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囚われた獣に心はあるか  作者:
獣の悪夢
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「…投与しました。安定しています。」

アーロンが言う。

彰は、フンと鼻息を吐いた。

「あれだけ涼しい顔をしていたのに、さすがにあいつも狂ったか。だが、そう簡単には楽にしてやらん。」

アーロンは、頷いた。

「他の検体は皆、とっくに投与していましたからね。さすがに厚かましいだけありますよ。」

新が、言った。

「それにしてもアーロンのRS771は効くな。現場から絶賛されるはずだ。」

アーロンは、恥ずかし気に頷いた。

「自分でも会心の出来で。ただ、量を間違えるとおかしなことになるので、難しいのですがね。」

彰は、言った。

「さあ、あと少し。私はこのゲームがあいつが生き残って終わることを願っているのだ。その時のヤツの顔を見てみたい。自分がこれまでどれほどの事を他の人にやって来たのか、思い知れば良いのだ。その時を待つために、こんな事をしているのだからな。」

彰は、クックと笑って言う。

確かにそれが目的だが、それにしても彰は必要以上に楽し気だ。

彰とアーロンは顔を見合わせて、何かあった時には紫貴を呼ばねばと視線で確認し合っていた。


《朝になりました。出て来てください。》

化け物が、もうお決まりの様子で言った。

皆がぐったりとした様で、それでもおずおずと穴から出て来て中央の大きな穴を取り囲むと、怪物は言った。

《昨夜は、№2、№5、№10が犠牲になりました。昼時間を開始してください。》

ライアンを噛めたが、呪殺が出た…!

ジェイは、思って残った6人を見た。

境が、相変わらずのおずおずとした口調だったが、それでもしっかりと言った。

「あの、辻村は松田を占ったんだな?」

辻村は、頷く。

「黒が出るかもと思ったが、白だった。清水は生きてるし、村目線でもオレが呪殺したってことだろ?」

境は、頷く。

「3人犠牲が出たのでそれが分かった。昨日吊った木村が仮に狐だったとしたら、今日背徳者が道連れになっただろうが犠牲者は2人。だが、3人出たことで、君が松田を呪殺、背徳者で松田を初日に囲っていた三谷が一緒に犠牲になり、狼の襲撃はライアン。それで確定だ。なので、今日は君を吊らなくてもいい。君が真占い師だ。」

そうだった。

ジェイは、ライアンを噛みたいばかりに早まった、と思った。

思えば、もしここで松田か三谷を噛み合わせておけば、木村が狐だったという考えも残る。

そうなると、残った辻村が狼の可能性があるので、村は確定させることができず、吊るよりなかったのだ。

辻村は、胸を張った。

「じゃあ、オレの白の清水は確定村人だ。他は木村と境なので、役職で役に立たない結果だな。これで確定で狼1、狐、背徳者が居なくなったので、オレのグレーは、細田、林、ジェイの3人。この中の狼を見つけたらいいだけだ。2人、もしくは1人がこの中に居る。」

まずい。

ジェイは、思った。

すると、林が更に首を絞めるような事を言った。

「オレは狩人だ。」皆が、驚いた顔をする。林は言った。「細田とジェイか、それともどっちかが狼だ!この二人を吊り切ってくれ。」

ジェイは、ここで出なければと咄嗟に言った。

「違う、オレが狩人だ!」皆が驚いた顔をして、林とジェイを見る。ジェイは続けた。「守り先を言うか?昨日は言えないが、一昨の夜はライアン。初日は捨て護衛で、占い師でオレに白を出していた木村を守っていた。」

林は、慌てて言った。

「初日はオレは適当に三谷を守ってた!2日目はライアン、昨日は言えない。ジェイが狼だ!」

だが、境が言った。

「だが、三谷の人外は確定していて、そこから出た黒だったしな。まだ一人、他に狼が居る可能性もあるが、この二人のどちらかが真、どちらかが狼だ。」

清水が言った。

「今6人で吊り縄は後2本だ。まずは、まだ二狼残りの時のケアで細田を吊って明日狩人の決め打ちって手もあるが。」

境が、むっつりと呟くように言った。

「残り6人、2縄。ジェイ、林、清水、細田、辻村、オレ。辻村は真占い師、オレは共有者。清水は辻村の白先。ジェイ、林、細田の中に二狼、もしくは一狼。そうだな、残り一狼だと分かっていたら狩人を吊って行けば必ず勝てるのだが、まだ二狼残りの時が厄介だ。どうしても、今夜は細田を吊って辻村にどっちかを占わせるしかない。林、ジェイ、ここで聞こう。今夜は辻村を守れるか?」

言っていることはしっかりしているが、相変わらず自信がなさそうに聴こえる声だ。

ジェイが、言った。

「ここでそれを聞いてどうする。もし守れなかったら、狼に噛めると教えるようなものだぞ?」

だが、境は答えた。

「どっちであっても辻村を噛まないと狼には勝ちはありません。どうですか?」

ジェイは、苦渋の顔をした。

何しろ、守れると言ってしまえば噛めない、守れないと言ってしまえば噛むしかないが、もし林が守れた場合は嫌な結果になる。

その表情で、境は勝手に察したのか、林を見た。

「君は?」

林は、ジェイ以上に苦しそうな顔をしていた。

…林は、恐らく昨日辻村を守っている。

ジェイは、その表情にそう思った。

「…どうした、守れると言ってしまったら噛めないしと悩んでいるのか?」ジェイは、自分の心の内をそのまま林にぶつけた。「それとも守れないと言ってしまえば私が守れた場合がまずいと考えているのか。」

林は、キッとジェイを睨んだ。

「ま、守れる!守れます!」

…嘘だな。

ジェイは、何やら確信して気持ちが高ぶって来た。

だが、途端にグッとまた、腕の触手が引き絞られて、ハッと我に返った。

…そうだ、ここで我を忘れて喜んでいる場合ではない。

ジェイは、思っていた以上に自分の精神が不安定になっているのだとそれで悟った。

命の危機に晒され続けて、これまで仲間だと思っていた者達を殺し続けた結果、少しのことで有頂天になってしまいそうな危ういバランスの上で精神が成り立っているのを肌で感じたのだ。

細田が、紫色の光がどんどんと、昨日とは違った速度で傾いて来るのをチラチラと見ながら、必死に言った。

「私は狼じゃない!今日狩人を決め打ちしてくれ!辻村にオレを占わせたらいいじゃないか!」

しかし、境は無情に言った。

「…本当に村人だったらすまないが、ここはオレ達も生き残りたいからな。勝てない未来を選びたくないのだ。辻村が居なくなったら、結局明日は君と残った狩人で悩むんだ。すまないが、吊られてくれ。」

「そんな…!!」

《投票してください。》

明らかに、議論時間が短くなっている。

ジェイは、思いながら触手に触れた。

そして、そこに7となぞり、明日もどうあっても生き残るのだと決意を新たにしていた。


1ジェイ→7

3林→1

4清水→7

7細田→3

11境→7

12辻村→7


結果は、あっさりと決まった。

思えば、ジェイ目線では確定黒である林に入れていないのはおかしなことだったのは、林の投票が自分に入っている事で思った。

だが、そんな事は共有の指示に従っただけだと言い訳すれば問題ない。

目の前で、細田が叫び声を上げながら触手に掴まれて穴へと消えて行くのを見守りながら、ジェイはもう次の日の事を考えていた。

これで、明日の投票が自分に集まりさえしなければいいのだ。

そのためには、どうあっても辻村を噛み抜けなければならなかった。

こればかりは林がそこを守れていたらどうしようもなかったが、それでもやるよりない。

《夜時間です。穴に入ってください。》

化け物の声がそう言う前に、もうジェイは穴に向かって歩いていた。

どうあっても、辻村を噛むしかなかった。

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