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囚われた獣に心はあるか  作者:
獣の悪夢
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「どうだ?」彰が普通の格好で指令室に入って来て、言った。「なかなかに優秀な薬のようだ。ハリーの物はある程度着替えねばならなかったりしたが、今回は全て映像で表現できるのだな。」

新が、頷いた。

「はい。睫毛の一本一本までリアルに見えますので、それが映像などとは誰も思わないでしょう。」

モニターには、あの丸い部屋の中で、薄暗い映像が重なっているのが見えた。

幸か不幸か真っ白な部屋だったので、よりリアルに映像が重なっている。

初日に追放された13番の男は、無傷のまま13番の部屋に気を失ったまま放り込まれていた。

今も、襲撃された男は苦悶の表情を浮かべたまま、部屋の中で倒れている。

彰は、暗い笑みを浮かべて言った。

「この歳になってまた邪神の役をやるとは思わなかったが、この邪神がどう考えてどう動くのかは学習済みだ。私には朝飯前だよ。」

それを聞いていた、章夫が苦笑した。

「はい。知っているのに背筋が寒くなりました。ほんとにリアルですよね、彰さんは。」

彰は、胸を張った。

「何度も演じて来たからな。話し方が面倒だが慣れた。」と、ジョアンを見た。「それで。主犯格の男達は?」

ジョアンは、頷いた。

「はい。敵対陣営に振り分けています。ジェイという男とライアンという男の二人です。後は雇われた部下ですね。」

新が言った。

「あのジェイとかいう男に拉致されました。」と、章夫を見た。「章夫と二人で。美術館の前で会った男です。」

ジョアンが言った。

「あの大学の医学部OBのようです。美術部とは関わりがありません。利用しただけのようです。名前は、本郷勉(ほんごうつとむ)。ジェイと呼ばせているようですが。」

アーロンが、言った。

「呼称といい、治験にゲームを使う事といい、あなたを彷彿とさせる動きですな。研究機関の間ではあなたの事は知らない者などいなかったので、もしかしたら真似ているのかもしれません。薬品の成分にしても、A77というお粗末な方は、どうも細胞を維持させたいと思っているような構成でした。」

「見せてみろ。」

彰が言う。

ジョアンは、その分析結果のシートを画面に出した。

「これです。」

彰は、それをざっと見てフンと鼻を鳴らした。

「なんだこれは。こんな物で維持させようと?愚かな。これでは殺すだけだ。考えが浅い。」

新が、頷いた。

「段々に停止するだけでその先には死しかありませんな。」

彰は、息をついた。

「まずは自分に使うべきだ。私はそうして来た。なので余程確信がないと治験はしなかった。死ぬ気はなかったからな。覚悟が足りないのだ、この男は。やはりもっと苦しんでもらうしかないな。」

章夫は、え、と彰を見た。

「あの、人狼になる薬もですか?」

彰は、章夫に頷いた。

「やろうとしたが、その前段階で私の細胞では崩壊してしまうのを知ったのでやらなかった。後は綺麗に反応したその頃研究所に居た男が良い反応だったので、本人了承の元に投与したら人狼化した。それからは…私も若かったからな。博正と真司には、事前了承無しに投与したのだ。そうしたら、これ以上無いほど上手く行った。あれから他にも探しているが、あそこまで完璧に馴染んだのはあの二人だけだ。他はいろいろあった。死にはしなかったがね。」

やっぱり若い頃には強引なこともしてたんだ。

章夫が黙ると、新は言った。

「それでもその後、元に戻る薬が開発されてもあの二人はそのままで居る事を選びましたからね。お父さんは間違っていなかったのだと思いますよ。」

彰は頷いたが、章夫は複雑だった。

つい最近、博正の妻の、同じ人狼である美沙の事を眠らせて研究所に連れてきて、本人の了承無しにヒトへと戻したのは聞いて知っている。

その際、記憶も操作してしまったので、彼女は人狼であった事も、博正の事も忘れて、それまで若い姿で生きていたのに、普通に老いた姿で生きているのは知っていた。

博正は、美沙が自分をもはや知らないのにも関わらず、美沙が入っている老人保養施設の料金を払い続けているらしい。

自分が人狼化で歳を取らないので、死ぬまで面倒は見るのだと言っているようだった。

「…ゲームが進んでいますよ。」

ジョアンが言う。

章夫は、新と彰と共に、モニターに視線を移した。


『No.13番が襲撃されました。昼時間を開始します。』

相変わらず紫色の太陽らしきものが左下から移動し始める。

ライアンが言った。

「襲撃されたのは植木だった。」

植木の入った穴からは、おびただしい量の赤黒い血らしいものが溢れているが、幸いここがうすぐらいせいでハッキリとは見えない。

ライアンは続けた。

「占い結果を聞こう。三谷。」

三谷は、震えながら答えた。

「オレは林を占いました。白だった。」

自分ではなかった。

ジェイはホッとしたが顔には出さなかった。

次にライアンは木村を見た。

「木村は。」

木村は答えた。

「私は細田、白。」

私が占われなかったので白に変更したのだな。

ジェイは思った。

まだ戦いを仕掛けるには早すぎるのだ。

ライアンは、辻村を見た。

「辻村。」

「オレはびくびくしていたので気になって境を占いました。白でした。」

ライアンは、次に松下を見た。

「霊能結果は?」

松下は、それこそ動揺しながら言った。

「白です。」

狂人だ。

ジェイは、思った。

つまり昨日は真霊能者を抜けたのだ。

松下は、皆を見て続けた。

「霊能者を噛んで来るなんて。オレが真なのに、どうして植木を?」

清水が言った。

「恐らく、どちらかわからないからとりあえず噛んだんだろうな。君目線じゃ狂人か背徳者ってことになるのか。」

松下は、頷いた。

「そう。でも、恐らく狂人かな。昨日狼が連れてないから今日は引き続きグレー吊りを推すけどね。」

今は完全グレーは清水だけだ。

清水は、顔を険しくした。

「オレは人狼じゃない。オレ目線じゃ人狼は囲われているのか、それとも昨日吊れていて結果を見せたくないからわざわざ霊能者を噛んだんじゃないかと考えている。」

ライアンは、頷いた。

「私もそう思っている。」松下が驚いた顔でライアンを見ると、ライアンは続けた。「どちらにしろ今日は片方が襲撃されたので残りの霊能者である松下を吊る。それで必ず一人外が落ちるからだ。それが狂人でもな。」

松下は、必死に言った。

「そんな!オレは真霊能者だ!昨日狼が吊れてないのに、縄が無駄になる!」

それでもライアンは、言った。

「君目線ではそうかも知れないが、私達目線では君か植木のうちどちらかが人外で、人狼は植木を噛んで来た事から君を残すわけにはいかないし、二人共吊る事で必ず一人外居なくなるのでスッキリするのだ。こうなることが分かっていながら霊能者を噛んだ事から霊能者に出ていたのは狂人だったと考える。放って置いても良いところだが、今日は黒が出ていないので必然的に君を吊るのが安定なのだ。」

「それでも!」松下は必死だった。「オレは真なのに!」

狼を恨んでいるだろうな。

ジェイは、思った。

陣営勝利のために出たのに、こうなることが分かっていてあっさり霊能者を噛んだ上、占い師に出ている狼は黒を出さなかったのだ。

誰が人狼なのか分かっていたら、恐らくここで暴露していただろう。

ライアンは、言った。

「松下はもう何を言っても今夜吊る。これは確定だ。その上で言うが、恐らく明日は黒が出るか呪殺が出るかするだろう。今夜私が居なくなる可能性が高い事から言い置くが、相方は境だ。」境が、おずおずと頷く。ライアンは続けた。「明日は呪殺を出した占い師を守ってもう一日結果を出させろ。連続護衛ができないので、占い師の護衛には気をつけろ。今日は残りの時間は昨日話を聞けてないジェイ、松田から話してもらおう。占い師が占い先に困らないようにな。じゃあジェイ、話を聞こうか。」

来たか。

ジェイは思って、口を開いた。

どこがで見ている誰かが、ほくそ笑んでいるのが見える気がした。

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