14
『朝になりました。昨夜は人狼の襲撃は失敗しました。』
声が流れた。
そして、しばらく遅れて、声が言った。
『議論時間は20分になります。どうぞ。』
新は、ホッと肩で息をついた。
竜彦は引き続き倒れたままだが、もうみんなその事には言及する気にもならなかった。
タブレットの数字が、20分から減っていく。
総二は、緊張していた体の力を抜いた。
「…狩人は、よくやったな。議論時間は短いが。」
新は、頷いた。
「こうなったらもう、出てもいいと思う。襲撃が怖いだろうが、恐らく今夜人狼を吊れなくても同じ所を連噛みするだろう。狩人は誰だ?」
すると、真矢が言った。
「…私。」心底嫌なようだ。「識さんを守ってた。」
「私?」
識は、驚いた顔をした。
霊能者ではないのだ。
タブレットを見ると、昨日話した通り占い結果が並んでチャットで表示されていた。
藍→平太白
幸次郎→識白
「…識さんが確定白になった。狂人でない限り吊り位置ではない。だが、せっかく護衛成功したのに。識さんは別に占わなくても白だと分かってた。」
新は、言った。
「…占い理由を聞こう。藍。」
章夫は、頷いた。
「真矢さんも気になっていたけど、昨日票が入ってたグレーの平太さんが気になったからだ。平太さんの色を見たら、恭介さんの色も分かると思って。だからオレ目線、平太が白だったから恭介さんも白く見えてる。総二さんから話を聞きたいところかな。昨日の竜彦さんはどうだったんだろ?」
広武が、答えた。
「黒。竜彦さんは人狼だよ。」
新は、頷いた。
「やはりな。妙に話し控えるからおかしいとは思っていたんだ。」と、幸次郎を見た。「君の占い理由は?」
幸次郎は、答えた。
「確白作った方がいいと思った。平太は昨日の投票を見ても吊れる位置だし、識さんの色の方が気になったからだ。」
真矢は、言った。
「確白を作る行為は白く見えるわね。狂人なら黒を打って人狼にアピールするのが安心な位置でしょう。」
だが、総二が、言った。
「狼なら襲撃してそこに白を打つってのも考えるから、おかしくないけどな。藍より幸次郎さんの方が、こうなると怪しく感じた。」
幸次郎は言った。
「それは結果論だろう。まさか狩人の護衛が識さんに入って、そこで護衛成功するとは思ってなかったんだ。」
新は、言った。
「…藍目線でのグレーは総二と恭介だけになった。真矢さんは狩人、平太は白、竜彦は黒だ。つまり、もし幸次郎が狂人ならば総二か恭介が狼、幸次郎が狼ならばこの二人か、私の中に狂人が一人ということになる。」
総二が言った。
「オレ目線じゃもっとクリアだ。藍が真なら恭介か幸次郎さんが狼になる。幸次郎さんが真なら、幸次郎さん目線藍が狂人なら平太、オレ、恭介の中に狼が居る。藍が狼なら、三人と識さんの中に狂人が居る。」
真矢は、顔をしかめた。
「グレーを広く取る占い先って人外っぽいと言われたらそうよね。今日はどうするの?グレーから吊って明日占い師の決め打ちかしら。」
新は頷いた。
「そうなるな。グレーを詰めて行こう。こうなって来ると霊能者は確定村人の他はもう、結果は関係ないから優先的に噛まれる事はないだろうし、占い師の真らしい所を守ってくれたらいい。明日、真占い師に黒を打たれたらまずいだろうし、白でも詰まって来る。今8人、3縄で残り2人外だ。今日間違っても明日は6人で2人外。明日の決め打ちを間違えなければ、とりあえず最終日、勝ち筋は残る。」
占い師に幸次郎、章夫の二人、霊能者は広武、狩人真矢、新が確定白で、平太は章夫の白で6人。
グレーは総二と恭介の二人だけだ。
総二が言った。
「つまりグレーのオレ、恭介から吊るってことか?」
新は、頷いた。
「そう。残った方は藍が占い、幸次郎には平太か残った方のどちらかを占ってもらったら盤面がどちら目線でも分かりやすくなって来る。今夜吊って終わるのが理想だが、そうならなかったらその方向で行こう。」
残り時間が少なくなって来る。
恭介は、言った。
「もう、時間が少ないぞ。オレにも話をさせてくれ。」皆が恭介を見たので、恭介は続けた。「オレは昨日竜彦さんに入れてる。確定黒に投票してるんだ。だから総二さんよりオレの方が白く見えないか?初日に仲間を失うのはつらいだろう。こんなゲームだから尚更な。総二さんは平太さんに入れてて、竜彦さんには入れてない。二人の内二択なら、オレの方が白いと自負してる。」
総二が、慌てて言った。
「オレは白だぞ!昨日は分からないじゃないか、村人なんだからな。それを言うなら狩人の真矢さんだって平太に入れてるじゃないか。」
広武が言う。
「その考えだと、幸次郎さんと藍さんだったら幸次郎さんの方が怪しくなるよね。だって幸次郎さんは平太に入れてて竜彦さんに入れてないし。狂人だったら分からないから、どっちに入れてもおかしくないけどなあ。」
真矢が言った。
「村人だから分からないって気持ちは分かるのよね。でも、確かに占い師が狼だったら色が見えてるし、投票の仕方で分かるよね。藍さんは、竜彦さんを怪しいって言ってた。狂人なら、そんなに誰かを追い詰めたりするかな。もしかしたら狼かもしれないから、消極的になるはずだものね。言われてみたら、確かに幸次郎さんは怪しく見えるわ。」
章夫は言った。
「ということは、もし幸次郎さんが黒だったらどこを吊っても白なんだよ?無駄にならない?オレとしては、幸次郎さんを吊ったら二人外落ちるから、その方が良いんだけど。」
新は、むっつりと言った。
「…だが、安定進行を取るなら今日はグレー吊りで明日決め打ちだ。もし今夜幸次郎を吊るなら、明日は藍。ローラーするのが安定だ。明日の占い結果を見て決め打ちした方が、占い師を無駄に吊らずに済むから良いとは思うがね。」
総二が言う。
「それに占い師は両方ともまだ黒を見つけていないからな。見つけていたらその占い師から吊る萌芽良いんだろうが、このままではどちらも詰まらない。だからグレー吊りなんだろうが、オレは白なんだよ。」
広武が、言った。
「オレはグレーで良いと思う。投票は、確かに参考になるけど…吊られないだろうと切ったら吊られた可能性もあるしな。総二さんの方が今の意見でも白いようには見えてるけどね。」
『投票してください。』
声が響いた。
見ると、タブレットが真っ赤になって時間が0になっている。
名前が並ぶ中、新が言った。
「投票だ。グレーから投票しろ。」
3平太→14
5識→8
6藍→14
8総二→14
10広武→14
18真矢→8
14恭介→8
15幸次郎→14
「オレかよ!」恭介は、叫んだ。「竜彦を吊ったのに!」
『No.14は、追放されます。』
声がまた聴こえた。
「イタッ!」
恭介は、足首を気にしたが、急いで口に手を当てた。
間違いなく新から渡された薬を口に入れた。
その後、また天井が開いてそこから銀色の槍のような物が飛び出した。
「きゃあ!」
真矢が、声を上げて椅子の中で身を縮めた。
だが、恭介はといえば、もうぐったりと椅子にもたれかかっていて、胸にドスッと音を立てて槍が刺さっても、抵抗する素振りもなかった。
「…竜彦の時と違うじゃないか!」
総二が、叫ぶ。
だが、それを無視して声は言った。
『夜時間になります。役職行動してください。』
恭介は、椅子に座った状態で身動きしなかった。
血液は全く噴き出す様子もなく、胸の辺りから滲んでいる程度だ。
それが何を意味するのか、ほとんどの人には分からなかったが、皆は涙を目に浮かべながら、タブレットに向き合ったのだった。