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ジェイは、慎重に言った。
「ライアンは呪殺が出ると思っているようだが、私から見たら占われない位置に出たいと考えるだろうと思うので、占い師に狐の方が出ているのではないかと思っている。そうすれば、仮に真占い師に自分の白先の背徳者を占われたとしても、生き延びる事ができるからだ。なので、呪殺を望むなら占い師同士の相互占いの方が早いのではないかと考える。占い師には狼、狐、真が居ると思うので、真占い師が呪殺か黒を引くのは確実だろう。よって私は、囲われているだろう黒を探すのならグレーから、呪殺を目指すのなら占い師から占うのが良いと思う。」
ライアンは、言った。
「ならば占い師で誰を怪しいと感じている?君が考える内訳は。」
ジェイは、首を振った。
「私はただの村人なので、そんなことまでわからない。黒でも打ってくれていたらそこから考察もできたが、今は全員白しか見ていない。ただ、心象だけなら自分を白だと知っているので、私に初日白を打った木村は、白く見えているな。だが、それだけだ。」
松田が、言った。
「おかしくないですか。」皆が松田を見る。松田は続けた。「その考えだと初日に囲いが発生していると皆が考えていたので、あなたは囲われていないとしたら、あなた目線オレを含めた他の二人が囲われているのでしょう。今日の噛みから、辻村は少なくとも囲ってはいなかった。狼だとしても狂人のことはわからないので、囲う必要はないしできない。オレ目線、オレは囲われていないし、ということは占い師の中の人外は、初日に全く囲っていなかったということになる。その考えが出ないなんて。あなたはいつも、他の奴らが人狼ゲームをしているのを眺めて、あれだけ嘲笑っていたのに。」
ジェイは、内心チッと舌打ちした。
確かにそうだが、自分が囲われている以上、どう返せば怪しまれないのか分からない。
だが、攻撃が最大の防御であるのは分かっているので、言った。
「…私から見たら、確かに植木は囲われていなかったのだろうが、もしかしたら背徳者であった可能性もある。その場合、松下が真霊能者だ。そして、君はというと君もまた、囲われている可能性がある。黒なら三谷が狼か、あって狂人。白なら三谷が狐か背徳者だ。襲撃されて白だったからと、白人外でないとは思わない。君は、どうして植木が白人外ではないと知っているのだ?それとも、白人外だと知られたらまずい役職なのか。どちらにしろ、考えが稚拙で私に攻撃して来ているのを考えても、君は人外なのではないかと思うな。」
松田は、目を見開いた。
「何を…!オレは人外じゃ…!!」
「待て。」ライアンが言った。「私達から見たら君達二人共が人外の可能性があるのだ。まだ真占い師が確定していないからな。真占い師から占われていた者達だけが白と確定するのだ。無益な争いなどしている暇はない。」
紫の太陽は動く。
ライアンは、フッと肩で息をつくと、言った。
「…占い指定をする。」と、皆を見回した。「三谷は、ジェイか細田、辻村は、清水か林、木村は…松田だな。二人指定する相手が居ない。これで行こう。」
今夜は、ライアンを襲撃する。
ジェイは、そう思っていた。
今日分かった共有の相方である境は、あの通りおどおどとしていてライアンほど脅威ではない。
ここは、ライアンをチャレンジ噛みしてみるべきだろう。
だが、境が言った。
「…占い師それぞれの目線のグレーを言います。」相変わらず声色はおどおどしているが、それでもしっかりと言った。「三谷目線、グレーは残り清水、細田、ジェイ。木村目線、清水、林、松田。辻村目線、ジェイ、清水、細田、林、松田。今夜の占い結果で、更に詰まって来ますが、この中で一番詰まっていないのが辻村です。役職ばかりを知らずに占ってしまっているので。明日以降、占い師に手を掛けるとしたら辻村は少なくとも後回しだと思っています。」
声の力は無いのに、内容はしっかりしている。
ジェイが驚いていると、ライアンは頷いた。
「私が襲撃されたら君に任せる。どちらにしろ明日以降の話だ。」紫色の光が、右へと消えた。「…投票だ。」
じっと黙っていた、昆虫に似た化け物が言った。
《投票してください。》
全員が、手首の触手に触れる。
それは、何やらじんわりと温かくて、それが更に気味悪かった。
今日は、迷う事は無い。
狂人だろうが、死んでもらうしかない。
ジェイは、思って迷わず松下の、6という文字を触手の上に書いた。
《投票が終わりました。》
空中に結果が現れた。
1ジェイ→6
2ライアン→6
3林→6
4清水→6
5三谷→6
6松下→2
7細田→6
8木村→6
10松田→6
11境→6
12辻村→6
…共有者に入れるなど、自分が人外だと言っているようなものじゃないか。
ジェイが狂人なら黙って死ねと思いながら苦々しい気持ちでいると、化け物は言った。
《№6が追放されます。》
「嫌だ!嫌だーー!!」
松下は、駆け出した。
森の木々の間へと入り込もうと必死になっているが、足元が何かに引っ掛かって前に進めないようだった。
触手は、やはり真ん中の大きな穴から溢れて出て来て、そんな松下の足を難なく掴んで引っ張り込んだ。
「わああああ!!嫌だああああ!!ぐ、うぐうううう!!」
グシャ、と何かが潰れる音がする。
その途端に、木村の声はあっさりと聴こえなくなり、深い穴の中からは血の匂いがこれでもかと生臭く上がって来た。
「う…。」
そんな事には、仕事上慣れているはずの細田や清水が、吐き気を堪えるような様子で横を向く。
化け物は、そんな中でも淡々と言った。
《№6は追放されました。夜時間になります。穴に入ってください。》
全員が、立ち上がった。
ここでもう出来ないと穴へ行く事を拒否したとしても、恐らくまた触手が出て来て食われて終わりだと、皆分かっているからだ。
あんな化け物の存在を、もう受け入れてしまっている自分に戸惑いながら、あんなものが存在するはずなどないのにと、ジェイは自分の精神がおかしくなっているのではないかとはたと気付いた。
だが、何も拒む事はできずに、やはり穴へと入って行ったのだった。
「ライアンだ。」ジェイは、もう化け物には目もくれずに奥の小さな穴に向かって言った。「あいつをまず消さないと村の進行が真っ直ぐになる。こっちは村にはバレてないが狼と狂人を失ってる。後4縄を何とか掻い潜らないとまずい。」
木村は、言った。
「ではライアンで。ですがジェイ、もしかしたら護衛が入るかもしれませんよ。昨日は狩人が様子を見て捨て護衛している可能性があります。私から見たら、境の方が良いかと。」
ジェイは、むっつりと言った。
「境も厄介な感じだったがライアンほど推進力はない。ライアンだ。護衛が入っても明日連続噛みして必ず消す。でないと追い詰められるぞ!」
自分でも驚くほど危機感を感じている。
何しろ、ライアンの頭の良さは知っているのだ。
木村は、小さくため息をついた。
「…分かりました。では、ライアンで。」
《時間です。襲撃先をどうぞ。》
化け物が割り込んで来る。
ジェイは、答えた。
「2番で。」
《襲撃先が確定しました。》
そして、しばらく時間が過ぎた。
ほんの2、3分だったと思う。
ジェイが、またあの襲撃された時の嫌な咀嚼音や、悲鳴を聞かねばならないのかと構えていると、外の化け物が言った。
《朝になりました。出て来てください。》
え…?
ジェイは、呆然とした。
何が起こった。
だが、出て行かないわけにも行かず、ジェイは皆と同じように、そろそろと穴の外へと向かった。




