「『異世界人』は《亜素》も《魔素》も出さねぇ。けどエネルギーだけは無駄に消費する」
「あ」
「【人族】は《魔道具》がアホほど欲しい。でも《迷宮》に潜るには力不足な部分が多いし、そんな事に自分の時間を費やしたくない。
だったら暇を持て余してた『異世界人』に高値でアイテムを買い取るとでも言えば、暇潰しに《迷宮》に行くようになるだろと考えた。実際、そうなったしな。
異世界人らは俺らの想像を遥かに超える能力と武力で【魔物】を狩りまくる。アイテムをかっさらっていく。なのに《澱》にはならねぇ。
《迷宮》本来の目的をまるっと無視して自分達の利益のみを優先する。欲しいアイテムがありゃ、頭がおかしいんじゃないかってぐらい何度も何度も同じ《迷宮》に潜って狩りをする。となりゃ、どうなるか分かるだろ?」
「《迷宮》システムは破綻する・・・」
「御明答。全く持ってその通りだ。しかも簡単に最下層まで降りてきて《核》を破壊して欠片を持ち帰る」
「《核》って?」
「《迷宮》システムの心臓部。文字通り【管理者】の"心臓"を結晶化させた、超高密魔力結晶体」
「心臓を結晶化って・・・管理者?って人は大丈夫なの?」
「本来ならな。
《核》になった【管理者】は基本《迷宮》から離れられなくなるが、その分直に《澱》を吸収出来るようになる。
だから他の奴らよりも魔力は強ぇし《迷宮》内で死にかけてもなんとかなる。擬似不老長寿でいられる・・・・・・《核》が傷つかない限りな」
「傷つくとどうなるの?」
「一回壊されたぐらいじゃ、そんなに困る事はないんだがな。
短期間のうちに何度も何度も破壊されて、その上《核》の破片を持ち帰って《魔晶石》として消費されりゃ、回復がおっつかねぇ」
「と、言うことは・・・?」
何となく、嫌な予感に駆られる。
ゼニスくんはニヤリと笑うが、どこかその笑みは自嘲気味だ。
「お察しの通り。《核》はどんどん小さくなる。破壊され削られてボロボロにされた《核》じゃあ《迷宮》は維持できない。
《迷宮》の規模はどんどん縮小され、最終的には《核》になった奴諸共消滅して終わりだな」
「やっぱり~・・・。もしかしなくてもゼニスくんはその"管理者"ってやつ?」
「一応な」
だよね!話の流れでそうじゃないかと思ってました!
軽い口調でゼニスくんは言うけど、それって全然楽観的に言う内容じゃないよね?!
「最初に言ってた復興どうのこうのもだけど、こんな話をするって事はもしかしなくてもその危機的状況にゼニスくん自身が陥ってるって事だよね・・・?」
「よく分かってんじゃねーか」
「やっぱり!えっ、大丈夫なの?!」
「ま、あんまり大丈夫とは言えねーなぁ」
「魔王様"あんまり"ではありませんぞ!かなり大丈夫では無い現状で御座いましょうぞ!」
「要らん事言うなよ、ロプス」
「全盛期は八十層以上あったこの《迷宮》がたった五層になる程に規模縮小を強いられ、あれ程までに強力な魔力を誇っていた魔王様が、儀式に触媒を用いねば満足に召喚も出来ないレベルで弱体化しているこの状況を、あんまりとは到底呼べますまい!」
「うん、それは確かに"あんまり"で済ませれる事じゃ無いと思うねぇ・・・」
それまで黙って食事の準備をしていたロプスさんが、こちらを振り返ってまで口を挟んでくるぐらい、ゼニスくんの置かれた状況は良くないものなのだろう。
「ここまで弱ってんだ。今更泣き喚いたところでどうしようもねぇだろ」
「ですが!」
「だから呼んだんだろうが、此奴を」
顎をしゃくって私を指す。
ロプスさんはたった一つしかないデカい目玉でギョロリと私を見てきた。
バッサバサの睫毛を風を起こしそうなぐらい瞬かせる。怖い。
「・・・まぁ要するに、異世界人による迷宮脳死周回が原因でゼニスくん他【魔族】さん達は瀕死の状態って訳だ」
「簡単に言や、そうなんな」
「じゃあ私にそれを何とかしろって言うの?」
「別に世界中の《迷宮》を何とかしろって訳じゃねぇよ」
「そうなの?」
「とりあえずこの《迷宮》の復興が最優先事項。
此処に【人族】が来て《澱》が溜まりゃあ、俺も《迷宮》も回復の目処が立つ。その為の手段は何でもいい。
他の似たような状況の《迷宮》にゃ悪いが、俺が召喚したんだ。ここの復興からやってもらう」
「でも何で私・・・?」
「何でもいい。誰でも良かったって言わなかったか?」
「あ〜・・・言ってたね・・・」
「起死回生の一手っつったろ?この世界で好き勝手やってる『異世界人』に対抗するにゃ、同族ぶつけんのが手っ取り早い」
「それで『異世界召喚』」
「そーゆーこった。テメーは俺がやった召喚術に、偶然にも釣り上げられた運のねぇ異世界人様って訳だ」
「なるほどね~」
ようやく話の終わりが見えて、ふむふむと腕を組んで頷いた。
しっかし結構長い話だったけど、途中でよく寝なかったな~・・・と自分で自分を褒めてあげたい。
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