19
ジェイが穴の中へと入ると、案外に穴の中は広く、何も無いが目の前にはあの昆虫のような化け物が浮いていた。
思わず奥まで行かずに足を止めると、その化け物はジェイの脳に言った。
《この村には、狼3、狂人1、共有者2、占い師1、霊能者1、狩人1、村人2、妖狐1、背徳者1居ます。狩人の連続護衛はできません。初日の占い師の白先お告げあり、人狼の襲撃はありません。あなたは、人狼です。》
ジェイは、眉を寄せた。
人狼陣営…。
襲撃を恐れる事は無いが、吊られる可能性が高い。
目の前の化け物は、続けた。
《仲間は、8番、13番です。全員の胸に数字が表れます。こんな風に。》見ると、自分の胸には赤い光で『1』と浮き出たように番号は振られた。《番号と名前は、外の空中に表示されます。投票の際には、腕の触手に指でその数字を書いてください。》
触手?
ジェイがハッとして見ると、いつの間にか腕に、暗い緑色で、まだらに茶色い腐ったような色になっている、太い蔦のような物がしっかりと巻き付いていた。
…不気味な様だ。
ジェイは、吐き気が込み上げて来るのを必死に抑えた。
怪物は、ジェイの様子など気にも留めずに言った。
《では、こちらの穴に向かって話してください。他の人狼たちと、穴に入っている夜時間の間会話することができます。》
そう言った化け物が横へとどくと、そこには小さな穴が開いていた。
「…誰か?人狼か。」
すると、穴からは驚いたような声が返って来た。
「ジェイ?木村です。私は8番で。」
木村か。
ジェイが思っていると、他の声が言った。
「ジェイ、私もです。13番です。杉崎。」
杉崎と木村が狼。
ジェイは、言った。
「どっちか占い師を騙って出ろ。私は敵が多そうなので無理だ。」
木村の声が言った。
「では私が。ジェイを囲いましょう。初日吊りを回避できます。」
ジェイは、見えないと分かっていたが頷いた。
「分かった。それで頼む。霊能者は狂人が出てくれることを祈ろう。」
すると、化け物が目の前に割り込んで来た。
《終わりです。時間になりました。もうすぐ昼時間になりますので、外の仲間が呼んだら外へ出てください。》
こんなものが何体も居るなんて。
ジェイは思ったが、おとなしく従う事にして、黙ってその時を待った。
外から、頭に直接響く声が大音量で言った。
《夜時間は終わりです。昼の議論を始めます。外へ出て来てください。》
…いったい、何分間なんだ。
指示に従うだけで、何も分からない。
だが、従わないという選択肢は与えられていない。
なので、ジェイは外へと出て来た。
すると、昨日穴の中の化け物が言っていた通り、宙には文字だけが浮かんで、名簿のように名前が書かれてあった。
1ジェイ
2ライアン
3林
4清水
5三谷
6松下
7細田
8木村
9植木
10松田
11境
12辻村
13杉崎
そう、書かれてあった。
そして、皆の胸には赤く光る番号が描かれてあり、それは手で殴り書きしたかのような文字だった。
《穴で皆様に説明した通りです。昼議論を始めてください。》
ライアンが、言った。
「議論時間は?」
化け物は、しばらく黙ったが、言った。
《…日が昇り、また暮れるまで。我が君がこの空間の時を進めてくださいます。》
どうやら、今の間にこの、テレパシーのような能力であの親玉と話したらしい。
見ると、真っ黒い木々の間には、紫色の太陽のような物が見え隠れし、それが向かって左側からゆっくりと中点に向けて進んでいるように見えた。
「…あの速度だと直に昼時間が終わる。」と、ライアン入った。「私が共有者だ。相方には潜伏してもらう。村の進行は、私がする。」
ジェイは、顔をしかめた。
ライアンが共有者か。
ライアンは、頭が切れる。
これは、早く消えてもらった方が良さそうだ。
ライアンは、続けた。
「占い師、結果を持っているはずだ。出てくれないか。」
すると、数人の声が聴こえて来た。
「私が占い師だ。」
「え、オレだけど。」
「違う、オレだ。」
3人の声がする。
ライアンは、冷静に言った。
「一人ずつ。じゃあ、三谷?」
三谷は、頷いた。
「お告げ先なので選んだのではないが、10番が白。だから、松田が白と出た。」
木村が言った。
「私は、1番ジェイが白。」
辻村が、言った。
「オレは、9番が白。植木だ。」
ライアンは、頷いた。
「じゃあ、霊能者は?今夜襲撃されて乗っ取られても面倒だ。もう、出られる役職は全部出して、今日はグレーから吊る。霊能者も出ろ。」
上下関係があるので、ライアンは命令口調で言う。
植木が、言った。
「私が霊能者です。」
すると、松下も言った。
「え、私です。私が霊能者。」
霊能者は二人。
順当な動きだった。
辻村は、それを聞いて顔をしかめた。
「植木が霊能者か。だったらオレの目線でのグレー幅が全く狭まらない。」
植木は、肩をすくめた。
「今日は出ないでもいいかと思っていたんだが。共有者が言うので。」
ジェイが、言った。
「それで?今夜はグレーを吊るのか。だったら意見を聞かないとな。」と空を見上げた。「もう真ん中だ。時間がない。」
ライアンは、頷いた。
「じゃあ、役職者についてどう思ったか。一言ずつ言ってくれ。林から。」
林は、まるで仕事のような進め方に、戸惑いながらも言った。
「この感じだと占い師に狼と狐と真、霊能者に真と狂人だと見えます。グレーはオレを含めて五人。清水、細田、境、杉崎。囲われている事を考えたら、人外はグレーに少ないんじゃないかと思っています。それなら二分の一の霊能者から吊ってもいいんじゃないかって。占い師は呪殺ができるし間違ったら大変なので、私はグレー吊りより霊能者から吊る事を勧めたいです。」
ライアンは頷いた。
「それは後で考えよう。次、清水。」
清水は、答えた。
「私も林が言うように、この中には人外が一人ぐらいしか居ないような気がします。なぜなら、狼が囲っている可能性があるから。狐も囲いたいだろう。狂人が霊能者に出ていると思っているし、そうなって来ると霊能者COしている植木に白を打っている辻村は真っぽいな。そう思っています。」
ライアンは頷いて、特に感想も言わずに次を見た。
「次、細田。」
細田は顔を上げた。
「今意見を聞いて思ったのは、辻村は確かに真っぽいって事ですね。グレー吊りになった時の事を考えて、必ず囲いは発生するだろうし、それが初日でもおかしくない。特にこんな環境でのゲームなので、仲間はできるだけ囲いたいと考えると思うんです。霊能者に狼が出ていない限り、辻村は囲っていないから真っぽく見えてます。霊能者は、植木には白が当たってるのでもし霊能を吊るならまず、松下から吊ろうと思いますね。狼が出ている可能性も、全く無いとは言えないから。」
ライアンは、また頷いた。
「次、境。」
境は、おずおずと答えた。
「オレは…霊能者に狼が出ていてもおかしくはないと思う。普通に考えたら占い師に狼で霊能者に狂人ってのがセオリーだが、先に狂人が占い師に出てしまったら、狼だって確定させるのを嫌がって出て来る可能性があると思う。だから、林が言うようにどっちかが人外で当たる可能性が高い、霊能者から吊るのが良いとオレも思う。」
ライアンは、頷いて最後のグレーの杉崎を見た。
「最後、杉崎。」
杉崎は、答えた。
「オレも、霊能者から吊った方が良いと思ってる。二人出た時点で、どうせどっちの結果も信用できないんだ。色が同じだったらいいが、どうせ違う色を出すんだろうからな。霊能者はもう諦めて、ローラーするのが順当じゃないか?その間に、占いも進む。」
ライアンは、頷いて言った。
「グレーの意見は、この中に絶対に一人は狼が居るにも関わらず、全員霊能者から吊ったらどうだと言っている。つまり、やはり霊能者には狂人が出ている。狼は居ない。ならばやはりグレーから吊って、占い幅を狭めよう。特に辻村が真占い師だった場合、白先が霊能者に当たっているので他より狭くなるからな。今夜は占い師には占い先を指定するが、必ず今日他の占い師が白を出した位置も含めて指定することにする。囲いが発生していると思う占い師は、相手の白先を占うといい。では、今のグレーの五人に話してもらったが、どう思ったか占い師達に話してもらおう。まずは、三谷から。」
サクサクと進めて行く。
ジェイは、やはりライアンは面倒だと、空を目に見える速さで移動して行く紫色の太陽のような光を、早く動けと念じながら見ていた。