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外へと出ると、化け物が言った。
《昨夜の人狼の襲撃は失敗しました。朝です。議論を始めてください。》
ライアンが、ホッとしながら言った。
「…狩人、良くやった。これでもう一日進められる。」
ジェイは、内心苦い気持ちだった。
木村の視線が、何やら呆れた色を宿しているように思える。
だから言ったでしょう、とでも言いたげなのだ。
ライアンは、続けた。
「では、占い結果だ。三谷。」
三谷は、ビクと肩を震わせたが、思い切ったように言った。
「ジェイ。ジェイが黒でした!」
三谷が真か…!
ジェイは、心臓がドキドキと拍動数するのを感じたが、平気なふりをした。
「ほう。私目線で偽物が分かっただけでも収穫だな。」
ライアンは、続けた。
「木村。」
木村は、頷いた。
「松田は白。」
黒を打ってくれないのか。
ジェイは思った。
木村は、自身の真を取るためにここで黒を出したらまずいとジェイを切り捨てる選択をしたようだ。
恐らく、ライアンが噛めなかった場合はもう、ジェイを切り捨てる選択もしようと考えたのだろうと思われた。
ライアンは頷いて、辻村を見た。
「辻村?」
辻村は答えた。
「清水は白。完全グレーは無くしたかった。オレ目線では、ジェイが黒の可能性はあるから吊ってもいいが、それでも三谷が黒だった場合はあり得ないし、確実に黒でないと縄がまずいので今日は無しだ。占ってからにしたい。」
ライアンは、また頷いた。
「…そうだな…だが黒が出たしジェイを吊るのかどうか…意見はあるか?」
細田が、口を開いた。
「ジェイが本当に黒なら良いですが、辻村が言う通り違った時にはまずい事になります。状況を整理してみないことには。」
ライアンは、他に意見がないかと皆の顔を見回したが、誰も何も言わない。
木村も元より、恐らくジェイを切るつもりでいるので涼しい顔をしていた。
なので、境を見た。
「境。」
境は言った。
「三谷目線、グレーは残り清水、細田でこの中に一狼と占い師の中に一狼か、昨日までに一狼吊れている場合は占い師の狼で終わり。木村目線、清水、林で三谷と以下同文。辻村目線、ジェイ、細田、林、松田の中に以下同文。後は狐ですね。」
境は、こういう整理に長けているらしい。
細田が言った。
「つまり三谷目線では、ジェイが初日に木村に囲われていた事になるから、木村が狼で辻村が狐か背徳者だな。仮に辻村が背徳者だった時、囲っているとしたら植木は襲撃されているのであり得なくて、清水。囲っていなかったらオレ。オレは人外じゃないから三谷目線じゃもう、清水か辻村しか狐位置は居ないから、杉崎が狼でなかったなら背徳者がどこかで落ちてないとおかしい計算だな。」
ライアンが言った。
「狐が背徳者を囲うかどうかはわからないが、背徳者は絶対に狐を囲うだろう。今のところ確定白は出ていない。今10人、後残り4縄だ。恐らく狂人は落ちているが、狼が3人残っていたら間違えるとまずい。背徳者は狐と道連れになるので狐本体を狙えば何とかなるが、今日は絶対に人外を吊らなければならない。占い師に手をかけるか…。」
清水が、言った。
「ですが、今のところ誰が偽物なのか分かりません。一番目線が詰まっているのは三谷ですが…。」
ジェイが、言った。
「私目線、それなら助かる。なぜなら少なくとも一人は偽物が分かっているからだ。そこに入れたら必ず人外だしな。」
ライアンは、悩むような顔をした。
「…ここではできるだけ狼の方を吊りたい。なぜなら、狐の呪殺で真占い師が確定するからだ。三谷の黒の出し方は、どうもかなり思い切ったように見えた。つまり、偽物の可能性が高い気がする。真ならやっと黒を見つけたと少なからず喜ぶので、言いたくて仕方がないはずなのだ。しかも思い切ったようなあの感じ…三谷は黒というよりも、偽なら狐陣営の方が硬いのではないかと思う。私が思うに、いつも結果だけを言う三谷と木村に対して、辻村はどうしてそこを占ったのか付け足して来る。それによってどう思ったのかもな。なので、初日からなんとなく辻村が真っぽいと思っていた。言うと襲撃されるかもしれないので、言わなかったがな。なので、占い師なら木村か三谷のどちらかを先に落としたいのだ。何しろ辻村目線は一番詰まっていないしな。」
木村が言った。
「時間が少ないから敢えて理由など言わなかっただけだ。それだけで私が真ではないと吊り対象に挙げるのはおかしい。」
しかしライアンは、チラと木村を見た。
「君は、君の白であるジェイに黒を打たれても、驚いた素振りもなかったし、まるでそれが当然のような顔をしていたな。今も特にジェイを庇う事もなく、こんな盤面なのに落ち着いている。今日は吊り間違うわけにはいかないのだぞ?真占い師なら、自分の白を吊られたら村がまずいと焦るものだが、君はそんな様子はない。ただ淡々と議論が進むのを見ているだけだ。今自分自身に縄が来そうになって、初めて反論し始めた。その動きが、村人には見えないのだよ。」
木村は、首を振った。
余裕な顔をしていたのに、一気に疑いが向いて焦っているのだろう。
ジェイは、だから黒を打っておけば良かったのに、と内心ざまあみろ、と言う気持ちだった。
木村は、言った。
「私は真占い師だぞ!吊ったら縄が足りなくなる!それこそ狼の思うツボじゃないか!」
ライアンは、じっと木村を見た。
「それならジェイが吊られるかもしれない場合も同じ反応をして然るべきだった。私はわざとジェイを吊ってもいいが、意見を聞こうと皆に発言を促したが、君は何も言わなかったな。自身の白なのに、何の意見もないのが一緒に怪しまれるのを避けたい人外に見えるのだ。」
《投票してください。》
いきなり、化け物が言った。
ライアンは、慌てて言った。
「占い師から投票!残った占い師に後で占い指定する!」
ジェイは、むっつりと触手に触れた。
ここはライアンに怪しまれている木村に入れたいところだが、自分目線では確実に偽物だと言えるのは三谷。
なので、三谷に投票した。
1ジェイ→5
2ライアン→8
3林→8
4清水→8
5三谷→8
7細田→8
8木村→5
10松田→8
11境→8
12辻村→8
《No.8は、追放されます。》
「そんな!」木村は、叫んだ。「ライアンは間違っている!」
…だからライアンだと言っただろうが。
ジェイは、仲間が吊られるというのに、その瞬間そんなことを思っていた。
触手がわらわらと出て来て、逃げようとする木村を掴んで引き摺り込んで行くのを見ても、ジェイは何も感じなかった。
ライアンが、そんな中でも叫んだ。
「占い先、三谷は清水!辻村は松田だ!」
《No.8は追放されました。穴に入ってください。》
皆は、もはや脱け殻のような顔をしながら、淡々と穴へと引き揚げて行ったのだった。
もはや、味方は誰も居ない。
ジェイは、思った。
居るのは敵ばかり、知らずに淡々と人外ばかりを吊って行ったライアンのせいで、狼は自分だけになった。
こんな事になっている元凶であるにも関わらず、味方のように思えて来た目の前の怪物に向かい、ジェイは言った。
「…No.2を襲撃する。」
怪物は、頷いたように見えた。
《No.2を襲撃します。》
と、しばらく時が経った。
すると、どうした事かあちこちから叫び声が聴こえて来た。
「うわあああ!」
「ぎゃあああ!」
複数なので、何がなんだかわからない。
これまで以上の阿鼻叫喚な様に、ジェイは思わず耳を塞いだ。
何かが何かを咀嚼する音が、大音量であちこちから聴こえて来て狂いそうなのだ。
その時、触手が巻かれた左腕がぐぐっと絞まり、痛みを感じた。
…この触手は、生きているのか。
ジェイは、ますます吐き気が込み上げて来るのと、必死に戦っていた。
いつになったら終わるのか、死ぬまで終わらないのか全く分からなかった。




