ダンジョンモンスター
「じゃあ、番犬と後ろの見張りを作るか」
カスタムボードで、作る事が可能なモンスターの一覧を開く。
後ろの見張りはすぐに良いのが見つかった。
ルックコッコタイプ──見た目は黒い鉄の雄鶏だ。これもやっぱり使用魔力は1。
後ろの扉の傍に枝みたいな形をした鉄の止まり木を作ってやって、そこに配置した。
「コケッ」
うん、馬型のゴーレムも黒い鉄製だからな。
統一感があっていいんじゃないか。
「そういえば、この子達に名前はつけないの? 前の馬もつけてなかったよね?」
「あー、ダンジョンモンスターだからなぁ……何かあって死んだ時、情を移してたら辛いよってお袋が言ってたから……」
「そんなこと言っても、結局前の馬は一回も死ななかったんだよね? さっき消した時に寂しそうな顔したくらいには可愛がってたんでしょ?」
「……まぁな」
「付けても付けなくても、どっちにしろ悲しくなるんだろうから。それならつけちゃいなよ。じゃないとお墓に彫る文字に困っちゃうよ?」
やけに大人びた顔でアッシュが言う。
こういうところは教会の息子だ。父親が破戒僧だったとしても。
「……そうだな」
名前、名前か……
俺は黒光りする鉄の馬をじっと眺めた。
「……これ雄? 雌?」
「さぁ? ……あ、ダンジョンってカスタムボードが使えるくらいコアが大きいならモンスターの情報も確認できるって言ってなかった?」
「ああ!」
そうだったそうだった。
俺はカスタムボードから配置済みモンスターのステータス情報を開いた。
──種族:ミミック(アイアンゴーレム(馬)タイプ)
「………………ちょっと待て」
俺は慌ててルックコッコのステータスも確認する。
──種族:ミミック(ルックコッコタイプ)
「っ! なんっでだぁぁあああああああああ!?」
俺の作るダンジョンの魔物は、どうやら全部擬態したミミックだったらしい。
* * *
「……作った俺がハーフミミックだからだろ? 原因は」
「うん、そうだろうね」
「……どうりで必要な魔力量が少なくておかしいと思ったんだ」
「うん、同族ボーナスみたいなものだったんだろうね」
「どれだけコアをいじっても選択肢が改造版ミミックしか出ない……」
「うん、ミミックコレクションだね」
「どうしたらいいんだ……っ!」
「諦めた方がいいと思うよ?」
馬の口と鳥の口を開けて、中身がうねうね動く触手だったのを確認した俺は……半泣きで自分の箱に引きこもっていた。
「こんなサイズのコアだから……ちょっとドラゴンとか作ってみたいなって楽しみにしてたのに……!」
「あるよ? ドラゴンマキナタイプ。小型から超大型まで」
「中身ミミックじゃん!」
やけに体が硬質なモンスターばかり一覧に並んでいたのもそういうことだ。基本的なミミックの、宝箱の部分を、他の魔物に偽装しているって事なんだろう。偽装がミミックの真骨頂とはいえ、誰がそこまでやれと言った。
基本中の基本なスライムさえ俺のダンジョンには存在しない。
「ほら、そろそろ出ておいでよ。普通のダンジョンじゃなくて馬車なんだから、ミミックだって困らないだろ?」
「あぁ~~~……」
抵抗空しく、俺はアッシュの手によって箱からずるりと引きずり出された。
「……アッシュはいいのか? 旅の拠点がハーフミミックによるミミックの巣なんだぞ?」
「村だって街だって人間による人間の巣だよ。一緒一緒」
「ポジティブ!」
昔とさっぱり変わらないアッシュのポジティブさによって、俺はいつのまにかショックから立ち直っていた。
アッシュはそんな俺に満足げに頷くと、ぐいぐい背中を押して鉄馬の前へ俺を追いやる。
「はい、じゃあ名前。つけようか」
「マジかぁ……」
ちなみに馬は雄だった。
「……じゃあ、ハロルドで」
ヒヒン! とハロルドが嬉しそうにいななく。
……どう聞いても馬だ。これでミミックなのかよお前。擬態のレベルが高すぎる。
満足げに頷いたアッシュは、今度は鉄の雄鶏の方へ俺を連行した。
「じゃあ次はこの子だね」
「……タルトで」
「即決したね?」
「エッグタルト食いたいなって」
「コケッ!?」
「いてっ!? いててててっ! わかった! 悪かったって!」
正直な心境を述べたら、タルトに突きまわされた。
アッシュはそれを見て笑っていた。
なお、名前はタルトで決定した。それは別に良かったらしい。
* * *
「あとは番犬か……」
どうせミミックなんだけど……
もうこうなったら開き直ってめちゃくちゃ強そうなのを置いてやろうかなと思う。
「どうせ何選んだって消費魔力は1だしな」
「さらっと言うけど、それってかなりすごい事なんじゃないの?」
数の多い魔物一覧を本のページみたいにめくって、後半のヤバそうな見た目の所まで来た。
「うわぁ、クリスタルゴーレムタイプだって! すごい綺麗だね!」
「綺麗だけど……うっかり話が広がったら逆に侵入者増やしそうだな」
侵入者を威嚇できて、撃退もできて、いらんトラブルは呼ばなそうな奴……って考えると、ちょっと後ろのページに来すぎたかもな。エンシェントウッドドラゴンタイプとか、チラ見されただけで国から討伐隊が来そうだ。
少し後ろに戻って……
「これはどうだ? スフィンクスタイプ、砂漠の国で門番をしている事が多い……」
「異国の魔物は貴族に注目されるかもよ? ペットに寄越せとか言われるかも」
それは面倒そうだ。
「燃えてたり凍ってたりする奴は、俺達も通るのなんか怖いしな……」
「普通のダンジョンだったら大歓迎だったんだろうね」
いっそ有名どころのケルベロスだのフェンリルだのが選択肢にあればよかったんだが……一通り見て気付いたが、中身がミミックなせいかモフモフな奴がいない。
「魔物の番犬って難しいね……いっそ普通の犬を飼う方が簡単な気がしてきたよ」
「俺もそう思う」
悩みすぎた俺達は、初心に戻って馬と同じ、黒鉄のゴーレムシリーズから選ぶことにした。
「アイアンゴーレム(犬)タイプ……もうちょい大きさ欲しいな」
「ならいっそ中型のドラゴンタイプにしちゃおうよ」
「そうだな、ドラゴンなら大体の奴は腰抜かすか逃げるかするだろ」
ドラゴンタイプのモンスターはどれも大きさが4種類用意されている。
小型は鷹とかフクロウとか、それくらいの猛禽みたいなサイズ。
中型はでかい熊とかそれくらいのサイズ。
大型でワイバーンくらいの、人が乗るのにちょうど良さそうなサイズ。
そして超大型は洞窟の奥でお宝守ってそうな家とか屋敷みたいな大きさのやつだ。
まぁ中身は全部ミミックなんだけどな!!
そんなわけで、玄関扱いの石部屋に中型のアイアンゴーレム(ドラゴン)タイプを配置した。
「名前は?」
「こいつは……雌なのか。じゃあ、カトリーヌにしょう」
「フフ、可愛くていいんじゃない?」
番犬だから可愛いだけなのは困るんだがな。
「そういえば、僕達ってダンジョンで生活するわけだけど……扱いはダンジョンモンスターって事になるの?」
「いやそれはないだろ……無いよな?」
わからないなら見た方が早い。
俺とアッシュはダンジョン馬車に乗り込んで、カスタムボードのデータをチェックした。
「所属モンスターの一覧には無いな……」
「こっちのコレは? ……あ、ディードだ」
まず出てきたのはマスター、つまり俺の情報だった。
登録マスター名:ディード
種族:ハーフミミック
クラス:ダンジョンマイスターLv3
「これはようするにコアの持ち主の情報だな」
「じゃあこっちのほうとか?」
カスタムボードの表示を切り替えて行くと……
「あ、あった。えっと……『住民一覧』」
「アハハ、そのままだ」
登録住民名:アッシュ
種族:人間
クラス:神託の勇者Lv10
「……レベル高くねぇ?」
「う~ん……勇者認定されてから村と町との往復で何回か魔物討伐してるし、そのせいかな?」
いやそんなこと言ったら、俺だって馬車でずっと往復を……あ、いや、ステルスかけてたから戦闘してねぇわ俺。
それにコアが小さすぎてカスタムボードも無かったから、ダンジョンのカスタマイズなんてのもずっとしてこなかったしな。
ってことは、ずーっとLv1だったのが、でかいコア作ってカスタマイズして魔物を配置した事でLv3になったってことか。
レベルはその職業についてからどれくらい経験を積んだかに応じて上がっていく。
これが上がると、数値に応じて職業に応じた能力に世界から祝福が入り、純粋に技量が上がる。高レベルになるとどんどん人間離れしていくわけだ。
しょっぱい顔でカスタムボードを眺めていると、とある機能に気が付いた。
「あ、そうだった。『フレンドリーファイア』オフにしとかないと」
「何それ?」
「同士討ち防止。カトリーヌが暴れてる部屋に入っても俺達は怪我一つしないし、逆にアッシュが剣振り回しても俺も魔物達も怪我をしない」
「すごいじゃん!」
俺もすごいと思うけど、これ無しでダンジョンの狭い空間で戦う奴らってどうしてるんだろうな? すごい危ないし大変じゃないか?
「あ、つまりダンジョン馬車の外に出たら無効だからな?」
「わかった、気を付けるよ」
実戦になる前に思い出しておいてよかった。