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真面目な話って眠くなるよね

説明回なので長めです・・・



「此処は《神露球(トレーネン)》。テメーらからすりゃこっちが異世界ってやつだな。

世界の成り立ちなんかは省くぞ。神代の話に興味があんなら暇な時にしてくれ」




ゼニスくんによる異世界解説と状況説明は、そんな言葉で始まった。


淡々と必要な情報を語る彼によると、この世界で暮らす種族は



天族(ヒンメリッカ)】・【魔族(ナハトーン)】・【人族(ティアーノ)



の、三族のどれかに分けられる。

(因みにこの三族を主として、特徴やら何やらで細かく種族が分岐するらしいケド、今は関係ないので割愛するとの事)


数百年も前は三族各々が住むのに適した土地で暮らしていて、干渉し合う事も無駄に争う事もなく、平和に住み分けていたらしい。


でもまぁ過去に地殻変動やら大規模災害やらが色々起こって住む場所を追われたり無くしたりして、だんだんと三族が安心して暮らせる場所が減り、住める場所を共有するようになって。

だったら、それぞれの生まれ持った特性とか特技を活かしつつ協力し合って生活した方が、何かと便利だよねって意見が出た。


当時の三族の代表による討議の末に"三族協定"なる物が結ばれ、残った土地・・・現在殆どの種族が集まるこの中央大陸《神岩固地(ファーオストン)》で暮らすようになる。


そうやって同じ大地に暮らし始めた彼ら。

でも実は、その協定を結ぶよりも前から"相利共生関係"でもって均衡を保ちながら生きていた。



その関係性の根幹に有るモノとはズバリ、《魔力》



《魔力》は地球で言うところの"空気"のような存在であって、その濃度は場所によってまちまち。

それでも世界中の何処にでも常に満ちていて当然のモノ、らしい。


ではその《魔力》が何処から出ているのか?と言えば、それは【天族】・【魔族】の体から。


《魔力》の他に、その素となる《(おり)》っていう物質も此処には在って、それが【天族】・【魔族】にとっての生命エネルギー源の様なもの。


その《澱》を皮膚や呼吸で体内に取り込むと、彼等の体内を巡って《魔素》となる。

《魔素》が彼等の体外へ放出されると空気中の《精霊元素》と結びついて《魔力》へと変わり、【人族】が体内に取り込む事で魔法が使えるようになる。


そして魔力を得た【人族】が生命活動をする事で体外に《亜素》が排出され、それが地中に溜まると《澱》へと変質。

《澱》は一定濃度に達するとまた空気中に放出される。


それをまた【天族】・【魔族】が取り込んで《魔力》に変えて・・・といった具合に循環しているそうだ。



(【天族】・【魔族】は自分達の体内で《魔素》を直接《魔力》へ変換出来るので《澱》さえあれば魔法は簡単に使えるらしい)



その説明を聞いて私の頭に浮かんだのは、地球で植物が行う《光合成》の仕組みみたいだな~って事。


光エネルギーを使って、二酸化炭素と水から炭水化物を合成する化学反応。そして人間に必要な酸素も作り出す。

その酸素は動物が吸って、また二酸化炭素を吐き出す。

そうやって循環される事で私達地球人は生きる事ができている。



つまり、

【天族】・【魔族】=植物

【人族】=動物

《澱》=二酸化炭素

《魔力》=酸素



って考えたら、何となく理解出来た気がした。


そしてこれが、この世界に暮らす人々の間の相利共生・・・所謂、持ちつ持たれつの関係性。


魔力は【天族】・【魔族】からしか得られないし、澱は【人族】だけが生み出せる。

どっちが不足しても困るし、誰が欠けても成り立たなくなる世界の必要循環機関。


そんな相利共生関係なのに、少し前からその均衡が崩れつつあるというのが、今回私が召喚された原因の一つであるらしい。




「どっかのど阿呆なお偉いお国の王さんが、欲かいたんだよ」

「それは偉い人なの?偉くないの?どっち?」

「頭の悪い、国のトップ」

「うわぁ・・・」




【人族】が《魔力》を魔法として使う為には基本《魔力回路》というモノが必要になる。


《亜素》を出すのに《魔力回路》は必要無い。ただ生きているだけで【人族】は無意識に《亜素》を吐き出すから。

しかし《魔法》を使う為には、どうしても《魔力》を"動"エネルギーに意識的に変える必要があった。


それが《魔力回路》。


でも【人族】には生まれながらにしてその回路が備わっている人と、そうじゃない人がいる。

昔はその回路の有る無しで、階級が決まる程に差別があったそうだ。


"王族"や"貴族"階級がソレ。


未だ、階級制度が無くなった訳では無い。

でも昨今は《魔力回路》問題が緩和されて、それを理由にした差別は減りつつあるらしい。

でも百数年ぐらい前までは魔法による階級制度は当然で、差別は顕如なものだった。


そのせいで【人族】間での"人同士"、"国同士"の争いが幾度となく起こった。

"魔法使いこそ至上の生命体(イノチ)である"と声高に叫ぶ【人族】が、魔法を使えない人達を平民・愚民と蔑み、彼らに奴隷同然の扱いを強いていた。


魔法が使える【人族】を"真血(ブルートゥ)"として、それ以外と交わる事を良しとしない。

魔力回路を持つ者同士で婚姻・交配を繰り返した結果、それが原因で子が生まれにくくなった。


【天族】・【魔族】にしてみれば魔法なんて使えて当然の能力だし、ちょっと魔法が使えるぐらいの【人族】が何イキってんだ?と傍観していたけど、そのせいで【人族】の人口が減っていくのは看過できない。


元々《神露球》の人口割合の大半を占めていたのが【人族】だ。

戦争や差別が原因の大量殺戮で【人族】が勝手に減少傾向に陥るのはいいが、そのせいで《澱》が減るのは困る。


何故なら《澱》は【人族】が吐き出す《亜素》から"しか"生まれないエネルギー。

【人族】が減って《澱》が減少すれば、自分達の死活問題に繋がるのだ。


それは看過できないね~と、【天族】・【魔族】の代表間で話し合いが行われた。




『じゃあさじゃあさ!《魔法》が使えないせいで争ってるなら、ソレを皆が使えるようにすればいんじゃね?』




と、言ったかどうかは定かでは無いケド。


《魔力回路》が無い者でも《魔法》が使えるようになれば問題解決するだろうと単純に結論付け、では具体的にどうするのかと考えた結果。



《擬似魔力回路》と《魔道具》を造り、それを【人族】に使わせるという策が出た。



でも【人族】にこのシステムの全てを提供すれば、利己的に乱用する輩が現れるのでは?


とのご尤もな意見が出て、確かにそれはそれで別の問題が出てきそうと言う意見も上がったので、



――【天族】が管理する施設でのみ《擬似魔力回路》を埋め込む儀式を受けられる。

――【魔族】が造る《魔道具》でもって《魔法》と同様の力を発揮する事が出来るようになる。

――この二族以外の者が上記に値する行為を行った場合、その者は厳重な処罰の上、三族の監視下に永久的に置かれるものとする。



と、利用制約を設けた。


二族の管理下に置かれたこの"制度"に【人族】からは不満の声も上がったが、このシステムが確立された事で誰でも気軽に魔法が使える様になった。

【人族】間での酷い階級差別に終止符が打たれ、人口減少の流れに歯止めがかかった瞬間だった。



だがしかし、である。



これで一安心、良かったね~とならなかったのは(ひとえ)に【人族】の強欲さのせい。


【人族】の中の真血(ブルートゥ)魔法使い至上主義者達・・・主に王族・貴族達は、皆が平等に《魔法》を使える様になる事が気に入らなかった。


そのシステムを作り上げた【天族】・【魔族】に強い反発心と嫌悪感を抱いた。


どうにかしてそのシステムの権利全てを手中に収め、再び権力を振り翳したかった。

そして鼻持ちならない【天族】・【魔族】をも配下に置き、この世界の支配者たるは【人族】あると知らしめてやろうと、愚かにも思い上がったのだ。




「で」

「で?」

「アイツらは前に【天族】(そそのか)してパクってた『異世界人召喚』の《魔法》を、自分達が使うのにご都合よく改造しまくって他の世界から【異世界人(ニンゲン)】を呼びつけた」

「何の為に?!」

「そりゃ、俺らをねじ伏せる為だろうよ。

【天族】の奴らが組んでた召喚の術式には元々、異界の壁を乗り越える時にその肉体をこっち側に適合するように組み替えるモンが含まれてる。

じゃなきゃ言葉も通じねぇし、最悪生命活動そのものが異なってコッチに来た途端呼吸も出来ずに即お陀仏ってパターンも無きにしもだからな。それを魔改造しやがった」

「うわぁ・・・」

「その改造召喚魔法で、生体データを【天族】・【魔族】寄りにして、最初(はな)っから《魔力》と《魔法》に特化した体でこっちに来れるようにする。

呼び出された【異世界人】には、異界に適応できる《頑強な肉体》が与えられ、その上何故か【創世神】直々に《特殊能力》が付与される。

今まで俺達が見た事も聞いた事も無いような"特殊(エクストラ)スキル"っつーやつだ。

【異世界人】達はソレを当然の如く自由自在に使い(こな)すし、応用まで利かせやがる。

《頑強な肉体》に《魔法》。プラス《特殊能力》だぞ?

そんなん最早、超人(バケモン)だろうが。俺らが対処すんなんざ無理な話だろ。

で、そんな超人を呼び出す事にまんまと成功した【人族】は、奴らに泣きつく訳だ・・・。

『我々【人族】は【魔族】達に虐げられている。異世界の勇者様、助けて下さい~』

ってな。あと、

『元いた場所には帰れません。この世界で生きていく為には自分達に協力するしか道は無い。でも悪い様にはしませんよ?だって私達はアナタ方の良き隣人なのですから!』

って堂々と虚言を並べ立てるまでがワンセットだ」

「あぁ、あるあるパターン・・・・・・でもそんなんでコロッと騙される【異世界人】って多いの?」

「さぁな。騙されてんのかどうなのかは知らねぇが、やって来た異世界人は軒並み【魔族】は悪モンだって思ってる奴らが殆どだ。

全部が全部【人族】の言いなりになってはないが、こっちが【魔族】ってだけで襲って来やがる」

「あー・・・何か分からなくもない・・・」




魔族ってこう、響き的に悪い奴ら!ってイメージが強いんだよね。




「【魔物】と【魔族】を同一視してんだろうな」

「違うの?」

「違ぇよ。【魔族】も【天族】も【人族】も元を辿りゃ【創世神】の末裔だ。で、【魔物】は《魔力》で変質した動植物の総称」

「ふーん」




突然変異体、みたいな物だろうか?




「【魔物】は凶暴性が高い。人だろうが何だろうがお構い無しに襲う。

魔力で変質してっから、魔力濃度が高い所に生息してるヤツらはそれが色濃く出る。

攻撃力が高い奴、知力が高い奴、魔法を操る奴、その土地に適応してどんどん能力を変える。

一貫して言えんのは、何奴も此奴も獰猛で食欲旺盛。目に付くもんは全部喰らう・・・動物だろうが人間だろうが、な」

「【天族】とか【魔族】とか関係無く?」

「ねぇな。寧ろ魔力があるヤツの方が"食いで"があるのか、襲われ易い」

「そうなんだ・・・あれ?でも」




ロプスさんって【魔物】じゃないの?

そんな私の疑問を感じ取ったのか、ゼニスくんが薄く笑う。




「ロプスは【魔物】じゃねぇよ。アイツは樹精(ヴァーオム)。【天族】寄りの【精霊族(ナテューア)】だ」

「どう見てもモンスターなんだけど・・・?」

「失敬な骨っ子じゃの!それを言うならお前さんの方こそ見た目魔物じゃからな!」

「それは確かに・・・って骨っ子言うな!」

「おい、喧嘩すんな。話戻すぞ」




そんなこんなで、異世界人をわんさか呼び出した【人族】の偉い人達。

最初は呼び出された異世界人達も、素直にその人達に従って【魔族】退治をしていたものの、直ぐに『あれ?何か変じゃね?』って疑問を抱くようになったらしい。


それとこのファンタジーRPGさながらの、剣と魔法の世界に魅了され『俺達は自由だぁぁぁ!』と言う事聞かずに現地解散してしまう人が多々居たそうだ。


そんな彼らに謂れなく襲われ、【人族】の謀略によって命を落とす羽目になった【魔族】は少なくなかった。

でもそういう理由もあって、【人族】の思惑はあっさり頓挫する事となった。


が、それでもその時点でかなりの数の【魔族】が異世界人の手によって屠られていた。


元々【天族】・【魔族】は長命種族で、代わりに出生率が極端に低い。

極端に数を減らした【魔族】は一時期大陸からその姿を消し、珍獣扱いになったという。


そんな【魔族】大幅減少。

勿論この世界の均衡が崩れる事も大問題ではあるけど、それ以上に困る事があった。




「《魔道具》が作れねぇし、修理できる奴が居なくなった」

「それだけ?」

「それだけっつーがな。【天族】は魔法式組むことにゃ秀でちゃいるが、それをどんなに簡単な物でも"形"にするのは出来ねぇぐらい不器用な奴らばっかだぞ」

「そうなの?!」

「料理も出来ねぇ、裁縫も無理。細かな作業は苦手で、勉強ばかりの頭でっかち集団が【天族】だ」

「わぉ・・・」

「中にはたまーに小器用な奴も居るが、基本物作りには向いてない。

《魔道具》のアイデアや組み込む術式は考える事が出来ても、【魔族(オレら)】が居ないとそれを道具(カタチ)として完成させらんねぇんだよ」




なるほど。

【天族】がプログラマーとかシステムエンジニアで、【魔族】が開発・製造技術者って事か。



そんな訳で。


【魔族】が減る=《魔道具》が造れない。

そんな、誰が見ても分かりやすい公式が出来上がった。


そして、

《魔道具》が造れない=《魔法》が使えない。

魔道具を一番必要とする【人族】がめっちゃ困るという自業自得の結果になった。馬鹿すぎる。


新しい魔道具が造られず、古い物を修理できる人も居ない。

魔法が使えないと、便利な生活も送れないし魔物も退治できない。


魔物が退治出来ないと、魔物が増殖する。

魔物が増え過ぎると、人も襲われるし土地も荒らされる。

つまりまた【人族】が減り、《澱》が減少する原因になる。


原因を作ったのは【人族】だけど、巡り巡って自分達の首も締まってしまう。

またしても三族間で緊急会議が開かれ【魔族】は絶滅危惧種認定され保護される事になった。


こうして三族は漸く互いの必要性を"本当"に理解し、今の現状を維持するようになったのだった。


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