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囚われた獣に心はあるか  作者:
獣の悪夢
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話を振られた、三谷は言った。

「ええっと…私は自分の白以外は今のところ、どこも信じていません。なので、今話していたグレーの中に狼が居たのかどうか、同じような内容だったので分かりませんでした。ただ、一番最初にそれを発言した林は白いと感じました。後はみんな便乗位置に見えます。」

三谷は何だろうか。

ジェイは、じっと三谷を観察してそれを聞いていた。

真占い師に見えなくもないが、辻村の白が霊能者COしている植木に当たっている事から、どうしても目立たない三谷は二番手以下に感じられた。

ライアンは、言った。

「次、木村。」

木村は、答えた。

「私は特に考えていませんでした。占い先は指定されるし、私は占うしか能がない。そうやって結果を落とすための機械のように思っています。誤った考えを落として、皆が間違えても困るから。」

ライアンは、スッと目を細めたが、次に辻村を見た。

「辻村は?」

辻村は、答えた。

「オレ目線じゃ、どっちも偽物だから、どちらも囲っていてもおかしくないと思ってますね。何しろ片方は狐陣営で、片方は狼陣営だろうし、その白先だって信じてない。ライアンが言うように、グレーの全員が霊能者から行くと言うのなら、オレはグレーからでいいと思ってます。その場合、林と細田は吊らないかな。二人の意見は自分の中から出ている感じで、他の便乗っぽい言い方とは違った。なので、オレが吊るとしたら、清水、境、杉崎から一人かなと思っています。」

ライアンは、空の紫の太陽に位置をチラと確かめてから、言った。

「…では、時間が真ん中を大分過ぎているし、今夜の占い先を先に指定する。三谷、ジェイか林、木村、植木…は霊能者だから清水か細田、辻村は松田か境。必然的に残った杉崎を吊る。色は分からない。ただ、初日は占い先を狭めるために吊るだけだ。」

ジェイが、言った。

「待て、しっかり精査しないといけないんじゃないのか。」

ライアンは、ジェイを見た。

「13人6縄6人外の村だぞ?狂人と背徳者は放って置くとしても4人だ。今の発言で誰が誰か分からないからな。上から順に振り分けて、残った位置だから仕方がない。いつも検体達がゲームをしているのを見ながら言っていたじゃないか。初日なんか適当に人数を減らすために吊って置けばいいと。お前がそんなことを言うなんて意外だよ。」

ジェイは、ライアンを睨んだ。

「そうじゃない。当事者になったら分かるだろう。慎重にして行かないと本当に殺されるかもしれないのだ。杉崎がどうのではなく、これが村人だった時に自分の首を絞めるのが怖いだけだ。」

ライアンは、ジェイをじっと観察するように見た。

「…じゃあ、お前が誰だと思うんだ?」

言われて、ジェイは詰まった。

今のところ、全員同じような意見を出していて、ここだとこじつけられる材料がない。

「それは…皆似たり寄ったりの発言だったし。」

ライアンは、頷いた。

「だろ?だからこれで良いんだ。狐の処理は占い師に任せる。こういうのはサクサク決めていかないと、結局迷っておかしなことになり、村が負ける。ここはしっかり指定していくのがいい。今日は杉崎だ。」

杉崎が、顔を引きつらせてライアンを見上げた。

「私は村人だ。初日だからと、簡単に無実な村人を吊ってしまっていいのか。あなたのやり方は間違っている。」

ライアンは、フンと鼻を鳴らした。

「それは君の主観でしかない。私は確定村人だ。従ってもらうしかない。太陽が沈むぞ。そろそろ終わりだ。」

それを待っていたかのように、それまで全く動かずそこで黙って浮いていた昆虫のような化け物が、頭の中にダイレクトに言った。

《投票時間です。腕の触手に、投票する番号を指でなぞって書いてください。》

それで分かるのか。

ジェイは、どうあっても初日から仲間を吊られるわけにはいかない、と、誰に投票するか迷っていた。


1ジェイ→13

2ライアン→13

3林→13

4清水→13

5三谷→13

6松下→13

7細田→13

8木村→13

9植木→13

10松田→13

11境→13

12辻村→13

13杉崎→4


どうやって感知したのか、目の前の空中に誰に投票したのかの、結果がパッと現れた。

…すまない、杉崎。

ジェイは、内心思った。

やはり自分は間違っていなかった。

全員がライアンの指示に従って杉崎に入れている中、自分だけが違う所に入れていたら目立ってそこからズルズルと吊られてしまう所だった。

同じように考えたのか、木村も杉崎に入れている。

こうなってしまうのは、仕方がないことだ。

そう思っていると、化け物が言った。

《№13は追放されます。》

…おおお~ん…

穴の中から、何かのうめき声が聴こえ、それがどんどんと近付いて来るような気がする。

「…なんだ…?」

皆が真ん中に開いている穴から、ジリジリと後ろへと下がろうとするが、そんなに広い場所ではないので、逃げ場などない。

すると、真っ暗な中から突然に、うねうねとイソギンチャクのように蠢く太い黒い触手がうわっと溢れ出て来て、杉崎の足を掴んだ。

「うわああああ!!」

杉崎は、叫んだ。

ガッツリと杉崎の足を掴んだ触手は、杉崎を引っ張って他の触手の方へと引き寄せて行き、杉崎の体は見る見る触手に飲まれて行く。

「杉崎!」

傍に居た、木村が必死に手を伸ばした。

杉崎は、その手を掴んだが、その時にはもう、穴に向かって引きずり込まれて行く最中だった。

「うわああ助けてくれ!助けて…!!」

グチャグチャ、バリバリという嫌な音が響き、生臭いような鉄の混じった臭いがする。

間違いなく、血の匂いだった。

「杉崎…!!」

木村は、まだ杉崎の手を掴んでいたが、フッと何かの拍子にその手の重みが、消えた。

「…え?」

木村が、グッとその手を引っ張ると、そこには杉崎の腕があり、そこから先は、もう無かった。

「う、」木村は、叫んでその腕を放り投げた。「うあああああああ!!」

食われた…!

ジェイは、それを見て吐き気を堪えるのを我慢するのに苦労した。

目の前で、大きな音と共に潰されて咀嚼され、崩れていくかつて杉崎だったものの成れの果てを見た。

嗅ぎ慣れているあの血の匂いを撒き散らし、杉崎は去っていったのだ。

もはや杉崎の声もしない静かになった穴の上に、化け物は浮いて、淡々と言った。

《では、後ろの穴に戻って役職行動をしてください。》

特になんの感慨もないようだ。

杉崎を失った…。

ジェイは、ライアンは強敵だと思った。

だが、恐らく一人しか出ていない共有者は、初日の今夜恐らく守られる。

ライアンを襲撃するのは、明日まで待った方が良さそうだった。

ジェイは、奥へと入って行き、奥にある小さな穴から、人狼の木村と二人で話をするために、黙って浮いている化け物には見向きもせず、話し始めた。

「…潜伏位置だったのに。杉崎がやられた。木村、誰を襲撃する?」

木村は、言った。

「私は、霊能者のどちらかを噛んだ方が良いと思っています。吊り縄にも使えますが、何より一人減ることでもう一人が真霊能者だったとしても、誰も確定結果としてそれを見ないんです。最後まで疑われるでしょう。どちらが良いと思いますか?」

ジェイは、考え込みながら言った。

「そうだな…やはり辻村に占われている、植木かな。村目線じゃ噛まれた方は白だが、残った方はどちらか分からない。そうしよう。ライアンが鬱陶しいが、今日は護衛が入っているだろう。」

木村は、頷いたようだった。

「では、私が化け物に襲撃先を言います。明日は、黒を出した方が良さそうですね。三谷が真ならあなたに黒を打って来るでしょう。林の方を占ったら分かりませんが。」

ジェイは、答えた。

「任せよう。状況を見て変えたらいい。」

化け物が言った。

《時間です。本日の襲撃先は?》

木村の声が答えた。

「10番、植木で。」

化け物は頷いた。

《お待ちください。》と、しばらく固まった後、続けた。《襲撃されます。》

途端に、何かが押し潰されるような音が響き渡った。

「あああああ!!」

植木の声がそれを追うように聴こえて来たが、すぐにカエルが踏み潰されたようなくぐもった音と共に、それは消えた。

…穴の中で潰されるのか。

ジェイは、狼で良かった、と思った。

もし村人だったなら、この時間襲撃が来ると怯えていなければならない。

何の音もしなくなり、シンと静まり返った後、化け物の声がした。

《朝になりました。出て来てください。》

ジェイは、何度これを繰り返したらいいのかと、自分が主催していたゲームを思った。

生き残ったもの達が希望に満ちた顔をしているのを、もう一度、もう一度と全て死ぬまで続けて絶望させて楽しんでいた、自分の姿が化け物に重なって見える。

これが終わっても、果てなく続けなければならないのかと、ジェイはただ絶望が押し寄せて来るのを、抑えるのに苦労していた。

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