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アタシ、ペールオレンジの怪異!ヨロシクね☆


心底お帰りを願ったのに、レネットちゃんは私に試着を強要するし、ラセットくんもレネットちゃんが帰るまで一緒に残ると宣言した。それにゼニスくんが、




「試着先延ばしにして今日こいつらを帰しても、また後日擬似皮膜の様子見に来るぞ」




と、尤もな事を言うので諦めて擬似皮膜に腕を通す事にする。

しゃーない。試着ぐらいちゃっちゃと終わらせて、この二人には早々にお帰りいただこう。私の心の安寧の為に。



こうして三人が見つめる中、私のお着替えショーが開催された。

てか骨の"逆"ストリップショーを見て、一体何が楽しいんだろうか・・・・・・。


レネットちゃんの造ってくれた擬似皮膜はどうしてかサイズが大きいらしく、試着の為に広げるとびろーんとたるんで布地が床に着く。


前開きだと言われたので前後を確認すれば、首の部分に凄く小さなファスナーの(ツマミ)を見つけた。

それをお腹の辺りまで引き下ろし、袋状になっている擬似皮膜の中に足を入れる。


ゆるっゆるの擬似皮膜を着て、手足の指部分にまでちゃんと骨を通し、フードになってる頭部まで被ると、ファスナーを一番上まで閉めた。

ファスナーをきちんと閉めると、その合わせ目は全く分からなくなる。鈕も指先で確認して微かに分かるぐらいにしっかりと擬似皮膜に埋まってしまった。


うーん、まるで膨らみの無いキグルミを着ているみたいだな、これ。




「これ、こんなダブダブでいいの?」

「はい、そのままちょっと待ってくだい」




レネットちゃんに言われ、暫し待つ。

すると、




「おぉ?」




ゆるゆるサイズだった擬似皮膜が、徐々に引き締まっていった。


骸骨(カラダ)密着(フィット)するように擬似皮膜がどんどん絞られていき、三分程で程よいサイズに落ち着く。




「すご・・・本当の"体"みたい」




擬似皮膜がピッタリフィットした自分の体を見て、驚きの声を上げる。

語彙力無いからそうとしか言いようがないんだけど、本当に本物の皮膚が張り付いたように見えた。


自分の体をあちこち眺め、私は感嘆の息を漏らすばかり。



骨だけだった体にようやく、人間らしい厚みが出来た。



とはいえ、擬似皮膜で覆われた私の体は一般体型と比べると随分とスリムに見える。

肉付きが薄目で中性的。服を着てしまえば男性にも女性にも見えそうな体型だ。


局部のリアルな表現は無くツルリとしていて、胸やお尻の凹凸は控えめ。


何かこの体型、既視感を覚えるな~と考えていて『あ、これリ〇ちゃん人形じゃね?』と思い当たった。


幼少期に遊んだ着せ替え人形がこんな感じのツルペタで、なんの色気もない体をしていた事を思い出した。




「どうですか?苦しくないです?」

「苦しくないよ。多分、問題ないと思う」




レネットちゃんに問われても初めて着る物だし、どこがどうおかしいのかもさっぱり分からないので疑問形で返事をする。


その時、何か妙に周りが静かになってる事に気が付いて振り返ると、ゼニスくんとラセットくんが私からパッと目を逸らした。


なんで目を逸らされたのか分からず、首を傾げる。


・・・・・・あ、もしかして擬似皮膜着たのが裸に見えたとか?それで照れて、こっちを見ないようにしている?


でもこの身体ってどこかのっぺり感があるし、よくよく見れば"本物"の裸じゃないって分かるハズ。

それに彼らはこれが擬似皮膜だって知ってるんだから、そんなに照れるような事無いと思うんだけど・・・。


何か着た方がいいんだろうか?とか考えていると、ゼニスくん達が小刻みに震えているのに気が付いた。

いや、それは震えるというか我慢しているというか。


こちらをチラ見しながら、何かに耐えている様に見える。



・・・・・・・・・あれ、笑ってるな。



私は無言で姿見(かがみ)の前まで歩いていった。

こうして体を動かしてみても、引っ掛かったり突っ張ったりするような支障はなくスムーズに動ける。


擬似皮膜って凄いな~と思いながら、鏡の前に立った。


そして、ゼニスくん達が笑う原因を突き止めた。




「レネットちゃんや」

「はい、何でしょう?」

「なんでコレ、顔周りの擬似皮膜が無いのかな?」




そう。鏡に写った私の顔部分に擬似皮膜は無く、まぁるくくり抜かれた穴からは白骨(なかのヒト)が丸見え状態。


それが凄く間抜けに見えるから、ゼニスくん達が笑っていたのだ。


てゆーか、何かコレも既視感あるな。この見た目どこで見たんだっけ?



・・・あ、これアレだ。

ペールオレンジのスク〇ームだ。



大昔、夜中に友人宅で半ば強引に勧められて観る羽目になったホラー映画を思い出した。


と言っても、内容なんて覚えてない。


当時私と、もう一人別の友人の三人でその映画のDVDを観てたんだけど、そのもう一人の友人がホラーが大の苦手な子で。

ホラーと知らずに見始めた友人がビビりすぎて大声でギャーギャー悲鳴を上げ、ご近所さんがその叫び声に驚いて何かあったのかと駆け付けてくるという大騒ぎになり、中断を余儀なくされたから。

お巡りさんまで来て、めちゃくちゃ怒られた記憶の方が強い。


その時観てた映画に出てくる怪異(?)から恐怖を抜いたらこんな感じなんじゃないかなと思う。




「顔を全部覆ってしまうと視界も悪くなるし、呼吸もしにくくなっちゃいますから」

「視界はともかく、私呼吸してないから別に丸々顔の部分を無くさなくても大丈夫だったんだけど・・・」




口は切れ込みで、鼻はちょっと高さがあって、目の部分だけ穴が空いてれば問題無い気がする。




「・・・・・・・・・そうでした!」




私の言葉に、はっ!と気が付いた様子のレネットちゃんが口元を手で覆う。




「ごっ、ごめんなさい!すっかり忘れて顔の所を全部切り取っちゃいました」

「そーいえば前に型取りした時に、まるっと切り取ってたねぇ・・・」

「どうしましょう、これ造り直した方がいいですよね?」

「うーん・・・」




姿見で全身を見る。

そこに写るのは、リ〇ちゃん人形のス〇リームVer.

髪の毛も無くて、人形の素体そのものだ。


鏡の前で体を捻ったり、色々とポーズをとってみる。

その度にゼニスくんとラセットくんが笑い転げているのが視界の端にチラついていた。


まぁ気持ちは分からんでもない。

私も客観的に見たら爆笑すると思うし。


レネットちゃんだけが、自分の造った擬似皮膜の失敗点に困った顔をしていた。




「ま、大丈夫かな?動きには問題ないし。顔は・・・どうにかするよ」

「いいんですか?」

「うん。こっちで考えて何とかするから、心配しなくて大丈夫。レネットちゃん、本当にありがとう」




不安そうに背後から私を見ていたレネットちゃんに振り返って、笑顔の代わりにカクリ、と首を傾けてみせた。


するとそれまで笑っていたゼニスくんが、声を震わせつつ会話に加わってくる。




「あー・・・、その顔隠すんだったら、面でもなんでも着けりゃいいだろ。ロプスにでも頼みゃ適当な板で直ぐに仮面ぐらい作るだろうしな」

「そうなの?ロプスさん、そういうの得意なんだ」

「アイツは【樹精(ヴァーオム)】だからな。木工細工はお手のモンだわ」

「へー。そんな特技があったんだ」




普段、ゼニスくんの身の回りのお世話か畑仕事してる姿しか見た事なかったから、そういう職人っぽい事してるのが想像つかないや。




「じゃあ後でお願いしてみるよ」

「一日もありゃ出来上がるだろ」

「よかった・・・」




安心した様子のレネットちゃんにもう脱いでもいいかと尋ね、了承を得たので顎の下にあるハズのファスナーの鈕を手探りで探す。




「んん?・・・あれ、どこだ?」




元々とても小さな鈕だったのが、擬似皮膜が体にフィットしたと同時に顎の下に埋もれてしまって、なかなか取っ掛りが見つからない。


それに手足の先まで擬似皮膜に包まれた今、いわば私は全身タイツを着ているのに等しい状態。

薄皮一枚・・・いや、ちょっと厚みのあるゴム手袋をして触っているみたいで、指先が上手く感覚を拾えないでいる。




(これ、慣れとかなきゃ色々危ないな~・・・)




骨だけの時と勝手が随分違うので、慣れるまでは暫く擬似皮膜を着用して生活した方が良さげだな。


そんな事を考えつつ、姿見に近付いて鈕を探そうとしていた時、背後に立つ影に気が付いた。




「へ」




誰だ?と確認する前に、クルンッと体を反転される。


向かい合わせにされて、顎を持ち上げられてようやく、目の前に立っている人物を見た。




「え、何?ラセットくん?」

「じっとしていろ」




グイッと顎を逸らされ、喉元を覗き込まれる。

顎の下をラセットくんの指が何かを探るように動いていた。


擬似皮膜がある分、直に骨を触られるよりは鈍いけど、それでもサワサワと顎の辺りをまさぐられてかなり居心地が悪い。


無意識に頭を後ろに引いたところ、ラセットくんに動くなとばかりに睨まれてしまったので、大人しくしておく。


やがて目的の物が見つかったのか、それを引っ張られると、僅かにチー・・・ッとファスナーが下りる音が聞こえて、胸元まで擬似皮膜が開いていた。




「あ、ありがとうございます・・・?」

「モタモタと見苦しい動きをしていたから、仕方なくだ」

「そっすか。お手数お掛けしてサーセンっした」




フンッ、と鼻を鳴らしてこちらを見下ろしてくるラセットくんに一応お礼を述べておく。

じゃないと『屍人は礼のひとつも言えないのか』っていつまでもネチネチ嫌味を言われかねないからね。


お腹の辺りまでファスナーを下ろすと、また擬似皮膜がダルンダルンの(たゆ)んだ状態になったので、足を引き抜き擬似皮膜を脱いだ。


それを軽く畳んで腕にかけたところで顔を上げると、驚いた顔のゼニスくんとキラキラと目を輝かせたレネットちゃんとに見られていた事に気が付いた。




「え、何?」

「シャルルさん、ラセット兄様とそんなに仲良くなってたんですね!」

「何の話?」

「だってあの兄様が、私以外の世話を焼くなんて見た事ないです」

「世話・・・?」




何の事?と、目の前に立っていたラセットくんを見上げた。

ラセットくんも訝しげにレネットちゃんを振り返り、次に私を見て―――




「っ?!」




ぼわっ、と顔を赤らめた。

そして慌てて私から数歩距離を取る。


あ、これもしかしてレネットちゃんにやるのと同じ感覚で私にやっちゃったパターンだな?


ラセットくんは基本、お兄ちゃん気質というか、多分根は世話焼きなんだろう。

ゼニスくんの事も気にかけて様子見に来るとか言ってたし、なんやかんや言いつつも人を甘やかすタイプとみた。


おそらく私が擬似皮膜を脱ぐのにモタついてるのを見て、イラッとして手伝ったんだろうねー。




「ちがっ、コレはこの屍人が!」

「そーそー。私が鈍臭くて擬似皮膜脱ぐのに手間取ってたから、見かねて助けてくれただけだよ」




大好きな妹に誤解されたとなると、ラセットくんの私への当たりが益々強くなるし、小舅の嫌がらせがエスカレートしそうなのでここは冷静にフォローを入れておこう。


それでもレネットちゃんはニコニコ・・・というより、ニヨニヨといった笑顔を浮かべて私達を見ていた。

その隣ではゼニスくんが口元を手で覆いながら、何か考え込む様に眉間に皺を寄せている。




「いえいえ、普段兄様が他人に関心を持つなんて事、滅多にありませんから!これは絶対、シャルルさんと仲良くなりたいんですよ!!」

「レネット!誤解だ!!俺は別に屍人なんかと」

「ほーぅ。こりゃあ意外だったなぁ、ラセット。

テメーとは長い付き合いだが"そういう"のが好みだったとは知らんかったわ」

「ゼニス?!お前まで何を言い出すんだ!」

「んふふ~。ラセット兄様ったら照れちゃって。オ・ト・モ・ダ・チ♡が増えて良かったですね!」

「違う!此奴は断じてそういうのでは・・・!」

「ちょっと二人とも、なんで急にラセットくんの事そんな弄り倒すの?私が被害を(こうむ)るんだよ?分かってる?」

「あー、だからか。初めてシャルと会った時からやたらと突っかかってんな~とは思ってたんだが」

「アレだよ、ゼニス君。好きな子ほどいじめたいっていう愛情表現」

「なんだよ案外ガキっぽい思考してんな、ラセット」

「ホントやめてゼニスくん、レネットちゃん。私まだ死にたくない」

「分かります!『キュン死』ってやつですよね?」

「違うよ?」




全くもって、違うからね?

レネットちゃん、お願いだから余計な事言わんで。

ラセットくんが(怒りで)ブルブル震えてるの、ちゃんと見て。


噴火寸前の火山の様なラセットくんからじわじわと距離を取る。

が、ラセットくんが勢いよくこちらを振り返ってきた事で逃亡の失敗を悟った。


(まなじり)を吊り上げ歯を剥き、青筋を幾つも立てた美人の憤怒の顔ほど、恐ろしいものは無い。


カチャリ、と腰に下げた剣の柄に手をかけたのを見て、私は後退った。




「ひぇ」

「レネットから勘違いされる様な事をさせた貴様は土に還さねばならん」

「いや、勝手にやったくせに・・・」

「五月蝿い!!消え去れ屍人!!」

「横暴過ぎる!!」




ブンッ!と振り回された長剣を避けると背後の姿見に当たって、ガシャンッ!!と派手な音を立てて鏡が砕け散る。




「おい、ラセット!他人の家のモン破壊すんじゃねぇぞ!!」

「兄様!照れ隠しで剣を振らないでください!!」

「照れ隠しじゃない!」

「嘘でしょ?!この人本気で私を殺しに来てるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」




レネットちゃんの言葉で余計にラセットくんが暴走し、客室が半壊するまで私は追いかけ回されたのだった。


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