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囚われた獣に心はあるか  作者:
囚われのヒト
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グレーの中では話が煮詰まってしまったので、それぞれの白先である、章夫、竜彦、杏奈に話を聞くことになった。

章夫は、最初から結構意見を出しているので、すらすらと言った。

「オレは、最初から議論に参加していたから、オレの意見はみんな分かってくれてると思うけど。まず、識が真占い師の一人だと思ってるよ。平太が言ったように、村全体の事を考えてる感じがするし、常にみんなが平常心で居られるように、村の動きをきちんと整えてくれてるからだ。村人の中で一番村の役に立つんじゃないかなって思う。茉奈さんと沙月さんの争いは、オレは沙月さんから口火を切ったと思ってる。丞が言うように確かに人外だったらあちこちにヘイト貯めたらって考えるから、ここまで撒き散らさないって思うのかもしれないけど、オレは沙月さんは何も考えず、誰かを黒くしなきゃって必死だった気がしてる。だから、どっちかって言われたら沙月さんの方が人外かなという印象だな。まだ結果も見ないで真矢さんを疑うのはおかしいし。初日だよ?まだ誰も吊ってさえ居ないのに。」

総二は、ウンウンと頷いた。

「オレも藍の意見に同意だな。確かに違和感はそれかもしれない。まだ疑うようなところが無いのに疑って行くのがおかしいような。でもなあ、言い合いを聞いていたらどっちもどっちな感じもして。決め切れない。」

竜彦が、言った。

「だから、オレは幸次郎さんの意見に賛成。二人を指定してどっちかを吊って、その夜真矢さんに色を見てもらう。その真贋は置いておいて、黒なら投票した人から、白なら投票しなかった人から疑って行けばいいんじゃないか?とにかく、ここは進まないと始まらないんだよ。吊ったらどうなるとか、分かってるけど生きたいなら村人らしく頑張って欲しい。こっちが疑うような動きをしないで欲しい。村人なら村人のために感情でなくしっかり考えて、吊られないように努力してくれ。狼と狐が当たったヤツは、気の毒だがオレは死んでもらうつもりだ。そうしなきゃ、人数が多い村人がみんな死んでしまうからな。ちょっとでも多くの人が助かるために、村人は結託してがんばろう。」

竜彦は、自分が村人だと知っている村人の、本音を語っているように聞こえた。

杏奈が、怯えたように言った。

「…そんな…私は、人外を引いた人には同情するわ。壁にたまたま並んで立っただけだったのよ?そんな人達を、見殺しにするなんてできないわ。何とかして、助かる方法はないの?出口とか…一度も、みんなそんな会話はしないわ。ゲームをするしかないってこと?」

皆が、ビクリとする。

そんなことを話して、殺されるのではないかと怯えているのだ。

新が、言った。

「…もちろん、皆生きて帰りたいと思っているし、誰一人としてこんなゲームをしたいなどと思ってはいない。こんな居心地の悪い、実験動物でも飼っているような環境で、やる事ではないからな。だが、私達は管理されている。私の考えを言おう。」と、皆が怯えているのにも構わず、新は続けた。「まず、恐らく出口はその閉じている18から20のドアのどれかの向こう。我々を拉致した誰かは先ほどの絵美里さんの様子を見ても分かるように、どこからか飛び道具を使って殺人を犯す。9番の男性の死に方もそうだった。恐らく遠隔で何かの武器が突き出して来て一突きにされたのだろう。だが、我々の足には輪が着いている。最初の説明では、これは殺傷する薬品を投与するための物らしい。だが、他の二人はそれが使われなかった。ここでは、物理的に殺すための手段があるからだ。それなら、どうしてこんなものをつけさせているのか?…恐らく、逃亡した際の保険だろうと私は思う。」

皆が、ゴクリと唾を飲み込む。

そんなことを、言ってしまって良いのだろうか。

これを見ている誰かが怒って、識を殺してしまったりしないだろうか。

皆が思ったが、先を聞きたいという気持ちが勝ってしまい、止めることができなかった。

新は、続けた。

「つまり、逃亡できるということだ。だが、それを成したとしてもこの、保険の足輪がある限り、我々は逃れられない。だからこそ、私はここでゲームをすることに甘んじているのだ。君達も、生きたいと思うのならしっかり考えて行動することだ。今は、ゲームをすることが生き残る最善の道だ。後は分からないが、今の時点の情報ではそれしかない。各々自分の命は自分で責任を持て。私は占い結果は伝えらえるが、襲撃までは防げないぞ。そして、普段なら治療できる傷も、今は治療することができない。現実を見るのだ。全ては、自分のためだ。何をしたら生き残れるのが、私に教わるのではなく、自分の頭で考えねばならない。しっかりするんだ。」

皆の顔が、強張った。

つまりは、ここから出られたとしても、拉致している誰かが許さない限りここから逃げられないのを知っているから、新はここに居るのだ、と皆に言っているのだ。

なので、皆にしっかりしろと言い、自分が生き残るために村の皆に発破を掛けて、勝ち残ろうとしているのだろう。

新は、何も皆のためを思って言っているのではない。

村が勝利して自分が生きてここを出るために、一人では勝てないのでしっかりしろと言っているのだと、悟った。

「…そうだ、だったら村のみんなでしっかり戦わなきゃいけない。」竜彦が、言った。「他力本願じゃ死ぬ。村が勝ったとしてもな。1日も早くここを出るには、皆の協力が必要だ。さあ、議論だ。もう一度グレーの話を聞く。今日はグレーの中に必ず居る人外を吊るんだ。村人なら村人らしい情報を落とせ。」

そうして、また議論が始まった。

全員が、目に殺気ののようなものをみなぎらせ、今度こそ真剣に議論をし始めたのだった。


「…ふーん。あの、識とかいう男は何者だ?思ったより道具が少なかったので、最後にふらふらしてた二人をついでに捕らえて来たが、医者とか言ってるな。確かに他と違って、最初から肝が据わっているようだったが。」

隣りの男が言った。

「さあ?いくら頭が切れてもこっちの手の内だからな。あの男も言ってる通り、足にアレが着いてる限り逃げる事なんかできない。せっかくだから、あの男を殺すか?さっき検体の一人を回収して来たが、ダメだな。薬が効いてない。今回は失敗だ。」

男は、むっつりと画面を見つめた。

検体達が、意味もない議論を続けている。

そして、言った。

「…どうしてもあの男を越えられない。ジョン、引退する前にどうしても追い付きたかったのに。噂に聞く24時間時が止まるあの薬、組成がどうしても知りたい。そこから分かる事も多いはずなのに。」

相手の男は、言った。

「ジョンには会ったことがあるのか?」

その男は、首を振った。

「ない。そもそも簡単には面会などしないし、メールでさえなかなか返事をくれない。大学が一緒だった奴らは学会などに呼んで顔を見知っているらしいが、私が行ったところでどれがジョンなのか分からないのだ。認証カードも偽名を許されているらしく、首から下げているのを探してもそれらしい名前を見つけられなかった。写真も撮らないので、分からない。私だってそれなりの功績を上げて来たと思っていたのに、それでも相手にされなかった。私の研究など、大した事はないと思われていたようだ。それこそ拉致してでも知識を取りたかったが、完全に隠されていて気取られて逃げられる。今からでも、居場所を探したいぐらいだ。」

相手の男は、ため息をついた。

「ま、今回は失敗だったし大量の死体が出るぞ。一般人を拉致したから、警察も動いているようだ。どうするんだ、ジェイ?ジョンがこんな風に検体を獲得していたらしいと噂を聞いて、真似たようだがジョンと同じように何事もなかったようにはできないぞ。既に二人を殺した。今からでもあいつらを解放して逃げる方が良いんじゃないのか?これ以上になると、処理するのが大変だ。」

どう見ても東洋人の男を、ジェイと呼んだ相手の男は、ため息をついた。

ジェイは、答えた。

「…ふん。続けるに決まっているだろう。投与が間に合わなかっただけかもしれない。次は上手くやる。黙って見ていろ、ライナス。」

ライナスと呼ばれた男は、呆れたように言った。

「好きにしろ。だが、後片付けをオレに押し付けるなよ。」

そうして、その暗い部屋を出て行った。

残されたジェイは、またモニターを見つめていた。

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