西のダンジョン①
私は依頼掲示板からオークキングの肉の納品依頼を剥がした。
剥がした紙を受付カウンターに持っていく。
担当者はさっきリーファさんを叩き起こしていたおばちゃんで名前はディーナさんというらしい。
この道70年の大ベテランらしいけど、それにしては随分と若々しく見える。
この人一体何歳なんだろう。種族もよく分からない。
詮索するようなまなざしを向けてしまったからか、ディーナさんの目が少し細くなった。
まあいいか。
決してディーナさんの目が怖くて考えるのをやめたわけじゃないよ。
保身保身。
「あんた、新人冒険者なのにこんな難易度の高い依頼持ってきて…全く。舐めてると死ぬよ」
ソウデスネ。でも私の場合は必ずしもそうじゃないっていうか……
「私、これでも、本登録をする前からゲストでダンジョンに潜ったりしてたんですよ」
嘘ではない。
実際に潜ったのはダンジョンと言うのもおこがましい、東のダンジョンだけど。
「へえ?」
やばい、疑われている!
私は冷や汗をダラダラと垂らしながら、私が持っているスキルについてざっくりと説明した。
「ふうん?そんなスキルがあるのかい。確かに、≪魚釣り≫というスキルなら漁師にはありがちだが、≪さかな釣り≫は聞いたことがないねえ。確かにカードにも魚釣りとは書いていない。
……まあいい、忠告はしたからね。規定にもある通り、冒険者ギルドはダンジョンであんたが死んでも責任は取らないよ。それでも行くってんなら行きな」
よかった。見逃してもらえたようだ。
外国のギルドにはランク規定なるものがあるらしいけど、この国にはそれがないというのが幸いした。
「ありがとうおばちゃん!」
「おばちゃんじゃなくてディーナさんと呼びな」
怒られてしまった。
私はおば……じゃなかった。ディーナさんに手を振ってギルドを後にした。
――――――――――――
ギルドを出てから歩くこと、およそ1時間。
西のダンジョンは、なんと、畑のど真ん中にある。
間違って村人が入りこまないよう、ダンジョンポータルは頑丈な扉で閉ざされた小屋の中に隠されており、依頼を受けた者しか入れないようになっている。
なんせ、ダンジョンポータルは大人が触れればたちまち発動してしまうのだ。
小屋ができる前は何度も行方不明者が発生していたと聞く。
私のおじいちゃんが子どもだったころは、このポータルも畑の土で埋まっていて、誰もそこにダンジョンがあるとは思いもしなかったそうだ。
だから、ギルドで聞いたこのダンジョンの正式名称は≪No.6_3_2_1 畑の神隠しダンジョン≫というらしい。
正式名称がそんなんでいいのかと突っ込みたくなった。
ダンジョンのナンバーの見方についてなんだけど………
私は冒険者ギルドで教えられたことを反芻する。
ナンバーの6の部分が国を表す。
3の部分が誰の領地であるかを表す。
2が村の名前を、1がこの村のダンジョンの中でこのダンジョンが登録された順番を表す。
ちなみに登録された順番については、最初が0だから、数字が1であるこのダンジョンは2番目に登録されたダンジョンであるというのがわかる。
さて、復習も済んだところで、ダンジョンポータルとのご対面だ。
勿論、村人が入ってこないように、ドアに鍵をしめるのも忘れない。
ダンジョンポータルはどのダンジョンでも同じデザインで、魔法陣の形をとる。
ちなみに何度か壊そうとした人がいたみたいだけど、破壊不能だ。
起動させるには上に乗る必要がある。一ミリでも触れたら発動するけど、ジャンプして上空を通った場合には発動しない。
じゃあなんで土に埋まったポータルで神隠し現象が起きたのか?
ポータルというのは、どうやら圧力を感知しているらしいのだ。
魔法が使えない私には何がどうなっているのかさっぱりだけど、そういうことらしい。
私ははやる気持ちを押さえつつ、ポータルの上に乗った。
転送された先は、先ほどと同じような畑の中だ。名前の由来にもなっている。
畑から転移した先が畑のダンジョンだから、きっと神隠しの被害に遭った人たちは自分たちがダンジョン内部にいるということに中々気づけなかったことだろう。
このダンジョンの特徴は、畑型フィールドなので一年中作物の採取ができるというところだろう。
そして、畑の中で徘徊している魔物たちは例えるなら村人といったところか。
畑の作物を採取しているところで見つかると激高して襲い掛かってくるらしい。
オーク系統の魔物とか"ウィートハーピー"などの草食系魔物が、作物以外ではこのダンジョンのメインだ。
オークは皆ご存じ二足歩行の豚の魔物で、肉は食用となる。
単独で行動している個体もいれば、集落を作っているものもいる。
オークキングは集落の中にしかいないから討伐難易度が高いというのが一般常識だ。
ちなみに、"没落したオーク○○"という魔物もいて、○○の中にはメイジとかキングなどの文字が入る。
奴らは単独で行動しているから討伐はしやすいけれど、オークキングと比較したら肉はあまりおいしくないらしい。
庶民向けの値段で売られているのはこういう没落シリーズか、普通のオークだ。
没落シリーズはあまり美味しくないと言っても、普通のオークよりは美味しいからそれなりに需要がある。
私は見通しの悪い畑の中で不意打ちを受けないようにするために、前もってスキルを発動しておくことにした。
途端にギャアアアという奇声が聞こえる。
早速、私のスキルの第一被害村人がやってきたようだ。
私は声が聞こえた方向に向かう。
くそう、草で前が見えない………と思ったら案外近くにいたようで、魔物が暴れてなぎ倒された草がクレーターのようになっていた。
その魔物は羽ばたいていた。
両腕代わりに羽があり、足には鋭い鳥の爪がある。しかし、その胴体と頭は人間………にしてはちょっと邪悪な顔をしているけどまあいいか。
奴はウィートハーピー。ハーピー種の中では珍しい、草食の魔物だ。
出現頻度は割と高め。
胴体が人間なせいで筋力が足りなくて全然高く飛べないという、ちょっと残念な奴だ。
ドロップするのは卵と羽。どちらもドロップ率は変わらない。
あ、忘れてたけどごく稀に"極上小麦"をドロップするらしい。
王侯貴族が食べてる小麦は皆これだとか。
本当に滅多にドロップしないので、1kgで小金貨1枚…つまり100000Gだ。鉄の剣よりも高い。国の上層部のインフレーションが凄まじい。
小麦の状態でこの値段だから小麦粉にしたら一体いくらになってしまうのか…考えただけで恐ろしい。
ウィートハーピーが出現するダンジョンはここだけじゃないけど、うちの村の支部が潤っている理由の一端が見えたような気がした。
ちなみにこのウィートハーピー、私のスキルで既に錯乱状態にあるが、武器を持っていないので中々自滅しない。
そこで私は閃いた。
私がショートソードでつつけばいいんだ!
私は剣を鞘から抜いて構える。
何を当たり前なことを言っているのかって?
まあまあ見ててよ。スキルが発動している時点で私の勝利は確実だからね。
「えいっ」
剣を振り下ろした瞬間、視界にバチバチっと雷のようなものが走って………
静電気かな?と思ったのも束の間、ハーピーのドロップアイテムが私の足元に転がった。