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さかな釣りと魚釣りの違い

「私のスキルは≪さかな釣り≫であって≪魚釣り≫ではない。そう!実は、私が釣れるのは魚だけじゃないってことさ!!」


私はこれでもかというくらい胸を反らす。


世紀の大発見と言ってもいいレベルの発見なのだ。


「ちょっと待てよ……つまり、お前が釣れるのは異国語で言う"fish"ではなく"sakana"という名がつくありとあらゆるものだと言いたいってことか?」


バライトがこめかみを押さえつつ、私の言いたいことを整理してくれる。


「そうそう、そうなんだよ!これってすごいことだと思わない?」


私のテンションは爆上がりだ。


「待って。音だけ聞くと何言ってるかさっぱりだわ。バライトが当然のように言葉の足りないあんたの言いたいことを理解していることは……まあ、いつものことだからいいんだけど。……仮にそれが事実だとして、一体、魚以外だと"何が"釣れるのよ?」


トラピチェはあきれ顔だ。半信半疑…いや全疑の顔だ!


ここは信頼回復に勤めねば。


「例えば…そうだなあ。酒のさかな……とか?」


無理矢理ひねり出したかに思える"酒の肴"。しかしこれは真理なのだ!多分!


「俺が馬鹿なのかな?何言ってるかわかんねえ」


と机に突っ伏すのはアウイン。


「安心して。私も何言ってるか全くわからないわ」


と頭を抱えるのはトラピチェ。


「ごめん、今回ばかりは俺の理解の範疇を超えてるわ」


と首を傾げつつ腕を組むのはバライト。


「ねえ、まだぁ?」


と小屋に再突入してきたのはルーベライト。


……あれ?もしかして皆あまり感動してない?


まあいいや、実際に何が起こるか見るがいいさ。


―――――――――――――


「というわけで、やってきました東のダンジョン!」


皆を引き連れてやってきたのは村の東にある、正式名すらついていない小規模ダンジョン、通称≪東のダンジョン≫だ。


突入前に脳内でおさらいしよう!


ここは全3階層の洞窟型ダンジョン。

生息する魔物はゴブリンとコボルトだけ!上位種はなし。罠もなし。

ちょろっとだけ魔石も手に入るけど、低級だし、子どもの小遣い稼ぎ程度しかできない。

そして、子どもはそもそもダンジョンポータル(いりぐち)に弾かれちゃうから中に入れない。

つまり、ここはなーんの旨みもない、"ダンジョン"という名の洞窟だ。


この村にはもう一つダンジョンがあって、私には縁がなさ過ぎて正式名は忘れちゃったけど、通称≪西のダンジョン≫と呼ばれている。


西のダンジョンは東のダンジョンと比べたら強い魔物が出るから、ババーンと難易度が跳ね上がるけど……今はまだ、手を出せないから説明は後回しにする。


ちなみに、私は幼少期から碌なスキルがないと思われていたから、東のダンジョンに入ったのは半月前に不法侵入した1回だけだ。


だが、その時の経験が私にささやいている!私は一人でもダンジョン攻略ができる、その才能があると!!


私は鼻息荒くガッツポーズをする。


「はいはい、妄想に浸るのはそのくらいにしてさっさと済ませちゃいましょ」


トラピチェが私の妄想をぶった切った。


いいじゃない。夢をみたって。


最近トラピチェが私に冷たい気がする。だが、私はトラピチェツンデレ説を支持し――――


「ごーごーごー!!」


待ちきれなかったのか、ルーベライトが一人でポータルに飛び込んでしまった。


「あっ…待ってルーベライト!敵は私 (のスキル)がやっつけるから~!!」


私も急いでポータルに飛び込む。まあ、ルーベライトの実力なら敵がコボルトキングでも問題なく倒せるし心配はいらないんだけど……寧ろ敵がいなくなっちゃうという恐れが……!


ポータルで転送された先は薄暗い洞窟の中。


点々と設置された魔石松明の明かりだけが頼りだ。


向こうの方でぴょんぴょん跳ねてるのは魔物……を切り裂いて喜んでいるルーベライトだ。


いつの間にあんな遠くに!


「おい!アホ猫!あんまり先に行くんじゃねえ。今回の主役はお前じゃないぞ」


この声はアウイン!みんなも転送されてきたみたいだ。


「えー」


ぶーたれているルーベライトを後衛に引きずり戻し、魔物のリポップを待ってスキルを発動する。


「スキル≪さかな釣り≫発動!」


そんなにかっこつけなくてもいいだろ、という駄犬の声が聞こえるけど無視無視。


そんなことより諸君、私が何を釣ったのかわかるかな?


そう、さっきも言った酒の肴だ!


何が起こるかとくとご覧なさい!


敵の魔物はゴブリンが二体。


対する私には万が一のためのショートソードがひと振りだけ。防具も何もつけていない。


まあ、ゴブリン程度の攻撃じゃ、相手が武器を持っていない限り致命傷にはならないから大丈夫だ。多分。


だけど、ゴブリンには鋭い爪があるからなあ……深く引っ掻かれたら結構ドバっと血が出るかも?


まあ、今回その攻撃は私には向かないんだけどね。


「「なっ」」

「えっ」

「さかなー?」


スキルを使った結果は御覧の通り。


毎回スキルを使うまで何が起こるかは分からないけど、今回起こったのはゴブリンの同士討ちだ。


棒立ちして無防備な私を無視してゴブリンたちが喧嘩を始めたのだ。


だけどこの1回だけではまぐれだと思われるかもしれないので、このダンジョンを踏破することで能力を証明しようと思う。


――――――――――――


ドカンバコン


これはゴブリンたちが棍棒で殴り合う音だ。


武器が武器だけにちょっとグロい絵面になっている。


最初は半信半疑だった仲間たちもボス部屋の前に来る頃には私の能力を信じてくれていた。


そして私は人生初のボス部屋に足を踏み入れ―――


「ちょ、ちょっと、ストーップ!」


声をかけてきたのはトラピチェだ。


「なーに?今からクライマックスなのに」


「あんたの能力は確かにすごいのかもしれない。なんせここまで1回も剣を抜かずに不戦勝してきているんだから。

だけどね、いくらここが超低級ダンジョンでも、ボスって浮ついた気持ちで挑んでいいものじゃないわよ?あんたのスキル発動時間が長いみたいだし、一度に多くの魔力を使うでしょ?魔力切れも心配だから1回村に帰らない?」


「そうだな、今回はちょっとだけ様子を見るつもりだったから魔ポーションは持ってきてないし、もう能力のことはわかったからここで引き返してもいいかもしれないな」


トラピチェの意見にバライトが追随する。


トラピチェの忠告は確かに的を射ている。


確かに私はボス部屋前でソワソワしていた。


それは確かに、本来ならとても危険なことかもしれない。


だけど、ひとつだけ大きな間違いがある。


「私のスキルは魔力を消費しないよ?」

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