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囚われた獣に心はあるか  作者:
囚われのヒト
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「オレは、茉奈さんが真矢さんを庇っていると思う。真矢さんは真霊能者だと思ってたけど、なんか沙月さんに話してるのを聞いていたら、バレて焦ってる人外なのかもって思えて来たんだ。攻撃的な感じで返してたしね。」

章夫が、首を傾げた。

「そうかな?どっちかって言うと沙月さんの方が突っかかってる感じだったよ?真矢さんはそもそもが吊り対象じゃないし、びっくりした感じだったんじゃないかな。なんだろ、煽ってる感じに見えたなあ。」

総二が、それには頷いた。

「確かに言われてみたらそうだな。言い方の問題なんだろうけど、煽ってるようにはオレにも見えた。それに、仮に茉奈さんと沙月さんが投票対象に上がるんなら、自分から真矢さんを庇って真っ向からぶつかった茉奈さんより、ちょっかい掛けた沙月さんの方が心象が悪いのは確かかなあ。狼同士で、こんなあからさまに庇うような気がしない。何しろ、狼は三人しか居ないからな。」

狼は三人。

もし、真矢が人狼であっても茉奈が庇うことで二狼が露出するような危ない真似は、しないだろうと言うのだ。

言われてみたらその通りな気もして来た。

「丞は沙月さん寄りの意見ということは分かった。」新が言った。「とにかく、皆顔色が悪すぎる。役職も出たし議論は後にして、とりあえず顔を洗って食事をして来るんだ。食べられなくても、水だけは飲め。動けなくなっても私には治療できない。ここには食塩水すらないんだ…点滴をしてやることさえできないぞ。生き残りたければ、何か口に入れろ。分かったな。」

皆が、頷く。

竜彦が、ため息をついた。

「食欲なんかないが、識さんの言う通りだ。とにかく生き延びるんだ。ゲーム外で死んだら悔やんでも暗闇切れないぞ。」

そうして、皆は立ち上がって、バラバラと分かれて部屋へと向かって行く。

章夫も立ち上がると、新が小さな声で言った。

「…私のスマホ。トイレで聞け。」

なんの事だろう。

思いながら識が歩いて行く背を見送って、ハッとした。

いつの間にか、自分のジャージのポケットに重みを感じる。

章夫は、何か言いたい事があるんだと、急いで部屋へと入って行った。


トイレに籠ると、早速新のスマホをポケットから出した。

ロックはかかっていない。

常、ロックを掛けてあるのに、章夫のために解除してあるのだと思った。

起動させると、そこには音声フォルダが開いたままにしてあり、音声は最小になっている。

声が外に漏れては大変だと、章夫はスマホを耳に当てて、再生した。

『…私は占い師だった。君が狐でないことを祈ってこれを録音している。君は白だったが、狂人の可能性もある。もしそうならこれに録音して欲しい。君が生き残れるように、私は狼を庇う意見を出そう。ところで、私はいつも監視されている。機密を持って逃亡することを防ぐため、一時間おきに衛星からと地上から居場所を特定して研究所へと送られる。どんなに電波を遮断しても、余程専門的な加工をされた場所でない限り、それは通る。つまり、私の大体の居場所は、もう研究所員にはわかっているということだ。恐らく、ここがどこだが知らないが、近くにそれらが集まって警戒している事だろう。ただ、これの弱点は、大まかな場所が分かるだけで細かい場所が特定できない。そこは博正と真司の仕事だが、私にもどこまで彼らが追えるのか分からないのだ。あれらが突入するまで、生き延びるしかない。まずい事にリアルなタイム軸ではなく、12時間で1日と設定されている。このままだと誰か犠牲になるかもしれない。体勢を整えるのに3、4日掛かるとしてもここでは6~8日だからだ。生き延びることを考えろ。だが、どうしてもとなれば私にはベルトのバックルに仕込んだ薬がある。父が開発した薬を錠剤にするのに成功した物だ。まだ効果はハッキリしないが、もしもの時はこれを飲むしかない。見た目は死ぬ。だが、どんな傷を負ってもその時点で時が止まる。そこから24時間以内にここから出られれば、助かる。君にもこれを渡しておく。襲撃が来ると思ったら、迷わず飲み込め。それで助かる可能性が上がる。』

章夫は、慌ててスマホが入っていたポケットを探った。

すると、そこから白い錠剤が一つ、剥き身の状態で出て来た。

『では返事を待っている。なるべく小声で話せ。トイレは監視されていないが、居室は監視されている。声がトイレの外に漏れたら、聞かれるぞ。ではな。』

そこで、再生は止まった。

章夫は、急いで録音ボタンを押すと、小声で言った。

「オレはただの村人、狂人じゃないよ。新が占い師で良かったけど、襲撃されたらと心配だ。多分、護衛を寄せるために頑張って真を取ってるんだと思うけど、狩人のことは分からないもんね。とにかく、オレは新を真だって押すよ。頑張ろう。ところであれって、本当に死んでるのかな。幻覚じゃないの?」

章夫は、そこで録音を止めた。

これ以上、自分から言える事がないからだ。

とにかく、これをまた新に渡そうと思い、ポケットにスマホを突っ込むと、章夫は急いでトイレから出た。

長い時間籠ると、何をしているんだと勘繰られる可能性があるからだ。

ホッと息をついて奥にあるあの白い箱へと歩み寄ると、そこにはスープらしい物とパンが入っていた。

…これだけか。

章夫は、温めることもせずに、それを箱から出した。

そして急いで掻き込むと、こんな時でも腹だけは空いていたのが分かった。

…こんなところで死んでられない。

章夫は、思って無心にパンとスープをがっついたのだった。


もう、ジャージが楽なのでそのままで居ることにした。

ぶらぶらと外へと出ると、他の部屋の中はそこから丸見えだった。

扉が閉じないので、女子も着替えるとなるとトイレに入って着替えているようだった。

あちこちから見られていると思うと落ち着かない。

不意に、新の部屋を何気なく訪ねたふりをして、章夫は入って行った。

「識?ちょっといいかな。」

新は、ベッドで横になっていたが、頷いた。

「ああ。」

そうして起き上がって、こちらを見る。

章夫は、言った。

「何かスマホの具合が悪くて。圏外なのは知ってるけど、メモしとこうと思ってさ。開いたんだけど、おかしいんだ。」

そう言って、新のスマホを渡す。

新は、それを受け取って見た。

「…ほう。ちょっと中身を調べていいか?容量オーバーなのかも知れないぞ。」

章夫は、頷いた。

「頼むよ。ここに連れて来られる時に、どっかにぶつけたのかもしれないって思って。」

新は、スマホをポケットに収めた。

「後で見ておく。とりあえず、昼時間は限られているから、そろそろみんな集まって話した方が良いだろう。残り時間は?」

章夫は、頷いて外へと出て、表示されている数字を見た。

「…残り4時間17分。」

新は、立ち上がった。

「みんなを呼ぼう。そろそろ話した方がいい。」

章夫は頷いて、皆に呼び掛けた。

「そろそろみんな出て来て、話し合いをしない?あと4時間ぐらいだよ、まだグレー精査が進んでないし、占い師の占い先指定もできてないから。」

総二が、出て来て言った。

「もうそんな時間か。」と、皆を見回した。「みんな、トイレを済ませて出て来てくれ。パイプ椅子に集まれ。」

答える声はなかったが、全員が部屋の中で動き出したのが見えた。

…丸見えだな。

章夫は、こんな場所で奴隷のように扱われて、精神的にきつかったが、それでも新が居たのでまだマシだ。

だが、他の人達は、こんな事には無縁で来ただろう、学生っぽい人が多い印象だ。

きっとかなり苦しいはず。

気にはなったが、あいにく章夫にも余裕がなかった。

新と二人、どうしても生きて帰りたい。

そのためには、他の誰を犠牲にしてもと思ってしまう自分が、堪らなく嫌だったが、止められなかった。

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