パーティー登録と極上小麦
冒険者ギルドに到着した私たちはパパっとパーティー登録を済ませた。
と言っても、皆が作っていた既存のパーティーに私が加わっただけなんだけど。
今日はどうやらディーナさんは不在のようで、初老の男性職員が対応してくれた。
リーファさんは相変わらずギルドの隅っこの方でうつらうつらしている。
ギルドによったついでに依頼掲示板を見る。
どうやらオークキングの肉の納品依頼は常時貼られているようだ。
今回は剥がさないけど。
1度に受けられる依頼は1つまでだ。
そして、依頼による報酬と通常の買取金額は大きく異なるということもままある。
今は特別オイシイ依頼はなさそうだ。
丁度、モルダバイからの指名依頼がやってきたので、大人しくそれを受注した。
今回は私たちのパーティーでも問題なく倒せるウィートハーピーを重点的に狩る予定なので、(没落シリーズは単独で行動してはいるが、結構強くて、今の自分たちには分不相応だとバライトは言った)最終的にまとまった数のウィートハーピーの羽が手に入ることが予想される。
あと卵ね。サイズがデカいのでこれが地味に困る。
バライトがアイテムボックスの魔法を持っているのでそっちにしまってもらおうと思っている。
私のリュックには羽を入れればいいだろう。慎重に運ばなくていい分気が楽だ。
私たちはギルドを後にした。
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一時間後、私たちは畑の中にいた。
「わー!ここが西のダンジョン!すごいね。きれい!」
ルーベライトがはしゃいでいる。
「うおー食べ物がいっぱいだ!」
アウインもハイテンションだ。
「えーっと、畑の神隠しダンジョンのマップは―――」
トラピチェが、冒険者ギルドで買ったマップを広げた。
「マップなんて確認しなくても大丈夫だろう。ポータルの場所さえ覚えときゃ、バトルは1対多で俺たちが有利。つまり退路は確保できるし、没落シリーズのキングにさえ遭遇しなけりゃ大凡怖いもんはねえはずだ。アホ猫の方向感覚を信じろ。アレは間違いなく野生のそれだ。」
アレだのそれだの、後半は地味に何を言っているか分からなかったけど、バライトの意見で懸念すべき点は一つ。
私はこの前遭遇しなかったけど、没落したオークキングの中にはただのオークキングより強い個体がいるらしい。
滅茶苦茶強いのに、なんで没落したんだよと突っ込みたい。
所謂フィールドボスというやつだ。そんなにドロップも良くないしコスパが極めて悪いからギルドでも回避が推奨されている。
まあ、いくら強いと言っても、集落を落とせるようなパーティーなら危なげなく倒せるレベルだ。
私にとっては恐れるに足りない。
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私たちはウィートハーピーを狩り続けた。
その数が70体を超えたころ、ルーベライトが空腹を訴えたので夕飯をとることにした。
私たちは今回、1週間ダンジョンに潜りっぱなしでいる予定だ。
ルーベライトの腹時計はその辺の時計より正確だから、それをあてにして時間を測ろうと考えている。
なにせ、ダンジョンの中では時計が度々壊れるのだ。
突然ぐるんぐるん針が回りだしたりするから、初めて見た時は不気味でびっくりしたとアウインは言っていた。
食事をとったら寝床を整える。
今はもう、外の世界なら日が沈んで月がひかり輝いている頃だろう。
だけどこのダンジョンの中はいつでも真昼のような太陽が照りつけていて、ここが外の世界とは明確に違う場所なんだと私たちに教えてくれる。
私たちが張ったのは遮光テントという代物だ。これを張ると内部は夜の帳が降りたかのような暗さになる。
テントの外側の四隅に、認識阻害結界を張る効果が付与された杭を打っておけば、杭で囲まれた空間は外から認識されなくなる。
簡易版の安地である。
私たちは暫くこの環境で寝ることになる。
このテントは二部屋に区切ることができ、男女混合パーティーがよく使う品だ。
初めてダンジョンの中で寝るのでなかなか寝付けなかったが、一番乗りで夢の世界に吸い込まれていったルーベライトの寝顔を見ているうちに私もいつの間にか眠っていた。
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翌日
翌々日
翌々…
略
まあ、ざっくりと6日が経過した。
つまり、今日が最終日なわけだけど、私たちは未だに極上小麦を手に入れることができていない。
つまり、ピンチだ。
モルダバイにどやされるなんて…なんてメンドクサイんだ。
そんなのは嫌だ。
というわけで私たちは死に物狂いでウィートハーピーを狩った。
1日目から今までの累計討伐数が699体から記念すべき700体に到達した。
それと同時に念願を通り越して悲願の極上小麦がついにドロップした。
どんだけレアなんだ?それとも私たちの運が悪いのか?
その問いの答えは私たちの運が悪い、だ。
極上小麦は手に入ったが、目立つような動きをしたせいで"例のアイツ"にロックオンされるという大ポカをやらかしてしまったのだから。