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囚われた獣に心はあるか  作者:
囚われのヒト
11/27

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「ラストウルフはグレーに潜んでいる。」新は、言った。「もしくは二狼だ。白い所は吊らない。狼を狙って行く。もう詰み盤面だからな。真矢さんが仮に狼だとしても、縄があるうちに占える。最後で問題ない。私の意見を言おう。秀幸と幸次郎のどちらかを吊る。残った方と、残りのグレー二人を今夜占い、それで狼位置は特定できる。今夜終える事が目標なので、明日まで掛からないために二人の話を聞く。」

幸次郎が、言った。

「なんでオレ達なんだ?!沙月さんに入れてないって言うなら広武もそうだろうが!」

新は答えた。

「間違っていたらすまない。だが、私目線広武は初日から白いと感じている。なので今夜占い対象にする。残ったグレーの平太はあの盤面で沙月さんに入れているし、そうなると幸次郎と秀幸の二人が浮上するのだ。猫又の道連れになった丞はやはり沙月さんには入れていない。この事から君たちの中に一狼、もしくは両方が狼だと判断してどちらかにしたいと思っているのだ。」

総二が、言った。

「オレもそれが良いと思う。だが、幸次郎は昨日、沙月さんと茉奈さんが投票対象に上がった時、どっちも吊ればと発言している。なので、オレは幸次郎より秀幸の話が聞きたい。どうなんだ?秀幸は、幸次郎が狼だと思うか?」

秀幸は、ぶるぶる震えて叫んだ。

「分からないよ!ただ死にたくないだけだ!なんだって死ななきゃならないんだよ!無理だ、オレはもう無理だ!」

「ダメだ、落ち着け!」

新が叫ぶ。

職業柄、人が発狂したらどうなるのか知っている。

確かにグレーの秀幸が犠牲になれば、吊縄が今夜幸次郎に掛かり残りは二人なので精査は楽になる。

だが、もしも村人なら、ここで失うのは余りにも哀れだった。

「落ち着けと言っている!」

新は、無理だろうなと思いながら必死に秀幸を押さえようとした。

だが、秀幸は暴れまわり、床を転げ回った。

ふと、章夫の目に天井の一部がパカと開くのが見えた。

「識!離れろ!」

ヒュンッと何かが空を切った。

寸前のところで避けた新の目の前で、秀幸は槍のような銀色の棒に貫かれた。

瞬間、新の手にもその切先が掠めたので、手の甲が切れて血がみるみる内に滴り落ちる。

章夫が、必死に新に駆け寄った。

「識!血が…!」

新は、血が滴るまま、首を振った。

「問題ない。」と、倒れて痙攣するような動きをしている、秀幸の顔を覗き込んだ。「秀幸。」

そうして、肩を抱いて秀幸を目を合わせた。

秀幸は、涙ぐんだ目で、新を見上げて、口の端から血を流しながら、囁くように言った。

「オレ…好きで、狼だったんじゃ、ないんだ…。」

狼だったのか。

幸夫がショックを受けていると、新は、頷いて秀幸の口を塞ぐように手を置いた。

「分かっている。君は死なない。ちょっと眠るだけだ。次に目が覚めた時、夢だったと思うだろう。大丈夫だ。」

秀幸は、そして目を開いたまま、固まった。

呼吸が止まったのが、分かった。

新は、その瞼を閉じてやり、そっとそこへ秀幸を寝かせると、自分の手の甲を押さえて、立ち上がった。

「識、傷は深いのか?」

章夫が言うのに、新は首を振る。

「掠めただけ。これぐらいなら時間が経っても傷跡も残らず処置できる。それより、人狼が死んだ。これがラストウルフなら、もう終わりじゃないのか。」

総二も、竜彦も顔を見合わせている。

そして、幸次郎を見ると、幸次郎はブンブンと首を振った。

「オレは違う!村人だ!ほんとに村人なんだ!」

するとその瞬間、一斉に後ろの扉が、スライドして閉じた。

全ての数字が見える状態になって、何が起こったのかと思っていると、一番最初に聞いた男の声が、いきなり流れて来た。

『…こんなお粗末なゲームをしておいて、帰るつもりか?馬鹿にしているのか。もう一度、新しい配役をお前達の部屋に置く。今度は、こんなみっともないゲームにしないでもらおうか。これから、役職確認のために一度部屋へと帰ることは許そう。その後、新しい役職を持ってここへ出て来るのだ。その後は、部屋へ帰らずゲームをする。先に説明しよう。』と、少し黙った。そして、続けた。『9人が残っている。人狼2、狂人1、占い師1、霊能者1、狩人1、残りは村人だ。今、部屋にタブレットを一つずつ置かせている。次に扉が開いたら、部屋へ帰ってそれを確認しろ。一度扉が閉じるが、次に開くまでにタブレットに表示されている役職を確認しておけ。その間に、そこに転がっている奴は片付けておく。ここへ戻り、椅子に座ってそれぞれ役職に従って行動しろ。昼時間は30分、夜時間は10分。それぞれがタブレットに役職行使の内容を入力する。人狼同士はチャットで夜時間に会話は可能。狩人の連続護衛無し、初日噛み無し。時間は全てタブレットに出る。ま、私も鬼ではない。キリの良い所で、実時間の夜中0時まではお前達の休憩時間としよう。今の実時間は20時前だ。さあ、戻れ。』

シュッと、生きている者達の番号の部屋の扉が開いた。

戻らないという、選択肢などない。

新はまだ自分の手の甲を押さえていたが、黙ってそちらへと足を進めた。

他の皆も、まだ終わらないのかと絶望的な顔をしたが、ここでこの相手を怒らせては、後ろで転がっている秀幸の二の舞だ。

それが分かっていたので、全員が重い足取りで、監獄のような部屋へと戻って行ったのだった。


日が暮れて、外は暗くなっていた。

潜んで動くには、暗闇は都合がいい。

工作班たちは、手際よくケーブルを発見してそれを引っ張り出し、そこから機器を繋いで無事に地下の、建物内を網羅する監視カメラを統括する、サーバーへと侵入することができていた。

手際よくと言っても、ここまで数時間かかってしまっていた。

彰に報告が行き、急いでサーバーと繋がっているノートパソコンの画面を見ると、確かに地下には多くの部屋があって、配置が異常な形をしていた。

真ん中に丸い部屋があり、その周囲に箱のような部屋が19個もくっついている。

そして、隣りには四角い部屋があり、そこは丸い部屋と繋がっていた。

もう一つ、19個の箱のような部屋の隣りに通路が一つあり、そこからまた別の部屋へと繋がって、そこにいろいろな機器が詰め込まれてあるようだ。

そしてもう一つ、その部屋の隣りには簡易の寝台のようなものが設置された箇所があり、恐らくそこが、ここに居る者の休む場所のようだった。

外と繋がっているのも、この部屋のようだった。

「…この、箱のような部屋の中。ジョナサンは生きています。」見ていた、ジョアンが言った。「見てください、19個中8個に死体らしきものがあります。全員何かに貫かれたような跡が…いや、一体は傷はないが目を見開いたままピクリとも動かない。」

彰は、アップにされたそれを見て、言った。

「…死んでいるな。瞳の状態から死後8時間から9時間ぐらい。i630054は投与されていない。」と、考え込む顔をした。「…新は、確かあれの錠剤を開発したと言っていた。携帯していないのか?」

ジョアンは、答えた。

「携帯しているはずです。ただ、あれは治験がまだで…最近、なかなかそういう機会がありませんでしたから。所員で数人試していますが、効く時間が検体により安定していません。」

博正が、言った。

「取り上げられてるんじゃねぇのか。みんなジャージみたいなの着てる。章夫も。」と、顔をしかめた。「あれ、新は普通の服だな。」

「恐らく、寝る時の服を与えられているんでしょう。皆そのままで居るとしたら頷けます。ジョナサンは、いちいち着替えているんでしょう。何しろ、ベルトのバックルに仕込んであるんです。もしもの時、腕時計では回収されてしまう可能性があったので。一応装備していたのですが、見ての通りジョナサンの腕には時計がありません。」

アーロンが、言った。

「仮にベルトに仕込んであるとしても、これだけ厳重に見張られている状況ではそれを知られるわけにはいかないので、他の犠牲者に与える暇も無かったのではないでしょうか。あれは、死んでからでは遅いですからね。」

彰は、言った。

「何個持たせているのだ。」

ジョアンは、答えた。

「通常12個、1ダースです。予備としてその数があれば充分だという考えで。他は、小さな液体のボトル。数本入っておりますが、X377p、AS502、RD65のみで…何しろ、僅かな量で効くものしか、仕込んでも意味がないので。治療には役に立ちません。」

X377pは即効性のある殺傷能力の高い薬、AS502は強力な幻覚剤、RD65は一瞬で昏倒する麻酔薬だ。

全て、一般では出回っていない、研究所で開発された薬品だった。

「…確かにそれでは、見殺しにするしかなかっただろう。あの傷では、全員ほぼ即死だったと思われる。」と、ため息をついた。「…それで、あの足についている輪の事は分かったか?」

ジョアンが、カタカタとキーを叩きながら、頷いた。

「はい。遠隔で操作する、我々が使う腕輪と同じような機能を持った物です。もっとシンプルで、パソコンから指示を電波で送ることで、仕込まれている薬品が投与される原始的な型ですな。命令コードは二種類だけ。薬品を注入する、足輪を解除する、です。」

彰は、頷いた。

「解除コードは?」

ジョアンは、頷いた。

「分かります。ですが、今外すとあの部屋に仕込まれた飛び道具で皆殺しにされる可能性が。突入準備はどうでしょうか。」

警備員が、答えた。

「今、見取り図に沿って監視カメラに映らないように死角から向かっておりますが、出入口、通風孔三つの四か所から突入予定です。通風孔からあの円形の部屋の天井裏に潜り込むことができます。」

「…敵は何人だ?」

ジョアンは、答えた。

「はい。隣りの指令室らしい場所に二人、入り口付近の居室に三人。」

「RD65を使え。ガスマスクは持っているな?その二つの部屋に噴霧して昏倒するのを待って拘束しろ。通風孔までどれぐらいかかる?」

ジョアンは、うーんと言った。

「…恐らく、一時間ぐらいかと。監視カメラがこちらの登山道に向いているので、急斜面の裏側から回り込んでいるんです。あの人数ですし…。」

彰は、モニターに映る新の姿を見た。

新は、何かタブレットを操作して、考え込んでいる。

急がなければ、今この瞬間にもおかしな薬を投与されて、命を落としたらと思うと気が気でないのだ。

新はこちらの動きも知らず、生き残ろうと考えに沈んでいるようだった。


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