エピローグ
そうして、復讐劇は終わった。
あの13人は無事に警察に発見されて拘束された。
犠牲者達も同じく地下のモルグで発見されて、そこにあった他のおびただしい数の遺体も回収された。
大変な事件であったが、あまりにも大きな事に公表されたのは極一部で、マスコミにも報道規制がかかって世間的な騒ぎは幕を閉じた。
助かった者の内、全く傷を受けていなかったもの達は、あの後公園に転がされていたので元より拉致されていた事実すら覚えてはおらず、ただ数日失踪していただけでこの事件とは関連しないと考えられていたが、治療した数人は、何も覚えてはいなかったがあの場に居たし、傷痕もあったので、巻き込まれた被害者なのだとしばらくは世間の好奇の目に晒された。
だが、とにかく何も覚えていない彼らには、迷惑この上ない事で、固く口を閉ざして何も話さなかったので、次第に忘れ去られて行った。
それからしばらく、彰からすると面倒なことに、あの13人はあの体験の記憶を持ったままだったので、時に恐怖に錯乱状態となって精神病院に送致されていた。
全員が精神病だと診断されたからだった。
…結局永らえるのか。
彰は、その報告に眉を寄せた。
あんなことができるのは、確かに狂ってでもいないと無理なことだろうが、それでも殺されたもの達が、それで浮かばれるのだろうか。
複雑な思いでいると、報告していたアーロンが、彰の様子に気付いて、言った。
「…私なら治療もできますが。それでも後に治っても、罪を犯した時点で狂っていたとしたら無罪になるのがこの国の法律です。どうしますか?」
彰は、ため息をついて首を振った。
「いい。ならば永劫に苦しむと良いのだ。あの邪神がいつまた自分達をあの場所に連れて行って、何度も殺すのかもしれないと思いながら、命が終わるその時まで苦しむのがせめてもの償いだろう。格子のはまった病室で、逃げ場もない中な。」
新が、頷いた。
「私もそのように。あの時、邪神に扮したお父さんも言っていたではないですか。死は、時に平穏なのですよ。生きるのが地獄な人も居ます。あいつらは、やった事と同じだけの苦しみを味わう義務がある。私はあっさり死刑になるより、よほど良かったのではないかと思います。」
彰は頷いて、またため息をついた。
「…もうこの件は良いだろう。あれから何年だ。死んだもの達は帰らないが、助かったもの達はやっと平穏に生きている。私は助ける事ができた命が、これから平穏に幸福にと願うだけだ。」
新は頷いて、話題を変えようと言った。
「そういえば、章夫が提携病院に就職しました。何とか無事に医師免許も取って、これからですがね。」
彰は苦笑した。
「かなり無理やりであったようだな。お前が付きっきりで教えたのだと聞いているぞ。本当は研究所に来たいと言っていたのだろう?無理だったか。」
新は、顔をしかめた。
「仕方がありませんよ。研究所に入所するには最低限の力が要りますからね。後は、実績か。簡単な事ではありませんし。」
彰は、頷いた。
「いくら親しい間柄でも、できない事はあるものだ。せめてバイリンガルでないと無理だし、実際あそこにはマルチリンガルしか居ないからな。」
そう、章夫はなぜか日常英会話はできるのに、単語数が壊滅的に増えない。
日常会話ぐらいは何とかなったが、研究などの突っ込んだ会話になると途端について行けない。
単語は何とか頭に入っているらしいが、パッと出ないのだ。
それでは、普段英語しか使わない場所で研究など無理だった。
もちろん、全員が日本語も話せるのだが、章夫一人のためにそんな特別扱いはできなかった。
「仕方がありません。」新は、ため息をついた。「それでも日常会話はできますから。私と話していれば、そのうちに。」
彰は、それを聞いて新が章夫を諦めていないのだと知った。
そして、微笑みながら頷いた。
「そうだな。君のアシスタントぐらいはできるようになるだろうし。私も要に側でフォローしてもらったので、心強かったものだ。君にもそんな友が側に居てもらえたらとは思っている。」
それでも要は貴重な上位数%の頭脳の持ち主だった。
章夫はそこまでではなかったし、あの研究所では肩身が狭いかもしれない。
だが、彰はもう知っていた。
例え自分の話を理解できなかろうとも、黙って話を聞いて共に一喜一憂してくれる存在は、何者にも変えがたい貴重な存在なのだ。
特に先の見えない研究に勤しんでいる時には、精神的に支えになるそんな存在は必要だった。
頷く新を見ながら、新にもそんな友ができて本当に良かった、と彰は思っていたのだった。




