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『朝です。昼時間を開始します。全員外へ出てください。』
大音量で機械的な女声が聴こえ、章夫はびっくりして飛び上がった。
…そうだ、ゲームをさせられるんだった。
起き上がると、昨日どうあっても開かない構えだったあの板が、横へと収まって開いている。
そして、向こうのパイプ椅子が見えていて、向こうからは部屋の中が丸見えだった。
「藍?」そこから、新が顔を覗かせた。「無事か。」
「あ…識!」章夫は、急いで言い換えて、飛び出した。「良かった、襲撃があったはずだよね?」
新は、頷いた。
「今から昼時間だな。」
他の部屋からも、皆が出て来るのが見える。
さっきの女声が言った。
『昼の会議をしてください。投票10分前にはまたお知らせします。ではどうぞ。』
ふと見上げると、天井から吊り下がる四角い箱の正面に、残り時間と思われる表示が出ていて、秒単位で減っているのが見えた。
新は、言った。
「とにかく生存確認だ。皆居るか?番号!」
急に言われて皆驚いた顔をしたが、あのがたいの良い竜彦が言った。
「1!」
それを聞いて慌てたらしい声が遅れて叫んだ。
「2!」
戸惑う声が次々に声を上げるが、8、の後声が止まった。
「あれ…?」8の、恐らく総二だったと思うが、その男が、言った。「9はオレの相方だったのに…?」
あの大音量で、寝ているということはないだろう。
それより相方という言葉が気に掛かる。
狐がそんなことを漏らすはずもないので、もしかしたら共有者なのではないのか。
章夫が絶望しながら見ていると、総二が9の部屋へと足を進めて、その入口でもう、叫んだ。
「うわあああ!死んでる!」
死んでる…?
入口で、もう分かる状態なのか。
皆がわらわらと9の部屋へと集まって行く中、章夫も恐る恐るそちらへ足を向けた。
新が、人の波を掻き分けて前へと出た。
「見せてくれ。私は医者だ。」
驚く皆が道を開けると、新はそれを見た。
9の男は、そこで血の海の中、目を見開いて恐怖の表情のまま、ベッドの上で壁を背に座り、首を垂れていた。
一目で、もう死んでいるのだと分かった。
「きゃあああ!」
女子の悲鳴が後ろで上がるが、新は構わず進み出て事切れている男を調べた。
そして、言った。
「…胸を何かで貫かれた事による失血死。この位置なら動脈と心臓が傷付いているので、一瞬だっただろう。」
本当に死ぬ。
章夫は、震えて来る膝を必死に押さえた。
薬品で死んだように見せるのでもない。
本当に死ぬのだ。
「そんな!いやよ!」女子の一人が叫んだ。「どうしてそんな死にかたしなきゃならないの?!ゲームなんかいや、私はやるって言ってない!帰りたい!ここから出して!」
その女子は、駆け出して隣りの最初に倒れていた部屋へと出て行ったが、そんな所に行ったからと出られるわけがない。
何しろここには、出口が見当たらないのだ。
あるとしたら、今も閉じられている18から20までの部屋のドアの向こうだが、硬く閉じられていて開きそうにもなかった。
「いやよ!帰して!私はやらない!ゲームなんかやらないわ!」
新が、9の部屋から出て来て叫んだ。
「落ち着け!ゲームをやらないと殺されるぞ!君は何か役職を持っていないのか!」
これ以上役職を欠けさせたくないという意思を感じる。
新は村陣営なのか…?
章夫が思って希望を持っていると、その女子は叫んだ。
「役職が何よ!知らないわ、私は帰るの!」
それは、一瞬だった。
ヒュンと、空気を切るような音がしたかと思うと、その女子の背に銀色に光る何かがドスッと突き刺さるのが見えて、その女子はそこに、声も上げずに倒れ込んだ。
「ああ!」
皆が叫ぶ。
倒れた女子の体の下には、みるみる血溜まりが広がって行った。
『No.17は、ゲーム放棄により処分されました。』
機械的な女声が告げる。
皆は、絶句してその場に固まった。
新は、その女子に無言で近付いて顔を覗き込み、首の辺りに触れたりして見ていたが、首を振った。
「…どちらにしろ、私には何もできない。ここには何もない…治療できる環境ではない。まだ息はあるが、道具がないので間に合わない。もう助からない。」
いくら医者でも、こんなに大きな傷に丸腰では対応できない。
そういう事なのだ。
「ゲームをしよう。」竜彦が、言った。「死ぬぞ。落ち着いてやるんだ、生き残るにはゲームをして生き残り、勝つしかない。そういうことなんだ。」
一人の女子が、座り込んだ。
「ああ、絵美里…。」
あれは、絵美里という子だったのか。
章夫は思いながらも、倒れて動かないその絵美里の体をそのままに、パイプ椅子に座り、議論に参加するよりなかったのだった。
「…オレが共有者。」力なく、総二が言った。「9番の人は、ええっと、名前聞いたけど忘れた。相方だったんだ。机の上にメモが置かれてあった。」
そうだろうな、と皆は頷く。
昨日は役職を抜かれてしまったのだ。
「では、君が進行するんだ。」新が言った。「あちらのホワイトボードを持って来よう。そこに、まずは番号と名前を書き出して、お互いの名前をまず認識しよう。」
総二は、言われるままに壁に寄せて立っている、ホワイトボードを引きずって来た。
そして、言った。
「じゃあ、1番からここに名前を書きに来て。ふりがなもお願いします。」
竜彦が、立ち上がって最初に書き始めた。
1、竜彦と書かれた。
そこから、全員が従って名前を書いて行く。
欠けた人たちは、抜けたまま番号だけが書き足された。
1竜彦
2丞
3平太
4一明
5識
6藍
7秀幸
8総二
9
10広武
11沙月
12茉奈
13真矢
14恭介
15幸次郎
16杏奈
17
ホワイトボードには、残った15人の名前が並んだ。
新が、言った。
「この中に、昨日の説明では狼3、狂人1、占い師2、霊能者1、狩人1、猫又1、共有者2、村人4、妖狐1、背徳者1が居るはずだ。だが、二人を失った。一人は共有者の相方だったと確定しているので、もう一人、絵美里さんが役職持ちであったらまた欠けている可能性があるとだけ言っておく。」
それを聞いた、総二がせっせとホワイトボードに書き出した。
そして、9の番号のところに共有者、と書き、17の番号の横には、?と書いた。
総二は、言った。
「この村は、連続護衛があるって言ってたな。だから、占い師は出て良いと思うんだ。昨日の結果も持ってるだろう。狼を引いててくれたらラッキーだし、出てくれないか。」
スッと三人の手が上がる。
その中には、新も混じっていた。
章夫が、ゴクリと唾を飲み込んで新が真か否かとドキドキしていると、新は言った。
「私は、5番識。友人だし敵だったら怖いと思って6番藍を占った。白だ。」
章夫は、肩の力を抜いた。
多分、新は真だ。
なぜなら、恐らく章夫が占い師を引いていたとしても、真っ先に新を占ったと思うからだ。
身近であるがゆえに、分からないことも多いと章夫は考えている。
新も、恐らく同じように考えたのだ。
もう一人が、言った。
「オレは、4番一明だ。とりあえず誰が誰だが分からなかったので、適当な番号を言った。16番杏奈さんは白だ。」
ここまで、白が二人。
最後の一人が、言った。
「オレは、14番恭介。オレも、誰が誰か分からないので手っ取り早く1番を占った。竜彦さんは白。」
全員が白結果だった。
あの時点で17人が生存していて、全てが占い対象だったのだから、そこから狼を当てるのも難しかっただろう。
何しろ、部屋に入るまでは、狼でさえ自分の役職を知らなかったのだ。
「この中に、一人だけ偽者が居るが、二人は本物だ。」総二が言った。「助かったな、三陣営居るから、騙りが最悪4、5人出るかと覚悟していたんだが、まずは占い師の精査は放って置いても良さそうだ。今日はグレー吊り一択だな。」
だが、真矢が言った。
「待って、霊能者は?」皆が、真矢を見る。真矢は、まだ頬に涙を痕はあったが、それでもキッと唇を引き結んで顔を上げて発言していた。「複数でたら霊能を精査して吊った方が村に有利よ。」
総二は、頷いた。
「だな。じゃあ、霊能者も出てくれないか。」
皆が、不安そうに顔を見回している。
…え、居ない?
まさか、絵美里さんが霊能者だったんじゃ。
だが、真矢が顔をしかめて、言った。
「…はい。」真矢は、言った。「私が霊能者なの。人外が出たら絶対に議論で打ち負かしてやろうと思ってたのに。」
霊能者が確定した。
ということは、どういうことだ?
章夫が困惑していると、新が言った。
「発言するぞ。この感じ、私が思うに、人外は騙りにたった一人しか出ていないことになる。占い師には一人居るが、狐が居るレギュレーションでは狐本体か、それとも背徳者が出るのがセオリーだ。私は占いに弱い狐は、必ず占い師に出ると考えるので、狼が出そびれたのだと考える。騙りを狂人任せにしているのではないか?そして、せめて霊能者にと思うところだが、霊能者にも狂人は出なかった。狂人が思ったほど仕事をしていないのだ。役職に出たら死ぬ確率が他より格段に上がる。なので、怖気づいているのではないかと考える。」
藍が、言った。
「それとも、絵美里さんが真霊能者だったかだよね。つまり、真矢さんが狂人。狼が、霊能者に出るのは、こんなほんとに死ぬ人狼ゲームではなかなかできないと思うし。霊能者ってローラーが鉄板だから。」
総二が、頷いた。
「確かにその通りだ。オレも占い師には狐陣営が必ず出ると思っている。真占い師が二人も居るこのレギュで、グレーに潜むリスクったらないからな。狼陣営が誰も騙りに出てないと思うから、識さんの意見には同意だ。ま、結局グレー吊りなんだけどな。」
藍が、頷いた。
「だったらグレーが順番に意見を言う?」と、丞を見た。「番号順に。」
丞が、ビクと肩を震わせた。
番号順なら、1の竜彦は恭介の白なので、2の丞からになる。
丞は、皆の視線を受けて、戸惑う顔をしたのだった。