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「正直、何も分かってない。」丞はおずおずと言った。「今話を始めたばかりだし、そもそも後ろには、絵美里さんが転がったまま、9の人も部屋で死んだままだ。ゲームをしないと殺されるのは分かってるが、ここに座ってるのでいっぱいいっぱいで、冷静に考えられる人達が凄いなと思ってたところだ。」
だが、新が言った。
「分かるが、命が懸かっているからな。おっとりしていたら狼が票を集めて来て吊られてしまうぞ。しっかり気持ちを落ち着けて、考えるのだ。」
誰もがみんな、分かっていた。
だが、血の臭いがあちこちから漏れて来て、それを敏感に感じ取って胸が詰まって来て仕方がない。
意識したくなくても、臭いというものは直に脳に働きかけて来て、無視できなかった。
新は、ため息をついた。
「…死んでいる者が居る所は、扉を閉めてくれないか。」新は、聞いている誰かが居るのだと確信しながら天井を見上げながら、言った。「臭いが影響して皆がまともに考えられない。このままでは、全員が死ぬことになる。ゲームにならない。」
すると、その声に応えるように、9の扉が大きな「9」という文字を背に閉じて、背後の元居た部屋の扉がスライドして閉じた。
新は、フッと肩で息をついて、言った。
「…私は職業柄、血の匂いにも人が傷ついている様を見るのも慣れている。だが、君達は違うだろう。私はこれ以上、誰かが死ぬのを見たくはない。できるだけ犠牲を少なく収めて、ここを出たいと思っているのだ。確かに村人ならば、しっかり考えるんだ。生きて出るためには、恐怖で震えているだけでは結局死ぬしかなくなるぞ。分かったな。」
全員が、新の落ち着いたしっかり通る声に、段々に落ち着いて来たのか頷いた。
新は、言った。
「では、丞という君は無理そうだし、後に回して次は平太。呼び捨てにするが、許してもらいたい。」
平太は、学生っぽい風貌の男だったが、頷いた。
「この際呼び方とかいいです。オレは…特に今の会話では何も。ただ、占い師の中に狐が居るとは思う。少なくとも、識さんは人外じゃないんじゃないかな。だって、人外だったら村人がおろおろして一人ずつ自滅してくれた方がいいから、みんなを放って置くと思うんだ。狼だったら夜に話し合ってるだろうから識さんほどの人が味方だったら落ち着いてるだろうし、狐だったら狼だって村人だって、勝手に消えてくれたらそれでいい。今の識さんの呼びかけは、間違いなく村人全員に向けて言ってた。だから、とても白く見えるし、三人の中では真だと思う。」
それが恐らく村の印象だろう。
章夫は、それを聞いて思っていた。
新は、よくも悪くも説得力があるので、こういう時には真を取りやすい。
自分はそれを知っているので、騙されてしまってはと思うのだが、今の新は限りなく真に見えた。
4の一明と、5の識は占い師に出ていて、6の藍は白が出されている。
なので、7の秀幸が言った。
「オレも平太って子が言う通りだと思う。占い師の中では、識さんがすごく真に見える。頭が良い人なんだなって雰囲気で分かるから、偽だったら困るなと思うけど、占い師に狐が出てるって言うんなら狐っぽくはないから。狐って目立ち過ぎてもまずいしな。だから、識さんは白い。」
総二が、顔をしかめた。
「このままじゃ識さんのことばっかりになるかもしれないから、ここから先は識さんが怪しいと思う人だけ識さんに言及してくれ。別の意見も聞きたいから。次、10番。」
広武は、顔を上げた。
「あ、オレ。その、そうだな、他の二人の占い師は、どっちもどっちでまだ全然分からないな。白先を見ても、一明さんは杏奈さん、恭介さんは竜彦さんだし…この二人の色がまだ見えてないから、判断つかないし。ただ、霊能者の真矢さんは真だと思う。絵美里さんは狂ったみたいになってたから分からないけど、霊能者とかだったら、村人陣営じゃないか。そうなると、あんなに取り乱すか?オレ、思うんだけど、村人陣営だったら味方が多いのが分かってるんだから、もうちょい頑張れたと思うんだよな。」
それを聞いた、新がおもしろい、と思ったのか、眉を上げて少し身を乗り出した。
「ほう?それはなぜかね?」
広武は、まるで教師にでも聴かれたように背筋を伸ばすと、敬語で言った。
「はい。味方が少ない、もしくは分からないから怖くてああなったんじゃないかって。つまり、狂人かな。狂人は、狼陣営なのに狼が誰かも分からないし、それに最悪狼に切られる運命でしょう。だから、不安に押しつぶされたんじゃないかなって思うんですけど。」
結構、的を射ている。
新もそう思ったのか、感心したように言った。
「考え付かなかった。だが、言われてみたらそうだ。狂人は、この村で唯一味方が誰だが分からない人外だ。村人からは糾弾され、狼からは使い捨てられる。あの反応は極端だなと思っていたが、もしかしたら広武の言う通りなのかもしれないな。」
総二が、頷いた。
「オレもそう思う。何しろ、せめて狂人なら霊能者に出るだろうし。霊能者は一確して、占い師が二人のうち一人が人外っていう少ないCOは、もしかしたらそのせいなんじゃ。」
だが、広武の次の沙月が言った。
「そうかしら。」皆が沙月を見た。沙月は続けた。「私は、絵美里さんを狂人置きして生き残りたい狂人に見えたわ。狼から今の発言を見たら、きっと自分を噛まないでいてくれるとか思ってるような気がする。」
総二は、沙月を見た。
「じゃあ、君は絵美里さんが真霊能者だと?」
沙月は、それには首を傾げた。
「分からないわ。でも、可能性は残ってると思う。信じたいけど、真矢さんって誰も出ないのを見て自分が霊能者だって言ったから、もしかしたら他に真霊能者が居ないのを確認してから出て来た、狼の確率まであると思ってる。」
それには、真矢が驚いた顔をした。
「え、狼?私が?」
沙月は、真矢を見た。
「ほら、そういう反応とか。狼だってバレるはずがないって思ってるように見えるわ。」
真矢は、首を振った。
「私は狼じゃないわ。それに、今の時点で一確してる霊能者を今夜吊るはずないんだから、そんな事よりここまで聞いて来た、グレーの話をどう思ったのか言うべきだわ。発言に困って適当に役職にいちゃもん付けてるだけに見えるわ。」
沙月は、言われて真矢を睨んだ。
どうやら、この二人はまだお互いが敵陣営だとも分かっていないのに、敵意を持ったようだった。
だが、吹っ掛けたのは沙月の方だ。
それを覚えておこう、と章夫が思っていると、困惑した顔をした、茉奈が言った。
「…正直、真矢の事は私がよく知ってるから、本物の霊能者だと思う。だから、今のを聞いてたら、沙月さんが誰かを黒塗りしたい人外に見えた。狐は目立ちたくないだろうから、多分狼。真矢が言うように、真矢は今日の吊り位置ではないから、私がこうして真矢を庇ったから、次は私を黒塗りして来るんじゃないかなって思ってる。そうしたら、私は沙月さんが狼だと確信して投票するまであるかな。」
結構強い言い方だ。
こう言われたら、沙月も攻撃を返すしかないだろうが、そうなって来ると投票対象の一人に上がることになりそうなので、狼なら怖いはずだった。
最後のグレーになる、幸次郎が言った。
「…オレ、この中じゃ一番年上かな。みんな学生っぽい。先に言うけど、オレは32歳なんだ。」
新が、言った。
「私もだ。同い年だな。」
幸次郎は、え、と新をまじまじと見て、納得したように頷いた。
「そうか、よろしく。ええっと、オレはあんまりこのゲームに詳しくないんだが、今の感じだと沙月さんと茉奈さんがやり合ってる感じか?だったらどうせグレーなんか分からないんだし、この二人のうち一人を吊って色を見て、投票から他の色を見て行ったらいいんじゃないのか?残った方は誰かが占うってことで。いくら考えても話すのが上手いヤツは上手いし、下手なヤツは下手だ。真占い師と真霊能者の出した色しか信用できないだろう。」
言われてみたらそうだ。
あっさり言っているが、吊るということは死ぬということだ。
本来、ゲームであって遊びなので、実際に死ぬ事はないからあっさり投票できるが、そうでないならそんなに安易には決められない。
だが、新は言った。
「…幸次郎の言う通りだ。どうせ今は、占った位置の色しか分かっていない。グレーは広いのだから、他に怪しい位置が見つからない限りは、今夜はこの二人の中から指定して入れたらいいのではないかと思う。あくまで、現状で、だ。ここから更に突っ込んで聞いて行って、更に怪しい人が出て来たらこの限りではない。」
総二は、その意見に悩んでいるようだったが、同意した。
「…オレもそう思う。まだ始まったばかりだから、とりあえず仮にこの二人を対象として、他にももっと話してもらおう。丞は落ち着いたか?話を聞こう。」
丞は、皆の話を聞いてフルフルと震えていた。
精神的に、弱いタイプの人らしい。
だが、思い切ったように、口を開いた。