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念願の冒険者登録

翌日、私は冒険者ギルドにいた。パーティー登録まで済ませたいところだけど、皆は用事があるので今回は私だけだ。つまり、冒険者登録をしたら終わり。


冒険者ギルドは、村の一番目立つところにある。……というか、村長の家より豪華な作りなのは如何なものかと思う。


昨日行った酒場が同じ建物の地下にあるため、以前から頻繁に出入りはしていた。


しかし、冒険者の本登録をすると思って入ってみると、なんだかいつもより内装がかっこよく見えるから不思議だ。


私は受け付けのお姉さんがいるカウンターに向かった。


この支部は田舎だけど、近くにそこそこの難易度のダンジョンがあるおかげで潤っている分、受け付けのお姉さんの人数も多いらしい。


だけど、田舎だから新規登録の人は滅多に現れない。


なので、私が向かった、この支部唯一の新規登録用カウンターにいるお姉さんは頬杖をついてうつらうつらしていた。


まだ朝の10時なんだけどなあ…という言葉は飲み込んでカウンターの前の椅子に座る。


「ほら、リーファ、あんたが待ちに待ってたお客さんだよ」


となりのカウンターのおばちゃんが、リーファさんというらしいお姉さんの背中をバシバシと叩く。


ふがっという音を立ててリーファさんが目を覚ました。


せっかくの美人が勿体ない気がする。


「別に私は―――」


リーファさんが何かを言いかけたところで私の存在に気づく。


「しっ失礼いたしました。冒険者登録をされるお客様ですね」


リーファさんは少しパニックになっているのか、資料の山をバサァっと崩しつつ背筋を伸ばした。


資料に冒険者登録マニュアルと書いてあるのが見えた。


なんか思っていたより分厚い書類だ。


うちの……と言っていいのかは分からないが、パーティーのリーダーを務めているバライトが言うには、登録してもらう側は殆どすることがないらしい。


しかし、資料の山を見るに事務の人の方は仕事が結構忙しそうだ。


もしかしたらこの人のサボり癖のせいで仕事が溜まっているだけかもしれないけど。


ちなみにこの人と私は知り合いではない。田舎町のギルドであっても、そこで働く人は本部から割り当てられた人材であり、地元民ではないのだ。


そしてぱっと見で判断すると、おそらくリーファさんは新人である。


となれば見覚えが無くても致し方ないことだ。決して私の記憶力のせいではない…はずだ。


「コホン。では、この書類の質問に答えていただいて、こちらの書類にサインをお願いします」


私はリーファさんから手渡された紙を見た。


この国では紙は貴重で、王宮や冒険者ギルドなどの一部の組織でしか使われていない。


しかも、こういう契約書類には魔法が付与されていると聞く。


私は魔力がないから全く魔法の要素を感じ取れないけど、聞いたところによれば、透明なインクで魔法陣が書かれているらしい。


あくまでも噂だけどね。


魔法陣を探すために紙を光で透かして見ていたらリーファさんに怒られてしまった。


私は渋々、必要事項の記入をして同意書にもサインをする。


最後に血を垂らすことで個人の魔力と照合が――――できないんだった。


私は持病のことを説明した。決して珍しい病気でもなかったのですぐに代替処置がとられた。


リーファさんがギルドの奥から持ってきたのは手に収まるくらいの大きさのオーブだ。


ダンジョンのドロップアイテムの一つで、これには純粋な魔力が込められているらしい。


純粋な魔力と普通の魔力の違いは人体を介しているか否かだ。


一般には、魔物のからだを通して生み出された魔力が純粋な魔力と言われている。


魔物という物体は、人間などの生物に含まれるような不純物は含んでいない純粋な魔の塊…というようなことをトラピチェが言っていた。


よく分からないから詳細は…脳内で補完すればいいか。


要は、このオーブに素手で触れながら紙に血を垂らせば、その血は、借りものではあるが私の魔力を含んだ血になり、今回の目的を達成できるというわけだ。


血を垂らすと、一瞬だけ紙がピカっと光って、私の冒険者登録は完了した。


「こちらがベルデライト様の冒険者カードになります。初回登録の際は無料ですが、紛失した場合は大銀貨1枚が必要となりますので大切に保管してください。町を移動する際は冒険者カードを提示していただくと住民票の代わりになりますので忘れずに携帯してくださいね」


再発行って大銀貨が必要なんだ……。


高ランク冒険者なら、ぽんぽん払える金額ではあるけど、庶民にはかなり痛手だなぁ。その日暮らしも多い冒険者ともなれば痛手というか、もう、死が見えるね。


何でこんなに世界は厳しいんだろう。まあ、その人にとってすぐに取り戻せるような金額なら銀行から借り入れすればいいんだろうけどさ。


たぶんこれ、紙代だよね。そうとしか思えないけど高くない?ぶつくさ言ってもどうにかなるわけじゃないけどさ。


確か、この国の貨幣は銅貨1000000枚=大銅貨100000枚=小銀貨10000枚=銀貨1000枚=大銀貨100枚=小金貨10枚=金貨1枚だったはず。単位はG。読みは"ゴールド"だ。この国における現在のレートだと、銅貨1枚が1Gとなる。Gという単位は世界共通だ。


金貨以上は大金すぎて縁がないから詳しくは知らない。そもそも金貨の上は存在しないかもしれない。


小銅貨というものは一昔前までは使われていたけど、庶民が昔より裕福になったため今では発行されていないらしい。


それでも依然として王侯貴族と平民との経済格差は大きく、皆が同じ貨幣を使えるようにしたところ、硬貨の種類がこんなに多くなってしまったのだとか。


もう、硬貨やめようよ。かさばるし。…と国の偉い人に物申したい。


そこで、ふと思う。


ゴールドポーチ……"おうごんのふくろ"ではないよ。お金を入れる袋なんだけど、これを発明した人は天才だと思う。何せいくらお金を入れても重さが変わらないんだから。


一家に1袋、ゴールドポーチ。


所謂"アイテムボックス"の魔法の応用だね。アイテムボックスの魔法は使える人が限られてるけど、それを全ての人が使えるようにした代物だ。銀行で借りることができる。ただし、簡易的なものだからお金しか入らないけど。


ちなみにみんなの主食である黒パンは大銅貨1枚だ。


剣を買うなら大銀貨1枚はかかる。業物ならその金額には際限がないと聞く。


まあ、お金の話はこれくらいにしよう。


今は出来立てほやほやの冒険者カードを手に、依頼を受けたい気分だ。


依頼掲示板には、オークキングの肉の納品依頼が貼ってあった。私は食べたことはないけど、美味しいらしい。この依頼で貰える金額は2000G。銀貨2枚だ。


早速これを剝がそうとしたが、脳裏に昨日の会話が蘇った。


そう。スキルのおかげでおそらく、どんな敵が立ちふさがっても、"私"だけは生き残れる。


私はそもそもソロで西のダンジョンに潜れるほどの肉体的な強さはないし、万が一討伐の最中に私以外の、あまり強くない冒険者に鉢合わせたらまずいかもしれない。


主にヘイト管理の意味で。


でも、2000Gはとても魅力的だ。パンだけの生活なら、1日2食で100日間も食つなぐことができる。


幸い今日はまだ西のダンジョンには冒険者がいないらしいから今がチャンスだ。


この村の冒険者ギルド支部はダンジョンで潤ってはいるけれど、難易度がそこそこ高いのと、辺境である故に冒険者の数自体はさほど多くないのである。


私は悩んだ。


皆で行くか一人で行くか。悩んで悩んで悩んだ末に私は決めた。


よし、今日は皆用事があるって言ってたし、今のうちにこっそりと一人で行こう。

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