仲間との話し合いと村長の息子
冒険者ギルドから慌てて飛び出した私はその足で家へ帰った。
あまり疲れていないと思っていたのはどうやら、ハイになっていたからであったようで、その後はぐったりしてそのまま寝てしまった。
翌日。
私は仲間たちと共に海辺の小屋にいた。
どういう状況かと言えば、お説教の最中である。何も告げずに勝手に出発してしまったので弁明の余地もない。
「全くあんたね、こういう時は私たちに一言言うなり置き書き残すなりするのが筋ってもんでしょうに」
「そーだそーだ!お肉食べたかった!」
「ルーベライト、そういう問題じゃねえだろ」
「………(あぶねー。俺もお肉食べたかったって言うところだった)」
さっきから同じような会話を10周くらいしているが、なぜかアウインだけ無言だ。
どうしたんだろう……と心配する眼差しを向けたが顔を逸らされてしまった。
ルーベライトは相変わらずご飯のことしか考えていないが、確かに、お土産を忘れてしまったのは失策だった。
ちゃんとお肉の一塊くらい持ってきていたら、きっとルーベライトはこっちの味方?に付けられたはずだ。
なんて屑なことを考えていたら、立て付けの悪い、小屋のドアがバーンと開かれた。
「おい、悪ガキども。ベルデライトはどこだ!」
入ってきたのは村長の孫であるモルダバイだ。
甘やかされて育った、かっこつけのボンボンだ。
言っとくけど私たちは悪友ではあるけど、悪ガキじゃ―――
「あたしたちは悪ガキじゃないもん!あ、でもやっぱりお肉をくれないベルデライトは悪ガキかも?」
私たちが口を開く前に、ルーベライトが反論した。
「そーだぞ!俺たちはこれでも成人の儀を済ませた大人なんだからな!」
アウインも追随する。
「確かに、成人の儀は済ませたようだな。だがお前たちが僕より年下だってことは変わらない」
モルダバイは私たちを見てフンっと鼻を鳴らす。
「むきーっ!あんたの方がチビなのに!生まれ月もあたしと一カ月しか変わらないのに!!」
「そうだそうだ! (俺はもっとチビだけど)」
まさに一触即発といった雰囲気が漂っている。
「まあまあ、おまえら落ち着けって。それで、坊ちゃん、ベルデライトにどのような要件でいらっしゃったんですかね?」
バライトがルーベライトとアウインを窘める。
相手が村長の孫であるため口調はいつもより丁寧だが、警戒心がにじみ出ている。
「坊ちゃんと呼ぶのはやめろ!本題に入るぞ。ベルデライト、お前、西のダンジョンを踏破したらしいな」
私は頷く。
「だから、この村で3番目にえらい僕が直々に依頼をしてやろうじゃないか」
それは人にものを頼む態度じゃないだろ……という言葉を飲み込んだような顔をしているのが約4名。私を入れたら5名か。
「内容はこうだ!1週間以内に極上小麦を手に入れ、僕に献上すること!だが、ただっていうのは良心が痛むから特別に大銀貨3枚で買ってやろうじゃないか」
私は白けた目を向けた。
確かにそれは特別価格だ。安すぎるって意味だけどね!
「おい、それはいくら何でも安すぎるだろ!」
アウインがキレた。
「そうね。粉にしていなくても、末端価格なら少なくとも小金貨4枚はする代物だわ。」
トラピチェも、モルダバイ相手にしてはかなりわかりやすくキレてる。
「なんかよくわかんないけど、美味しいものは渡さない!」
ルーベライトは………ちょっとキレるポイントを間違えてる気がする。
「坊ちゃん。これが皆の意見です。ベルデライトも近年では見たことがないレベルの嫌そうな顔をしていますし、お引き取り願えますか?」
「うるさい!僕に指図するのか!平民の分際で!」
いや、村長の孫も平民でしょ。
モルダバイが激高している姿を見ていたら、逆に冷静に考えられるようになった気がする。
「モルダバイ、あんたがどれだけ偉かったとしても、私の取引相手は別にあんただけじゃない。だからこんな値段で脅迫しても私は頷かないよ」
私の言葉にモルダバイは狼狽えた。
しかし、何かを決意したような顔になる。
「くっ…わかった。なら小金貨1枚と銅貨1枚だ!どうだ、相場より高くしてやったぞ! (じいちゃんへの誕生日プレゼントだから絶対に手に入れないと!)」
なんだかモルダバイが尋常じゃなく焦っている気がする。
(けち)
(ケチだ)
(ケチね)
(ケチだな)
私の仲間たちはみんな、おおよそ同じことを考えていそうだ。
モルダバイが言った相場は相場って言っても、冒険者ギルドでの買取相場だろうに…。
確か100000Gで小金貨1枚だったはず。
銅貨1枚増えたところで私の懐の温度はたいして変わらない。
経済的に結構ゆとりがあってちゃんと教育を受けている、うちの村の村長の孫が末端価格を知らないはずはない。…というかさっきトラピチェが説明してたし。
まあ、でも今日の話し合いで、私も仲間たちもレベル上げが済み次第他の街に行くことになったから、こいつと顔を合わせるのもあと少しなんだよね。
最後の頼み (まるで死ぬみたいな言い草だけど)くらい聞いてあげてもいいかな…と私の良心が言っている。
「みんな、私はモルダバイに極上小麦を売ってもいいと思う。ただし、入手できるっていう確約はできないかな」
私の言葉に皆はちょっと驚いた表情を浮かべていたけど、私と同じことを思ったのか、納得してくれた。
あとはモルダバイが受け入れるか否かだ。
「ぐっ…わかった、それでいい。でも期限だけは譲れない!もし期限内に手に入らないならオークキングの肉で手を打ってやる。その場合、報酬は2000Gだからな。この依頼は冒険者ギルドを通しておく。忘れんなよ!期限は1週間後だからな!!」
そう言い残してモルダバイは小屋から出ていった。
去り際まで偉そうだったな~実際この村では偉いんだけどさ。
「ふう…やっと出ていってくれたか。それで、何の話してたっけ?」
バライトが本題を忘れている!今がチャンスだ。
私は弁舌を振るった。それはもう見事に。
おかげで皆、極上小麦の入手についての話で盛り上がった。
モルダバイという共通の敵が私に向いていたヘイトをごっそりと持って行ってくれたのだ。
ありがとうモルダバイ。今だけは感謝しよう。
とりあえず、今はまだ午前中だし、時間はいくらあっても足りないから早速ダンジョンに行こうということになった。
皆、西のダンジョンを踏破するには少々レベルが足りないけど、ならば踏破しなければいいだけのことだ。
パーティーを組めば経験値は均等に割り振られる。
1週間かけてじっくり皆を育成していこうではないか…フフフ。
ということは、パーティー申請もしないといけないってわけだ。
私たちは冒険者ギルドに向かった。