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章夫は、言った。
「…今ので総二さんが凄く白く見えた。きちんと話を戻す姿勢が、自分もグレーなのに狼を探そうとする村人に見えるんだ。」皆が章夫を見る。章夫は続けた。「…オレから見たら、絶対的に発言量が少ない竜彦さんが怪しく見える。なぜなら他の三人は、内容がどうあれ話そうとする姿勢が見えるけど、竜彦さんは総二さんの便乗位置だし、そこから意見が出せてない。平太さんも恭介さんも、自分の思ったことをきちんと言ってる。他と意見が違ってヘイトをかいそうでもね。だから、竜彦さんに話を聞きたいけど。」
皆が、うんうんと頷いて竜彦を見た。
竜彦は、言った。
「便乗って、総二が先に全部言っちまったんだから仕方ないじゃないか。同じ事を思ってるのに、先に言った総二が白くてオレが黒くなるのが分からない。誰かを庇ってオレを黒くしようとしているんじゃないか。」
それには、新が言った。
「そういう事ではない。君は議論に積極的ではないからだ。明らかに他より発言が少ないし、その少ない発言の内容は、総二と同じ。それではこちらには全く情報が落ちない。わざとそうしているようにも見える。なので、村人ならしっかり考えて発言して欲しいという、村感情だ。理由なく黒塗りしているのではなく、理由があって君が怪しいと言っている。意見を聞こう。」
竜彦は、つらつらと反論されて顔をしかめたが、言った。
「…オレは、今の発言で平太と恭介が怪しいと思ってる。藍と同陣営で庇おうとして、あんな風に視線の動きだとか、雰囲気とかで無理やり判断しようとしているように見えるから。総二はさっきも言ったが自分と同じ意見だから白く見ている。それぐらいだ。」
そこで、タブレットの画面が真っ赤になって00:00と数字が並んだ。
そして、01:00という数字の下に、竜彦から順に今居る皆の名前がずらりと下へ並んで表示され、その隣りにはクリックできそうなタブがあった。
思わず、うわ、とタブレットを自分から離して見ると、声が言った。
『投票してください。』
今度は、数字が01:00から00:59と勢いよく減って行く。
焦った総二が、叫んだ。
「早く入れないと!これ、タップするんだな?」
新が、頷いた。
「恐らく。」
章夫は、急いで指を立てた。
…この中なら、やっぱり竜彦。
初日は分からない。
だが、発言があまり聞けていないと怪しく見えるのだ。
竜彦にタップすると、パッと画面が変わって、投票が完了しました、と表示された。
『投票が完了しました、結果を表示します。』
1竜彦→3
3平太→1
5識→1
6藍→1
8総二→3
10広武→1
18真矢→3
14恭介→1
15幸次郎→3
『№1が処分されます。』
竜彦は、一気に緊張した顔をした。
そして、手に握り締めていただろう錠剤を、口を押えるような仕草をしたので、恐らく飲み込んだ。
途端に、う、と足元を気にした動きをしたので、そのままあの時の沙月のように暴れ回るのだと、皆覚悟した。
だが、実際はそのまま椅子から崩れ落ちるように床へと倒れただけで、竜彦はのたうち回ることは一切なかった。
しばらく、シンと静まり返った。
皆が次の動きを待っていると、声が告げた。
『…夜行動に移ります。タブレットを開いて、村人は人狼予想をチャットに書き、村役職は役職行使をし、人狼は襲撃先を決めてください。』
脇に倒れた、竜彦の様子が気になった。
だが、どうすることもできない。
…今の妙な間は、何だったんだろう。
章夫は思いながら、タブレットの画面を睨んで、占い先を選べと指示されて並んでいる名前の数々を見つめて、考え込んでいた。
「…人狼ゲームですね。」
ジョアンが言う。
彰は、眉を寄せた。
そう、どうやら皆に人狼ゲームをさせている。
だが、どうなっているのか分からないが、生き残っている9人だけを表に出して、ゲームをさせているようだった。
こうなって来ると、他の死体はもしかして、前のゲームに参加させられて、殺された者達なのかもしれなかった。
ゲームが終わっても生き残った9人が、また新しいゲームをさせられてるとしたら合点がいった。
「…もしかしたら、全員死ぬまで続けるつもりか。」彰は、険しい顔をして言った。「最後の一人になるまで続けると。」
ジョアンは、頷いた。
「そう見えます。目的が見えない。何をしてるんだろう。」
どうやら、憤っているようだ。
快楽殺人犯が大勢の人々を集めて、意味もなく殺す事を楽しんでいるとしたら、とても許せない事だった。
「…天井裏に侵入できたか。」
彰が、ギリギリと歯を食い縛って言うと、ジョアンは頷く。
「はい。司令室らしい場所の上と、あの丸い部屋の上に待機中です。全員配置に着くまではまだもう少し。」
「早くしないか。」彰は、イライラと言った。「経過を報告させろ。何を話して、何を考えているんだ。あいつらの会話を逐一報告させろ。」
彰が鬼気迫る勢いで言うので、ジョアンは急いでパソコンに向き合い、指示を打ち込み始めた。
ジェイは、顔をしかめた。
「…なんだ?間違えたのか。殺せと言っただろう。」
他の男が、パソコンの前で首を振った。
「いえ、ちゃんとX1を投与するよう指示ました。A77ではありません。」
ライアンが、後ろで腕組みをして言った。
「だが、A77っぽい反応だったぞ?仮に間違えたとしたらあの男はA77の効果があったということだ。お前が24時間リミットの薬を作ると言ってた、その組成が間違ってなかったということじゃないのか?あの男は残そう。後で検査したら道筋が分かりやすくなるぞ。」
ジェイは、言われて驚いた顔をした。
そうか…もしかしたらあの薬は失敗なのではなくて、万人向けではなくただ効くヒトを選ぶだけなのかも知れない。
「やったぞ!ということは、このまま行けばジョンと同じ薬ができる。私は肩を並べる事ができるんじゃないか!」と、役職行動をタブレットでしている皆を見た。「全員に投与しても良いが…とにかく、まずは襲撃先だな。そこにまた、A77を投与しろ。今度は間違うなよ。」
パソコンの前の男は、顔をしかめた。
「いえ、私は間違ってはいなくて…X1の効果が強烈過ぎて、発作を起こしたのかもしれません。あの男には、間違いなくX1を投与するよう指示を出したんです。」
だが、ジェイは首を振った。
「だから責めていない!間違えたならそれでもいい。とにかくA77だ!やれ、なんならその後槍で突いてもいい。」
狂気じみたその目に、パソコンの前の男は身を縮めた。
「…分かりました。」
タブレットから送られて来る、襲撃先は5、識。
…ちょうど良い、あの男はなんか鼻につくなと思っていたんだ。
ジェイは、うっすらと笑った。
「ちょうど良い。すましたヤツでどうも鼻を明かしてやりたい気持ちになるんだ。A77の検体にする。投与した後、槍を放て。」
だが、狩人の護衛先は、5、識だった。
「あの…」男は、おずおずとジェイを見た。「…護衛が成功しています。」
ジェイは、見る見る顔色を変える。
ライアンが、乾いた笑い声を上げた。
「ハッハ、しぶといな。ま、楽しみは後に残しておけ。夜時間が明けるぞ。」
ジェイは、モニターを憎々しげに睨み付けていたが、フンと鼻から息を吐いた。
「…まあ、いい。あいつだけは絶対最後に検体にしてやる。」
夜時間が終わった。
『朝になりました。昨夜は人狼の襲撃は失敗しました。』
音声が、流れた。